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奴隷の呪いと  作者:


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52. メアリー第二王女

 騎士の制服に身を包み、アリアは凛とした姿で国際会議の会場の外に立っていた。

「アリア、めちゃくちゃカッコ良いよ、制服姿。似合ってる」

「カインだってもうすっかり白軍の隊長、板に付いたじゃない。すごいわ、入団して一年で隊長なんて」

「ほら、そこ二人、兄妹でキラキラオーラ出しながら褒め合わないでよ。もうすぐ会議が終わるわよ」

「あ、はい。マーガレットさん」

「にしても…見惚れちゃうわね。ドレスの貴婦人より目を惹くわ。メアリー王女は女騎士があんまりくっついてると嫌がられるから、気を付けてね」

「でもこの警備では怪しい者なんてよっぽどじゃないと入れないでしょ?」

 アリアはそう言って辺りを見回した。各国の要人の護衛もいるし、魔物への結界も強化してある。

「それがね、アリア。こう言う場には記者も多いの。スキャンダルは格好の餌食よ。外国の要人とスキャンダルなんて、外交問題にもなりかねないわ」

「マーガレットさん、私で大丈夫ですか?」

「本当は私がする予定だったのだけど、メアリー王女にNG出されたのよ。胸の大きい騎士はダメだって」

 アリアは自分とマーガレットの豊満な胸を見比べる。

「あーね…」

「こう言う時くらい、情事は控えてほしいわ。止めたら不敬罪で処罰されちゃうし、理不尽よね」

「ですね」


 会食が終わり、いよいよパーティーがは始まった。美しい妖艶な赤いドレスに身を包み、メアリーが会場に現れた。胸元と背中の露出の多いドレスに目のやり場に困るほどだ。

 アリアは常にメアリーが目に入るよう、警備する。


「大変だな、メアリー王女の護衛は」

「あ、ペドロさん」

 朝稽古で、戦ったことのあるペドロだった。アリアに負けたあの日から心を入れ替え、努力して今では青軍の副隊長になった。

「あんなチンチクリンなドレス着て、先程第二王子も呆れていたよ、恥ずかしいと」

「ダメですよ、この場でそんな話」

 アリアにたしなめられ、ペドロは苦笑する。

「たしかにな。あ〜、似合ってるよ、騎士の制服。あと半年で卒業だろ?」

「はい」

「お前達兄妹は騎士になる為に生まれてきたようなもんだな」

「フフ。カイン、ちゃんと仕事してます?」

「ああ、簡単に追い越されちまったけど、あの性格だ。敵を作らない」

「良かった…ン?」

 メアリーがどこかの若くカッコ良い外交官と見つめ合いながら会話をしている。

「距離が近いな」

 ペドロも気付いたのか、苦笑いする。

 イケメン外交官はワインを飲みながらメアリーの胸元ばかり見ている。メアリーはほほ笑みながらイケメン外交官に触り、何か話している。

「すげぇな…あんな積極的に」

 イケメン外交官はワインを片手にメアリーをエスコートし、歩き出した。

「え…どこに行くのかしら」

 バルコニーとは逆の方に歩いている。

「ありゃ、外でやるな」

「…ペドロさん、私、追いかけますね」

「ああ、俺は第二王子の護衛だから離れるわけにはいかないが、アリア、一人で大丈夫か?」

「空気になるんですよね?」

「ああ、王女に危害が及ばない限り、出たらダメだ」

「うわぁん、やだなぁ…」

 アリアはそう言いながら二人を追い、パーティー会場を出た。


 庭園のガゼボで、メアリーと外交官がイチャイチャしている。城の庭は魔法で灯りがともしてあり、バラが薄明かりに照らされ、ロマンティックでムードがある。

 アリアは五メートル程離れたアーチの陰に立ち、空を見あげた。

 ポツポツと雨が降っている。そのうち、本降りになりそうだ。

 時折聞こえて来るメアリーの色っぽい声にアリアは顔を少し赤くしながらなるべく聞こえないよう、雨音に集中する。

__もし、この奴隷紋がなければ、私もいつかは誰かとこんな事をしたのかしら。

「アンッ!」

メアリーの大きな声にアリアはビクッとし、剣に手をかける。

__何?? これって、いじめられてる声じゃないのよね?どうしよう…助けに行くべき!?

 アリアはオロオロしながら戸惑っている時だった。

「キャア! だ、誰か!?」

 メアリーの叫びにアリアは剣を抜き、メアリーの前に出た。

 メアリーのドレスは乱れ、外交官は焦ってパンツを履きながら、剣を持ったアリアに驚いて尻もちをついた。 

「魔道具で念写を撮られたわ!記者を!あっちに逃げた記者を捕まえて!」

「!」

 アリアはメアリーが指差した方を見た。男がすごい速さで走り去ろうとしている。アリアは咄嗟に水縄を男の方足に絡ませた。

「わぁ!」

