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奴隷の呪いと  作者:


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43/76

43. 月の光

 宴も終わりに近づき、アリアがキャロラインと話していると風メールがアリアの手の中に舞い込んだ。

「ん…バルコニーで待っててだって。スタークどこに行ったのかしら」

「ヨルン王子も見当たらないわ。陛下もいつの間にかいないし」

「さっきマリウス団長も部屋から出て行った。何かあったのかな?」

 カインが心配そうにそう言った。

「…お兄様、遅くなっら困るわ。キャロラインを送ってくださる? 私はスタークを待っとくわ」

「うん、分かった。キャロライン、行こう」

「ええ、ありがとうございます。じゃ、アリア、お先に。また明後日、学校で」

「ええ、またね」

 アリアは二人を帰し、会場に残った。半分以上の客は帰っているが、まだ会場は賑わっている。アリアは一人、ぶどうジュースを持ってバルコニーに行った。

 月は少し欠けているが明るく、秋夜の風は少しだけ冷たい。

 スタークとのダンスは楽しかった。だけど、なぜか胸騒ぎがする。


「ごめん、待たせてしまって」

 スタークは少し急いだのかアリアの顔を見てホッとしたふうに見えた。空を見上げ、風を感じると上着を脱ぎ、アリアの肩にかけた。スタークの温かさを直接感じ、アリアは「ありがとう」と微笑む。

「お兄様はキャロラインを送って行ったわ」

「うん」

 スタークは月を見上げ、大きく息を吐いた。何か伝えようとしているのが分かった。

「何かあった?」

「…うん」

「何?」

「ん…」

 言いにくそうに言葉を選んでいる。アリアは胸騒ぎがし、スタークのグローブをはめている手を握った。

「スターク?」

「ああ。…カラパイトで魔物が暴れたんだ」

「被害がひどいの?」

「ああ。俺がお世話になったハイド・カルティネ卿が魔物にやられたらしく…」

「!? だって、カルティネ卿は魔聖騎士でしょう?」

「ああ。兄弟子から風メールで、カルティネ卿が瀕死の状態で意識がないって。」

「…行くの?」

「…ああ」

「ヨルン王子と?」

「本当はヨルンをここに置いていきたいんだけど…今すぐ本人が帰るって」

「うん…そう言うでしょうね。スタークも戦うの?」

「ああ。街が壊滅してるらしい。多分、俺達の想像以上に」

「私も行くわ」

「だめだよ。陛下が許さない。カラパイトとは同盟国だから援軍は送るけど…今回は俺と騎士団の五人だけ、それと兵士を百人送る事にしたんだ」

「それだけ?」

「魔物の発生はこの国でも増えてる。カラパイトで起きてることが、ここで起きない保証はない。だから陛下も騎士と兵士の派遣は最小限にしたんだ」

「カラパイトにはカルティネ卿以外にも魔聖騎士がいたでしょ?」

「一人は高齢でもう引退してるし、もう一人も今回負傷してる」

「…」

 アリアはぐっと唇を噛み締める。魔聖騎士が二人もやられている。

「魔物を倒したらすぐに帰って来る?」

「あの国の結界を張ってたのはカルティネ卿だ。もし、魔物を倒しても…国を立て直すのに時間はかかる」

 アリアの不安そうな顔を見てスタークはその頬に手を添えた。グローブ越しに手の温もりを感じる。

「俺がそんな不安そうな顔をさせてるの?」

「だって…」

「大丈夫…必ず戻るから」

 スタークは微笑んだ。アリアは自分の頬に添えたスタークの手を握る。

「約束して」

「約束する。でも…アリアを縛りたくない。だから…婚約者のフリは今日で解消だ」

 スタークはそう言って寂しそうに微笑んだ。

「!」

「ごめん。本当はアリアを他の誰にも触らせたくなくて…婚約者のフリをしてたんだ」

「…」

「本当は…君を隠しておきたいけど。月の光は夜の闇でも隠せない」

 スタークはそう言ってアリアを抱きしめた。スタークの速い鼓動が伝わってくる。アリアはその鼓動を聞きながら尋ねた。

「スターク…私のこと好きなの?」

 スタークはクスッと笑う。でもアリアはスタークの顔を見上げることができない。なぜか胸がちぎれるように痛い。

「伝わってないのが不思議だよ。君にとって俺は幼なじみ? それともライバル?」

「…分からないわ。考えたこともない」

「だろうね。だから言わなかった。言ったところで…俺はアリアに直接触れることさえできないんだから」

「…」

__胸が痛い。私は今どんな顔をしてるの?

 アリアはその痛みを言葉にすることができない。

「今度帰って来た時には…グローブなしでアリアに触れたい」

「…今なら…もう…大丈夫かもしれないわ。あの時とは…違うもの…」

 アリアの声が掠れた。

「うん。でも…俺はまだ圧倒的じゃない」

 そう言ってアリアを身体から離した。

「…怖くないの?」

「…怖いさ。でも…」

__帰って来た時にアリアが他の誰かのものになってることのほうが怖い。

 スタークは言葉を飲み込んだ。

「寂しい時は、アリアの笑顔を思い出すよ」

 そう言ってアリアの頬を指でつまんで笑った。


「スターク! カラパイトに行くってどういうこと!?」

 キャロラインを送り届けたカインがスタークの風メールで城に戻って来た。バルコニーに駆けつけたカインはアリアの不安そうな顔を見て、事態が深刻だと悟る。

「カラパイトの王都が魔物にやられてる。俺は今からヨルン王子と騎士団と、魔法省にある瞬間移動装置でカラパイトに向かう。だから…カイン、アリアを家に送ってくれ」

「今からカラパイトに!?」

「ああ。カルティネ卿がやられてる。もう行かなきゃ」

「…カルティネ卿が? 危なすぎるよ!」

「分かってる。けど、このままだと、ラスタ王国にも害がでるかもしれない」

「…」

「カイン。俺は大丈夫だ。だから…アリアを頼むよ」

 スタークはそう言って笑い、カインに拳を差し出した。カインはしっかりとスタークの目を見て、自分の拳をスタークの拳にくっつけた。

「分かった。任せとけ」

 カインの言葉は頼もしかった。

「もう行かなきゃ。じゃあ、あとはよろしく」

 スタークがそう言って背を向けた。アリアは手を伸ばし、スタークの手を掴んだ。

「スターク! 圧倒的になって帰って来て。あなたとしか、ラストダンスは踊らないから」

 アリアはそう言って精一杯、微笑んだ。その笑顔を焼き付けるように見つめ、頷くと、スタークは笑顔でバルコニーを出て行った。


 スタークが出ていくと、カインはアリアの顔を見た。

「!」

 ポロポロと大粒の涙が頬を伝う。アリアの涙を見たのは、スタークと初めて会って、エンタングルメントを起こした時以来だ。

 カインはハンカチを差し出し、アリアを抱き寄せた。

「…お兄様…胸が痛いわ」

 不安と胸を打つ痛みで苦しい。

「うん…アリア。その痛みが…恋だよ」

「…」

「大丈夫だよ。スタークは約束は必ず守る奴だから」

 そう言ったカインの身体も震えを必死に堪えていた。

 スタークの着せてくれた上着はアリアを優しく包み、温かかった。






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