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奴隷の呪いと  作者:


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26. ヌチアール 2

 どんよりとした雲が街を覆い、乾いた風が枯れ葉を追い立てる。昼間だと言うのに、街は人通りが少ない。無残な殺人事件があれから二件続いた。

 新聞には魔物か魔獣の仕業だと書いてあり、人々は警戒して不要不急の場合は外に出ないようにしている。

 学校への登下校は馬車か、親が付き添い、子供達だけで出歩くのも禁止されている。

 そもそも、王都には城を中心に結界が張られているので、普通、魔物やまして魔獣など、入っては来れないはずだ。

 入ってくるとすれば、結界の破れかかった穴から侵入してくるか、結界を壊せるか、転移魔法の使える知能の高い魔物である。


 四人の被害者は男女二名ずつ、全員、心臓がなくなっていた。そしてそのうち一人は引退した元騎士だった。

 被害者はいずれも一人きりの時を狙われており、目撃情報は皆無だった。騎士団の捜査は難航しており、騎士団長のマリウスは頭を抱えていた。


「まさか、クレタ卿が殺されるとは…。四十を過ぎてたとは言え、火魔法の使い手で彼の右に出る者はいなかったと言うのに…」

 マリウスは元騎士団長のジェイドと通信のできる魔道具で連絡をとっていた。ティクルでも最近、頻繁に魔獣が出現したりしている。

「ジェイドさん、アリア嬢がヌチアールの仕業じゃないかと…。本当にそんな魔物、いるんですか?」

「…いないとは言い切れん。魔物の種類や特性なんて多種多様だ。心臓を食う魔物…か。ヌチアールなら厄介だな」

「もし本当に食った心臓の持ち主の力を得れるなら、三人の被害者は大した魔力量ではなかったようですが、なぜクレタ卿がその程度の魔物に殺られたのか…」

「現場に火魔法の痕跡はあったんだろ?」

「それが、なかったんです」

「…抵抗せずに死んだのか?」

「恐らく。死因は胸の切り傷。鋭い爪痕が残ってました」

「…三人の被害者の属性は?」

「属性と言えるほどの攻撃力はなく、一人は変化が出来るくらいで、あとは普通の…」

「変化の魔法…クレタは油断したのかもな。変化の魔法で知人に化けらたら油断する」

「なるほど…。ヌチアールはそんなに賢い魔物なんですか?」

「分からんが、どんどんと魔力や能力を吸収するうちに頭脳もレベルアップするのかもしれん。だとすると、かなり危険だ」

「クレタ卿だけじゃない、それまでに食われた人や魔獣の能力を持ってるとしたら…」

「一筋縄では倒せないぞ?」

「…ティクルも魔獣が出てるんですか?」

「ああ、最近多いな」

「…」

 本来ならジェイドに助っ人を頼みたいところだが、そうなるとティクルを守る者がいなくなる。

「あの三人の力を借りた方がいいかもな」

「三人って…まさかあの子達ですか? まだ子供ですよ?」

「ああ。アリアは私と一緒に魔獣討伐に何度も行ってる。カインの実力はお前が一番知ってるだろう。スタークもカラパイトで経験をかなり積んでるはずだ。カラパイトの国王から、騎士の称号を貰ったそうじゃないか」

「聞いてます。確かに、三人とも即戦力ではあるけど、どの程度危険なのかは計り知れない。もし何かあったら…」

「今の団長はお前だ。好きなようにすればいい。でももし、必要ならば、あの子達なら進んで力を貸すだろう」

「そうですね。そうならないよう早急に処理します」

 通信を切ったマリウスは大きくため息を吐いた。


「スタークはどう思う? ヌチアールの仕業だと思う?」

 カインは鉛筆を指でくるくると回しながら尋ねた。二時間目の授業は自習だ。例の殺人事件のせいで課外授業や、校外での魔法実習ができない。

「ああ、多分。おとぎ話の出どころを調べてみたんだ」

「え?」

「結構古い文献にも、ヌチアールのような特徴を持つ魔物がいたみたいだ。魔物は生き物とは違い、突然発生するだろ?」

「うん。瘴気や天候、あと星の動きとかで生まれるんだよね。授業で習った」

「ヌチアールがおとぎ話の域を出ないのは、その実態が見えないからだ。心臓を食べたらその食べられた獲物の能力を自分のものにする。多分、容姿もなんだ」

「牛を食べたら牛になるってこと?」

「牛になると言うより、牛にもなれる」

「それはズルいな」

「色んな地方でヌチアールらしき魔物は生まれ、ひどい話だと村一つ滅ぼしたと言う例もある。でも、実態を誰も知らない。なぜなら、化けたヌチアールの仕業なのか、純粋に魔物の仕業か、倒してみないと分からないからだ」

「そうか。アリアが言ってたよね。狼をみたいな魔物を倒したらヒルみたいな形になったって」

「アリアはたまたまそれを見たが、見落とせばただの魔物の消滅だ」

「確かに。…となると、今ヌチアールは人の姿をしてるんだよね?」

「ああ。もし被害者の顔をしているなら知り合いが見れば分かる。でも殺されたブルニさんの変化の魔法を使えば…」

「昨日の被害者は元騎士の人だったって。火魔法の使い手ですごく強かったって。騎士団の騎士でも勝てるかどうかって言ってたよ」

「それはヤバいな…。さらに強くなる前に倒さないと」

「でも、目撃情報もないし…」

「!」

 スタークは突然気付いたようにカインを見た。

「どうしたの?」

「…もし、カインがヌチアールなら次はどうする?」

「そりゃ…魔力の高いものを食べてどんどん強くなる」

「食べた分だけ、増えていくんだ…属性が」

「うん」

「沢山の魔法属性が集まる場所、どこだと思う?」

「もしかして…騎士団?」

 カインは心配そうにスタークを見た。スタークは立ちがり、首を横に振る。

「俺がもしヌチアールなら…ここに来る。沢山の属性が集まる魔法学校に」

「!?」

「先生達に伝えなきゃ…」

 二人は慌てて教室を出て行った。

 

 






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