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奴隷の呪いと  作者:
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5. ユルゲイ夫婦

「まぁ!なんて可愛いの!? 見て、ユルゲイ!まるで天使みたいよ!」

 ヴィオラ・マルクアントン・ハルク侯爵夫人はピアナと手をつないで出迎えたアリアを遠目に見て興奮気味にはしゃいだ。

「あ、ああ。なんか、ちょっと緊張するな」

ユルゲイ・マス・ハルク侯爵は初めて会う自分の養女を見て唾を飲む。

「いらっしゃい、待ってたのよ? ご挨拶をして」

 ピアナがそう言うとアリアは物怖じすることもなく、前に出てドレスを持ち上げてニコリと笑いお辞儀をした。 

「はじめまして、アリア・セレネ・ハルクです」

「なんてきれいな所作なの! ほら、あなた!」

「あ、ああ、はじめまして、ユルゲイ・マス・ハルクです。き、君の父親だ」

「やだ!ユルゲイったら緊張しすぎ! 私はヴィオラよ。ヴィオラ・マルクアントン・ハルク、あなたのママよ!」 

 興奮しすぎてヴィオラはつい心の声が漏れてしまう。


 ジェイド達がティクルに来て五ヶ月が過ぎ、ようやく仕事の折り合いを付けて息子夫婦、ユルゲイ達がアリアに会いに来た。

 二十七歳にして優秀な頭脳の持ち主であるユルゲイはその若さで宮廷で財務の管理職を任されている。武闘派の父親のジェイドとは全く違うタイプで大人しく、魔力量も少ない。親子で共通するところと言えば、どちらも妻の尻に敷かれているタイプだ。


「残念だけど、あなたの兄のカインは学校で来れなかったの。とてもあなたに会いたがっていたのよ」

「お兄様…私も会いたかったな」

 ポツリとこぼしたアリアの言葉にヴィオラは今にもアリアに抱きつきそうな勢いである。

「あぁ~なんて可愛らしいの? お義母様!お義母様がこのドレスをお選びになったの? 可愛らしい!」

「興奮しすぎよ、ヴィオラさん。もう、女の子は初めてだから、ドレス選びが楽しくって。」

「私も選びたいわ! ねぇ、お義母様、後で街に出かけましょうよ、三人で!」

「いいわね! アリア、まずはあなたのママにこのお屋敷を案内して上げて」

「はぁい! こちらです」

「敬語なんていらないわ。だって、あなたは私の娘でしょ?」

 ヴィオラの言葉にアリアは嬉しそうに頷き、ヴィオラの手を握って屋敷の中に引っ張って行った。

「いいなぁ…」

 ボソッと呟くユルゲイにピアナは笑顔で言う。

「あなたも仲良くなれるチャンスはたくさんあるわよ。ほら、それよりジェイドが畑で野菜を収穫してるのよ。あなた達に食べさせるために。手伝って来て上げて」

「父上が畑を? そんなレアな姿、見なきゃ損ですね。あれ、母上、なんか若返った?」

「あら、アリアのおかげかしら。あの子、さっきは猫かぶってたけど、あなたやカインよりもずっとお転婆だわ。田舎に引っ越したからってゆっくり歳をとる暇なんてないんだもの」

