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奴隷の呪いと  作者:


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25. ヌチアール 1

 王都の冬は雪が積もらない。乾いた風は冷たく、気温は低いがチラホラと雪が舞い散ることはあっても積もることは滅多にない。


「じゃあ、二人とも、雪合戦や雪ソリで遊んだことないの?」

 早朝、ジョギングをしながらアリアはスタークとカインに尋ねた。

「寒そうだね、雪合戦なんて。雪をぶつけ合うんだろ?」

「それが、夢中になってるから寒くないの。まぁ、今走ってるから寒くないでしょ?それと同じよ」

 

 朝の六時半頃でも冬はまだ朝日が昇らず、薄暗い。白い息を吐きながら走り、三人が街の大きな時計台の角を曲がった時、足を止めた。

「騎士団の人達だ…どうしたんだろう」

 騎士団の騎士が五人、集まっている。三人はゆっくりと近付いた。

「おはようございます、マリウス団長。朝からどうし…!?」

 騎士達が囲んでいたのは遺体だった。生きてるか分からないと言うレベルではなく、はっきりと遺体だと分かるくらいの。

「カイン? 何でこんなとこに…」

 マリウスはカインの後ろにいるアリアとスタークを見て、いつもカインが騎士団の朝稽古の前に走っていることを思い出した。

 遺体は女性で、派手な服装をしていた。血まみれになった身体は腹が獣に食いちぎられたように破れ、内臓が散乱していた。

 カインは思わず吐きそうになり、アリアとスタークは遺体を見て顔をしかめた。

「アリア、見ないほうが良い」

「…大丈夫。お祖父様と何度か魔物討伐で魔物に殺された人を見たことあるから。…こんなにひどくはなかったけど」

 その言葉でマリウスはアリアがあの時、ジェイドが助けた娘だと認識した。

「あ…」

 マリウスと目が合ったアリアは頭を下げた。

「初めまして…カインの妹のアリアです。兄がいつもお世話になっています」

「あ、ああ、マリウスだ。ジェイド団長からは話は聞いてるよ。初めまして、ではないんだが…」

 そう言いかけたが飲み込んだ。七年前、会っているが、あの時、アリアはジェイドの腕に抱かれ、意識がなかった。覚えているわけがない。それに、お互い、思い出したくない出会いだ。

「…ああ、君がステイサム公爵の…」

「スタークです」

「カインからも、ジェイド団長からも君の噂は聞いてる。カラパイトに留学し、名を上げたことも」

 マリウスの言葉にカインとアリアは顔を見合わせた。カラパイト留学でスタークが名を上げたことなど聞いてない。

「…魔獣の仕業ですか?こんな王都の真ん中で…」

 カインが尋ねる。

「まだ分からんが…おそらくな。新聞配達の爺さんがさっき見つけて通報してきた。悲鳴が聞こえて、駆けつけた時にはもうこの姿だったと」

「この女性は誰なんですか?」

「この先のニコラと言う酒場のブルニーとう店員だ。ブルニーは変化の魔法が得意でよくその酒場で毎日違う女性に化けては客を楽しませてたらしい」

「変化の魔法って?」

 アリアはスタークを見る。

「顔を変えれるんだ。長い時間は無理らしいけど。結構、特異な魔法だ」

「三日前にも町外れの川のほとりで同じように無残な男の遺体が見つかったんだ。その遺体には心臓がなかったんだ」

 マリウスの話を聞きながら、アリアは女性の遺体をじっと見つめ、左胸の損傷が激しいことに気付く。

「…心臓を食べる魔物…」

 アリアがボソッと呟いた。スタークはハッとして左胸を見る。確かに、他の臓器は残っているが、心臓だけがない。

「ヌチアール…?」

 スタークがアリアを見る。アリアは真剣な顔で頷いた。

「かもしれない」

 マリウスはアリアとスタークの会話に怪訝そうな顔をした。

「ヌチアールってなんだ?」

「…おとぎ話に出てくる魔物です。親が言うことを聞かない子どもに、いい子じゃないとヌチアールがお前の心臓を食べてしまうぞって言ってきかせるんです」

 アリアの説明にマリウスはフッと笑う。

「いや…おとぎ話だろ?」

「ヌチアールは最初は虫くらいの大きさなんです。生きたまま獲物の心臓を食べると、食べた獲物の魔力や能力が得れる」

「じゃあ、なんだ? そのヌチアールが変化の魔法を身に付けたって? バカバカしい。そんな小さな虫が人間を食い散らかすか?それに、おとぎ話だろ?」

 他の騎士達がそう言って笑う。

「私がお祖父様と町外れに現れた魔獣を討伐に行った時、その魔獣は狼のような魔獣でした。でも倒したら、身体が溶けてこのくらいのヒルみたいな死体に変わったんです」

 アリアは指で一〇センチくらいの幅を作って見せた。

「ハハ…でもどうやってヒルみたいなヤツが狼のような魔獣を倒せるんだよ?」

 騎士達はアリア達の話を小馬鹿にしている。

「話の中でヌチアールは初めに死にかけた野犬の心臓を、食べるんです。そして野犬の牙と力を手に入れ、次は魔獣を襲う。小さな魔獣の魔力を得て、次は中くらいの魔獣、そしてやがて魔力のある人間を襲う」

 スタークの説明にマリウスはゴクリとツバを飲み込んだ。

「ヌチアールは最後勇者に倒されますが、おとぎ話はすべてが作り話とは限らない」

 スタークの説明は妙に説得力がある。

「実際、祖父とアリアが見てるなら…」

「分かった、参考にする。カイン、今日の朝稽古は中止だ。何かあったら困る。三人ともすぐに家に帰ってくれ。護衛を…」

「護衛はいりませんよ。スタークもアリアも強いから」

 カインの言葉にマリウスは「そうだな」と呟き、頷いた。

「気を付けて帰ってくれ」

「では失礼します」

頭を下げ 三人は現場を離れた。



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