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奴隷の呪いと  作者:


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57. 解放

 工場が見える場所でパウロとは別れた。林の中に大きな木造の建物があった。石臼を引く音や何かを叩く音、歯車が回る音など、中から聞こえて来る。

 奴隷達は上半身裸で背中の奴隷紋の焼印が露わにされた状態で大きな臼を引かされたり、鉱石を割ったりしていた。 

 ムチを持った見張り役は手持ち無沙汰にムチを振り回している。奴隷達はそれに怯えながら作業を強いられていた。

 中には服を着ているおそらく村人であろう若い男達もいる。目はうつろで砕かれた鉱石を釜で溶かしている。

「俺が壁を壊す、スタークは見張り役を、カインは労働者の誘導を」

「はい!」

『ドーンッ』

 派手にマカフィーが工場の壁に穴を開けた。

 カインが労働者達を一箇所に集め、ゾーンに閉じ込めた。全員が中毒者では無さそうだが、不安そうに壊されていく工場を見ている。


「カイン!後ろだ!」

 スタークの声が聞こえたかと思った瞬間、カインの背後に突然ネリが現れカインの背中を剣で切り裂こうとした。カインは咄嗟に姿を消し、スタークの横に並んだ。

「瞬間移動できるんだ?」

「短い距離ならね。一キロメートル範囲しかまだ無理だけど」

「すごいな…今度教えてくれ」

 スタークの驚いた顔にカインはニコッと笑った。

「いいけど、アリアはできなかったよ。なんか体質関係あるみたい」


 ネリの攻撃に二人は避けながら連携して追い詰めていく。

「クソッ!小ざかしい!」

 イライラしたネリは一気に片付けようと地面に手を置き、土を巻き上げた。土煙が竜巻状になると労働者達を囲っていたゾーンが崩れる。カインは慌ててそのゾーンを強化しに行った。

「カイン!」

 土煙に紛れ、ネリがカインの背中を剣で貫いた。

「!?」

 カインが血を吐き、膝から崩れ落ち、地面に両手をついた。

 スタークは青ざめ、全身の毛が逆立ち、身体が熱くなるのを感じた。

「!?」

 抑えきれない怒りが身体の毛穴から吹き出すようにスタークの身体から無数の雷鎚が放出された。見境ない雷鎚にマカフィーがカインとカインの作ったゾーンに防御幕を張る。

 スタークの頭は冴え渡っていた。ネリがスタークに対して放つ火砲でさえ、ゆっくりに見える。ネリを真っ直ぐ見るスタークの目にネリは一瞬怖気づいた。次の瞬間、スタークの右手から放たれたすさまじい規模の烈火砲にネリは間に合わず、左半分の上半身を粉砕され、なんとか瞬間移動で姿を消した。


