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奴隷の呪いと  作者:


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14. お茶会

 アリアとキャロラインは食堂で座る席を探していた。二人とも両手で昼食のスープとサラダとパン、チキンの載ったトレーを持っている。

「あの、ここ、座ってもよろしいですか?」

 キャロラインが二つ空いている席を見つけ、二年生の女子生徒に尋ねた。女子生徒はアリアの姿をチラッと見てムスッとした表情で空いてる席に荷物を置いた。

「ごめんなさい、ここ、人が来るの。他をあたりなさい」

 明らかな嘘だとわかる表情にキャロラインはムッとする。

「平民なんだから外でもいいんじゃない?」

 もう一人の女生徒が聞こえるように呟いた。

「こちらに来るといい。二つ席があるよ」

 後ろから声をかけられ、アリアとキャロラインは振り向いた。赤い髪の男子生徒が笑顔で立っている。

「ピエール様!」

 二年生の女子生徒はハッとしてピエール第四王子を見た。

「…身分で差別したらダメだよ。この学校では王族も平民も関係ない。皆平等な生徒だ」

 ピエールはそう言って赤い髪をかきあげ笑った。

「さあ、ここにどうぞ」

 ピエールに言われ、キャロラインとアリアは席に着いた。

「あ、ありがとうございます」

「ありがとうございます」

 緊張するキャロラインの様子に、アリアは赤い髪の上級生が身分が高い事を悟る。

「あ、あの…」

「ああ、僕はピエール。ピエール・ナルディアム・ラスタだ」

「あ…あの、キャロライン・マーキュリー・エルビスです」

「ああ、エルビス子爵令嬢だね。それと君は…」

「アリア・セレネ・ハルクです」

「ああ、やっぱりそうか。君の兄君のカインとは仲が良いんだ。カインにこんな美人の妹がいたなんて」

 ピエールはそう言ってアリアの右手を取り、手の甲にキスをした。

「…」

 アリアはなんとなく違和感を感じながらとりあえず微笑んだ。

「ピエール第四王子よ」

 キャロラインはアリアにこっそり教える。ピエールはアリアの斜め前に腰掛け、見つめてくる。ピエールの周りにいるケール公爵子息やビルリー伯爵子息もアリアをマジマジと見てくる。

「アリア嬢は今までハルク侯爵領にいたと聞いてる。どこにいたの?」

「ティクルです」

「ティクル…聞いたことないなぁ」

「小さな街ですから」

「初等魔法学校は行ってないのに、高等部にいきなり入学するなんて、君は優秀なんだね」

「そんなことはないです」

「そうだ、来週の日曜に王城で小さなティパーティーを開くんだ。二人とも来るといい」

「え!? あ、そんな恐れ多いです」

「遠慮しないでいい。ここの生徒たちも来るから、きっと馴染めるよ。あとで招待状を出させるよ」

 強引な誘いにアリアとキャロラインは苦笑した。

「さて、僕は行くよ。ごゆっくり」

 ピエールがそう言って立ち去るとアリアとキャロラインは大きなため息を吐いた。

「どうしましょう、王城でティパーティーなんて」

「面倒臭いから断りましょうよ」

 アリアはそう言ってスープを口に運ぶ。

「そう言うわけには行かないわ。こんなに目立つ場所で王族に誘われたんですもの」

 普通の貴族なら喜んで王城でのパーティーに行きたがるが、キャロラインも本音では断りたいようだ。

「そういうものかしら」

「ええ…。恥をかかせることになるもの」

「はぁ…平等ねぇ」

 アリアはそう呟いてパンを食べた。


 ティパーティー当日、アリアは薄紫色のドレスを身に纏い、髪の毛はアップしてシンプルに仕上げていた。初めてのお茶会の招きなのでヴィオラが張り切りたかったみたいだが、誘われたのが第四王子と言う事でカインもヴィオラも警戒し、少し地味なドレスを敢えて選んだつもりだった。

