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奴隷の呪いと  作者:


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55/82

55. 合流

 スターク達の報告により、大陸同盟国に奴隷制度撤廃とフェタニールの禁止を提言する国際会議がラスタ王国で行われ、正式にこの二つの議題が正式に可決された。

 それにより、極秘でジオルグのフェタニール工場を破壊することを目的とした各国の選抜された騎士がチームを組むことになった。


「スターク!」

 カインはラスタ王国とジオルグの国境近くの街の食堂に入って来たスタークに飛びつくように抱きついた。

「カイン、久しぶりだけど、相変わらずの距離感だな」

 二年半以上ぶりにお互いの顔を見る。

「なんかスターク、老けた?」

「失礼だな。カインこそ、ジェイドさんに似てきたな」

 スタークもカインも身長が一八〇センチ程になり、目線が同じになる。二人とも声もすっかり変わり、大人になった。

「身長、初めてスタークに追いついた」

「どうせ、牛乳ばかり飲んだんだろ?」

「うん。あ、それと、僕、婚約したんだ」

「!? まぁ…そう言う歳だもんな」

「誰か聞かないの?」

「キャロライン嬢だろ?」

「何でわかるの!?」

「そりゃ…わかるだろ。カインが嬉しそうに報告するんだから」

「なんだ…びっくりさせようと思ってたのに」

「…二人とも、そんなごつい奴らが入口でいちゃついてたら、邪魔だろ。とりあえず座れよ。マカフィー、久しぶりだな」

 マリウスがそう言ってスタークとマカフィーを中に招き入れた。

「お久しぶりです、マリウス団長」

「今はお前も団長だろ? どうだ、カラパイト騎士団は」

「スタークのお陰で形になって来ました」

「カイン、こちらカラパイト騎士団長の…」

「マカフィー・アル・ミネルタです」

「あ、ラスタ王国騎士団のカイン・クレイオス・ハルクです」

「魔聖ハルク元公爵の…」

「はい、祖父です、あ、僕は孫です」

 相変わらずのポンコツぶりにスタークがプッと吹き出す。

「マカフィー、こう見えてカインは白軍の隊長だ。十歳の時から騎士団の朝稽古に出てたんだ。うちの最年少での隊長だ」

「ほう…層が厚いですね。スタークはもう必要ないのでは?」

「ハハ、そんなわけないだろ?ちゃんて返してもらう。席は空けてるからな」

「それは残念です」

「マリウス団長、編成チームはこの四人だけですか?」

「ああ、今回はな。キケ王国は闇属性の騎士を二人、調査に派遣してくれた。今回場所が特定できたのもその成果だ」

「まさかフェタニール工場がジオルグにあるなんて」

「スタークが戦ったネリ将軍についても情報を集めてくれた。とりあえず今夜はこの宿に泊まり、明日の早朝から出発だ。それまで自由にしていい」

「スターク、僕と同じ部屋だよ」

「ああ、荷物を置きたい。案内して」

 カインは食堂の二階にある客室にスタークを案内した。

 

「皆、変わりない?」

 スタークは部屋で着替えながらカインに尋ねた。スタークの逞しい身体にはたくさんの傷跡がある。

「皆って?」

 カインの意地悪な質問にスタークは苦笑する。一番聞きたいが一番聞きたくない。観念したようにスタークはカインを見た。

「アリアは…元気?」

「…まぁ、元気だけど。変わりがないかと言われたら変わったのかも」

 スタークの鼓動が速くなる。

「…誰かと婚約したのか?」

「いや。僕が卒業して、アリアに告白してくる男は増えたらしいけど」

「…恋人ができた?」

「スタークはどうなんだ?カラパイトで恋人作ったのか?」

 カインの表情が厳しくなった。アリアに関してはいつも兄として容赦ない。

「そんな暇あるわけないだろ」

 スタークの答えに少しほっとした表情で笑った。

「そっか…。色々あったんだよな、そっちも」

 カインはあえてヨルン王子の名前は出さなかった。

「…」

「こっちも色々あったんだ。ティクルでお祖父様が魔物にやられて腕と足を失った」

「!?」

「瀕死の状態だったんだ。なんとか回復して、今はキャロラインの作った魔道具の義手と義足で普段の生活に戻ったけど…」

「けど?」

「あれからアリアが少し変わった気がする」

「?」

「前よりストイックになったし…」

 カインは言いにくそうに言葉を探す。

「…もうスタークを待ってないって言った」

 スタークの胸がトクンと打たれ、締め付けるような痛みが走る。

「…好きな人ができたのか?」

「…そんなふうには見えないんだ。でも…何か隠してる感じはする。普段は変わらないけど、体調が悪い時もあるみたいで」

「どんなふうに?医者には…治癒ならカインだってできるだろう?」

「月のものだから…って医者にも僕にも見せないし、部屋から出て来ないからわからない。まぁ…確かに、周期的ではあるけど」

「…」

「母上が、女性は月のもので体調を崩すことは普通にあるし、それも人によっては痛みや症状が違うから仕方ないって」

「…そんなものなのか?男にはわからないが」

「キャロラインも言ってた。痛みの具合は人によるって」

「…」

「まぁ、それ以外は相変わらずのわんぱくぶりだよ。この前なんか、馬の上でサンドイッチ食べてたよ」

 スタークは想像する。でも記憶にあるのは二年半前の十四歳のアリアの笑顔だ。

「パーティーに行けば完璧な淑女を演じるから、求婚は増えたし、父上が断るのが大変って言ってた」

「…」

 考えないようにしていた。アリアの事を考えると、頭がいっぱいになり、胸が苦しくなる。あの時、アリアを解放したけど、待っててほしいと願っていた。この苦しみをアリアも持っててほしいと。

「スターク」

「?」

「スタークがカラパイトに行った時、アリアの涙を見たんだ。兄としてアリアの幸せを一番に考えてる。…僕はもう、アリアの涙を見たくないんだ」

 カインの真っ直ぐな瞳にスタークは頷いた。

「…心配するな。何の為に強くなりたいと願ったのか。俺は昔から一度もブレたことはない」

「ああ…そうだったね」

カインはそう言って息を吐いた。








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