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奴隷の呪いと  作者:


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45. ヨルン・マーロン・カラパイト



 城の外にある騎士団の寄宿舎は、所々魔物の攻撃で壁が崩れている。カラパイトの騎士達はその数三十人程に減り、司令塔を失った。

 あの日、今まで見たこともない、城と同じ大きさの魔物が空間をねじ曲げ、いきなりカラパイトの王都に現れた。

 街を破壊しながら歩き回り、人々は恐怖におののいた。魔聖騎士二人を含めた騎士団が束になっても致命傷を負わせることができず、スターク達がラスタ王国から駆けつけた時にはもう既に街は壊滅していた。生き残った人々は身を隠し、街の中を様々な魔物が歩き回る。

 王城には王族と城の周りに住んでいる平民達が避難した。城には強固な結界が張られている。

 王子は城にいろと言われたが、ヨルンは決して結界の中には入ろうとしなかった。

 ラスタ王国から連れてきた治癒士の施術でハイド・カルティネ卿は瀕死の状態からは脱した。

 城程の巨大な魔物の足をヨルンが氷漬けにし、動くなくなった所をスタークの雷鎚とマリウスの爆破で魔物を倒した。

 しかし、魔物は夜になると次々と生まれて来る。マリウス達は昼夜問わず、かなりの範囲で警備をしなければならなかった。


「おつかれ、交代だ。」

 夜警から戻って来た二人にマリウスがそう言ってタオルを渡した。

「ハリスさんが水魔法で風呂を用意してくれた。ゆっくり入ってしっかり休め。俺は夜警に行って来る」

 マリウスはそう言って出て行った。

「風呂…確かに何日も入ってないな。こんな時、属性が、水だと便利なのに」

 スタークはそう言ってアリアの顔を思い出す。

 カラパイトに来て十日、疲労が回復する間もないほど、戦っている。

「ヨルン、入らないのか?」

「俺は後で…」

 そう言いかけたが、ヨルンは「やっぱり入るよ」と言って寄宿舎にある大浴場にスタークと行った。風呂には誰も入っていない。


 ヨルンは服を脱ぎ、スタークはヨルンの背中を見て固まった。

「ヨルン、その魔法陣…」

 ヨルンの背中には禍々しい紫色の魔法陣が描いてある。

「ああ。俺が父上や兄上に腫れ物扱いされてるのはこれが理由さ」

 ヨルンはそう言って苦笑する。

「奴隷の紋章だ。カラパイトでは奴隷制度はないからまだいいが、外国でこの紋を見られたら奴隷として扱われるらしい」

「なんでヨルンに?」

「魔物に拐われた時、声が聞こえたんだ。やっと見つけた、ってな。闇の中からそんな声がしたかと思ったら背中が熱くなって気絶した。その後だ、スタークが助けに来てくれたのは」

「…」

 二人は風呂に入り、疲れを癒やす。

「人間の奴隷紋と似てるが、古代語が書かれてあるらしい。呪いの奴隷紋だと」

「どうなる?」

「別に。…今は新月の夜には背中が疼くくらいさ。特に何かあるわけじゃない。疑似魔法で隠そうと思えば隠せるし」

「じゃあなぜ腫れ物扱いするんだ?」

「まぁ…見て気持ち良いもんでもないし、どっかの予言ババアが不吉だって言えば、皆、気味が悪いだろ。それを真に受けて処刑されたり、牢屋にぶち込まれないだけマシだよ」

「皆知ってるのか?」

「両親と兄上…あとカルティネ卿と、側近の従者だけだ」

「…カルティネ卿はなんて?」

「氷魔法を使うなと」

「! 使ってるじゃないか」

「あの時だけだ。普段は使わない」

「どういう意味があるんだ?」

「カルティネ卿が言うには、大昔、奴隷にされた魔法士が魔物と契約し、この世を支配しようとしたが、竜騎士と聖女に倒された。でもその魔法士は再び復活する為に自分が元々持っていた属性を持つ者を探すらしい。その属性は主に王族に現れるらしく、他国の王子や王族の者がその属性を持ったが為に魔物に支配され、自滅したと言う話もあるらしい」

「氷の属性を持つ者なんてヨルン一人じゃないだろう?」

「ああ、だけど、古代魔法を属性に持つ者は珍しく、その中でも魔力量の多い者が選ばれるって」

「じゃあ、ヨルンが魔法をなるべく使わなかったのは…」

「ああ、見つからないように大人しくしてた」

 

 二人は食堂で冷たくなったスープを器に入れる。スタークが魔法でヨルンの分も温めてやる。灯りは最小限で静かだ。

「…やはり王城に戻ってくれないか?きっと陛下やカルティネ卿はヨルンに魔物と戦わせたくないからこんな時期にラスタ王国に留学させたんだ」

「ああ、分かってるよ。けど…こんなに国がやられて俺だけ留学なんてできるわけないだろ? 使ってなかっただけで俺の魔力量は大きい。国の一大事に使わなくて何になる?」

「…だが、もしその魔物に見つかったら」

「食われたら氷の力を奪われてその魔物に使役されるらしい。そうなる前に、お前が殺してくれよな」

 ヨルンは冗談っぽくそう言って笑った。

「バカ言うな。」

「カルティネ卿があんな状態だ。お前しかいないよ」

「俺はカラパイトを救うために来てるんだ。その中にお前も含まれてる」

 スタークの言葉にヨルンは笑った。

「お前は本当に男前だな。アリア嬢が惚れるわけだ」

「…惚れてるのは俺だけだよ。アリアにとって俺は幼なじみでライバルだから」

「…バカか、お前は」

「お前に言われたくない」

「ハハ、本当、お前、アリア嬢に関しては余裕がないな」

「うるさい。もう寝るぞ。寝て起きたら、また戦いだ」

「ああ、おやすみ」

「おやすみ」


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