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奴隷の呪いと  作者:


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28/80

28. ヌチアール 4

「ジル先生、ちょっと…」

 一年生のクラス、法律の授業中に校長のノアが教室に現れた。ジルはノアのもとに行き、話を聞いて教壇に戻って来た。

「皆さん、授業の途中ですが、今日の授業はここまでとします。速やかに帰る準備をして下さい。今から騎士団の方が来られます。学校が用意した馬車に乗り合いで騎士の方に護衛してもらいます」

 ジルの言葉に生徒達はざわついた。授業の中断に喜ぶ生徒が大半だ。

「例の殺人事件かしら」

「新聞で読んだわ」

「元騎士の方まで襲われたとか…」

 生徒達は口々に噂をし始めた。

「騎士の方が来るまで、絶対に教室を出ないで下さい」

『ドーンッ!!』

 校舎の外から爆発音がした。生徒達は窓の外を見るが何も見えない。

「席に着いて! 様子を把握してきますので皆さんは絶対にこの教室を出ないで下さい! ロバート、私と騎士の方以外は入れないで下さい」

 ジルはドアの一番近い席に座るロバートにそう言った。

「わかりました」

 ロバートに解除の仕方を教え、教室に魔法で施錠して出て行った。



「君は…イワン君? なんでこんな所にいるんですか? 早く教室に戻りなさい!」

 マナー講師のマギーが校舎の見回りをしながら廊下を歩くイワン・マージルに声をかけた。イワンはじっとマギーを見上げた。

「属性は何?」

 声が割れているような低い声だった。普段からあまり接点はないが、あまり素行の良い生徒ではない。最近では平民出身の生徒をいじめていたと聞いている。

 マギーが不思議に思いながらもイワンに答えた。

「属性?私は大した属性などないわ。そんなことより、早く教室に戻りなさい。騎士の方々が来るのを教室で待ってなさい」

「…」

 イワンは返事もせず頷き、マギーと反対の方にある一年と二年の教室のある方に歩き出した。



「アリア、カイン様から何か聞いてないの? 最近やたら街中を騎士の方々が歩いてるし」

 キャロラインは、鞄にノートや教科書を入れながら尋ねた。

「騎士団の朝稽古は今中止されてて、私達の朝のランニングも禁止されてるの。だから、騒ぎが収まるまで、お兄様も寄宿舎ではなく、うちに帰って来てるの」

「物騒だわ。カフェにお客様もほとんど来ないし、このままでは赤字になっちゃうわ」

「そうよね。私だってカフェに寄って帰れないのは辛いわ」

 アリアはそう言って窓の外を見た。どんよりとした雲で昼近くなのに薄暗い。

「騎士の方が来たみたいよ?」

 廊下側の窓から騎士が一人、入り口の方に歩いてくるのが見えた。キャロラインの声にアリアはそちら側に目を向けた。

 背の高い騎士が廊下を歩き、一年の教室のドアの前に立ち、ドアに手を掛けた。

 ロバートが立ち上がり、ドアに近づく。

「騎士の方ですね、施錠魔法を解きますので少し下がってください」

「…」

 生徒達が見守る中、ロバートはドアに手をかざす。

 アリアは廊下の外に立っている騎士になんとなく違和感を覚えた。

 騎士にしては老けているのと、式典に出る時のように正装している。

 三日前の朝、ランニングの時に会ったマリウス達や、街を巡回する騎士達の制服はもっと動きやすい制服だし、寒さの為、この季節は防寒のマントを羽織っている。

「!」

 アリアは胸騒ぎがし、立ち上がってロバートに叫んだ。

「開けちゃだめ! ヌチアールよ!」

「え!?」

 ドアが開き、騎士が中に入って来たと同時にロバートの胸を剣で突き刺した。

「キャア!」

 生徒達が悲鳴をあげるとアリアは一瞬で生徒達に防御幕を張り、自分は防御幕の外に出た。

「アリア!」

 キャロラインが驚いて叫んだ。

「防御幕を強化して!」

 アリアはそう言ってヌチアールの前に立ちはだかった。ロバートは剣で胸を突き刺されたまま、足が宙に浮いている。生徒達は恐れおののいて動けない者が多い中、キャロラインは叫んだ。

