12. 約束
「あーあ、もう帰っちゃうのね」
アカジャイルの枝にアリアとジェイド、カインも並んで腰掛け、朝日を見ながらアリアがため息を吐いた。
「また次の春休みには来るよ、ね、スターク」
カインはアリアを慰めるように言うとスタークは少し気まずそうに笑った。
「僕はしばらく留学することにしたよ」
「え? 何それ」
「違う国に勉強しに行くんだ」
カインも驚いて思わず立ち上がり、バランスを崩す。
「わぁ…!」
「気を付けてよ、カイン」
アリアとスタークに支えられ、カインは焦って座り直す。
「留学ってどこに? どのくらい? 誰と行くの?」
「うん、今のところ考えているのはカラパイト王国。期間は分からない。一人で行くよ。昨日、父上にだけ魔道具で連絡を取って言ってみたんだ。了承してくれた」
スタークの言葉にアリアよりカインが動揺している。
「ひ、一人で?」
「うん。勉強したいことがあるんだ、たくさん。昨日、決めたんだ」
「じゃあ、その間、会えないの?」
カインの寂しそうな問いにスタークは言葉を選ぶ。
「わからないけど、休みがあれば帰ってくるよ。でも遠いし、そんなしょっちゅうじゃないけど…でも必ず帰って来たらカインと遊ぶし」
「…」
三人は何を言っていいか分からず、黙って朝日を眺めている。
「アリアは、三年後には王都に来るんでしょ? 高等魔法学校に入るために」
「うん。私のお転婆もそれまでだって、エマに言われたわ」
「王都じゃ木登りは中々できないかもね。」
「自信ないわ、今さら淑女なんて」
「僕もスタークがいない学校なんて楽しくないなぁ」
「僕がいなくてもちゃんと朝から走って稽古しなきゃダメだよ?」
「う…」
「そうだ、ジェイドさんにお願いして、マリウス騎士団長に稽古してもらったら?」
「えぇ! 僕一人で?」
「だって、カインだけ騎士団に入れないのは嫌だろ?」
「嫌だ」
「大丈夫だよ、カインなら」
スタークの笑顔にカインはため息を吐いた。
「スタークに言われたら大丈夫な気がする」
「僕らは三人共、目標は同じだ。行く道は違うけど、必ず合流できるんだ。だから、自分ができる精一杯の努力をするんだ」
スタークの言葉にカインもアリアも胸が熱くなり、頷いた。朝日が海の向こうから昇り、スタークは呟いた。
「僕、このピンク色の景色、好きだな」
「私も」
「僕も」
ピンク色の景色はだんだんと白くなり、ティクルの街を起こそうとしていた。




