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奴隷の呪いと  作者:


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36. ロンサール 2

「カイン、大丈夫か?」

「アリア!大丈夫!? ケガは?」

 応接間に行くとカインが駆け寄った。

「大丈夫よ。ただ魔力を消す薬を飲んだから力が出なくて」

「はぁ〜良かった、無事で。瘴気がなくなったからスタークが何かしてくれたんだと思ったけど…こっちも大変だったよ。今、風メールでマリウス団長を呼んでる」

 応接間はカインの風魔法でぐちゃぐちゃに散らかり、キャロラインとニコルはカインの防御幕の中でまだスヤスヤと眠っている。カインは人差し指に息を吹きかけ、防御幕を解除した。

「二階でトリエルを捕縛してる。姉のマリーに刺されたみたいだ。応急処置だけしてくれるか?」

「分かった。マリーは?」

「…マリーは魔物に取り憑かれていた」

「殺したの?」

「…ああ」

 スタークの返事にカインは頷き、肩に手を置いた。

「ありがとう、スターク。アリアを守ってくれて。マリウス団長が来るまでここにいるようにって」

 そう言ってカインは二階に行った。

 キャロラインとニコルはまだ眠っている。

 スタークはアリアを抱いたまま、ソファに座った。

「もう下ろしていいわよ」

「いやだ」

「重たいでしょ?」

「まあまあね。アリアは筋肉質だから」

「そこは、羽のように軽いよって言うべきじゃない?」

 アリアはそう言って笑う。スタークは口で右手のグローブを外し、アリアの頬を指で撫でた。柔らかく、滑らかで温かい。

 あのエンタングルメント以来、初めてアリアに素手で触れられた。

「ち…近いわ、スターク」

 アリアが顔を赤くする。スタークはハッと我に返り、ごまかすようにアリアの頬をつまんだ。

「アリアの頬はマシュマロみたいだな」

「それは褒めてるの?」

「俺がアリアをけなしたことある?」

「…どうかしら」

「ん…」

 キャロラインがピクリと動き、アリアは慌ててスタークの膝から降りようとしたが、スタークはがっちり捕まえて離さない。

「キャロラインが起きちゃう!」

「別に変じゃない。だって、力が入らないんだろ?」

「座るくらいはできるわ」

「でもいやだ」

 スタークはそう言ってアリアの身体を抱きしめた。アリアは恥ずかしいのと胸がドキドキしているのがスタークにバレないように言った。

「そう言うとこよ、スターク」

「?」

「女の子を勘違いさせちゃうところ」

「俺が触れたいと思うのはア…」

 スタークが何か言いかけた時、キャロラインが目を覚ました。アリアは慌ててスタークの膝の上から降りる。

「…ん、どこ、ここ」

 キャロラインは身体を起こし、ハッとした。

「アリア! 大丈夫だった!?」

「うん。スタークとお兄様が助けてくれたわ。まだ、身体に力は入らないけど…」

「何がどうなってるの?」

「そう言えば…なんでスタークとお兄様が助けに来てくれたの...?」



 騎士団のマリウス達が駆けつけ、アリア達は事情聴取をされた。トリエルもカインの治癒のおかげで一命は取り留めたが、連行された。

 

 マリーが七歳、トリエルが五歳の時、実母が死んだ。その死因は病死だったが、ロンサール伯爵はすぐに新しい継母を連れて来た。ロンサール伯爵は女癖が悪く、継母にすぐに飽きて他に女を作り、屋敷に帰ることはあまりなかった。

 継母はその怒りや憎しみを二人ぶつけ、虐待が始まった。

 食事を与えられなかったり、口答えをしたと言ってはムチで打たれたり、暗い部屋に閉じ込められた。特にマリーへの虐待の方が酷かった。トリエルはその事でマリーに申し訳ないと思っていた。

 