「はぁ…美しいって罪よね。本来なら少し地味なドレスが、アリアが着ると美しさを引き立たせてしまうなんて」

「本等に。傾国の美女ってお嬢様のことですわ。目に留まらないように華美な装飾を外したのに」

 ヴィオラとメイドのベルはそう言って鏡越しにアリアを見つめる。

「もう、褒めすぎ。お母様もベルも、身内びいきになってるだけよ」

 アリアは呆れてスコーンを頬張る。

「こんなドレスより、パンツの方が動きやすいのに。どうせティパーティーって言ってもバクバク食べちゃだめなんでしょ?マナーの先生が言ってたわ」

「わかってるじゃない。淑女は小鳥のように上品についばむのよ」

「アリアは小鳥じゃなくてどちらかと言えば鷹だからね。すごい、素敵じゃないか。アリアがこんな正装したところ、初めて見るよ」

 部屋に入って来たカインが目を大きくしてアリアを見る。

「おはよう、お兄様。わざわざ来てくれてありがとう。今日も騎士団での朝稽古あったんでしょ?」

「うん。アリアをエスコートするために僕もちょっと正装したよ」

「うん、まるで紳士みたい。ね、お母様」

「ほんと。二人とも素敵な紳士と淑女よ」

 「ちなみに、そんなドレスを着てスコーンを口いっぱいに頬張る淑女も初めて見るけど」

 カインは笑いながら自分もスコーンをパクっと食べる。

「それにしてもピエールの奴、アリアを誘って僕を誘わないなんて」

「第四王子はお兄様と仲が良いって言ってたわよ?」

「仲良かったことなんて今まで一度もないよ。絶対アリアに下心があるんだ。招待されてないけど本当なら僕も行ってアリアを守りたいけど、さすがに王城でのティパーティーはそれができない」

「大丈夫よ。キャロラインもいるし。顔出して挨拶したら帰ってくるつもり。よっぽど美味しいお菓子がない限り。」

「じゃあ、送るよ。おいで」

 カインはアリアに手を差し伸べた。


 王城の庭に着くとカインにエスコートされたアリアは一瞬にして注目の的となった。派手に着飾る令嬢達とは違い、シンプルにしたドレスが余計に目立つ。何よりも華やかなオーラに誰もが目を奪われた。

