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明美・・・35歳、小さなスナックの雇われママ。義実のことが気になっている。

ママという仕事に真面目であった為にあれから5年経つが恋人は出来ていない。

義実・・・本日誕生日で30歳になる。彼女との仲は冷え切っていたが本日とうとうフラれ、やけ酒の末に行きつけのスナックミーツにやってくる。ミーツにて度々彼女の愚痴をこぼしていた。


一刻程で日も変わるだろう夜更け。

スナックミーツに義実が現れる。


明美「いらっしゃい、あら義実君?」

義実「こんばんわ~明美さん、男、義実やってまいりました」

明美「こんばんは、相当酔ってる?」

義実「僕は酔っておりません」

明美「そうだね、酔ってないね~」

義実「信じてよ~」

明美「信じる、信じる」

義実「嘘だ、僕は嘘を見抜けるのだ」

明美「はいはい、何飲むの?」

義実「芋の水割り」

明美「はい(用意する)、水の水割り」

義実「ん?ん~うまい」

明美「そりゃそうよ、私が作ったんだもん」

義実「流石、明美さん、いい仕事してますね~水みたいな飲みやすさ」

明美「水だもん」

義実「え?」

明美「え?こんなに酔ってる義実君、初めて見た」

義実「何かおっしゃいましたでしょうか」

明美「いやいや、それより今日は来ないと思ってたけど」

義実「どうして?」

明美「だって今日、誕生日でしょ?」

義実「誕生日ですよ、後一時間程はね」

明美「彼女は?毎年一緒に過ごしてるって言ってなかった?」

義実「僕に彼女なんていません」

明美「えっとーもしかして」

義実「昨日、フラれました」

明美「うわぁ」

義実「ガチ引き!?」

明美「そろそろ危ない気はしてたけど、このタイミングか」

義実「このタイミングですよ。なんという30代の幕開けか」

明美「タイミングはあれだけど、予測出来てたんじゃない?そんなに荒れなくても。」

義実「今日ね、同い年の同僚のイケメンと楽しそうに帰る姿を目撃しました」

明美「うわぁ」

義実「ガチ引き!?」

明美「たまたまじゃない?たまたま帰り道で会ってとか」

義実「彼女が会社の前で待ってたんです」

明美「はい」

義実「僕は自棄残業してたから先に上がった彼女が待ってたのを見て、もしかして逆転ホームランかと思ったんです」

明美「はい」

義実「彼女は謝りたいんじゃないだろうか、よりを戻したいと思ってるんじゃないだろうか、冷え切った関係が終わり、また昔の様に誕生日を祝ってくれるんじゃないだろうか、その為にこうして待ってくれていたんじゃないだろうか。」

明美「・・・はい」

義実「入口傍の植木に隠れながら僕はそんなことを考えていたんです・・・明美さん?なぜ下を向いてるんです?」

明美「いえ」

義実「まぁいいでしょう・・僕が声をかけようと決心した時、ロビーを一人の男がさっそうと通り過ぎて行きました。それは部内でも特出して優秀で男前の杉本でした」

明美「・・・」

義実「間が悪いとまた隠れた私の目に飛び込んで来たのは、ごめんと手を合わせる杉本とそれを向かえる彼女の素晴らしい笑顔でした。」

明美「・・・」

義実「手を繋いで帰る二人の後ろ姿を私は生涯忘れることは無いでしょう」

明美「なんかごめんなさい」

義実「どうして謝るんです?」

明美「色々聞いていたのにお力になれず申し訳ないなと思いまして」

義実「どうして敬語なんです?」

明美「なんとなく」

義実「明美さん、男は結局、顔なんでしょうか?」

明美「そうは思わないけど」

義実「皆、イケメン好きじゃない!」

明美「私はイケメン好きじゃないけど」

義実「嘘だね、信じないね。」

明美「そう言われても真実だし。男は顔じゃない」

義実「何百回も聞いた、言い聞かせてきた。でも顔がいい方がいいに決まってる。」

明美「スタートの印象は良いかもね」

義実「それに仕事が出来た方がいいんだ」

明美「そりゃ出来た方がね。出来ないよりは」

義実「優しくて気づかいが出来た方がいいんだ」

明美「そりゃそうよ、義実君も出来てるでしょ?」

義実「僕は駄目です。自分勝手で口下手で」

明美「お喋りな印象だけど・・・そう言われたの?」

義実「いや、でもそう思います。肝心なことになると僕はいつも何も言えないから」

明美「そうなの?」

義実「うん、別れを切り出された時も何も言うことが出来なかった。言葉は頭の中に浮かぶのに口からは出てこない・・・何とか分かったってだけ言えた」

明美「そんなもんだと思うけど」

義実「僕のはもっと酷いんです、肝心なことは碌に言わない、そのくせに気が付いては欲しい・・・そんな奴がずっと近くにいたら誰だって嫌気がさしますよ」

明美「・・・」

義実「僕ね、こんな感じなのにプライドの塊なんです。カッコつけようとするんです。嫌われたくない。フられる瞬間ですら思った・・・だから良いこと言おうとして、完璧を求めて、でも結局そんなものなんてないから言葉にならない」

明美「好きな人の前では完璧でいたい、良く見られたいなんて、当然の欲求だよ」

義実「良く言えばそうです、でもそれって嘘じゃないですか、本当の自分じゃない。本当の自分は自信が無くて、いつも人の目を気にして、フられるずっと前から関係は終わっていたのに憤って、嫉妬するような奴なんです」

