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奴隷の呪いと  作者:


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27. ヌチアール 3

「ヒューゲル、アルカス先生に俺の事チクッただろ!」

 二年生のマージル侯爵の子息、イワンは平民のヒューゲル・マケドムを学校の敷地内にある用具室に呼び出し、いつものようにいじめていた。

「お前のせいで俺は親に怒られたんだ!」

 イワンはそう言って水魔法でヒューゲルの手首を水縄で拘束した。

「やめろよ!お、お前が僕のカバンを水浸しにしたからだろ!」

「お前? 平民のくせに、俺に向かってお前って言ったな?」

 イワンはそう言って水魔法でヒューゲルの顔に水砲を浴びせた。

「ガハッ!」

 水を飲み、咳き込むヒューゲルを見てイワンは笑う。ただでさえ寒いのに、水浸しになったヒューゲルはブルブルと震えている。

「こ、校内で攻撃魔法は…」

「心配すんな。今、先生達は皆会議中だ。そもそも、お前みたいな平民がこんなとこにいるのがおかしいんだ。透視ができるだけだろ?お前の魔法って何の役にも立たないじゃないか」

 イワンはそう言って用具室のドアを開け、ヒューゲルを押し込んだ。

「な、何するんだよ!」

 腕を拘束されているヒューゲルは用具室の床に倒れ込み、イワンはドアを閉めた。

「服が乾くまでそこにいろよ。その頃には水縄も消えるさ」

 ドアの向こうでイワンが笑いながらそう言った。

「出せよ!イワン!」

 そう叫び、ヒューゲルは透視の魔法で小屋の外を視た。幸い、向こうから赤い派手なドレスを着た女性が小屋を立ち去ろうとするイワンの方へと歩いて来る。

__誰だ、あの人、生徒の保護者かな? イワンがあっちに行ったらあの人に助けてもらおう。…このままじゃ寒すぎて風邪ひいちゃう。

 ヒューゲルは今叫ぶとイワンからまた仕返しされると思い、透視を続けた。

 赤いドレスの女性はイワンに近付き、何か話しかけている。

__イワンの母親? にしては…平民ぽいし、若いよな…

 声は聞こえないが女はイワンに笑いかけ、右手でイワンの左胸を指差している。

「!?」

 女がいきなりイワンの胸を切り裂いた。爪がまるで獣のように鋭く刺さり、イワンは咄嗟に後ろに飛び、水砲を女に浴びせる。女の顔はみるみるうちに中年の男の顔になり、イワンに対して火砲を放つ。イワンの防御魔法を突き破り、火砲がイワンの身体を捕らえ、火だるまになった。

 イワンの叫び声が防御幕の中にこもり、外には漏れない。火を消そうとのたうち回るイワンにその男は近づき、平気でイワンの胸を切り裂いた。

「!?」

 男はイワンの胸から心臓を鷲掴みで取り出し、獣のようにむさぼり食う。おぞましい光景にヒューゲルは過呼吸になる。

 イワンの身体はあちこち小さな炎を上げながら燃えていた。

「!」

 透視で本来向こうからはこちらの姿は見えないはずなのに、男はこっちを見た気がした。ヒューゲルはガタガタと震えながら音を立てないように立てかけてあるベニア板の影に隠れた。男は急に身体が小さくなり、イワンの姿になった。

「!」

 イワンの姿をした何かは自分の姿を確認し、満足したようヒューゲルのいる小屋に手をかざした。

「!」

『ドーンッ』

 右手から水砲が出て小屋を直撃したが、そこまでの威力はなく、ただ小屋を濡らしただけだった。

 ヒューゲルがホッとしたのも束の間、水砲の威力に満足できなかったのか、今度は火砲を放った。

『ドーンッ!!』

 さっきの何倍もの音がしたかと思うと小屋の屋根は吹き飛び、イワンの姿をした何かはそそくさと校舎の方へと歩き出した。


 ヒューゲルはベニア板と床の間に挟まれ、身動きが取れない。辺りは火に囲まれ、ヒューゲルはもがくが、手首が水縄で縛られているため、動けない。

「助けて! 誰か!」

 熱い熱気が身体を包み、煙で喉が焼けるように熱い。

「助けて!」

 声を振り絞り、そう叫んだ時、炎の中に人影が見えた。

「大丈夫か!?」

 見たことのある顔だった。一学年上のスタークだった。

 スタークはまるで火などないかのように防御幕なしで炎の中を歩き、ヒューゲルの上に覆いかぶさった小屋の屋根とベニア板を一瞬で灰にした。そしてヒューゲルをすくい出し、防御幕を張ってヒューゲルに肩を貸して立たせた。

「なんで水縄?…とにかく外に出よう」

 スタークはヒューゲルを支えながら小屋の外に出た。

「大丈夫か? 君は二年のヒューゲルだね?何があった?」

 剣術の教師、ハリスがヒューゲルの水縄を解いてやる。ハリスとスターク達は爆発音を聞きつけ、ここにやって来た。

 他の教師達はスタークの話に生徒達を保護し、避難させる為に動いている。

 ヒューゲルの声が出ない。スタークはカインを見る。

「カイン、彼の喉、火傷してる」

「あ、うん、任せて」

 カインはヒューゲルの喉に手を当て、治癒魔法を施した。

「君、濡れてるじゃないか…あの魔物に水縄で縛られたのか?」

 混乱しているヒューゲルは十メートル先に転がるイワンの死体を見て震えている。

「魔物…」

「落ち着いて。とにかく、見たことを話してくれ」

 ハリスがヒューゲルの背中をさすった。

「イワンが…僕を水縄で縛ってここに閉じ込めたんです。あいつは…いつも僕に嫌がらせをしてきて…」

「イワン・マージルか」

「僕を閉じ込めてイワンが校舎の方に行こうとした時、赤いドレスを着た女の人がイワンに声をかけて…」

「待って。閉じ込められたのにどうしてわかるの?」

 カインはヒューゲルの火傷を治しながら尋ねる。

「彼は身体魔法の属性で、透視ができるんだ」

 ハリスが背中をさすりながらカインに説明する。

「女の人がイワンの胸を爪で刺したんだ。イワンが水魔法で攻撃したら…女の人が男の顔になって…火砲をイワンに撃って…火がついて…男がイワンの心臓を!」

 ヒューゲルはまた過呼吸になり、ブルブルと震えだした。スタークとカインは顔を見合わせた。

「ヌチアールだ。ヒューゲル、その男はどこに行った?」

「イワンになったんだ!イワンになって…こっちに水砲を撃って!また火砲を撃って校舎の方に…」

「カイン、行くぞ」

「待て、今、騎士団に連絡している、だから君たちも…」

「他の先生達は生徒を避難させるので手一杯です。ヌチアールを早く見つけないと」

 スタークはそう言って黒く焦げたイワンの遺体を見た。

「ハリス先生は先に彼を安全なところに連れて行ってください。

「…分かった。でも無茶はダメだ」

「わかりました。カイン!」

「ああ!」

 スタークとカインは校舎へと走り出した。


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