 マリーは闇属性だった。闇属性は珍しく、その名のせいで悪い魔法だと思う人も多いが、それは使い方次第である。

 騎士団の中にも魔法省の魔法士にも闇魔法の使い手はいる。闇に隠れて護衛をしたり、共鳴しやすい魔物の発生状況を把握して被害を防いだりもできる。


 マリーは継母に対する殺意が膨らみ、本屋で見つけた黒魔術の書を読みあさり、ある日呪いをかけた。その代償も知らずに。

 マリーの継母は苦しみながら死に、トリエルの魔力はその頃発現した。記憶を改ざんできる能力だった。

 父親やメイド達の記憶を操り、継母は昔から病弱だったと言う記憶を植え付けた。

 大幅な記憶の改ざんは難しかったが、一時間程度の記憶の改ざんならできた。


 マリーに呪い返しが発現し、マリーの身体には黒い箇所が日に日に増えていった。痛みを伴う壊死はどんどん広がり、内臓まで侵食していた。

 マリーはキーシャ・ゴールドマンにお見舞いに来てくれと手紙を送った。花束とクラスメイトからの手紙を持ってお見舞いに来たキーシャは、その日にマリーと心臓を交換された。

 恐怖の儀式の記憶を改ざんし、キーシャは壊死した心臓を持ち帰り、二週間後に亡くなった。それを聞いたトリエルは罪悪感に苛まれた。キーシャは自分にも優しかったのに…。

 マリーの容体は心臓を交換したことで多少は改善した。しかし痛みと苦痛で当たり散らし、メイドの身体を自分のと交換すると言い出した。

 トリエルはメイド達の命がなくなれば、継母の死にも気付かれるかもと考え、命を奪わないよう、一人の人間と少しずつ交換する事を提案した。

 パーツを見つけては屋敷に招き、交換する。屋敷での儀式の記憶は楽しいお茶会の記憶にすり替えられた。

 初等学校で三人、高等学校で四人、さすがに疑われ始めてもおかしくない。そう思ったトリエルは父親に魔法が覚醒したと言い、魔法省に登録をさせてアリア達のいる魔法学校に転校してきたのだった。



「トリエルはどうなりますか?」

 キャロラインがマリウスに尋ねた。

「わからない。本人が誰かを殺したんではないにしても、呪いを与える事に協力した。それも何人も。裁判にかかり、魔法省の管理に置かれるかもな。記憶改ざんは禁忌の魔法に近い。使う場合は相手と魔法省の許可がいる」

「フェタニールについては?」

 スタークが紅茶が残っているティーポットを見つめながら尋ねた。

「フェタニールは摩薬だ。大陸法で製造も使用も禁止されている。外国でもその原料が希少らしく、手に入りにくいはずだが」

「トリエルはどこから入手したんだろう」

「そこも調査するよ。君たちはもう帰りなさい。馬車を用意した」

 マリウスの言葉に全員頷き、スタークは立ち上がり、アリアをまた抱き上げようとした。

「も、もう歩けるわ」

 皆の前では恥ずかしいのか、アリアが断わるとカインがキャロラインを抱き上げた。

「カ、カイン様?」

「母上から言われてるんだ。女の子は宝物のように扱いなさいって」

 キャロラインが頬を赤らめて大人しくなった。マリウスもニコルを抱き上げると、スタークはニンマリ笑う。

「だって」

「…じゃあお願いするわ」

 スタークは嬉しそうにアリアを抱き上げた。

 月のない夜は暗く、空を見上げ、アリアは心細くなり、スタークにしがみつく。

 騎士団の用意してくれた馬車に乗り、スタークはアリアが揺れで落ちないよう、大事に抱き寄せた。アリアはスタークの肩に寄りかかり、ため息を吐いた。

「…マリーに言ったの。私とマリーが肌を交換して私の顔が黒くなっても、スタークはマリーより私を選ぶって」

「分かってるじゃないか」

「トリエルもそうだったはずよ。マリーの顔が黒くても、マリーを愛していた。だからマリーの我儘を聞いてたのね。でも友達を殺したくなかったから…マリーが私を殺そうとした時、トリエルは私を庇ったの」

「…それでも俺はあいつを許さない。もしアリアがマリーのようになったら、俺ならその呪いを全てもらうよ」

 アリアはスタークの顔を見る。

「スタークと全部入れ替わっちゃうってこと?」

「…、そうなるのかな?」

 スタークがクスッと笑う。

「多分、カインだって同じ事をするだろうな。どっちがいい?カインと俺と」

「うーん、迷うわ。でも…人に呪いをあげるくらいなら、自分で苦しむ方がマシよ」

 スタークはその言葉にアリアをぐっと抱き寄せた。

「ち、近いわよ、スターク」

「うん。あと少しで…また触れなくなるから」

「…」

 二人は少し切ない気持ちで馬車に揺られていた。 


 



 

 



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