44. 魔導具
「アリア! そっち行った!二頭!」
「やだ!これ!水魔法使ったら大きくなったわ!」
半透明のクマのような魔物が王都の外れに多数発生した。
カインとアリアは騎士団の捕り物に助っ人で駆り出されることが増えた。それだけ魔物や魔獣の発生が増えたのだ。魔法士たちが張っている結界もすり抜け、人にも被害が及ぶ場合もある。
騎士団長のマリウスが四人の部下を連れてカラパイトに遠征に行って十ヶ月が過ぎた。
カラパイトの魔聖騎士達を襲った魔物はスタークやマリウス達の活躍でなんとか倒したが、カラパイトの惨状は酷かった。カラパイトの騎士団はほぼ壊滅、兵士の数も四分の一にまで減った。
それでもなお、生まれ続ける魔物。数は減っても、長い戦火の中で国民達も疲弊しながら生活を送っている。
「アリア!ソイツら、ほぼ水分だから!逆に水分抜いて干からびさせた方がいい!」
物理的な攻撃が、クマには効きにくい。水分でできているのか、衝撃を吸収してしまう。剣で斬ってもすぐに元に戻ってしまうのだ。
カインは自分に襲いかかるクマのような魔物に火炎砲を発射した。
カインの属性は風だけではなく、火も使えるようになっていた。
魔物の身体が火と風で蒸発しながら四方に飛び散り、溶けてなくなる。
アリアはゾーンと呼ばれるピラミッド型の結界の檻を作りクマを二頭、閉じ込めた。アリアは呪文を唱え、ゾーンの中の水分を抜いた。クマ達は縮み上がり、手のひらサイズの干からびたパリパリの枯れ葉のようなものになった。
ゾーンを解き、アリアは地面に落ちたその枯れ葉のようなクマをつまみあげた。
「何これ。パリパリ」
アリアはそう言ってグシャっと手で握り潰した。ボロボロに砕けた破片は溶けて消える。
「あ…握りつぶしちゃったか」
相変わらず豪快なアリアにカインは苦笑いする。
「あと何体?」
「わからない。あっちでマーガレットさん達が戦ってる。手伝いに行こう」
「うん。倒し方が分かれば簡単ね」
二人は苦戦しているマーガレット達の元へと駆けつけた。
「何頭いる?」
「全部で八頭。僕がゾーンを作るからアリアはそこにアレを追い込んで。一気に片付けよう」
カインは騎士に襲いかかるクマを火の弾で弾き飛ばし、三頭をゾーンに閉じ込めた。
「カイン…スゲェな、ゾーンがデカい!」
「この中にアレを追い込んで下さい!水魔法は使わないで!」
カインの指示に騎士達はそれぞれに攻撃し、カインの作ったゾーンにクマを追い込んだ。
「水魔法がある人はゾーンの中の水分を抜いて下さい!」
「わかった!」
水魔法の使い手四人が、ゾーンに向けて手をかざし、中の水分を抜いた。一気に干からびたクマをカインがゾーンの中で爆破させるとクマは八体、全て消えてしまった。
「ふぅ…」
カインが人差し指に息を吹きかけるとゾーンが消えた。
「あんた達…なんでそんなに強いの?」
マーガレットがアリアとカインを両腕で抱き寄せた。顔を豊満な胸に押しつけられ、カインは真っ赤になる。
「ま、マーガレットさん、苦しい!」
「あはは、あんた達が助っ人に来てくれたからあっという間に片付いたわ」
「お兄様…じゃなくて、カインがすぐに弱点に気付いたから。倒し方が分かれば早いわ」
「ゾーンのデカさも半端ねえよ。あと半年で学校卒業して入団するんだろ?」
「はい。試験を受けて…」
「試験なんか受けなくてもカインならそのまま入れるだろ。アリアも」
「私はまだ二年先ですわ。さ、カイン、そろそろ帰りましょう。キャロラインとランチの約束してるの。新しい魔導具を作ったみたい」
「それ、僕も行っていいの?」
「もちろん」
「じゃあ、早く戻らなきゃ」
二人は馬に乗り、騎士の砦に帰った。
「これ、何?」
カインはテーブルに広げられた指輪やブレスレットを不思議そうに見つめる。
「魔導具をアクセサリーにしてみたんです」
「すてき!実用性のあるものって好きよ」
「アクセサリー…ね」
「これなら、おしゃれに魔導具が使えるかなと、思って。例えば…」
キャロラインが赤い石のついたピアスと指輪のセットを手に取る。
「ピアスは二人で一つずつ片方の耳に付けます。指輪は二つあるので、それぞれ指にはめる。指輪に向かって話すと、五キロ圏内であれば、離れていても会話ができるんです」
「え?」
「うそ」
「やってみますか? 二人ともピアスの穴、空けてないからこちらのイヤリングで」
キャロラインは同じ形のイヤリングを渡した。
「じゃあ、僕が外に行って来る」
カインはイヤリングと指輪を持って店の外に出た。指輪に話しかける。
「アリア、聞こえる?」
『信じられない!よく聞こえるわ!私の声は?』
「聞こえる!ヤバい!これすごいよ!」
