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奴隷の呪いと  作者:


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67. 脅迫

「入ってすぐに赤隊の隊長なんて、本当に頼もしいわ」

 メアリーの母、デイジー妃の主催で食事会が開かれた。デイジー妃はメアリーと同じように胸元の空いたドレスにたくさんの宝石を身に纏い、スタークの顔を舐めるようにじっと見つめてくる。

 ラジール国王は居らず、デイジーとメアリー、そしてスタークと祖父のヘラルドだけの晩餐会だ。

 ヘラルドに「王城に行くぞ」としか言われず、来てみたらハメられた状態だ。

「スタークお兄様は小さい頃から優秀だもの、当然だわ」

 たった四人の席なのに、これでもかと言わんばかりの勝負ドレスに身を包み、メアリーはやたらと胸元を強調し、上目遣いをして来る。

「カラパイトでの活躍も凄かったと聞きましたわ。ヨルン王子のことは気の毒でしたわ。ヨルン王子が亡くなられて、婚約者の方はスタークお兄様に言い寄ってきませんでしたか?カラパイトの方は積極的ですもの」

 メアリーの質問にスタークはカチンと来たが、笑顔で答えた。

「ヨルン王子の婚約者の方はヨルン王子の冥福と国の復興を祈るために修道院に入られたよ。彼以外の伴侶は考えられないと言ってた」

「まぁ…お気の毒に。それよりスタークお兄様、お食事が終わったら私のお部屋に来て下さい。とても面白いものをお見せしたいの」

「いや、明日も仕事が…」

 スタークのセリフを被せるようにデイジーが口を挟む。

「よろしいじゃない、スターク様。メアリーはあなたがカラパイトから戻ってくるのをずっと待っていたのよ。娘のわがままを聞いて上げてくださいな」

「スターク、そうしなさい」

 デイジーとヘラルドに言われ、スタークは仕方なく頷いた。


「スタークお兄様、この果実酒は南方から取り寄せたものですのよ。飲んでみて」

 自分の部屋に招き入れ、メアリーはスタークにオレンジ色の果実酒をグラスに注いだ。

 スタークは果実酒の香りを嗅ぐ。トロピカルな甘い香りがする。

「…」

 スタークはその強い香りに何か混ぜられていることに気付き、グラスをテーブルに置いた。

「見せたいものって何かな?」

「あら、お酒を飲んでから…」

「僕にはこの果実酒は合わないみたいだ。南国のフルーツにはアレルギーがあって。飲むと身体が痒くなるんだ」

「…あら、これは大丈夫なはず…でしたら違うお酒を」

「いや、いいよ」

 スタークが断るとメアリーは焦ったようにスタークの隣に座り、その手を握った。

「スタークお兄様…私…昔からスタークお兄様のことが…」

「知ってるよ、メアリー」

「では…私と婚約…」

「僕にとってメアリーは従妹で、妹みたいな存在だ、だから婚約はできない」

「でも…試してみないとわからないでしょ?」

 そう言ってメアリーはスタークの首に手を回した。

「私、もう大人の女よ」

 そう言ってスタークにキスをしようとした。香水の香りがきつく、メアリーの顔が近づくと、スタークはプッと吹き出し、笑顔を見せた。

「ごめん、メアリー。全くドキドキもしないし、君には欲情しない」

「!」

「メアリー、気持ちだけ貰っておくよ。僕は君が思ってるより貪欲で我儘なんだ。欲しいものは絶対欲しいし、それ以外は全くいらない」

「!…」

 メアリーの頭にアリアの顔が浮かぶ。

「それは…ハルク侯爵令嬢のこと?」

「そうだね」

「…あの女…いえ、あの令嬢はスタークお兄様には相応しくないわ。スタークお兄様は優しいから孤児だった彼女を哀れんでいるだけだわ」

「彼女を可哀想と思ったことは一度もないけどな。むしろ羨ましい」

 メアリーはその言葉にカチンと来る。

