11. 再会
カインとスタークがティクルに来たのは一年半ぶりだった。二人とも10歳になり、身長も伸び、スタークは特に大人びていた。
馬車が止まるとカインは一目散に飛び出し、スタークは先に降りてヴィオラが馬車を降りるのに手を差し伸べた。
「もう、紳士だこと。あリがとう、スターク。それに比べてカインなんて」
ヴィオラはスタークの手を取り、ゆっくりと馬車を降りる。
「ようこそ、カイン、スターク、ヴィオラ」
ピアナとジェイド、そして従者が出迎える。
「お久しぶりです、お祖父様、お祖母様」
「カイン、背が伸びたわね。もうすぐ私を追い越すつもり?」
「もう時間の問題だよ」
「お久しぶりです、ピアナさん、ジェイドさん」
カインと比べると品の良さがにじみ出るスタークの一礼にジェイドもピアナも微笑んだ。
「いらっしゃい、スターク。あなたにはもう身長抜かれちゃってるじゃないの」
「そうなんだよ、ずるいよ、スタークばっかり。僕、毎日牛乳飲んでるのに」
カインは少し口をとがらせた。
「ほう、二人ともちゃんと鍛錬してるんだな」
ジェイドはカインとスタークの身体つきを見て感心する。
「わかる? 毎朝二人で走ってるんだ。筋トレもしてるよ」
「あら、カインは毎朝だったかしら?」
ヴィオラのからかいにカインは笑ってごまかした。
「ほぼ毎朝…かな。よく寝坊しちゃうんだ」
相変わらずあどけなさに皆笑う。
「あれ、アリアは?」
カインの質問にスタークは楓の木を見上げた。誰もいない。
「君たちが来るのを秘密にしといたんだ。今ごろ、裏庭で剣術の稽古でもしてるよ」
「驚かせてきなさい」
ピアナの言葉にカインとスタークは頷き、裏庭の方へと走って行った。
「甘いわ!」
「ぐっ! まだまだ!」
裏庭から聞こえる木刀が叩き合う音と、それと同時に魔法による爆風が風を起こしている。アリアともう一人、浅黒い肌のアリアより少し背の高い男児が戦っている。
「!」
剣術と魔法を組み合わせたそのレベルの高い戦いにカインもスタークも目を見張った。
「火弾!」
浅黒い肌の男児がそう叫ぶと剣を持たない左手から火の弾が二発発射され、アリアを狙う。アリアはそれを見て驚くどころかその火弾に当たりに飛びこんだ。
「危ない!」
思わずカインがそう叫ぶとアリアに当たるはずの飛弾は急に消滅し、カインの叫び声に気を取られた男児にアリアはそのまま飛び込んで押し倒し、喉元に木刀を突き立てた。
「痛って〜!」
後ろに尻もちをついた男児にアリアは先に立ち上がり、手を差し伸べ、ニヤリと笑った。
「よそ見するからよ。大丈夫?」
「だって、誰かか…」
男児はアリアの手を握り、立ち上がり、呆然とこっちを見ているカインとスタークの方を見た。アリアも釣られて見る。
「!」
ようやく二人に気付いたアリアは、男児の手を離し、木刀をほっぽりだして嬉しそうに満面の笑みを見せて二人に駆け寄った。
「お兄様! スターク!」
そう叫び、アリアは無邪気にカインに抱きつき、カインは照れながら抱きとめた。そしてカインから身体を離すとスタークにニコリと笑った。
「久しぶりね。なんか背、伸びた?」
「ああ…久しぶりだね」
アリアの笑顔は眩しく見えた。ドレスではなく、動きやすいように白いパンツを履き、小さな女騎士のようにキリッとした格好をしている。銀色のふわふわとした髪をポニーテールにし、そのクリクリとした綺麗な瞳でスタークを見つめる。
お互いに一年半前のエンタングルメントを思い出し、気まずそうに笑う。スタークは二歩後ろに下がる。
「すごいね、アリア。もう魔法と剣術を組み合わせて戦ってるの?」
カインは目を丸くして尋ねた。
「うん。ティムと戦う時は属性一つに絞って稽古してるの」
ティムはアリアが落とした木刀を拾い、こっちに来た。カインとスタークのいかにも貴族のお坊ちゃんと言う雰囲気にティムはすぐにアリアがよく話す王都にいる兄とその友人だと分かった。