興奮気味でカインは店に入ってくるとキラキラした目でキャロラインを見た。
「キャロライン、天才!」
カインに褒められ、キャロラインは嬉しそうに微笑む。
「私、これ買うわ!めちゃくちゃお洒落だし。お兄様と使えば…」
「じゃあ僕が、買ってあげるよ。あれ…でもこれって、何のためにあるの?」
興奮気味の兄妹を見てキャロラインは苦笑する。
「これ、恋人用のアイテムですけど」
「あ〜ね、そう言うこと?私はてっきり、戦う時に使うのかと」
「僕もそう思った。戦う時にこれを使えば協力して敵をやっつけれる」
「もう、二人とも色気がないですわ。恋人同士、声を聞きたいときに使うんですのよ」
「でも、便利だわ。魔導具だし、宝石が入ってるから高いのでしょ?」
「ええ、高位貴族に流行らせようと思って。イヤリングが一対、指輪二つのセットで五千クランで売り出そうと。デザインをもっと凝ったものにすれば七千クランにでも」
「ヒィ〜、五千クラン!?」
アリアがびっくりする。
「貴族の婚約指輪がそのくらいだもんね。そう考えると実用性もあって、安いのかも」
カインはそう言って銀細工のイヤリングと指輪を見た。
「これはいくら?」
「これは、宝石は使ってないので三千クランですわ。男性はやはりこっちのほうがお好みですか?」
「うん、このデザインがカッコ良い。それに、僕がアリアにお揃いの宝石を贈るとヤキモチ焼く奴がいるからさ」
「あ〜、確かに」
カインはキャロラインにこっそり耳打ちした。
「スタークなら、おそらくオーダーメイドで最高級の物を頼むだろうね」
「ですね。フフ」
「じゃあ、僕はこの銀細工のをもらうよ。これでアリアと魔物退治の時に連携できる」
「お兄様…お金持ちですのね、三千クランをさっと買えるなんて」
「あら、アリアだって投資したマント事業の配当金が入ってきてるはずよ?」
「うん、使っちゃったわ」
「え?何に?」
「ティクルの街に図書館を作ろうと思って、まずは本を買って送ったの。使わなくなった建物があったから、そこを図書館にするの。スタークのお父様に相談したら、王立図書館で古くなって入れ替えする本を大量に安くで譲ってくれて、あっと言う間に本が揃ったわ」
「アリアって…すごいのね」
「お祖父様もお祖母様も喜んでくれたし。これでティクルの街から色んな才能が芽生えたら、立派な投資でしょ?」
キャロラインは少し感動しながらアリアの頭を撫でた。
「アリア、この中から好きなものをプレゼントするわ」
「え?い、いいわよ。魔導具、結構高いんだから。それに、何が何の魔導具か分からないし」
「じゃあ、デザインで選んでみて。この指輪とピアスの通信具以外はそんなに高いものではないわ。恋する乙女が喜ぶようなアイテムよ」
「え…じゃあ」
アリアは緑色のガラスのビーズで編まれたブレスレットを選んだ。ビーズだからそこまで高価ではないだろうし、そのキラキラした色が気に入った。
「これでいいの?」
「うん、これがいい」
「欲がないのね。これは、転写ができるブレスレットよ」
「転写って?」
「例えば、念写は自分の頭の中の画像を紙に写す魔法でしょ? 結構難しい身体魔法だけど、これは既に画像になっているものを複製したり、移転するの」
「それ、恋する乙女は何に使うの?」
「うーん、まぁ…例えば、人気の俳優とかの念写画はポスターとして既に売られてるでしょ?それを自分の部屋の枕とか、あとこう言うお皿に転写してグッズが作れちゃうの」
「それって…必要?」
「クラスの子が、オペラ俳優のポスターを買ったけど、もっと違うアイテムが欲しいって言ってたの。これを使えば、ノートに転写できるしロケットペンダントにも入れれるし」
「アリアには必要なさ気なアイテムだけど」
カインがそう言うとアリアは閃いたようにキャロラインを見た。
「すごいじゃない、これ、魔法陣の転写もできるんじゃない?」
「!?」
「難しい術式の魔法陣なんて中々頭に入れれないから、魔法書から紙に転写して、今度はそれを地面に転写するの!」
「アリア!天才だよ!」
「う…確かにすごいアイデアだけど、あなた達、戦うことしか頭にないのね」
「って言うか…キャロライン、路線変更して乙女グッズやめて、戦闘グッズに切り替えたらボロ儲けだよ? 騎士団お墨付きの」
「う…確かに」
「すごいなぁ、キャロライン商会」
「どう?似合う?」
アリアは嬉しそうにブレスレットを二人にしてみせた。
「似合ってるわ」
「ありがとう、キャロライン。大事に使うわ!」
「どういたしまして。アリアが付けると宣伝効果がすごいから、こっちがお礼を言いたいくらいよ」
キャロラインは笑顔でそう言った。
1クラン=100円、5000クラン=50万円、