「スタークが…覚醒した…」

 マカフィーが思わず呟いた。マカフィーはカインの背中に手を当て、支えている。

「カイン!」

 スタークは急いでカインの元に駆けつける。カインは苦しそうに自分で胸に空いた剣痕に手を飾し、傷を塞ぐ。

「…ふぅ…大丈夫、傷は塞いだから…魔力を分けてくれる?」

「わかってる!」

 スタークとマカフィーが必死に自分の魔力をカインに送るとカインは大きく息をし、身体を起こした。

「あぁ…マジ死ぬかと思った。血がだいぶん出ちゃったから…」

「…すごいな…あの傷を自分で塞ぐなんて」

 マカフィーが驚きを隠せない。カインは貰った魔力で更に体内の傷を治していく。

「それより…ネリは?」

「また逃げられた。右の上半身はそこに落ちてる」

 スタークはそう言ってネリの真っ黒に焦げ付き、まだ火が消えていない腕や胸の肉片を指差した。

「うわ…それでも生きてるの?」

「寸前で空間移動された。瀕死の状態だとは思うけど…」

 スタークはカインの顔を見てホッとしたように息を吐き、カインの肩に額をくっつけた。

「…はぁ、お前が死んだらどうしようかと思った」

 スタークの手が震えている。カインはスタークをハグし、微笑んだ。

「僕、運は強い方なんだ。それより…スターク、さっきはめちゃくちゃ強かったね。魔力量が大きくなりすぎて大気が震えてた」

「ん…なんかよく分からないけど、思った以上の力が出たんだ」

「覚醒したんだよ、魔力が。魔聖のカルティネ卿やウィスク卿に聞いたことがある。何かのきっかけで魔力量が最大限まで解放されるって」

「じゃあ、スタークは魔聖ってこと?!」

「まぁ…覚醒する前から、スタークの魔力は魔聖なみだったが…」

「また強くなっちゃったか。アリアが悔しがるな」

 カインはそう言っていつもの笑顔を見せた。


「皆、無事か!?」

 マリウスが痩せこけた男達を連れて来た。

「マリウス団長、魔法士達は?」

「動けるのは四人だけだった」

「カイン、ゾーンを解除できるか?」

「あ、はい」

 カインは座り込み、指先に息を吹きかけ、ゾーンを解除した。 一部始終を見ていた労働者達はマカフィー達を恐れている。奴隷の中にはジオルグ語しか分からない者もいる。

「とりあえず…浄化をお願いします」

 魔法士達は手分けして浄化を始めた。


「これからどうなるんですか? この奴隷達は…」

「この国に残ればまた奴隷扱いだ。とりあえず、希望する者はラスタに一旦連れて行く。にしても…派手に壊したな」

 マリウスはスタークの放った雷鎚のせいで跡形も無くなった廃工場を見て言った。

「カインがやられて、スタークが覚醒したみたいです」

「マジか…マカフィー、この事は…」

「わかってますよ。誰にも言いません。スタークはわが国にとっても恩人です。だからこそスタークを争いの種にはしたくない」

「とりあえず、任務は遂行した。一旦、ラスタに戻ろう」



 フェタニールとデクロニールの工場は跡形も無くなり、浄化された平民達はもとの居場所に帰った。

 ラスタの国境で要請していた援軍が奴隷達を保護した。ジオルグの魔法士達も町に溢れていた中毒者達を浄化し、希望する者は一旦はラスタで保護することになった。

 しかし、ジオルグの現状は変わらない。これから大陸同盟が介入し、ジオルグと言う国自体が残るかどうかもまだ分からない。

 

「またカラパイトに戻るんだね…」

 カインはスタークと酒場でワインを飲みながら少し寂しそうにそう言った。

「まぁ…あと半年くらいでラスタに戻れるはずだ。ってか、酒飲んで大丈夫なのか?」

「スタークがくれた魔力量が結構効いた。お腹いっぱい食べたし」

「食べこぼすなよ?」

「失礼だなぁ」

「…強くなったな、カイン」

「スタークこそ。半年したら、アリアも卒業して騎士に入隊する。楽しみだな」

「アリアの体調が気になるが…」

「うん、月に一日だけだから、多分本人が言う通りなんだろう。ストイックになったのも、お祖父様のが相当ショックだったからだと思うし。スタークが戻れば少しは心に余裕ができるかもしれない」

「だといいけど」

「うちのお姫様は美しいからね。求婚者が後を絶たない。早くしないとどこかの王子に奪われてしまうよ?」

「それは困るな。俺は王子ではないし」

「スタークは王子様そっくりだよ、あの絵本の」

「竜騎士なんだろ?なんでカイン達は王子様って言うんだ?」

「だって姫と結婚したら王子になるだろ?」

「あーね、そう言う意味か。じゃあ、竜でも飼わなきゃな」

「いいねぇ。僕も乗りたい」

「カインは巨大化させたトカゲだろ?」

「ハハ、懐かしいね」

 二人は笑いながら夜を明かした。



 






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