「皆、防御幕を強化して!早く!」

 キャロラインの言葉で我に返り、皆、防御を固める。

 ロバートの息はまだある。アリアは気砲と水砲を同時に撃ち、ヌチアールの右手に命中させた。剣が突き刺さったままロバートが床に落ち、アリアはすぐさま駆け寄り、ロバートの身体を軽くして抱き上げた。下手に剣を抜けば血が噴き出してしまう。

 ヌチアールがアリアに目がけ、水砲を発した。アリアは咄嗟に防御幕を張るが、クラスメイトの為の防御も張っている為、薄い。ヌチアールはニヤリと笑い、右手でアリア、左手で生徒達にものすごい量の砲火を浴びせた。

 教室のあちこちから火が燃え上がる。生徒達が強化した防御幕にまるで意思のあるかのように火が襲いかかり、幕を破ろうとしている。

 薄い防御幕を破り、アリアの身体に炎が襲いかかるのを真空で遮り、ロバートを抱えたまま、アリアは逃げる。

 ヌチアールが火砲を撃てばアリアが水の盾でそれを防ぎ、カウンターを合わせるように真空の刃をヌチアールに浴びせた。騎士の顔や身体がアリアの真空の刃に斬られ、黒い血が噴き出す。

 ところが治癒ができるのか、すぐさま傷を修復し、赤いドレスの女になった。

「!」

 アリア達が見たブルニーと言う遺体の顔だった。女はニヤリと笑い、四つん這いになると獣のような爪を出し、アリアに飛びかかってくる。

 クラスメイト達の防御も張り、ロバートを抱えて戦うのは片手が塞がり、かなり厳しい。ロバートがいるため、真空にもできない。

 ヌチアールが襲いかかりアリアを壁に追い込んだ。

 ヌチアールがニヤリと笑いアリアに爪を振り下ろそうとした瞬間だった。

「アリア!」

 スタークとカインが同時に叫び、カインの風魔法でヌチアールをアリアから引き剥がし、スタークが雷砲を落とした。

「遅いわ!」

「ごめん!」

 雷に打たれたヌチアールは制服を着たイワンの姿に変わる。

 カインはアリアに駆け寄り、ロバートを預かる。

「お兄様、治せる?」

「やってみる!」

 剣はロバートの胸の中央を貫いている。カインはロバートのブレザーで傷口を抑え、ゆっくりと剣を抜くと同時に治癒魔法をかけた。血が止まり、表面の皮一枚がふさがる。

「まだだ、中も修復しないと。アリア、ここは任せて」

「うん」

 アリアはロバートに刺さっていた剣を持ち、スタークと対峙しているヌチアールに構えた。

 イワンの姿をしたヌチアールは両手を振り、教室のあちこちで燃えている炎を煽る。

 アリアは水魔法で教室全体に水を撒き、炎を鎮火させ、風魔法で煙を教室の外に出した。

 ヌチアールはスタークに水縄を投げ、拘束しようとするが、スタークは烈火で水を蒸発させた。

「オマエノシンゾウヨコセ」

 低い割れた声を発し、ヌチアールはスタークに指先から火の弾を何発も発射した。避けた弾は教室の木の壁にめり込み、火を放っている。

「さすが…元騎士の力…」

 烈火の属性のスタークでもさすがに当たれば身体を貫通する威力だ。

 雷のイカヅチを落とせばヌチアールを倒せるが、同時に学校自体を破壊してしまう。

「これ以上、教室を荒らさないでよ!」

 アリアが剣でヌチアールの背後から斬りかかった。ヌチアールの左肩がスパンと斬れ、床に落ちた。ヌチアールはまた変化する。

「!」

 銀色の髪、濃いはちみつ色の瞳でヌチアールはスタークに笑いかけた。アリアの顔だった。スタークは一瞬戸惑う。

「シンゾウチョウダイ」

 低く割れた声でそう言うとまた指先から火弾を発した。

「スターク!ちょっと!間違えないでよ!」

 アリアは慌ててスタークの前に真空の盾を飛ばした。火弾はスタークの眼の前で威力を無くし、床に落ちた。

「私あんなに顔色悪くないわよ」

 アリアはそう言ってスタークの隣に立った。

「ホント…アリアの方が断然可愛い」

スタークがそう言って微笑むとアリアは苦笑する。

「そういうとこ。で、どうするの? 私もスタークもこの狭い場所じゃ思いっきり力を出せないわ」

 

