21. グローブ
四人はお祭りムードの街を歩き、露店で串焼きを買って食べたり、見たことのない外国の食べ物を食べたりした。
街のあちこちで大道芸が披露されたり、楽器で演奏する音楽に合わせて人々が踊っている。
「アリア、気を付けて」
スタークがすれ違う人とぶつかりそうになるのを気にかける。本来なら手を差し伸べたいが、それができなくてもどかしい。
「お祭りは楽しいけど、スリや輩もいるから気を付けなきゃね」
「カインが一番心配だよ。財布とか落としそうだ」
「言えてるわ」
「ひどいなぁ。あ、アリア、あそこにお祖母様の好きなジャムの店があるんだ。お土産に買って帰ろう!」
「いいわね」
カインがアリアの手を取るとキャロラインは二人に言った。
「私とスターク様はここで待ってるわ」
アリアとカインが店に入って行くのを見て、キャロラインはスタークを見る。
「もらいたました?」
「ああ。キャロラインが用意してくれたって。ありがとう。あれはどこのシルク?」
「シルクはニール地方の物です。でも、秘密があるんです」
「アリアも言ってた。魔道具には見えなかったけど。魔力が出てなかったから」
「刺繍はどうでした?」
スタークは懐から先ほど貰ったグローブを出し、キャロラインに見せた。
「…何ですか?この刺繍…」
キャロラインの頭にハテナが付く。
「アカジャイルの木剣を刺繍してくれたんだ。」
スタークは抑えているつもりだろうが、嬉しい気持ちが溢れ出てしまう。
「! アリア、気付いたのかしら」
「何を?」
キャロラインはニコリと笑う。
「今日はスターク様もアリアも王城に行かれるんですよね?」
「ああ、夜の祝賀パーティーに」
「スターク様、私に感謝して下さい」
「?」
「このグローブを付けてアリアとダンスを踊って下さい」
キャロラインは意味深に笑った。
「いや、ダンスは…」
そう言いかけてスタークはハッとしてキャロラインを見た。
「これ、もしかして…」
「結構時間かかったんですよ。アカジャイルの木の皮を織り込んでるんです」
キャロラインは得意げに続けた。
「ちゃんと実証済みです。そのグローブに魔法は効きません。さすがに砲火や物凄い攻撃魔法には耐えれないかもしれないけど、にじみ出る魔力を、無効化します。」
キャロラインの言葉にスタークは驚いて固まっている。
「試してみてください」
「だ、大丈夫かな?」
「ええ」
スタークは指先から雷の魔法でグローブに放電した。『ジジジ…』と言う音と共にパチパチと小さな雷の火花が出るがグローブに吸収されていく。
「…すごい」
グローブは焦げてもいない。スタークは大事そうにグローブをチェックするが、繊維一つ乱れてもいない。
「魔法は無効化しますが、普通の火に入れたら燃えるし、水にも濡れます」
「…ありがとう、キャロライン。どうして…」
「カイン様から聞きました。エンタン…なんとかって言う現象のせいでアリアとスターク様はお互いを触れないって。素手では無理だけど、これがあれば手を繋げるでしょう?」
「…めちゃくちゃ感謝してる。僕はキャロラインに何を返せばいい?」
「心配いらないですわ。私、こう見えて投資家なんですわよ。未来のキャロライン商会に貢献していただくんですから、貸し一つと言う事で」
キャロラインの笑顔にスタークは微笑み、グローブを大事そうに懐にしまった。
「君はいい投資家だね。きっとその貸しは何倍にもなって回収できるよ」
「ええ、期待してますわ」




