72. 転送
スタークが放った烈火砲がネリの右腕を吹き飛ばした。ネリは一瞬、苦痛の表情を見せたが、その腕がすぐに再生する。
「チッ…便利だな…魔物の身体は」
スタークはそう言って、斬りかかる。
「!」
ネリは瞬間移動で逃げ回るが、スタークはピッタリと付いてくる。背中の奴隷紋が疼くが、スタークは怯む様子はない。
『小ざかしい!これならどうだ!』
ジゼルとネリの声が合わさり、スタークの背中の奴隷紋がドクンと弾けた。背中から血が吹き出す感覚にスタークは歯を食いしばった。
__アリアにもこの痛みが行ってるのか!?可哀想に…。早く終わらせてやる!
「くっ!」
スタークは痛みを誤魔化すために烈火で自分の身体を焼いた。服が燃え、背中の奴隷紋が露わになる。
熱さで痛みを誤魔化したまま、スタークはネリに烈火砲を次々に撃ち込んだ。
ネリの全身は烈火の火傷を負い、魔物の力で皮膚再生を繰り返すがダメージは大きい。
「クソ! ジゼル!何故あいつには呪いが効かない!?」
『いや、効いてるはずだ!それならば』
ジゼルはネリの身体を支配し、離れて戦っているペドロ達に大きな砲火を放った。
「!」
スタークは焦ってペドロ達を救うために飛び出し、防御幕を張った。
スタークの防御幕がネリの放った砲火を吸収し、ペドロ達は守られた。
「スターク!後ろ!」
瞬間移動してきたカインがそう叫んだ。アリアと二人で現れた瞬間だった。
スタークの背後にネリが現れ、ペドロ達に気を取られた隙を狙ってスタークの脇腹を剣が貫いた。
「くっ…!」
「スターク!」
アリアが叫びながらネリに斬りかかりに行った。
「いい奴隷紋だ。いい所に連れて行ってやろう」
ネリはスタークの背中の奴隷紋を見て、ニヤリと笑い、黒い魔法陣を出現させるとスタークの身体に触れた。魔法陣は闇になり、スタークの身体を包み込んだ。
「?!」
スタークの身体が空間に飲み込まれ、一瞬にして消えた。
「スターク!?」
信じられない光景に、アリアとカインが叫んだ。
アリアはすごい速さでネリに斬りかかり、同時にネリの身体に重力をかけた。
ネリの身体に負荷がかかり、地面に叩きつけられる。
「スタークをどこにやった!?」
カインがネリの首に剣を突き付けた。ネリは血を吐き、ニヤリと笑った。
「奴隷にピッタリのところさ」
「カイン!そんなんじゃ逃げられる!」
アリアがネリの脇腹に剣を突き立てた。
「クッ! 容赦ないな、俺の宝物は…」
「!?」
ネリはそう言って身体を強引に動かし、自ら腹を割いて瞬間移動をした。
ネリの腹から出たドス黒い血は蒸発するように消えた。
「カイン…スタークが!」
「ネリに転送されたんだ…」
「どこに…?」
「まだわからない。僕はスタークの気をたどるから、アリアは魔物を片付けて!」
「…了解」
アリアはペドロ達の前に降り立ち、水魔法で一気に竜巻を起こす。小さな魔物は水の竜巻に飲み込まれ、魔物の数が一気に減った。
「アリア!どうなってる!?スターク隊長はどこに!?」
ペドロは大きな魔物を倒しながら尋ねる。
「…」
アリアは地面に手を付き、何か呪文を唱えた。アリアのブレスレットから光る魔法陣が地面に広がり、次の瞬間、爆発音が響いた。
『ボンッ!』
大きな魔物が全部一気に破裂した。
「!?」
アリアは肩で息をしながら、唇を噛んだ。
「アリア…背中から血が出てる。あんな魔物の数を一気に…無茶しすぎだ」
ペドロが心配してアリアの側に駆けよった。
スタークと同様、アリアの背中の奴隷紋は破裂し、出血していた。気を失う程の痛みではないが、怒りと不安で胸が締め付けられる。
「アリア…一旦戻ろう」
カインがアリアを抱き上げた。
「…スタークならきっと大丈夫だから。まずはこっちが万全に整えるんだ」