 騒ぎで駆けつけた学校の教師達やマリウスが率いる騎士団も、教室の中には狭すぎて立ち入れない。せめて被害が広がらないように教師と騎士団で防御を張って見守っている。


「アリア、俺が合図したら水砲を連続で撃ち続けてくれ。そこに雷を流す」

 ただ雷を流せば空気中に放電する可能性がある。

「わかったわ!」

 スタークは烈火の火弾をヌチアールに向けた。ヌチアールは火魔法で火の盾を作ったが、烈火弾はそれを貫通してヌチアールの身体に着弾した。

「グアァァ!!」

 アリアの顔で低く割れた声で叫び、火だるまになる。スタークの烈火は勢いが強く、このままでは教室まで燃やし尽くしてしまう。ヌチアールのアリアの顔が獣のように変化して行く。

「今だ!」

『ドーンッ!』

 アリアはヌチアールに向け、水砲を連続で撃ち続けた。スタークがその水砲に雷を放つ。空気がビリビリと振動し、アリアの水砲でヌチアールの烈火の炎が消えたと同時に感電し、床に倒れた。

「ウゥ…」

 黒焦げになった獣姿のヌチアールは瀕死の状態でうずくまっている。スタークはトドメを刺していいかとマリウスの方を見た。マリウスが頷くとスタークはアリアが持っていた剣でヌチアールの心臓を貫いた。


「もういいかしら」

 アリアが唇に人差し指を当て、フウッと息を吹きかけるとクラスメイト達を守っていた防御幕が消えた。

 駆けつけたマリウス達がヌチアールを囲むとヌチアールの身体が溶けていく。そして最後に小さな五センチ程の黒いウネウネと動くヒルみたいな物体が残った。

「これよ、私が言ってたの。気持ち悪っ!」

 アリアはそれを指差して思いっきり足で踏み潰した。

「!?」

 思いきった行動にマリウスもスタークも唖然としてアリアを見る。

 ヒルみたいな物体はグチャっと潰されている。アリアは何気ない表情で靴底に付いた汚れを床に擦り付けている。


「カイン、その子、大丈夫か?」

「ロバート!」

 クラスメイト達がカインとロバートに駆け寄った。

「大丈夫…僕は大丈夫だから」

 カインの治癒魔法で傷が治ったロバートは起き上がり、小さく咳をした。目に涙が溜まっている。

「死ぬかと思った…ありがとうございます。カインさん、アリア嬢…ありがとう」

 我慢できず、ロバートの目からポロポロと涙が溢れた。

「カイン、よくやった。アリア嬢、スターク君も、本当に助かった」

 マリウス団長が深々と頭を下げた。カインはアリアに駆け寄る。

「アリア、ケガはない?火傷は?」

「かすり傷一つないわ」

 アリアは教室のあちこちでくすぶっている火を水砲で消し、風魔法で乾かした。

「アリア! カッコよかったわ!」

 キャロラインがアリアに抱きつき、顔に付いたススを拭いてやる。

「アリア嬢、ありがとう!」

 クラスメイトに囲まれるアリアにカインは少し誇らしげにマリウスを見た。

「マリウス団長、スタークもアリアも言った通り強いでしょう?」

「ああ、想定外の強さだ。君の治癒魔法もな」

 マリウスに褒められ、カインは照れくさそうに笑った。

 


 学校での被害者はイワン・マージルだけだった。生徒達は家に帰され、アリア達三人は学校残り、マリウス達に事情聴取された。


 後日、三人は学校から表彰され、騎士団からは剣が贈られた。

 新聞は事件を解決したのは未来の騎士候補だと書いたが、本人達の希望もあり、名前は明かさなかった。






 

 



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