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奴隷の呪いと  作者:


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15/73

15. 土産

 馬車がハルク邸に着くとメイドのベルと執事長のトーマスが出迎えた。

「お帰りなさいませ、随分と早いお帰りですね。カイン坊っちゃんも先ほど帰って来たのにアリアお嬢様の心配ばかりしてましたよ。足元に気を付けて…!」

 トーマスは馬車から降りるアリアの手を取り、馬車の中にいるスタークにギョッとした。アリアはトーマスとベルに声をあげないよう人差し指を唇に当てた。

「! まさか、スタークお坊ちゃまですか!?」

 馬車を降りてきたイケメンが一瞬誰だか分からなかったベルは顔をマジマジと見つめ、ハッと驚いたが小さな声で叫んだ。

「久しぶり、ベル、トーマス」 

「いらっしゃいませ、いえ、お帰りなさいですね。スターク様。随分と背が伸びましたね」

 トーマスは微笑み、頭を下げた。

「あと少しでトーマスを追い越せるかな?」

「あっという間に越されてしまうんでしょうね」

「はぁ…、さらにイケメンになられて。私はお嬢様がどこの王子様を拾ってきたのかと思いましたよ。カインお坊ちゃまとヴィオラ様もいますよ、どうぞこちらに」

「フフ、お兄様をびっくりさせようと思って。」

「そりゃ喜びますよ。今二人とも、リビングにいますよ」


「ただいま、帰って来ちゃった」

 アリアはドアの外にスタークを待たせ、一人先に入る。

「あら、おかえりなさい」

 ヴィオラとカインはソファに座り、お茶を飲んでいた。

「アリア、お帰り。早かったんだね、僕もちょっと前に帰ってきたんだけど、無事だった?」

「ええ。無事に美味しいケーキは食べたわ。それよりお兄様、お土産があるの」

「お土産? ケーキかな?」

 カインの言葉にアリアはクスッと笑い、ドアを開けた。

「ケーキの方が良かったかしら。どうぞ、入って」

 スタークが部屋に入るとカインは固まった。

「え? スターク!?」

 ヴィオラの反応でカインは我に帰り、次の瞬間、スタークに飛びついていた。

「スターク!」

 抱きついて嬉しそうなカインの変わらない笑顔にスタークは笑顔で答える。

「ただいま、カイン」

「おかえり!いつ帰って来たんだ?」

「今朝王都に着いた。乗り合い馬車が王城の直ぐ側で停まったから、先にラジール陛下に帰国の報告をしてきたんだ」

「随分背が高くなったのね。カインより10センチは高いわ。声も低くなったし…私も年取るはずだわ」

「ヴィオラさんは変わりなく美しいですよ」

「まぁ、相変わらず上手ね。さぁ、座って色々聞かせてちょうだい」

 ベルが紅茶とクッキーを運んでくる。スタークがベルに「ありがとう」と礼を言う。

「あれ、そう言えばお兄様、スタークが全然帰って来ないし手紙もないって怒ってなかったかしら」

 アリアが意地悪そうに笑ってそう言うとカインは思い出したようにスタークを見た。

「あ…そう言えばそうだった。帰って来たのは一回、手紙も最初だけで僕が送っても返事がなかった。心配したんだぞ?」

「悪かった。何度も帰ったらカラパイトに戻りたくなくなるし、手紙を書くたびにラスタに帰りたくなるから書かなかったんだ。君が怒るかなと思ったけど、カインなら許してくれると思って」

 申し訳なさそうにはにかむスタークの顔にカインは微笑む。

「ま、怒ってたけど君の顔見たら忘れちゃったよ。アリアとはどこで一緒になったの?」

「陛下に挨拶して帰ろうとしてたら…」

 スタークは言って良いものかためらい、アリアを見る。

「ピエール王子が庭を案内するって言ったから、逃げようと思って自分でドレスにお茶をこぼして帰ろうとしてたの。そしたら運悪くピエール王子に捕まっちゃって。もう、しつこいんだもん、やたら顔近づけて来たから、もう少しで魔法で気絶させちゃうとこだったわ」

 アリアの話にヴィオラとカインの顔色が変わる。

「大丈夫よ、その前にスタークが助けてくれたの」

「そうじゃなくて、ピエール王子になんて言われたの?」

「ん。失礼なこと言ってたわ。多分冗談だろうけど。誤解されるから離れてくださいって言ったら、婚約者候補にすれば問題ないとか、正妻は無理でも妾にしてやるとか」

「!」

 カインは立ち上がり、見たことのない顔で怒っている。

「抗議してくる!」

「え? お兄様?」

「冗談じゃない!あいつ、学校でも女癖が悪いんだ。自分が言い寄れば喜ぶって思ってる。アリアにそれをするなんて!」

「冗談でからかっただけだと思うわ」

 あっけらかんとするアリアに対し、カインもヴィオラも、そしてスタークさえも難しい表情をしている。

「…カイン落ち着いて。あなたがアリアを心配なのは分かるけど、下手に動いたらダメよ。はぁ…まだ王都に来て半月よ?…もう目に留まるなんて」

 ヴィオラはそう言ってため息をつき、アリアを見た。

「アリア、あなたはピエール王子のことどう思う? 正直に話していいわ」

 アリアはテーブルにあったクッキーを手に取り、じっと見つめ、口を開いた。

「うーん…好きじゃないわ。学校でも、『身分で差別したらダメだよ、この学校では王族も平民も関係ない。皆平等な生徒だ』なんて言ってたけど、全然平等じゃないわ。お茶会だってほぼ強制参加だったし。さっきは私に下賤の血が流れていようと構わないって言ったのよ」

「なんですって!?」

「あ…と。心配しないで、私、気にしてないから」

 アリアはそう言って苦笑いする。アリアの本当の血筋はジェイドからヴィオラとユルゲイだけは聞かされている。アリアは自分の本当の出自をヴィオラ達が知らないと思っている。

「心配いらないわ、アリア。万が一、婚約の話が来ても断わるから」

「そうだよ。アリアは僕が守るから。とにかく、ピエール王子には近寄らいようにしよう」

「分かったわ。…そんなことより」

 アリアはクッキーをパクっと一口で食べニヤリと笑った。

「スターク、手合わせお願いできるかしら?」

「え!? いやいや、僕が先だよ!毎朝、騎士団の朝稽古に行かせてもらってるんだ」

 カインが焦ってスタークを見た。

「私、ドレス、着替えてくるから、お兄様、先にスタークと手合わせしといていいわよ」

「もう、あなた達。スタークだってゆっくりしたいわよね? 王都に帰って来てまだ実家にも帰ってないんでしょ?」

 ヴィオラの呆れた顔にスタークは苦笑し、紅茶を飲み干した。

「大丈夫ですよ。アリアにこの屋敷に誘われた時点で覚悟してましたから」

「そうこなくちゃ。裏庭に行こう! アリア、先に行ってるからね」

「うん、すぐいくわ」

 アリアはお慌てて服を着替えに自分の部屋に向かった。




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