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奴隷の呪いと  作者:


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35/79

35. 交換

「今夜は新月。あと二つも儀式をしないといけないから、急ぎましょう」

 そう言うとマリーは短剣を取り出し、自分の左手の人差し指を少しだけ斬った。ポタポタとどす黒い血が滴り、そしてその血を魔法陣の中に置いた銀の器に垂らす。

「呪われた血よ。これをあなたに飲ませて呪文を唱えるだけよ。痛みはないわ」

 アリアは一度目を閉じ、大きく息を吐いた。

「お願いが…ある」

 アリアはトリエルを見た。

「どうしたの?」

「…私にして」

「?」

「あの二人には…手を出さないで。私が全部…呪を、貰ってあげるから」

 アリアは薄れそうな意識を途切れないように歯を食いしばる。濃いハチミツ色の瞳はうつろだったが、強い意志を持っていた。

「!」

 マリーは恨めしさと憎しみに満ちた目を見開いてアリアを睨んだ。トリエルはマリーのその醜い形相を見て驚く。

「姉様…?」

「私は…あなたみたいな女が大嫌いよ!そうやっていい子ぶって!本当は自分が一番のくせに!偽善者が!」

 マリーは持っていた短剣をアリアの頬に押し当てた。

「ダメだ!姉様!傷を付けたら!」

 アリアはマリーの目をじっと見る。

「スタークは…私の肌が黒くなっても…あなたよりは私を選ぶわ」

「!」

 マリーは狂ったように激昂し、アリアの心臓を突き刺そうと短剣を振り上げた。

「!」

 トリエルがマリーの両手を押さえた。短剣が床に落ち、マリーは取り乱す。

「トリエル! 何をするの!? あなたまでこの女を選ぶの!?」

「姉様!落ち着いて!姉様!」

 トリエルが落ち着かせようとマリーを抱きしめた。

「姉様…そんな顔をしないで」

「殺すのよ!トリエル!この女を!」

「ダメだよ!もう殺さないって約束したじゃないか!殺さずに皆と少しずつ交換して…綺麗になれば幸せになれるって!」

 トリエルは涙を流しながらマリーを抱きしめている。

「この女は私をバカにしたのよ!自分が美しいからって!」

 マリーの身体が熱くなって行く。顔のまだらな黒い部分が侵食するように顔全体に広がり、身体中に広がっていく。ドクンドクンとマリーの身体が弾けそうなほどに脈を打ち、トリエルはそれを押さえるように強く抱きしめた。

「邪魔しないで! この女を…殺すのよ!」

 マリーの右手から黒い短剣が生え、トリエルの背中を刺した。

「!?」

「トリエル!」

 トリエルは何が起きたか分からず、崩れ落ちた。

「どうして…姉様…」

 マリーの身体は真っ黒で、もはや完全に魔物に取り込まれていた。

「その綺麗なかおを…からだヲ…ワタシニチョウダイ…!!」

 マリーが黒い刃を振り上げ、アリアに襲いかかろうとした。

「アリア!!」

 スタークがドアを突き破り、襲いかかるマリーに烈火の火弾を撃った。マリーの身体はその火弾を吸収し、マリーはスタークの顔を見て笑った。

「スタークサマ…オボエテイテクダサッタンデスネ。ワタシノコト…」

 吸収されたはずの火弾はマリー身体の中で発火し、火がついた。

「グアァァ! アツイ!!」

 スタークは魔法陣に縛り付けられたアリアと血まみれで倒れているトリエルを見てその魔物がマリーだと気付く。

 鳥肌が立つほどの怒りを覚え、スタークはマリーに斬りかかろうとした。

「お願…い、姉様を…殺さないで」

 トリエルが泣きながらスタークの足にすがりついた。

「聞けるわけないだろ…あれはもう人じゃない!」

「アツイ!!ヒドイワ!スタークサマ!ワタシヲ…ワタシヲエランデ…ソノオンナヨリ…ワタシヲエラビナサイ!」

 割れた声が部屋に響き渡り、マリーがアリアに短剣を投げつけた。スタークは横たわるアリアに防御幕を張り、短剣を弾き飛ばすとマリーに火砲と雷砲を発射した。

『ドーンッ!』

「姉様!!」

 スタークの攻撃は部屋の壁を破壊し、マリーの身体はすごい勢いで発火した。火よりも熱い烈火の炎で火だるまになった後、一瞬で黒い灰になった。

「姉様…」

 トリエルは背中から血を流しながら這いつくばり、その灰を手に掴んで泣いている。

 

 壁が崩れたせいで部屋に風が入り瘴気が薄くなる。スタークは風魔法で残った瘴気を一気に吹き飛ばし、アリアを縛り付けている枷を外そうとした。

「あ…」

 慌てて懐からグローブを出し、手にはめてアリアの枷を外そうとするが、焦っている。

__スタークが…焦ってる。

 アリアは焦っているスタークの顔を見ながら、魔物になったとは言え、知り合いのマリーを殺してしまったスタークの心情を悟った。

「ありがとう…スターク。おかげで助かったわ…」

 スタークはその言葉に少し救われた気がした。枷を外し、アリアを優しく抱き上げ、立ち上がった。


「…アリアに何を飲ませた?」

 スタークはアリアを抱き上げ、泣いているトリエルの首に剣を突き付けた。スタークの声はまだ怒っている。

「…スターク」

 アリアはスタークを見て首を横に振る。トリエルは背中から血を流し、命はあるがもうすでに抜け殻のようだ。

「私は大丈夫だから…お兄様にトリエルの傷を治すように言って」

「殺してやりたい…」

 スタークの言葉にアリアは首を横に振り、両手でスタークの頬に手を当てた。

「!」

 スタークは驚く。

「…スタークの肌って、スベスベなのね。魔力を消す薬を飲まされたの。二時間で元に戻るって」

 初めて触れるアリアの素肌の体温にスタークは固まった。

「力が入らないの。運んでくれる?」

 アリアはそう言って微笑むとスタークの首に手を回した。

「もちろん」

 スタークが冷静さを取り戻し、いつもの笑顔が出た。

 

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