「彼女はスタークお兄様のことはなんとも思ってないと言ったわ」

「知ってるよ。それでも僕は彼女がいい」

 スタークの言葉にメアリーはヒステリックに声を荒げた。

「ムリよ!あの女は元奴隷よ?!」

「!」

「…私見たの!あの女の背中には賤しい奴隷紋があるわ!あんなおぞましい背中、スタークお兄様だってあんな背中を見たら抱けるわけないわ!」

「…アリアの背中を見たのか!?」

 スタークはメアリーの腕を掴み、見たことのない冷たい目でメアリーを問い詰める。いつものスタークとは別人だ。

「…み、見たわ。雨に濡れて…はっきりと奴隷紋が透けてたわ」

 スタークの腕をつかむ力が強い。

「…」

「あの女はダメよ…奴隷よ? 王族の血が流れるスタークお兄様には相応しくないわ」

 メアリーの言葉にスタークは怒りを必死で押さえた。

「…メアリー、そのことは誰にも言ってないよな?」

「…言ってないわ」

「…もし口外したら…俺は君を許さない」

 初めて見るスタークの氷のような冷たい目にメアリーは恐怖を覚えた。

「契約魔法をかけるよ? 絶対に口外するな。もし、アリアのことを他人に話したら…君の声を奪う」

「そ、そんな…わ、私は王女よ!?わ、私を脅迫するの!?」

「そうだね。王女に契約魔法をかけるなんて不敬も良いところだ。でも…もしそれがバレて罪に問われて処刑されても、俺は構わない」

 スタークはちいさな魔法陣を空中に描き、メアリーの首に収めた。

「…心配いらない。アリアのことを誰にも言わなければ別に何もない契約だ」

「…」

 目の前のスタークが今まで知っていたスタークとは別人に思えた。王女として育てられ、一度も脅迫なんかされたことがなかったのに。

「それと…俺はアリアが元奴隷でも全く構わないが、アリアの名誉の為に言っとくよ。アリアは元奴隷じゃない。むしろ…本当は高貴な生まれだ」

 スタークは立ち上がり、メアリーを見た。

「催淫剤を使うのはやめたほうがいい。中には暴力を振るうやつもいるからね。それ以前に、王女として品格を問われてしまうよ」

 そう言ってスタークは部屋を出て行った。


 スタークはその足でラジール王の部屋に行った。部屋の前には護衛が二人たっている。

「ラジール国王にスタークが来たと伝えてください」

 護衛が取り次ぎ、スタークは部屋に通された。

 ラジール国王は書類に目を通していた。

「やぁ、スターク。デイジー妃の、晩餐とは名ばかりの見合いはどうだった?」

「申し訳ありません。メアリー王女との婚約、私から断らせていただきます」

「…」

 ラジール国王は書類から目を離し、物怖じもせず、自分をまっすぐ見つめてくるスタークを厳しい目で見た。

「理由は?」

「守りたい人がいます」

「…もしダメだと言ったら?」

「…三ヶ月前、覚醒しました」

「!?本当か?」

「私はいずれ魔聖になります。もし…メアリー王女との婚約を命じると言うのなら、この国を出ます」

「…ほう。王である私を脅迫するのか?」

「脅しではありません。取引きです。…もし私の我儘が許されるなら、生涯、魔聖としてラスタ国の為に尽力します」

 スタークの脅迫にラジールはフッと笑った。

「魔聖を敵に回すなどできるものか。国から出るだけでも損失なのに下手したら国ごと消滅されかねん」

「…」

「…心配するな。お前にメアリーが馴染むとは最初から思っていない。だから今日の晩餐にも出なかった。私は国王だが、お前の大叔父でもあるのだぞ?少なくとも…お前の祖父よりはお前を理解しているつもりだ」

 その言葉にスタークからホッとしたように笑みがこぼれた。

 昔からそうだった。厳しいだけのヘラルドより、国王であり、大叔父であるラジールの方が話しが通じた。カラパイトへの留学も、カラパイトへの派遣も、いずれ国益につながるからと言う理由だけでなく、スタークの気持ちを尊重してくれていた、良き理解者だ。