「アリア!」

 キャロラインが水色のドレスを着て駆け寄って来た。学校では派手なリボンをしているのでドレスも派手かと思いきや、意外に落ち着いたデザインのドレスだった。

「キャロライン、もう着いてたのね。紹介するわ」

「初めまして、アリアの兄のカインだ。妹がいつもお世話になってます」

 カインの優しい笑顔にキャロラインは顔を赤くして答える。

「あ、いえ、私こそ。キャロライン・マーキュリー・エルビスです」

「二人とも綺麗だから、くれぐれも気をつけてね。じゃあアリア、僕は帰るけど、馬車は待機させてるから、いつでも帰っていいからね」

「ありがとう、お兄様」

 カインが立ち去ると執事が二人を席に案内した。王城にあるバラの咲く庭にはテーブルと椅子がたくさん用意され、思っていたより大規模なティパーティーである。

「さすが、王族のティパーティーともなると規模が違うわね」

 キャロラインはそう言ってアリアを見た。

「素敵なドレスね。あなたは色が白いからとても似合ってるわ」

「キャロラインも。制服姿より大人っぽく見える」

 参加者は三十名くらいだろうか、それと同じくらいのメイドと執事がいる。殆どが魔法学校に通う貴族の子息令嬢みたいだが、きらびやかすぎて目がチカチカする。

「見て。あのお菓子、すごく美味しそう。ベリーがたくさん載ったケーキ。取りに行っていいのかしら」

 アリアは目をキラキラさせ、中央にあるスイーツの並べてあるテーブルを見てキャロラインにこっそり尋ねる。

「フフ…アリア、そんなにスイーツ好きだったなんて知らなかったわ。取りに行ってはダメよ。あのすみません」

 キャロラインは隣にいたメイドにアリアが欲しがっているケーキを持って来るように頼む。

「キャロラインが一緒でよかったわ。私一人だったら、あのテーブルに張り付いてそのまま食べちゃうところだったわ」

「こんなティパーティーでスイーツのことしか考えてないのはアリアだけよ」

「え?じゃあ皆は何を考えてるの?」

「こう言うお茶会はね、見定めてるのよ。要は婚約者選び」

「え?」

「アリアにはまだいないんでしょ? 婚約者」

「いるわけないわよ、まだ十二歳よ?」

「貴族ならもういてもおかしくない歳だわ。ま、私もいないけど」

 キャロラインはそう言って優雅に紅茶を飲む。所作はアリア同様、完璧だ。

「貴族令嬢は所詮政略結婚の道具みたいなものよ。だから着飾って少しでも位の高い子息の目に止まろうと必死なの」

「そんなものなのね」

「こう言う場では大人しくしとくのが利口よ。わざとドレスを汚されたり、恥をかかせたりする人もいるから」

「足を引っ掛けたり?」

 アリアはいたずらっぽく笑い、キャロラインをからかう。 

「そ。足を思いっきり蹴ったりね」

 二人は顔を見合わせて笑う。

「楽しんでるかい?」

 後ろから声をかけられ、その声に二人とも立ち上がった。

「お招き頂きありがとうございます、ピエール王子」

「ごきげんよう、ピエール王子」

 二人はドレスの裾を軽く上げ、カーテシー挨拶をした。二人ともその姿は美しく、馬鹿にしようと注目していた周りの令嬢達は目を逸らす。

「楽にしていいよ。二人ともとてもキレイだね。アリア嬢、そのケーキ、口に合うかな?」

「ええ、とても美味しいです。お茶も」

「西の国から取り寄せた茶葉だよ。そうだ、アリア嬢、君は王城は初めてだろう。あとで僕が案内してあげるよ」

「あ…いえ、ピエール王子は今日の主宰であられるのでお忙しいでしょうから」

「かまわないよ。では、後ほど」

 またも強引にそう言って去って行く背中を見てアリアはため息を吐いた。

「勘弁してよ」

「アリア、顔。顔に出てるわよ。ついでに声も」

 周りの令嬢からの視線も痛い。アリアに声をかけようと息巻いていた子息たちも、ピエールの態度を見て諦めた。

