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奴隷の呪いと  作者:


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22. ラジール国王

 正午、王都民への一般参賀を終えたラジール国王は街を見渡せるバルコニーから街を見下ろしていた。

 ラジールは当時十七歳で、父である前国王が突然崩御し、王位は第一王子である兄が継ぐと思っていた。戴冠式を終えた二十一歳だった新国王は国民達にお披露目する参賀の場に立った。

 王都には珍しく霧が発生し、広場を包んだ。王宮とその周辺を守る結界を破り、魔竜と呼ばれる黒い翼竜が何匹も低い位置で飛び、人々は恐れおののいた。

 嫌な予感がし、十メートル先の兄の側に駆けつけた時、霧の中、魔竜から飛び降りた人間らしき人影が兄の首をはねた。自分の足元に転がった王冠と兄の首に動けなかった。

 霧の中から現れた人影が自分に近付いた。明らかに何かに取り憑かれた青白い顔の刺客は自分と同じくらいのまだ若い男だった。霧の中、その男が剣を振り上げた時、死を覚悟した。

「…死ぬ覚悟はいらない。ラジール!生きる覚悟を持て!」

 そう言って自分の前に立ちはだかり、剣でその刺客を跳ね返したのは、ジェイド・アレース・ハルクだった。

 ジェイドとは五年、騎士訓練学校で同級だった。平民出身のジェイドは、つまらない貴族仲間や兄弟達とは違い、豪傑で面白い男だった。魔力は高く、剣の腕も凄かった。座学の授業はよくサボって二人で釣りや狩りをした。

 二人はまだ騎士団に入団してまだ二ヶ月だった。

「剣をとれ!国民を守れ!」

 ジェイドの言葉で目が覚めた。いつの間にか剣を持ち、国民を襲って来る魔物と戦っていた。魔物を倒しきった後、血まみれになりながらもジェイドは笑って、歪んだ王冠を手に持ち、差し出した。

「落ちてたぞ、お前のだろ?」

 それを受け取った時、ジェイドは膝をついて頭を下げた。

「ラジール国王に忠誠を誓います。この事態を引き起こしたナスディ王国への報復と制圧を指示して下さい」

 ラスタ王国の被害は甚大だった。ジェイドは騎士団を率いて敵対するナスディ王国を攻め入り、降伏させるのに三日もいらなかった。


「陛下、そろそろ準備をされないと、祝賀会の前にカラパイトとサラヤ国の大使が謁見に参ります」

「ああ、分かった」

 ラジールは中に入ると部屋に飾ってある歪んだ金の王冠を手にした。あれから四十年、何度か魔物の襲来や敵対国との戦争はあったが、ラスタ王国は大陸の中で一番豊かで平和な国と言われている。

 即位してがむしゃらに国を建て直した。結婚も遅くなり、二十五歳の時、一人目の后との間に第一王子が生まれた。三人の后との間に六人の子供がいる。

 第一王子のライオネル王太子(三二歳)は優秀だ。他国に留学し、その知識を持ち帰り、地方分権のシステムを確立させた。魔力量は王族にしては少ないが、性格は穏やかで、いずれ国王になるだけの人望もある。

 第一王女ミサ(二八才)は外交が得意で、国交のあるサラヤ国の王子に嫁いだ。今日は里帰りしている。

 第二王子のオニキス(二十歳)は戦いに精通していて国の軍事をいずれは任せるつもりだ。

 第三王子、リネル(十八歳)は商才があり、国の産業を発展させるための事業を始めている。

 第三后妃ステラとの間に生まれた第四王子のピエール(十四歳)と第二王女のメアリー(十三歳)の二人がまだ成人しておらず、今日の祝賀会が初めてのデビュタントになる。

 隣国のバデリ国から娶ったステラ后妃は、浪費家でわがままな性格の為、ピエール王子とメアリー王女も然り、上の王子達とは毛並みが違う。

「そのドレスは嫌だと言ったはずよ! もっと胸元が空いてるのを用意してって言ったでしょ! こんなのやぼったくて着れないわ!」 

 メアリーの声が廊下にまで響き渡る。メイド達が慌てふためき、王女のわがままに翻弄されている。そもそもドレスは最高級のもので、バデリ国王から孫のメアリーに贈られたものだ。

 ラジールはまたか、とため息を吐き、メイド長に言った。

「私がそのドレスを着ろと言ったと言ってくれ」

「おそれいります」

 メイド長はラジールに頭を下げ、再びメアリーの部屋に入り、説得していた。

「父上、祝賀会に出席するコーネリア辺境伯について先に伝えたいことがあります」

 ライオネル王太子が打ち合わせをするため、声をかけてきた。メアリーの部屋から聞こえる罵声に「またか」と言う表情で一瞥し、資料をラジールに渡した。

「数ヶ月前からコーネリア辺境伯領で魔物の数が異様に増え、討伐したと報告がありました。今日は祝事の場なので辺境伯からはその話題は避けられると思いますが、後日詳しく聞いたほうがいいかと思います」

 ラジールは歩きながら資料に目を通す。

「わかった。他は?」

「オニキスから正午の参賀の前に王宮の東門の外で小さな爆発があったと報告がありました。犯人は捕まえてます。結界は破られてはないので予定変更はありません」

「分かった。今からカラパイトとサラヤの大使が謁見に来る。お前も立ち会え」

「わかりました」


 今日の祝賀会にはジェイドが来る。ティクルで生活しているジェイドとは二年に一回会えるかどうかだ。お互い、ラスタ王国の為に走り抜け、あっと言う間に四十年になる。ジェイドが育てた魔力量の高い養孫とも初めて会える。楽しみだ。

 

 


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