「あリがとうございます」

「…あれにも困ったものだ。…で、守りたい女とは誰だ?」

 ラジールはニヤリと笑い、探るようにスタークを見た。国王ではなく、大叔父の顔だ。

「…月の女神ですよ」

「…セレネか。あの子は…美しく成長したな」

「まぁ…彼女も強いので、簡単には守らせてはもらえませんが」

「マリウスからジゼルの話は聞いた。もしそれが本当なら、この国だけではなく、大陸の危機だ。私も昔、霧の属性の王子に兄を殺された。恨みならある。この国の未来はお前たちにかかっている。頼むぞ」

「分かりました」

 そう返事をし、スタークはラジールの部屋を出て行った。


__ああ、アリアに会いたい。

 スタークは細く頼りない月を見上げ、その足は無意識にアリアのいるハルク侯爵邸に向かっていた。

 二階のアリアの部屋には小さく灯りが灯っている。

 スタークはバルコニーに入り、窓ガラスをノックした。カーテンを開け、アリアが覗く。

「スターク!? どうしたの!?」

 ネグリジェを着たアリアがすぐさま窓を開け、中に招き入れた。アリアの部屋には初めて入る。

 大きなベッドに必要最低限の家具、本棚には数冊の本、壁にはアカジャイルの木剣が立てかけられている。殺風景ではあるが、机の上には昔、スタークがアリアにあげた白いバラがあの時のままの美しさを保っている。


「アリア、そんな格好でこんな時間に男を部屋に入れたらダメだからね?」

「なによ。自分で来といて」

「まぁそうだけど」

 アリアはプッと笑う。胸元が少し空いたピンク色のネグリジェにスタークのあげたネックレスが光っている。胸の谷間に目がいき、スタークはさっと目をそらす。

「どうしたの?こんな時間に」

「ん、うーんと」

「何?連絡事項?」

「うーん、いや。ただアリアに会いたかっただけ」

 スタークの笑顔にアリアは胸がトクンとする。

「ふぅん…何かあった?」

「まぁ…色々ね」

「昨日もあまり寝てないんだから、早く帰って寝なきゃ」

「うん。アリア、ハグしていい?」

「…それは、友人として?」

「うん、友人として」

 スタークの返答にアリアは頷いた。隠してるつもりだろうが、明らかに顔が疲れている。アリアは、ただ純粋に、スタークを癒してあげたいと思った。

 大きな身体がスッポリとアリアを包む。スタークの早い心臓の鼓動がアリアに伝わり、アリアの心臓の音もうるさく、スタークに響く。柔らかくしなやかな身体から伝わる熱、石鹸の匂い、全てが愛おしい。

 まるで充電したかのように満たされ、スタークは身体を離した。

「あリがとう、癒された」

「フフ、良かった」

「…アリア」

「?」

「俺に何か隠してることはない?」

 スタークの不意の質問にアリアは即答した。 

「ないわよ?」

 その笑顔にスタークはため息を吐く。

「…そうか。アリア、ネリ将軍が出て来たから、明日から騎士団の体制が少し変わる。君の力も関係してくるんだ。だから、何かあればちゃんと教えて」

「分かったわ。カインが言ってた…スタークも色々大変なんでしょ?」

「まぁ、面倒な雑音は取り除いたから、やることは絞られた」

「そう? お茶飲む?」

 アリアの誘いにスタークは苦笑して首を横に振る。

「やめとくよ、そんな格好でこれ以上一緒にいたら拷問に近い」

「あ…寝巻だったわ」

「友人としてアドバイス。絶対に他の男にそんな姿は見せないでね」

「こんな時間に窓から入ってきといてよく言うわ」

「俺はアリアが思ってるより、貪欲で我儘なんだ。じゃあ、おやすみ」

 スタークはそう言って昨日みたいに人差し指をアリアに差し出した。

「安眠のおまじない?」

「ああ」

 アリアは前髪を手でのけ、笑顔で目を瞑る。スタークはアリアの額にキスをした。

「!?」

 柔らかな唇の感触にアリアは驚いて目を明け、顔を真っ赤にした。

「ちょっと!スターク!」

「安眠のおまじないさ。じゃあね、おやすみ」

「もう!」

 スタークはいたずらっぽく笑い、空間移動でその場から消えた。



















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