「それは何よりだ」

 ユルゲイはそう言って裏庭へと足を運んだ。

「なんだ、隠居して少しは老けたかと思ってたけど。王都にいた時より楽しそうですね」

「おう、来たか、ハルク侯爵」

「勘弁してくださいよ。急にあとを継がされて大変だったんですよ?」

「悪い悪い。まぁ、元々領地の財政はお前に任せてたし、そろそろ譲ろうと思ってたんだ。アリアに会ったか?」

「ええ。想像以上に可愛い子でしたね。仲良くなる前にすぐにヴィオラに取られちゃいましたがね」

「時々ヴィオラとピアナはほんとは実の親子じゃないかと思う程、そう言うところ似てるな」

「私や父上が妻に対して頭が上がらない所もやはり親子ですけどね」

「間違いない。ユルゲイ、そこの人参を5本程抜いてくれ」

「人参…これですか?」

 ユルゲイは足元にあるカブを指さす。

「違う、そっちだ。左の足元。引っこ抜け」

「はい!」

 ユルゲイは、シャツの袖をまくり、言われた通り、人参の葉を掴んで引っ張った。

「立派ですね。食事が楽しみだ」


 ピアナとヴィオラがアリアを着せ替え人形のように楽しんでいる傍ら、ジェイドとユルゲイはテラスで紅茶を飲んでいた。

「カインは元気か?」

「ええ。今回、すごく来たがっていたんですけど、私の仕事の折り合いがつかなくて」

「結局、あの時カインとは会えずに王都から離れてしまったからな」

「父上と会えなかったことより、自分にできた妹を一目見れなかったことを悔しがってましたよ」

「初等学校はもう慣れたみたいだな。手紙に書いてあった。友達ができたと」

「ああ、スタークですね。驚きましたよ。あのステイサム公爵の孫ですよ」

「そうなのか?」

「ええ。カインと同じ七歳ですが、もう既に天才と称されてますよ。なんでも、四つも魔法属性があるとかって噂で」

「ステイサム公爵の孫が?」

「ええ。魔力量も高く、頭脳明晰。うちにも何回か遊びに来てますが、カインよりも随分大人びて見えます。ステイサム公爵は王弟ですからね。王族の血のせいか気品がある」

「へぇ、ステイサム公爵の孫ねぇ」

 ジェイドはそう呟いて紅茶を飲む。

 ラスタ王国のラジール国王の王弟ヘラルド・アルタス・ステイサム公爵は、ジェイドのことを昔から敵対視する。平民出身のジェイドが国を救い、ラジール国王から公爵の称号を与えると言った時、最後まで反対したのがステイサム公爵だった。そのため、ジェイドの称号は公爵の二つ下の伯爵に留まった。   

 ジェイドはその後再び功績を上げ、王族の従兄弟にあたるピアナと婚姻したため、侯爵となった。

「まぁ、ステイサム公爵に厳しく躾けられているせいか、性格の緩いカインといて居心地がいいんでしょうね。かなりの美少年だからヴィオラも喜んでて」

「そう言えば、何年か前に4つ属性のある子が出たとラステルが言っていたな。魔力量が高いため、つける師がいないと嘆いていた。騎士団長をしてたから断ったが、ステイサム公の孫だったのか」

「父上が先生となるのはステイサム公が反対したでしょうね。父上を目の敵にしてますから。私でさえ、宮中ですれ違う時、一瞥されますよ」

 ユルゲイはそれ程気にもしていないせいか、フッと鼻で笑う。

「ステイサム公の子息は確かお前と同じ宮中仕えだっただろう?」

「ええ。彼は王宮図書館の司書をしてます。たまに顔を合わせる程度ですが、感じ悪くないですよ。穏やかな方です。だから尚更、ステイサム公の孫のスタークへの期待が大きいらしく、家庭教師に隣国から魔法師を招いてるみたいですよ」

「学校にも通い、家庭教師もか…。カインだったら泣いてるだろうな」

「そうですね。カインは父上に似て勉強嫌いですから」

「悪かったな」

「それにしても、まさか私達に娘ができるなんて。とても可愛い子ですね」

「ああ。アリアも4つの属性がある。魔力量も高いし、普通の魔法学校では手に余るだろうから私が見ることにしたんだ」

「はぁ…。そんな大事なこと、最初から言ってくださいよ。あんな説明もなく私の名前で養女を迎えるからと伝言されて、ヴィオラが一瞬私を疑ったんですよ?私の隠し子じゃないかって」

「私もピアナに疑われたよ。正直に言えって」

 二人は笑いながら顔を見合わせる。

「騎士団のマリウス副団長がわざわざ説明に来てくれなかったら、どうなったことか」

「マリウスは、もう団長だ。まぁ、浮気をしたと言う証明より、してないと言う証明を示す方が困難だからな。ピアナはアリアの顔を見せたら、すぐに疑いを取り下げたよ」

「そもそも、私も父上も浮気なんて大それたことできる人間じゃないのに」

 ユルゲイはそう言って苦笑する。

「魔力量が高いから養女にしたんですか?」

「まぁ、それもある。あれだけの魔力を悪く使おうとする者もいるだろう。子供なら尚更…大人に利用されては大変な火種になる」

「なるほど…。でも、さっきのカーテシー…とても上手でしたよ。5歳ですよね? 母上が教えたのですか? 孤児と聞きましたが…」

「ああ。どこぞの貴族の子女だったが、両親も亡くなっている…ということにしといてくれ」

「…わかりました。出自は詮索しません。でも…たまたま父上に助けられて良かったですね」

「全ての出会いは偶然ではなく必然だ。きっと縁があったのだろう」

 ジェイドの言葉にユルゲイは頷いた。






 

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