「あ…初めて会うのよね? ティムよ」
アリアはそう言ってティムを二人に紹介した。
「ど…どうも、初めまして。ティム・トレドナーです」
少し緊張した表情でティムは二人に頭を下げた。貴族のアリアと平民である自分との身分差は重々分かっている。その自分がアリアと戦いの稽古をすることをこの二人がよく思わないんじゃないかと心配なのだ。
「初めまして、アリアの兄のカインだ。君の属性は火?」
カインの笑顔にティムは少し戸惑いながら頷く。
「スタークだ。よろしく」
スタークはそう言って右手を差し出した。整った顔立ちでキラキラとしたオーラにティムはおどおどしながら手をシャツで拭き、握手をした。
「ティムはいくつ?」
「あ…えっと…八才…です」
「僕たちに敬語は使わなくていいよ。アリアと同じ歳か。…すごいな、二人とも」
スタークは笑顔でそう言うとティムはその笑顔を一瞬思わず見とれたが、コクコクと頷いた。
「アリア、さっきの火弾を消したのは気の魔法?」
スタークの質問にカインは首をかしげる。
「ええ、そうよ。よく分かったわね」
「どういう事?」
「火は空気がないと燃えないだろ? だからアリアは自分に攻撃してくる火弾を気を使って消したんだ」
「そう! でも気を使うと言うより、火弾の周りの空気を消したの」
「すごいな…、気の魔法なんて、イメージしにくいのに詠唱もなく咄嗟に使えるなんて」
スタークの言葉にアリアは嬉しそうに微笑んだ。
「どれくらいいてくれるの?」
「四日間だよ」
「たったの四日?じゃあ早く遊ばなきゃ!」
今にも走り出しそうなアリアの前を立ちはだかったのはメイド長のエマだった。
「お嬢様!ダメですよ!ヴィオラ様もいらしてるんだから挨拶もなしに遊びに行くなんて。長旅でお疲れになってるんですから、まずはお茶でも」
「あ…そ、そうよね」
「どうぞ、お坊ちゃま達、こちらへ。ティムもいらっしゃい、ってピアナ様が言ってくれてるわよ」
「え、お、俺は…」
「おいでよ、ティム。お母様にも紹介するわ」
アリアは遠慮するティムの手を握り、屋敷の中に連れて行こうとした。
「その前に、お二人は泥を落とし、手をよく洗って下さい」
「はぁい」
相変わらずお転婆なアリアを見てカインは苦笑しながらスタークを見た。スタークは少し複雑な目でアリアとティムの背中を見つめていた。
「そう、アリアは学校に通ってるのね?ティムも?」
ヴィオラは紅茶を飲みながら優しい眼差しでティムを見た。母親のいないティムは少し緊張しながらヴィオラの質問に答える。
「は、はい。ほんとはティクルに学校はなかったけど、師匠が作ってくれて…」
「師匠ってお祖父様のこと?」
カインはエマが運んできたアップルパイを頬張りながら尋ねる。
「そうよ。お祖父様が学校の為に王都から先生も呼んでくれたの」
「先生って言っても現役をリタイヤして田舎でのんびり暮らしたい人間を連れてきただけだよ。ティクルは農民も多い。家業も手伝えるよう、授業は午前中だけ。簡単な生活魔法と知識、あと字を読めるようになるのと一般教養だけだ。最初は渋ってた親たちも最近では協力的だよ」
ジェイドはそう言って隣の席でアップルパイを頬張るカインの頬に付いたかすをとってやる。
「学校は楽しい?」
「ええ。お友達も増えたわ」
アリアはそう言って紅茶を飲んだ。お転婆なわりには所作はとてもキレイだ。
「ねぇ、お祖父様、これ飲んだら、遊びに行ってきてもいい?」
「あぁ、夕食までにはもどってきなさい」
「はぁい。お兄様、スターク、付いてきて!たくさん見せたい所あるの!」
アリアの嬉しそうな笑顔にカインもスタークも立ち上がった。
朝から走ろうと思ってまだ日が昇りきってないうちに目を覚ましたスタークは着替え、庭に出た。カインは昨日アリアにあちこちに連れ回されて疲れたのか、一応声をかけたが全く起きる気配はなかった。ジェイドに朝稽古をつけてもらう時間まであと一時間はある。