カインはペドロを見た。
「ケガはありませんか?」
「あ、いや、大丈夫だ。キケも大した傷はない」
「すみません、ペドロさん。キケを連れてマリウス団長に報告をお願いします」
「分かった…すまない、俺の力不足で…」
「…力不足なのは私もよ。…またあの男を逃がしてしまった」
アリアはカインに抱かれ、唇を噛む。
「治療のためにラステルさんの所に行くよ」
カインはそう言ってアリアを抱いたまま、その場から消えた。
夜の闇は明け、朝日が街を照らしていた。
「お祖父様…」
「アリア…無事か?」
治療を終えたアリアをジェイドが抱きしめた。ラステルに呼ばれ、ティクルから空間移動してきた。
「スタークが…」
カインは疲れ切った表情でため息を吐いた。アリアを連れての空間移動はかなり魔力と体力が消費される上、アリアの背中の傷まで治した。
「スタークの繋心と魔力を追ったけど、途中で見失った。多分…スタークも気を失ったんだ」
「…あれだけの魔力だ。気を取り戻せばまた探せる」
「ネリに脇腹を貫かれていたわ。私の背中の奴隷紋も破裂した。半減してたから気を失う程ではなかったけど…同じ痛みがあったはずよ」
「ネリは、奴隷にピッタリの所と言ったんだ。ラステルさん、大陸の地図ある?」
「ああ」
ラステルは地図をテーブルに広げた。
「奴隷にピッタリと言うことは、奴隷制度がある国って意味じゃないかな」
「だとすれば限られるわ」
「ああ、そうかもしれん。同盟国は奴隷制度禁止だから、それ以外だと…このジオルグの隣国…カスティラかマンダリ」
「どちらもジオルグの貴族が奴隷商売で取引のある国だ」
「同盟国とは国交がないからどんな国かはしらんが…マンダリはサンドラと言うかなり極悪非道な女帝が統治していると言う噂だ」
「マンダリならネリの作ったフェタニールとデクロニールの取引先だ」
「遠いな…」
「ネリはスタークを飛ばせたわ。空間魔法だから?」
「ああ。普通、私達が使う空間移動は自分の知った人間の魔力や繋心をたどって自分が移動する。距離が長ければ自分だけでもかなりの魔力と体力を奪われるが、空間魔法だと自分ではなく他人も飛ばせる」
「奴隷制度のある国でも、スタークみたいに魔力が高ければ…」
「いや、ネリが奴隷に使っていた首輪を付けられたら魔力が使えない。魔道具の首輪だ」
「!?」
「すぐにでも助けなきゃ…お祖父様、私をマンダリに連れて行って」
アリアはそう言ってジェイドの腕を握った。
「マンダリには知る人間がいない。国交がないから、空間移動装置も使えないし」
「ジオルグから馬で行くしかない。ジオルグからだと最低二日はかかるけど、それが最短だ」
カインがそう言った。
「しかし、ジオルグに知り合いは…」
「いる。フェタニール工場を潰す時に知り合った村の診療所の医者だ。確か患者にゾーンを作って発汗のために火の魔法でゾーンを温めてたいたから…」
「…しかし、スタークがいない今、カインとアリアが抜けても大丈夫なのか?魔物の数も新月問わず、増えている。キリアはユリアの護衛だ」
「何言ってるの?ラステルさん。お祖父様がいれば何の問題もないわ」
カインも頷く。
「マリウス団長とお祖父様がいれば全く問題ない。ちょっと高齢化だけど」
「お前たちはこんな義手義足の老いぼれをこき使うつもりか?」
ジェイドが苦笑するとアリアはようやく笑顔を見せた。
「頼れる助っ人が来てくれて良かったわ」
「そうそう。安心してスタークを助けに行ける」
「カイン、朝ごはんをたくさん食べて準備するわよ?」
「ああ。マリウス団長やお母様達にも事情を説明しなきゃ…」
「ええ。急ぎましょう」
ジェイドの存在で落ち着きを取り戻した二人を見てラステルは少し安心して頷いた。