「ねぇ、キャロライン。さっきからすごい睨まれてる気がするんだけど」

「あー、気付いちゃった?」

 アリアから離れたテーブルに座った令嬢がこちらをすごい目で睨んでいる。ドレスも装飾も一目で見て高価なものだとわかる。

「ピエール王子の婚約者、ステナ公爵令嬢のティアナ様よ」

「婚約者がいるなら、安心ね」

「安心じゃないから困るのよ。ピエール王子は手が早いって噂。ティアナ様はそれを知ってか、嫉妬深いの」

「うわ、面倒臭い。ピエール王子もそんな気ないわよ。クラスメイトの妹よ?」

「下心ないのにわざわざ誘うと思う?」

「下心あるならこんな皆の目の前では誘わないでしょ?」

「はたから見る分には楽しいのにね、王子をめぐっての愛憎劇」

「巻き込まれたくない。二人きりでお庭を案内されたら誤解されかねないわ。助けてよ、キャロライン」

「ん…そうね。あなた、水魔法使えるのよね?」

「ええ」

「じゃあ、ドレスにお茶をこぼして帰ることにしたら? こっそりすぐに水魔法で洗えばシミにはならないし」

「キャロライン、頭いい!」

「ピエール王子にはメイドから言ってもらえばいいわ。あなたが抜けたら私も帰るし」

「じゃあ、これ食べたら作戦決行」

 アリアはそう言ってケーキをたいらげ、紅茶を飲むふりをして手を滑らせた。

「キャア!」

 アリアはカップを割らないよう、紅茶だけをドレススカートの部分にこぼした。思ったより熱い。

「アリア嬢、大丈夫!?」

 大袈裟にキャロラインが心配し、席を立たせる。メイドが慌てて濡れたハンカチを用意しようと場を離れた。

「そんなんじゃ間に合わない、お嬢様、冷やすので、どうぞこちらへ」

 執事が洗い場にアリアを連れて行こうとした。

「じゃあ、キャロライン、また明日学校で」

「ええ。気を付けてね」

 アリアは、皆が注目する中、執事に連れられて洗い場に連れて行かれた。

「大丈夫ですか? 火傷は…」

 若い執事は冷たい水でハンカチを濡らし、紅茶のかかった場所を見た。

「あ…」

 スカートをまくりあげないと当てれない。執事は顔を赤くして戸惑う。

「恥ずかしいから一人にしてくださるかしら。自分でできますから」

「あ…、そ、そうですよね。水、ここに置いておきますね、御用がありましたらお呼びください」

「はい。あ、このままではお目汚しするので、もう帰りますとピエール王子にお伝えください」

「承知しました」

 執事を下がらせるとアリアは水魔法で紅茶のシミを洗い流し、スカートをまくり上げた。右太腿が少し赤くなっている。

「ちょっと熱かったな。馬車の中で治さないと」

 アリアは濡れたスカートのまま、人目につかない庭の中を通って馬車の待機する門まで歩き始めた。初めての場所で正直なんとなくの方向しかわらからない。

「あれ…」

 完全に迷ってしまったのか、城の渡り廊下の横に出てしまった。

「アリア嬢!」

 呼び止められ、アリアはギクッとして振り返ると案の定、運悪くピエールだった。

「あ…すみません、お茶をこぼしてしまったので」

「あぁ、聞いたよ」

 ピエールはアリアに近づき、心配そうにドレスを見た。スカートはまだ濡れている。風魔法で乾かす事もできたが、それでは帰る理由がないので敢えて乾かしていない。

「火傷はしてないのか?」

「あ、少し赤くなって…なので今日はこれで失礼を」

「僕は治癒魔法が使える。見せてくれる?」

「え!? あ、む、無理です!太腿ですので…それに、少しだけ赤くなってるだけですので」

 焦るアリアを見てピエールはフッと笑い、アリアの右手を掴んだ。

「あぁ…本当に君は綺麗だね」

 ピエールはそう言ってアリアの頬を指でなぞっだ。アリアは背筋がゾッとし、顔が強張る。力付くで、いや、魔法で何とかしようかと頭をよぎるが、王族相手に決してしてはいけないことはさすがにわかる。

