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奴隷の呪いと  作者:


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19. 刺繍

 十月、王都の街は祭りの準備で例年よりもはるかに騒いでいた。ラスタ王国の建国祭と現国王のラジール国王の即位四十年の祝事が重なるからだ。建国祭は別名バラ祭りと呼ばれ、街にはラスタ王国の赤い国旗とバラの花があちこちに掲げられる。街はバラの香りに包まれ、他国からの観光客で宿はどこも満杯になった。

 バラ祭りでは昔からの風習で女性は男性にハンカチやシャツ、手袋などに刺繍を施してプレゼントし、男性はバラの花を贈る。貴族女子の嗜みとして刺繍は必須で、魔法学校でも男子生徒が剣術を習う時間、女子生徒は刺繍の練習をする。


 アリアは一ヶ月前にそのことをヴィオラから聞かされ、焦ってキャロラインに相談した。

「あら、知らなかったの? その様子じゃ、刺繍、苦手なんでしょ?」

 放課後、キャロラインのカフェで二人はお茶をしていた。カインとスタークは学年が違うので授業があり、今日は帰りが遅い。

「なんで分かるの?」

「あなたって、クラスじゃ完璧な淑女を演じてるけど、私の前じゃまるで少年のようだもの」

「女ですらないの?」

「でも私はそんなアリアを気に入ってるわ。こないだ剣術の授業をチラッと見たけど、クラスの誰よりもあなたが一番カッコよかったわ」

 キャロラインはそう言って紅茶を飲む。

「どうしよう、一ヶ月しかないのよ? お母様はワンポイントの刺繍なら二時間もあればできるわよって言われたけど、お兄様とお父様、お祖父様、あとスタークにも作らないと」

「たったの四枚じゃない。私なんて男兄弟だけで四枚よ。一応義理でお父様にもあげるけど、簡単な刺繍にするわ」

「はぁ…いつか刺繍をする魔道具を作ってほしいわ」

「…そのアイデア、もらったわ」

 キャロラインは目を輝かせた。

「ティクルにいた時、一応、お祖母様に刺繍も習ったのよ。一番簡単なイチゴ。でもイチゴの赤か、私の血の赤か分からなくなったわ」

「お、恐ろしいわね」

「お母様がキャロラインなら上質な絹のハンカチを取り寄せれるって言ってたわ。お母様と私の分を用意してもらえるかしら? 全部で十枚」

「ありがとう、任せて。あ…それと。スターク様のは一番最後に刺繍してくれないかしら」

「 最後にしてもそんなに上達しないわよ?」

「違うの。今、アリアの為にとっておきの物を作らせてるの。それに刺繍をして欲しいの」

「? とっておきの物なら、私が刺繍したら価値が下がるわよ?」

「あと二週間で出来上がるから、せいぜい練習しときなさい。スターク様イチゴ好きだから、イチゴでいいんじゃない?」

 意地悪そうにキャロラインが笑うとアリアも笑った。


 二週間後、キャロラインは高級そうな箱に入った手袋をアリアに見せた。

「ナニコレ…」

 予想外の商品にアリアは驚く。手袋は絹の様に光沢があるが、色は白ではなく、少し濃いベージュだ。

「白に近づけようとしたけど、これが限界だったわ」

「白くないけど、これはこれで渋くて素敵だわ。絹じゃないの?」

「うん。絹に違うものを織り込んでいるのよ。まだ教えてあげないけど、秘密があるの」

「魔道具?」

「魔道具…にはならないのかな。気に入らない?」

「いえ、むしろ素敵だわ、スタークに似合うけど、刺繍が…これを台無しにしちゃうわ」

「カイン様達に上げるのはもうできたの?」

「ええ。お兄様はチョコレートが好きだからチョコレートの刺繍。お父様はクッキー。お祖父様のが一番難しかったわ。ハチミツ」

 予想外の刺繍のモチーフにキャロラインは紅茶を吹き出しそうになった。

「ど、どれも斬新ね。どれもシミに見えちゃいそうだけど。」

「そう、だからハチミツはハチも付けたの。そしたらハチの方が大きくなってしまって」

「どうせあなたの家族だからすごく褒めてくれるんでしょうね」

「そうなのよ、恥ずかしいくらいに。だから、スタークのはキャロライン、お願い! あなたがしてくれない?」

「ダ〜メ。それじゃ意味がないわよ」

「だって、自信ないわ、こんなに素敵なグローブに刺繍だなんて」

「心配いらないわ、スターク様ならどんなのでも喜ぶわよ」

「はぁ…変な風習よね。でも、ありがとう、お代はいくら?」

「もうもらったわ」

「あれはハンカチのでしょ?」

「これは私からのあなたへのプレゼント」

「でもこれ、スタークにあげるのに?」

「そのうちあなたに返ってくるわ。私、スターク様に感謝されちゃうだろうなぁ。これも未来への投資よ」

 キャロラインはそう言って満足気に笑った。




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