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奴隷の呪いと  作者:


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24/79

24. ダンス

 パーティーも終盤に入り、ダンスの時間が迫って来た。アリアをダンスに誘おうとチラチラとこちらを伺っている者が何人もいる。何人かは親を通じて申し込んで来た者もいるが、ユルゲイが上手に断っていた。


 スタークもまた、ギラついた貴族令嬢たちのターゲットになっていた。魔法学校に通っていない者は婚約の噂など知らない。

 誘われないよう、スタークは少しの間、その場を離れようと会場を出ようとした時だった。

「スタークお兄様、ファーストダンス、お願いできるかしら。ピエール兄様は婚約者のティアナ様と踊るからって…」

 メアリー第二王女がスタークの腕にしがみついて来た。白い高級そうなレースを重ねたドレスは美しく、ピエールと同じ赤髪は下ろしている。

 一つ下の従兄弟にあたるメアリーは小さい頃からスタークに好意がある。スタークが登城するとよく顔を見に来ていた。

 やたらと胸を腕に押し付けるようにしがみつかれ、スタークはわざとハンカチを落とし、拾うしぐさをしてその腕を外した。

「ああ、悪い。ファーストダンスはお祖母様と約束してるんだ。君は今日デビュタントだろう? 従兄弟ではなく、ラジール陛下にお願いしてみては?」

「お父様に…?」

「ああ。デビュタントのファーストダンスは一番大事な人と踊るべきだよ」

「じゃあ…次の曲は?」

「すまない、今日は全て埋まっているから。それに、きっとファーストダンスが終われば沢山申し込まれるさ。今日は陛下の次にメアリーが主役だから」

 スタークはそう言って一度会場を出た。

「モテる男はつらいな? 令嬢達が追いかけてきてるぞ?」

 からかうようにジェイドが声をかけて来た。

「ジェイドさん。…アリアにラストダンスを申し込んでもいいですか?」

 突然の申し出にジェイドは少し驚く。当然、アリアと約束しているもので、わざわざ自分に了承をとるとは思っていなかったからだ。

「ああ…まだ申し込んでなかったのか?」

「エンタングルメントが心配で」

「エンタングルメントは最近起こしてないんだろ?」

「あれ以来、お互いに触れてません。ただ、今日はアリアにグローブを貰ったので。これ、アカジャイルの木の皮の繊維が織り込まれてて、魔力が無効化されるんです。アリアはそれを知らずにくれたみたいですが」

「すごいな、それ。じゃあアリアは君と初めて手をつなぐのか?」

「断られなければ」

「断られる気などないくせに?」

 ジェイドの言葉にスタークは苦笑する。

「わかりませんよ、ハルク侯爵家の女性は皆魅力的ですが、とても奇想天外なので」

「ああ…確かに。健闘を祈るよ」

 ジェイドはそう言って先に会場に入って行った。


「どう? お祖父様。私のダンス、なかなかでしょ?」

 三曲目、アリアはジェイドと踊りながらそう尋ねた。

「ああ。カインと練習したのか?」

「私がお兄様を練習させてあげたのよ。だってお兄様、リズム感がないんですもの」

「それは良かったな。まさかカインがあんなに人気があるなんて」

 今、カインは違う令嬢と踊っている。アリアと踊り終えた後、令嬢達がカインに群がって来た。戸惑いながらもカインは順番に踊っている。

「最近の令嬢達は積極的だな。お前は誰か踊りたい相手はいないのか?」

「いないわ。それに、ラスタの守護竜の後にダンスを申し込める人なんているのかしら」

 アリアはニヤリと笑う。

__あぁ、なるほど。だから私が三番目なのか。相変わらず賢いな。

「私をダシに使ったな?」

「フフ」

 ジェイドとアリアの踊りは素晴らしく、仲睦まじい姿に称賛の拍手を浴びた。踊り終えた後、ジェイドはアリアをバルコニーに誘った。中の音楽が遠ざかり、白っぽい月が庭を照らしている。

「風が気持ちいいわ」

 月明かりを浴びて風を仰ぐアリアを見て、ジェイドは微笑んだ。

「大きくなったな。こんなに小さかったんだぞ?」

 ジェイドはそう言って五歳の頃のアリアの背丈を手で指してみた。

「どうして騎士になりたいんだ?」

「何?今さら?」

「ああ。お前くらい美しければ、違う道もあるなと思って」

「出た、孫バカ。お祖父様、私、お祖父様とお祖母様のおかげで幸せだわ。小さい頃から自由に育ててくれたし、魔法や剣を教えてくれた。感謝してるの。幸せをくれたお祖父様やお祖母様、お父様に、お母様、お兄様、そしてこの国にも。だから、騎士になって守りたいの」

