70. 婚約
スタークはアリアを送った足で、騎士の砦の中にある寮に戻って来た。嬉しくて眠れそうにない。カインの部屋から灯りが漏れていたので、スタークは自分の部屋に帰らず、カインの部屋の戸をノックした。
「あ、スターク、お帰り。遅かったね」
カインは風呂上がりなのか、髪を乾かしながらスタークを見た。
「あ…えっと、カイン」
「! スターク、顔、真っ赤だよ」
「…」
「何かあった? あ…」
スタークは右手で顔を覆う。カインは察したのか、スタークをハグした。
「…おめでとう。スターク、全身の毛穴から幸せオーラが出てる」
カインはそう言って笑い、棚の中からグラスとワインを出した。
「これ、キャロラインの父上に貰ったんだ。スタークと飲もうと思ってさ。祝杯だ」
カインは満面の笑みを見せた。
「キスしたでしょ。口紅付いてる」
「!」
スタークは慌てて唇を隠す。
「嘘だよ。ハハ。こんなスターク、初めて見る」
「からかうなよ。でも…めちゃくちゃ嬉しい。アリアが初めて好きって言ってくれた」
「うん。わかるよ」
「カインのお陰だ、ありがとう」
「うん」
カインはグラスにワインを注ぎ、グラスを合わせた。二人は一杯目は一気に飲み干した。
「アリアがスタークを拒んでた理由は何だったの?」
「…これだよ」
スタークはシャツを脱ぎ、背中をカインに見せた。
「!? それは…」
「ジゼルの呪いの奴隷紋だ。ヨルンの背中にあったのと同じだ」
「これ…どうなってるの?どういうこと?」
「アリアは五歳の時、拐われたんだ。その時ジゼルにこの奴隷紋を付けられたアリアはジゼルを殺しかけ、何日も目を覚さなかったらしい。ジェイドさんはアリアを保護し、眠っている時にこの奴隷紋を自分に転移させたんだ」
「じゃあこれはお祖父様が背中に持ってたの?」
「ああ。奴隷紋は新月になると疼くとヨルンも言ってた。新月の討伐でジェイドさんの奴隷紋は破裂し、魔物に襲われた。アリアはその時キャロラインの魔道具で自分の背中に奴隷紋を転写したんだ」
「…お祖父様もアリアも…ずっと黙ってたんだ。言ってくれればよかったのに」
「言えばお前も俺も呪いを引き受けるって分かってたんだ」
「それで、その奴隷紋は? アリアがスタークに渡すとは思えない」
「本当は眠らせてこっそり転移させようと思ったけど…それをしたらアリアは怒るだろうから、ちゃんと承諾させて半分だけ呪いを転移させた」
「半分?」
「ああ。呪いの転移魔法は調べたけど、この奴隷紋は古代語だった。だからジェイドさんに直接聞きに行った。その魔法陣を少し書き換えたんだ。半分ならアリアも納得してくれると思って」
「…ありがとう、スターク」
カインはそう言って大きくため息を吐いた。
「俺、結構変態かも。アリアの呪いを半分貰って…嬉しいと思ってしまった。アリアとお揃いだ」
スタークはそう言って笑った。
「変態でストーカーだ。アリアも大変だ。スタークに狙われたら逃げれない」
「うん、逃さない」
「…よかった。僕は昔からアリアの相手はスタークしかいないって思ってた。アリアをよろしく」
「ああ。任せて」
二人はグラスを合わせ、夜遅くまで飲みながら話した。
「いらっしゃい、スターク」
ヴィオラが満面の笑みを見せて玄関先まで出迎えた。ユルゲイもカインもいる。
「アリアお嬢様!スターク様がお見えですよ!」
「わかってる!」
アリアは二階から大きな声で返事をし、その声にユルゲイは苦笑した。
「恋をしたら、少しはおしとやかになるかと思ったが…」
「ムリよ。カインだって、婚約してもおっちょこちょいのままよ?」
ヴィオラはそう言って笑う。
アリアが二階から急いで降りきて、ドレスの裾を踏み、階段から落ちそうになった。
「!」
スタークは慌てて持っていた花束を放り出し、アリアをキャッチするとヴィオラ達はニヤニヤと笑った。
「あリがとう、スターク」
アリアを抱きかかえ、スタークはホッとして我に返る。ヴィオラ達の視線が恥ずかしい。
「ご、ごめん、スターク、重かったでしょ?」
「うん、重かった」
「ち…ちょっと、そこは羽のように軽いって言うべきよ」
アリアは顔を赤くして立ち上がる。なんだか照れくさく、スタークの目が見れない。
「落とされましたよ」
執事長のトーマスが拾った花束をスタークに渡すとスタークは「あリがとう」と受け取り、アリアに渡した。
「あリがとう! キレイ…」
花に顔を埋め、香りを嗅ぐ。
「さぁ、入って。大事な話があるんだろ?なんだろうなぁ、ヴィオラ」
ユルゲイは婚約を申し込みに来たことを知ってるくせに、わざとそう言ってスタークを招き入れた。
「緊張してる?」
カインがニヤリとしてスタークの顔を見る。
「多少は。どうする、アリア。…断られたら俺と駆け落ちしてくれる?」
スタークはニヤリと笑い、アリアを見る。
「何よ、自信満々なくせに」
「そりゃ、アリアに相応しい男になる為に努力してきたから」
「うんうん。スタークの努力は僕が認めるよ。僕にこんな優秀な弟ができるなんて。義兄上って呼んでもいいよ、義弟よ」
「呼ぶかよ。俺の方が二ヶ月歳上だ」
「じゃあ、私はキャロラインをお義姉様って呼ぶの?なんか違和感」
三人は笑いながら応接室に入った。
スタークの婚約の申し出にユルゲイもヴィオラも大歓迎だった。