「あ…、ピエール王子、誤解されますので離れてください」

「誤解? 君を婚約者候補にしたら誤解じゃなくなる」

「む、無理です! わ、私はご存知の通りハルク侯爵の養女で元は…」

「君に下賤の血が流れていようと、構わないよ。僕は、第四王子だし、王座に就くことはない。君も大出世だよ? 正妻は無理でも、妾くらいには…」

「…」

――今下賤って言った。

 アリアは冷静に心の中でピエールを軽蔑し、どの魔法で気絶させようかと頭をフル回転させる。顔を近づけるピエールに対しアリアは気の魔法を使おうとしたその時だった。

「王城で嫌がる令嬢に迫るとは大胆だな」

 ピエールの手首をぐっと掴み、背の高い男がアリアから引き剥がした。

「だ、誰だ、貴様! 俺が第四王子と分かってのことか!?」

 ピエールは激昂し、相手を見上げた。金髪に群青色の瞳、整った顔立ち。声は低く、精悍な眼差しと気品とオーラにピエールは顔をしかめた。

「…!お前は」

「…スターク!?」

 アリアが驚いて声を挙げた。

「え?」

 スタークは驚いてアリアを見て一瞬、固まる。三年ぶりに見たアリアの姿はあの頃よりほっそりとし、大人びて美しい。

「アリア…アリアだったんだ? こんなところで何してるの?」

 スタークの質問にアリアはピエールに気を使って言葉を選ぶ。

「あ…ティパーティーで紅茶をこぼしてしまったので帰ろうとしてたら、ピエールサマガオミオクリシテクレタダケヨ」

 後半部分が全て棒読みのセリフにスタークは察したのかピエールに礼をした。

「お久しぶりです、ピエール王子。カラパイト王国からの留学が終わり、ラジール陛下に帰国の挨拶を済ませたところです」

「あ、ああ」

 自分よりも10センチ以上高いスタークにピエールはたじろぎながら怒りを飲み込んだ。

「アリアは私の幼なじみです。お気遣いありがとうございます。今日はお茶会の主催者でしょう? ここからは私がエスコートしますので王子はお戻りください」

「あ、ああ」

 アリアはホッとし、口元だけの笑みを見せた。

「ごきげんよう、ピエール王子。先ほどの言葉は聞かなかったことにしますわ」

 アリアはそう伝えて挨拶すると、ピエールは黙って去って行った。

「はぁ…、ありがとう、スターク、おかえりなさい」

 アリアのホッとした表情にスタークは微笑み、右手を差し出そうとしたが思わずぐっとこらえ、手を引っ込めた。

「ただいま、久しぶり」

「本当だったらハグしたい気持ちよ。間一髪だったわ」

 アリアもスタークを触らないよう、ぐっと手のひらを握る。

「あと少しスタークが遅れてたら、あの王子を窒息させて気絶させるとこだった」

 迫られて困ったか弱い女性を助けるつもりで声をかけたのに、か弱いどころの話じゃない。姿は美しく大人びたのに、中身はあの頃のままのじゃじゃ馬娘ぶりがスタークには妙に嬉しかった。

「…相変わらずだね。じゃあ俺はピエール王子とハルク侯爵家を救ったのかな」

 スタークが俺と言う言葉を使ったのにアリアは気付き、改めてスタークを見上げた。背も高くなっているが、逞しく鍛え抜かれた身体は服を着ていても分かる。少し日焼けし、声は変わっていたが、優しい微笑みは相変わらずかっこいい。

「誰だか分からなかったわ」

「アリアも。前より綺麗になってて」

「…相変わらず王子様みたいね、スタークって」

「王子様か…。さっきのピエール王子の後じゃ褒め言葉に聞こえないんだが」

「私の言う王子様は絵本の中の王子様よ。馬車が待機してるの。今日はお兄様も屋敷にいるわ。来る?」

「ああ。ちょうど良かった。会いに行くつもりだったんだ」

 二人はハルク家の馬車に乗り込む。

「拗ねてるわよ。留学して一回しか会いに来なかったって」

「うん、一回しかラスタには帰って来てないんだ。一度帰って来た時、またカラパイトに戻るのが嫌になったから」

「スタークらしいわね。あ…ちょっと横向いといて。太腿、少し火傷しちゃったから治療しないと」

 アリアはスカートをまくりあげ、スタークは慌てて顔を背ける。アリアは右の太腿に手をかざし、水魔法で水を当てながら治癒魔法を使う。

「ティパーティーなんて行きたくなかったの。でも学校でピエール王子に皆の前で誘われて。早く帰りたくてわざと紅茶をこぼしたの。さっさと帰ろうと思ったら、見つかってさっきの通りよ」

「何もされてない?」

「頬を撫でられたわ。なんか背筋がゾワゾワってしたわ。カエルの卵を思わず掴んてしまった時みたいな感覚。」

「…ッあいつめ…」

 スタークは窓の外を見ながら舌打ちした。辺りが静かだったのでピエールとアリアの会話は何となく聞こえていた。あんな失礼なことをアリアに向けて言ったのかと思うと腹の底から怒りがこみ上げてくる。

「もうこっち向いていいわよ。あとはドレスを乾かすだけ」

 アリアはそう言って風魔法でドレスを乾かす。

「王都には慣れた?」

「うーん、まだ一ヶ月も経ってないもの。でも学校には慣れたわ。友達も一人できたし。」

「明日から俺…あ、僕も通うよ」

「僕って言い直さなくていいわよ。ただでさえ貴族社会って窮屈なんだもの。私やお兄様の前ではそのままのスタークでいいわ」

「ありがとう」

 スタークの笑顔にアリアも微笑んだ。









 

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