「…そうか」

 ジェイドはそう言って安心したように頷いた。バルコニーのガラス戸が開き、スタークが出て来た。

「あ、スターク」

「ここにいるってピアナさんが教えてくれた」

「じゃあ、私は中に入ろうかな。ピアナがそろそろ退屈する頃だ」

 ジェイドはそう言ってスタークに親指を立てた。

「ありがとうございます」

 月明かりに照らされ、髪を飾るバラの花弁が淡く白く透き通っている。

「ふぅ、疲れちゃった。お兄様はまだ踊ってた?」

「ああ。さっき足踏まれたみたいだったけど」

「私が特訓してあげたのよ」

 得意げに笑うアリアを見て、スタークは微笑んだ。

「いつも綺麗だけど、今日は一段と綺麗だね」

「…そう言うとこよ、スターク。さらっと言っちゃうから令嬢達に付きまとわれちゃうの。皆勘違いしちゃうわ」

「別に皆に言ってるわけじゃない」

「ま、私は勘違いしないけど」

「バラの花、どうしてしおれないんだ?」

「真空で水分を抜いたの。見た目は変わらないけど、ずっと綺麗なままよ」

「すごいな」

「私、男の人に花束を貰ったのは初めてなんだ。とても嬉しいものなのね」

「このバラ、セリノーフォスって言う名前なんだ」

「きれいな名前ね。どう言う意味?」

 スタークは指で月を指し、微笑んだ。

「月光。君にぴったりだ」

 そんな事を言われ、照れないわけがない。アリアは少し顔を赤くした。

 ラストダンスを合図する鐘が鳴った。

 スタークは片膝をつき、右手をアリアに差し出した。

「え、何?」

「アリア、ダンスを踊ってくれませんか?」

 スタークの手にはグローブがはめられている。

「え?? 本気?」

「うん。ずっと踊りたかった、アリアと」

「でも…」

 こんな薄いグローブ一枚ではエンタングルメントを起こしてしまう。アリアは戸惑っている。

「大丈夫だよ。アカジャイルのグローブだから」

「!?」

 アリアはキャロラインの言葉を思い出した。

__そう言うことだったのね

「喜んで」

 アリアはそう言ったものの、恐る恐るまずは人差し指でスタークの掌をチョンと触ってみた。何も起きない。指を二本にしてみる。何も起きない、と思った時、スタークが我慢しきれず、ガシッとアリアの手を掴んだ。

「!」

 想像してたよりアリアの手は柔らかく、スタークの手はゴツゴツしていた。何も起きない代わりに、グローブ越しに互いの体温を感じる。背中がブルってするほどスタークの胸は一杯になった。

「ほんと…すごいわ」

「さあ、行くよ。それとも、たった三曲踊っただけで疲れた?」

 スタークの意地悪そうな笑顔の挑発にアリアも笑う。

「誰に言ってるの?ダンスでは負けないわ」

 いつもの勝ち気なアリアにスタークは手を繋いだまま会場に入った。

 

 曲が始まると二人は注目を浴びながら踊り始めた。

 思ってた以上に華奢なアリアの身体を支え、スタークの心臓はバクバクと飛び出そうだった。アリアから薫るバラと甘い香り、その香りに当てられそうになるのをぐっとこらえ、いつもの笑顔を見せた。

 アリアもいつもより硬い感じがする。足元を気にしてなかなか目が合わない。

「緊張してる?」

 スタークは意外にがっしりと左手をアリアの腰にまわし、右手はアリアの手を握っている。アリアはその体温を少し意識しすぎてドキドキしている。それを悟られないように強がってみた。

「してないわ」

 カイン達と踊ったのに、スタークだと距離が妙に近く感じる。スタークから微かに薫る香水の香りはスーッとして、大人っぽくかんじた。いつもはできるのに、少し恥ずかしくて顔が見れない。

 

 カインが貴族令嬢と踊りながらもアリア達をチラチラ見すぎて気が気でない。

 ピエール王子ももメアリー王女も悔しそうに、物欲しそうに二人を見つめ、イライラしていた。


「俺はしてるよ、緊張」

「え? スタークが?」

 アリアはスタークの顔を見上げた。こんなに背が高くなったのかとふと思う。スタークの余裕のある笑みに少し悔しくなる。

「ああ、アリアが緊張しすぎて重力魔法で自分の身体を重たくしたらどうしようかと思って。足を踏まれたら大変だ」

「プッ、ひどいわ」

 アリアは緊張が吹っ飛び、にこやかに踊り出した。

 二人の美しいダンスに会場は様々な感情で見守っていた。


 



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