秋の澄んだ空気がひんやりと気持ち良く、王都よりも身体が軽い気がする。
「スターク、走りに行くの?」
声をかけられ、振り向くとアリアが庭に出て来た。昨日のようにパンツ姿にポニーテール、右手には木剣を持っている。
「おはよう、アリア」
「おはよう」
「時間あるから少し走ってこようと思って」
「お兄様は?」
「一応声はかけたんだけど、まだ起きないから朝稽古まで寝かせとこうと思って」
「私もついて行っていい?」
「もちろん。道が分からないから屋敷の周りだけにしようと思ったんだけど、アリアが来てくれるなら道も分かるし」
「いい場所があるわよ」
「連れてって」
「うん」
アリアは、木剣を楓の木に立て掛け、走り出そうとした。
「あ、待って、アリア。体力作りの走りはがむしゃらに走るんじゃなく、一定のペースでリズムよく走るんだ。僕の走りに合わせて」
「そうなの?」
「うん、会話しながら走る速さだよ」
スタークはそう言ってゆっくりと走り出した。アリアはスタークの横を走る。
「こんなゆっくり?」
「うん。僕の足音に合わせて」
スタークはアリアの歩幅を気遣いながらリズム良く走るとアリアの足音が揃う。
「毎朝走ってるの?」
「うん。よほど雨がひどくなければね。王都ではあまり雪が降らないから、冬でも走れるんだ」
二人は敷地の外に出て林の中を走る。小鳥のさえずりがまるで会話を遮るかのように近くで聞こえる。少しだけ紅葉が始まり、朝露が朝日に輝き、美しい。何もかもが新鮮に思えた。
「王都の魔法学校では何を教えてくれるの?」
「魔法の実技とかもあるけど、歴史や魔法原理、あと法律とかかな」
「スタークは何の授業が好きなの?」
「僕は魔法原理かな。魔法陣の描き方とかも教えてくれるんだ」
「へぇ。私も十二歳になったら王都の高等魔法学校に行くんですって」
「へぇ、そうなんだ」
「だから学校とは別に午後は家庭教師をお祖父様が用意してくれたの。でも一人で勉強するのってつまらないわ。学校の方が皆がいて楽しい」
「僕も同じだよ。学校から帰ったら家庭教師がいる」
「スタークも?」
「うん。僕の祖父は王弟なんだ。だからプライドが高く、僕に王太子達と同じ教育をさせたがる。何を期待してるか知らないけどね」
「スタークはお祖父様と仲良いの?」
「いや。仲が良いとは言えないな。きっと祖父の思い描く僕の未来と僕の希望は全く違うだろうから」
「スタークは大きくなったら何になるの?」
「騎士団に入る」
「え?そうなの?」
「うん。魔法省のリストに載っている以上、国の為にその力を使わないとダメなんだ。義務ではないけどね。祖父は僕を宰相や外交とか政治に関わらせたいんだと思うけど僕は政治には興味がない」
「私も騎士団に入るの」
「だろうね」
スタークは微笑む。
「驚かないの?」
「なんで?」
「学校の皆は驚いてたわ。女のくせに…しかも貴族なのにって」
「女性騎士は確かに少ないけど、ちゃんと活躍してるよ。貴族令嬢だって王宮に仕えたり、領地の管理をしたり、仕事を持っている人は結構いるんだ。その職業が騎士なだけで、別にダメじゃない。アリアは強いから騎士になれるよ」
スタークの言葉にアリアは嬉しそうに微笑む。
「ありがとう」
二人は20分程森の中を走り、開けた場所に出た。
「!」
少し小高い丘になり、ティクルの小さな街の向こうには海が見える。
「スターク、こっちよ」
アリアは街を見下ろすように生えている大きなアカジャイルの木を指差した。
「! デカいな」
「登れる?」
「え? あ、ああ、多分。木登りはしたことがないけど」
「アカジャイルの木よ。魔法は使えないわ」
アリアはそう言って木に登り始めた。小さな凹凸に器用に足をかけてひょいひょいと登り、下から四番目の大きな太い枝に到達した。
スタークは見様見真似で登って行く。見た目以上に腕の力と握力がいる。
「あと少しよ」
アリアがそう言って引っ張りあげようと手を伸ばした。