 記者は足をとらわれ、派手に転び、魔導具の念写機を落とした。

「や、やめてくれ!」

 アリアは念写機を拾い上げ、記者を見た。

「や、やめてくれ!それを壊されたら…」

「壊しなさい!アリア嬢!」

 よほど焦っているのか、メアリーはガゼボから飛び出し、雨に濡れながら叫ぶ。

 外交官は慌てて逃げ出してしまった。

「た、高いんだ、俺の給料の三年分だ!た、頼む!」

「…念写した物を全て消してください」

「だめよ!壊すのよ!」

「わ、わかった!ぜ、全部消すよ!」

「今日王城で撮った念写は何枚?」

「三五枚だ!」

 アリアは小さく呪文を唱え、記者の頭の上に小さな魔法陣を描いた。

「今日の念写を全て消し、今日の事を他言しなければ念写機は壊さないであげるわ」

「消す! 全部消す! 絶対に言わない!」

「だめよ! 壊しなさい!」

「契約魔法をかけます。もし、嘘をついたり、他言するようならあなたの声を奪い、この魔導具は壊れるわ」

 アリアの言葉に男はツバを飲み込み、頷いた。

「守る。契約魔法を受け入れる!だ、だからこの念写機だけは…これがないと仕事ができない」

 記者はそう言って泣きながら念写機の中にある魔石を取り出した。

「魔石を一度空気に触れさせれば、写した念写は消えるんです」

「じゃあ、これで。契約魔法をかけます。もし嘘、偽り、他言をしたり、今日の事を記事にした場合、あなたの声を奪い、魔道具は壊れます」

 アリアはそう言って呪文を唱えた。魔法陣が光り、記者の胸の中に吸い込まれて行った。

「…あ、ありがとうございます! あリがとうございます!」

 記者は大事そうに念写機を抱え、そう言った。

「…人の弱みを撮るより、人の喜ぶものを撮って下さい。命をかけるなら、その方が価値があるはずよ。行きなさい」

 アリアに言われ、記者はアリアとメアリーに頭を下げ、走って行った。

「なぜ言うことを聞かないの!?」

 メアリーはアリアをにらんだ。

 アリアは自分のジャケットを脱ぎ、メアリーの肩にかけた。

「もしあの念写機を壊したら、あの記者はメアリー王女を恨み、噂を広めるかもしれません」

「…」

 雨音が激しくなる。

「城の中に入りましょう。風邪をひきますわよ」

 アリアはメアリーが雨にこれ以上濡れないようにメアリーにだけ防御幕を張り、城の中に入れた。人目を避け、誰もいない客室に入り、鍵をかけた。


「ドレスを乾かしますね」

 そう言ってアリアが肩にかけたジャケットを脱がせ、水魔法で水分を抜きながら風魔法で乾かす。

 黙っていてもメアリーのイライラは伝わって来る。

「メイドを呼びますね。髪を直してもらいましょう」

 アリアはそう言ってメアリーに背を向けた。

「!? なに…これ…」

 メアリーはアリアの背中を見て固まった。雨に濡れ、アリアの奴隷紋がくっきりとシャツに透けていた。

「!」

 アリアはハッとしてジャケットを羽織ろうとした。

「…待ちなさい。これ…」

 メアリーはそう言ってジャケットを奪い取り、驚いた目でマジマジと見つめた。

「これ…奴隷紋じゃない。あなた…孤児とは聞いていたけど、元奴隷だったのね?」

 アリアはジャケットを取り返し、羽織る。その手は震えていた。メアリーはフッと笑い、アリアを見た。

「良かったわね。ラスタ王国では奴隷は禁止だもの」

「…」

「心配しないで。誰にも言ったりしないわ」

 意外なメアリーの言葉にアリアは驚き、メアリーを見た。

「…でも、条件があるわ」

「…条件?」

「…スタークお兄様が帰って来ても、近付かないでちょうだい」

「!」

「当たり前でしょう? 彼は王族の血が流れてるの。あなたみたいな賤しい…元奴隷が近付いていい人じゃないわ」

「…」

「まぁ…そんな身体じゃ男の方に肌を晒すなんて到底無理でしょうけど」

 メアリーはそう言って意地悪そうに微笑んだ。

「スタークお兄様は優しいから、孤児のあなたにかまってあげてたのかもしれないけど、まさか元奴隷なんて思わなかったはずよ。さすが…ハルク元侯爵は自分が平民出身だから寛容なのね。奴隷を養女にするなんて」

 ジェイドのことを言われ、カチンと来たがアリアはぐっと堪えた。

「…心配いりません。私はスターク様に対して特別な感情はございません」

「あら、そうなの? スタークお兄様が帰ってきたら私、婚約をお父様にお願いしようと思ってたのよ」

「…なのに違う男性とあんなこと…」

「どうせスタークお兄様だってカラパイトで遊んでるわ。でも…遊ぶにしてもその身体を抱くより、娼婦の方がまだマシね」

「…メイドを呼んできます。」

 アリアはそう言って濡れた身体のまま部屋を出て行った。

 




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