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奴隷の呪いと  作者:
1/19

1. 奴隷商の館

 夕陽が落ちると共に夜の闇が世界を黒く包んだ。新月、月灯りは全くない。ラスタ王国とジオルグ王国の国境付近、奴隷商のアジトを突き止めたラスタ王国の王国騎士団長、ジェイド・アレース・ハルク侯爵は息を潜め、二人の部下を連れてその建物を目指した。

「ハルク団長、探知できますか? 結界が張ってるから俺たちには無理です」

「ああ、魔力量の高いのが中にいる。けど、一つしか探知できない。攫われた子供達は確かにここに運ばれたのか?」

「はい。村人の目撃談もありますし、奴隷商のバッカムの気を追ってここにたどり着いたんですが…」

 

ラスタ王国ではラジール現国王が即位した三〇年前から奴隷制度は禁止されている。だがここ数ヶ月、川を挟んだ隣国のジオルグ王国内で反乱が起き、王族が殺され、政権交代をしたと同時にジオルグの治安は悪くなり、誘拐や強盗、略奪が増えた。ジオルグではまだ奴隷制度があり、奴隷は逃げないように魔力を使えない首輪を嵌められ、奴隷の紋章の焼印を押される。そしてこの1ヶ月、子供、特に幼い女児を狙った誘拐がジオルグ国内だけでなく、ラスタ王国でも2件報告されている。


「俺たちに勘づいてまた子供達を移動させたんじゃないですかね」

「だとしてもだ…中にすごい魔力量のやつがいる。バッカムって奴はそんなに強いのか?」

「いえ、俺が奴の気を尾行してた時には魔力量はそんなに高くなく…むしろ低いくらいで」

「副団長達の応援が来るのを待ちますか?もうすぐ着くはずです」

「…焼印を押される前に助け出さなきゃならない。俺がバケモンの相手をするから、お前たちは子供達を連れ出してくれ」

「わ、わかりました!」

 ジェイドは剣を抜き、スタスタと建物に歩み寄り、勢いよく木の扉を蹴り破った。


『ドンッ!』

 扉を開けた瞬間、ジェイドは目を疑った。部屋は血まみれで4人の小さな子供の遺体が乱雑に横たわっている。首には奴隷の首輪、剥ぎ取られた服、背中には奴隷の証である焼印が黒く押されている。

 ジェイドは息を飲みながら剣に自分の魔力を込め、魔力量の感じられる暖炉の脇にをやった。

「!」

 大男が奴隷紋の鉄の焼印を手に持ったままうつ伏せに倒れている。その横には小さな背中に焼印を押され、その熱さと痛みに耐えて身体を震わせている銀髪の少女がうずくまっていた。

 五歳くらいだろうか、肌着一枚の少女はジェイドに気が付くとまるで怯えた獣が威嚇するような目で睨み、小さな右手をジェイドに向け、何か攻撃しようとしている。金色の瞳は気高く、惹き込まれそうになる。

 ビリビリと肌に突き刺さるようなその魔力量にジェイドは一瞬焦り、防御膜を張った。

「待て! 君の味方だ!」

 どんな攻撃魔法なのかは分からない。だが、防御膜を破る勢いでバチバチと音を立てる。ラスタの守護龍とまで呼ばれるジェイドの魔力量は国内だけではなく、大陸全体でも5本の指に入る。

「団長!」

「入るな!」

 ジェイドは騎士達にそう叫び、右手で防御、左手を少女に向け、何かを発した。

「助けに来たんだ!」

 ジェイドの発した何かが水の塊になり、少女の背中に張り付いた。熱を帯びている焼印から湯気が上がり、音を立てて冷却していく。

「君を傷つけない。魔法を解いてくれ」

 ジェイドの言葉と背中を冷やす水の塊に少女は恐る恐る魔法を解除した。ジェイドも防御を解除し、少女に手を差し伸べる。

「もう大丈夫だ、大丈夫。心配いらない、傷も治るから」

 ジェイドの言葉が聞こえているのか、少女はパタリと倒れ、意識を失った。

「団長!」

 部下が部屋に入ってくるなり、その惨状に言葉を失う。

「これは…バッカムの仕業ですか?」

 子供達の遺体には魔力封じの首輪、背中には奴隷紋の焼印、そしてさらに首の頸動脈をナイフで切られている。

「…よく分からない」

 ジェイドは少女を抱え、自分の胸に抱き寄せ、背中の焼印に治癒魔法をかける。赤く焼けた肌はみるみるうちに冷めていくが、奴隷紋は消えない。

「…おかしいな」

 何度やっても消えない。ただの火傷であれば治癒魔法で消えるはずである。ただ痛みは和らいだのか、少女の寝顔から苦痛の表情は消えている。

「団長、見て下さい。バッカムの首…。魔物に取り憑かれた跡が…」

部下が息絶えたバッカムの首の後ろを指差した。青紫色に変色した痣は魔物に取り憑かれ、魔物が出て行った跡だ。バッカムの遺体をひっくり返し、仰向けにすると、服にはたくさんの返り血が付着している。

「バッカムが子供達を刺したみたいですね」

「焼印を押した後、ナイフで殺したのはなぜでしょうか? こいつにとっては商品なのに」

 部下の言葉にジェイドは腕の中の少女を見る。バッカムの横には魔力封じの首輪が砕け散り、落ちている。おそらくこの少女に付けられていたものであろう。

「…」

 何者かがこの少女を探していた?いや、この少女の魔力を探すために…

「ハルク団長?」

 ジェイドは少女を抱えたまま、別の横たわる子供の遺体に手を翳し、治癒魔法をかけた。死んだら治癒魔法は普通効かないが、まだ死んで間もなく、体温があるうちは傷くらいなら修復できる。

「…とりあえず、この4人の遺体を親元に返してやろう。まだ、息絶えたばかりだ。せめて奴隷紋だけでも消してやらねば」

 ジェイドの思った通り、治癒魔法で遺体の焼印は消えていく。

「…そうですね」

 部下達もやりきれない思いで子供達の遺体に治癒魔法をかけ、奴隷紋と首の傷を塞いでやった。















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