「あ…」
アリアはエンタングルメントを思い出し、手を引っ込める。お互いに苦笑し、スタークは自力でアリアのいる枝まで到達した。
「ほんとに初めてなの? 木登り」
「うん」
「初めてにしては上手ね。お兄様だったらもっと時間がかかりそう」
アリアはそう言ってクスッと笑い、枝に腰掛けた。
「これがアカジャイルの木か。本当に魔法が効かないのかな?」
スタークはそう言って指先に火を灯し、木の幹にかざしてみた。焦げるはずの木の幹はスーッと火を吸収して何の反応もない。
「不思議だ…消える」
「お祖父様が言うには、大昔に火ドラゴンが山を焼き尽くしてもこの木だけは燃えなかったんですって」
「へぇ」
「ねぇ、見て」
アリアは木の幹に気を取られてるスタークに朝日の昇る方向を指差した。
「うわぁ!」
「きれいでしょ?」
街の向こうに見える海から朝日が昇り、海をピンク色に染めている。キラキラと光るピンク色の海は初めて見る色だった。
「キレイだね」
「でしょう? 誰かに見せたかったんだけど、早起きしなきゃ見れないし、お祖母様やエマもここまで来るのも大変だもの」
「…じゃあ、僕が初めて?」
「そうよ」
嬉しそうなアリアの笑顔にスタークも笑顔になる。
「ありがとう、連れてきてくれて」
素直に礼を言うスタークにアリアは少し照れている。学校の友達やティムはこんなに素直にお礼を言ったりしない。
「美味しいものやきれいなものって、誰かと一緒に分け合う方が楽しいもの」
アリアの言葉にスタークは胸が一杯になる心地がした。
「スターク、これを使ってアリアと戦ってごらん」
ジェイドが少し赤い木剣をジェイドに渡した。
「これって…」
「アカジャイルの木で作った。これならアリアと剣を交えてもエンタングルメントは起こらない。ただし、二人とも使っていい魔法はアリアは風と水。スタークは風と土だ」
「ありがとうございます!」
スタークはジェイドから木剣を受け取ると嬉しそうにその木剣を振り下ろしてみる。
「じゃあ…始め!」
ジェイドの掛け声にスタークもアリアも目の色が変わった。二人ともアカジャイルで作った木剣を握り、見合っている。
最初に動いたのはアリアだった。素早く間合いを詰め、スタークに剣を振り下ろす。スタークはそれを避け、流した。アリアは、体勢が崩れる瞬間、水魔法でスタークに水の塊を放った。スタークはすぐさま土魔法で足元の土を舞い上げ、水の塊をブロックする。
「ほう…」
ジェイドはスタークの立ち廻りに感心する。カインはポツリと呟いた。
「こんな戦い方、スタークはどこで習ったんだろう…」
木剣の叩き合う音と舞い上がる土埃と風、水、二人はドロだらけになりながらもお互いの実力を出し合う。剣の腕はややスタークの方が体格差もあり有利だが、魔法のバリエーションはアリアの方が多い。
「二人ともすごいなぁ…」
中々勝負もつかないが、庭がどんどん荒れて行く。
「そこまで!」
ジェイドの掛け声で二人は攻撃の手を止めた。
「…はぁ、はぁ」
肩で息をしながらアリアはスタークを見る。スタークはびしょ濡れになってはいるがまだ息は上がってなかった。
「スターク、君は反応が早いが、攻撃がワンパターンだ。もっと暇なく攻撃を仕掛けないと相手は読んでくる」
「はい」
「アリアは防御が甘い。攻撃力が高くても防御が甘ければ怪我を負う。特に水魔法を使った時だ」
「はい」
アリアは服に付いた土を払い、スタークを見た。
「私も明日から走るわ」
「アリア、ここ、擦りむいてる」
スタークはアリアの左肘から血が滲んでいるのを見つけ、指差した。
「このくらい大丈夫よ。舐めれば治るわ」
「ダメだよ!それに肘、舐めれる?」
カインは心配そうにそう言って自分の肘を口に近づけるが、どうやっても届かない。
「ほんとだ…自分で自分の肘って舐めれないのね」
真似するアリアとカインを見てスタークとジェイドは顔を見合わせて笑った。
