39. 回復
放課後、カインはアリア達と別れ、寄宿舎に帰ろうとしていた。
「そう言えば…」
朝稽古の時に騎士の砦に水筒を忘れてきたことを思い出し、カインは騎士の砦に足を運んだ。
「どうしたの、カイン。忘れ物?」
マーガレットが声をかけた。
「はい。水筒を忘れてしまって。入っていいですかね?」
「いいわよ。私が付いてれば」
マーガレットはそう言って門を開けた。二人は中庭で水筒を回収し、渡り廊下を歩いていた。
「マーガレットさんは夕べの魔物狩りは行ったんですか?」
「行ったわよ。数は多かったけど、全部雑魚ばっかりで、すぐに終わったわ」
「そうなんですね。どうして新月には魔物が…え!?」
カインはそう言いかけて驚く。
「お祖父様!?」
マリウス団長とジェイドが建物の中に入って行こうとしていた。
ジェイドはカインを見て少し驚いたが、すぐにいつもの笑顔を見せた。
「…やあ、カイン、久しぶりだな」
「お祖父様! 王都に来てたの? いつ来たの?」
「ああ、夕べ、野暮用でな」
ジェイドの横にはティムがいる。
「やあ、ティム、久しぶり。なんか、背が伸びたね」
「お久しぶりです、カイン様」
礼儀正しいティムは少し疲れているように見えた。
「カインはどうしてこんな時間に?」
「朝稽古の時に水筒を忘れちゃって」
マーガレットがジェイドに深々と頭を下げた。
「お初にお目にかかります、名を名乗っても?」
「私は引退した身。そうかしこまらないでくれ。カインがいつも世話になって…。ジェイドだ、レディ…」
ジェイドは優しい笑顔で握手を求めた。マーガレットは少し顔を赤くして握り返す。
「マーガレットです。お目にかかれて光栄です。ごゆっくりして行ってください」
マーガレットはそう言ってカインに手を振るとその場から去った。
「お祖父様、王都にはいつまでいるの? 家には寄るんだよね?」
「ん、…アリアは元気か?」
「うん。今朝もランニングしたし、さっき別れたとこ。いつも通りだよ?」
「ならいい。今回は急に来たから、馬車でこのまま帰るよ」
「え!? アリアや父上達に会わないの?」
「ああ、早くティクルに戻らないと」
カインはジェイドの顔を見て不思議そうに首を傾げた。しばらく考え、そしてニッコリ笑う。
「お祖父様、僕にご馳走してください」
「?」
「回復魔法ってお腹がすくんだよね、ものすごく」
カインはそう言っていきなりジェイドの胸に手を当て、目を閉じた。
「!」
「うわ…まだ…お祖父様、何したの?すごいダメージが…」
カインは独り言を言いながらジェイドに回復魔法を施す。マリウスとティムは驚いたまま見つめていた。
身体の中からだるみが消えて行く。溜まっていた疲労が溶けるようになくなり、先程より魔力の回復が感じられる。ジェイドは驚いてカインを見た。
「お前…なんで」
「見てわかるよ。魔力はまだ回復に時間かかるけど、もう歳なんだから、あんまり無茶しないでよね」
普段通りに振舞っていたつもりで、カインに自分の不調を見透かされているとは思わなかった。
「あリがとう、カイン。今は言えないが、いずれお前の力を借りる時が来るかもしれん。頼もしくなったな」
「でしょ?はぁ〜、お腹すいた。何か食べに行こう。ティムもお腹すいた顔してるよ」
「お、俺は…」
「たくさん食べなきゃ、回復しないよ、ね、マリウス団長」
「ああ、そうだな。よし、じゃあ今夜は俺のおごりだ。ガッツリ肉の美味い店に行こう。どうせジェイドさん、財布持ってきてないんでしょ?」
「ああ、そうだった」
「え!? 王都に来るのに財布も忘れちゃうなんて、お祖父様はおっちょこちょいだな」
「まさかその言葉をお前に言われるとは…」
ジェイドはそう言って笑った。
「アリアには会わずに帰る。昨日の今日だ…もしアリアとのつながりを魔物に知られたら…」
ジェイドはラステルにそう言った。
「ああ。夜は特に。まだ今日は月が暗い。しかし…お前の孫は怪物だな。枯渇した魔力とダメージをそこまで回復させるとは…」
「正直驚いた。当の本人は肉を三人前食ってケロッとしてるからな」
「魔物の発生と力が増えてきている。魔法省でもその原因を研究してるが、まだわからん。ジゼルとの関係がなきゃ良いんだが。とにかくお前は気を付けろ」
「ああ。苦労かけたな」
「本当に。お前のあんな姿は初めてだ。勘弁してくれ。新月の夜は気をつけろ」
「ああ…また連絡する。」
ジェイドはそう言って、少し離れた所で話しているティムとカインを呼んだ。
「カイン、お前のお陰で魔法移動で帰れる。あリがとう。…今日私に会ったことはアリアには言わないでくれ」
「どうして?」
「怒るだろ?」
「ああ、確かにね。ティムにも会いたかったって怒るね」
「アリアのこと、頼んだぞ」
「任せて、と言っても、魔法はアリアの方が強いけどね」
カインの笑顔にジェイドは微笑み、頭を撫でた。昔からするジェイドのそれにカインはもうさすがに恥ずかしがる。
「お祖母様によろしく」
「ああ、今度はまたピアナと来るよ」
「うん。あ、今度僕にも魔法移動のやり方教えて」
「ああ。じゃあな」
ジェイドはティムを連れ、その場から消えた。