「アリア、僕が治してあげるよ。学校で治癒魔法習ったんだけど、結構褒められたんだ」
カインはそう言ってアリアの肘に手を当てた。スタークはジェイドに言う。
「カインはクラスの子が魔法実習で大火傷した時、先生が駆けつける前に応急処置するつもりが治してしまったんです。」
「へぇ、カインが…。ほう…確かに速いな」
カインの治癒の速さにジェイドは感心する。
「ありがとう!全然痛くない」
アリアは滲んだ血を手で擦るが傷は跡形もなく消えている。
「治癒を使った後、体の負担は感じるか?」
ジェイドはカインに尋ねる。
「うーん…このくらいなら全然大丈夫だけど、こないだの火傷を治した時はその後すごくお腹が空いたかな」
「お腹が?…お前は治癒士に向いてるかもな」
「え?治癒士?! いやいや、僕も騎士になりたいんだ」
カインは焦ってスタークを見た。
「騎士団に治癒士は絶対必要だよ。ね、ジェイドさん」
「ああ。しかも騎士団の治癒士が弱くては足手まといになる。だからもっと強くならないと話にならないぞ?」
「分かった!」
カインは気合の入った表情でスタークを見た。
「スターク、これからは毎朝走った後、こう言う稽古もやろうよ」
「カインが起きれたらね」
スタークの皮肉にジェイドもアリアも笑った。
「ジェイドさん、相談があるんですが」
夕食後、ジェイドの書斎にスタークが訪ねて来た。
「どうした?」
ジェイドは葉巻の火を消し、スタークをソファに座らせた。スタークの表情を見てジェイドは何となく言わんことが予想つく。何かを決意した顔だった。
「十歳になったらマルクス騎士団長に稽古をつけてもらうよう、お願いしてくれるって前言って頂いたの、覚えてますか?」
「ああ、もちろん」
「僕…留学しようと思ってるんです」
「留学…?」
ジェイドの予想とは違った。スタークは群青色の綺麗な瞳でジェイドをまっすぐ見る。穏やかではあるが、その瞳の奥は冷静さと情熱がある。
「今日、アリアと手合わせして思ったんです。このままではアリアを圧倒的に上回る事ができないって」
「ほう…」
「ジェイドさんに習ってるアリアと圧倒的に差をつけるなら、ジェイドさんより強い人に習わなきゃって。そしたら、ラスタ王国にはジェイドさんより強い人はいないんです」
「そんなことは…まぁ…あるな」
ジェイドは少し考えるが確かに魔法に関しても剣に関しても、実戦で自分の右に出るものはいない。
「隣国のカラパイト王国は魔法大国です。魔物や魔獣がラスタ王国より頻繁に出るため、攻撃魔法に特化して学校の教育をしていると聞きました。ジェイドさんより強い人がいるかはわかりませんが、ジェイドさんも入ってる大陸の魔聖五人のうち、三人はカラパイトの人です。カラパイトとラスタ王国は国交があるから、ラジール陛下に頼んでみようかと思っています」
「いつ決めたんだ?」
「今朝です。アリアと手合わせした時に…アリアが一年半前より格段にレベルが上がってました」
「君もだよ。体幹も体力も、前回の課題はクリアしている」
「でも圧倒的ではない」
スタークの熱い闘志にジェイドは観念したように笑う。
「カラパイト王国の魔聖三人のうち一番強いのはハイド・カルティネだ。火、水、土、風の4つの属性を持つ。手紙を書いてあげようか?」
「本当ですか? …あ、いや、自分で頼みにいきます。何もかも人に任せきりでは僕は甘えてしまうから」
「君のお祖父様は許すかね?」
「…だからラジール陛下に頼むんです。僕が強くなり、いずれは国の力になる。きっと祖父にも口添えしてくれるはずです」
十歳と言うのに随分と知能的で策略家なスタークにジェイドは思わずプッと吹き出した。
「王までも使うとは…君は既に大物だな。ただ強いだけでは誰かに利用され、プライドが高いだけでは失うものも多い。天才とは自分が持っている運をうまく利用して努力を怠らない力を持つ者を言う。将来が楽しみだ」
ジェイドはそう言ってスタークの頭を撫でた。