明美「どうしてそれを悪いことだと思ってるの?」

義実「どうしてって」

明美「私はそれが悪いことだとは思わない、怒りも嫉妬も見栄も人の純粋な思い。悪いことのように思うから、悪いように使っちゃうだけ」

義実「・・・」

明美「全部合わせて本当の自分なんだよ」

義実「完全に八つ当たりしてましたね。ごめんなさい」

明美「謝らなくていいよ、義実君の八つ当たり可愛いね」

義実「そうですか?なんか30にもなって可愛いは複雑だな」

明美「褒め言葉なんだけど」

義実「男してどうなんだろうというあれですよ」

明美「いい男だと思うわよ。義実君は」

義実「これは慰められてますね」

明美「やっと気が付いたか」

義実「あー僕はどうしてこんなにガキなんだろうか。どうしたら大人になれるんだろう。」

明美「可愛いを素直に受け止められたら大人になれるよ」

義実「そうなの!?」

明美「知らない、小学校の時の先生の受け売り」

義実「なんだ。じゃあ明美さんみたいになるにはどうしたらいいの?」

明美「なんで私?」

義実「その考え方とかどうやって身に着けたのかなって思って」

明美「身に着けたっていうか自然とそうなったかな、色んなことに挑戦して失敗して諦めてまた挑戦してその積み重ねだと思う」

義実「そっか、歴史が人を作るんですね」

明美「そういうこと」

義実「あと何年かかるのよ僕は・・・そういえば明美さんっていくつなの?」

明美「まだまだ大人には遠いようですね。いくつに見える?」

義実「え~35歳?」

明美「この言葉を繰り返して下さい。当てない、若く言う」

義実「当てない、若く言う」

明美「宜しい」

義実「ありがとうございます。今から五年、五年で今の明美さんに追いつけるかな」

明美「私をどう思ってるか知らないけど大丈夫だと思うよ。五年前の私の方がずっと不安定だったから。ちょうど歌手を辞めた時だし」

義実「そうだったんだ。歌を歌っていたのは聞いていたけど」

明美「うん、私にとっては大きなことだったな、無我夢中だった頃も楽しかったけど、そのタイミングで自分の形が分かったのかもね。勿論、色んな人に助けられたから分かったんだけど」

義実「自分の形か・・・」

明美「・・・別に義実君が分かってないって言ってる訳じゃない。」

義実「いや、僕は分かってない・・・よし!」

明美「どうしたの?」

義実「俺も辞める」

明美「なにを?」

義実「会社」

明美「どうしてそうなるの?私が変なこと言ったから?」

義実「変なことじゃないよ、それに今日ずっと考えてたんだ・・もう辞めよって」

明美「そうなの?」

義実「だってもういられないよ!元カノと今彼のいる会社、俺、ちゃんと空気悪くする自信ある。他の皆の為にも辞めた方がいい」

明美「そんなに気にしなくてもいいと思うけどな」

義実「僕がもたないんです」

明美「それなら仕方ないと思うけど、誰かの為に自分を犠牲にして欲しくはないな」

義実「僕にそんな高尚な気持ちはない、でもね、ちゃんとポジティブでもあるよ。これを期に新しいことしよって思えたから」

明美「新しいことって?」

義実「レストランとか」

明美「レストラン、また何で?全然職種違うんじゃない?」

義実「子供の頃の夢でね。学校行って免許だけは取ってたんだけど」

明美「初耳なんだけど」

義実「結局なってないから恥ずかしくて」

明美「恥ずかしがることないよ、凄くいいと思う。じゃあ義実君、得意料理とかあるんだ」

義実「オムライスかな・・これは元カノにも褒められたな」

明美「・・・私も食べたい。」

義実「いいですよ」

明美「ほんとに?本気にするよ?」

義実「どうぞ、どうぞ」

明美「レストランも本気だよね?」

義実「本気だよ、今日明美さんの話聞いて余計本気になった。逃げる為じゃなくて、前に進む為に頑張ろうって思えた。色んな事を引きずりまくる僕だけど。会社辞める決心がついた瞬間から凄く視界が開けた気がする。なんでも出来る気がする・・うん!僕は何でも出来る」

明美「まだ酔ってる?」

義実「人生、酔ってるぐらいの方が上手くいくんじゃい?」

明美「上手くないから」

義実「嘘!?」

明美「本当です」

義実「明美さん、ありがとう」

明美「唐突にどうしたの?」

義実「いや、今日ここに来て良かったなと思って・・最悪の誕生日になるところだった、いや自分でそうするところだった。今なら二人を祝福出来そうだよ」

明美「ほんとに?」

義実「もう少し時間下さい」

明美「はは」

義実「でもね、自分の中で変な形にせず、素直に力に変えれそう。明美さんのおかげで、だからありがとう」

明美「少し照れますね、その言葉は受け取りましょう。ただ見つけたのは義実君自身だからね、あなたは間違いなく素晴らしい人です」

義実「少し照れますね」


明美「義実君、ありがとう」

義実「唐突にどうしたんですか?」

明美「今日も来てくれてありがとうってだけ。交換、交換」

義実「今日は特に迷惑かけた気がしますが・・・交換?」

明美「私は嬉しかったってこと」

義実「それなら、良かったです」

明美「よし!決めた」

義実「何!?」

明美「私も手伝う!お店」

義実「何で?」

明美「だって義実君経営とか出来なそうだもん・・ほら私はこうして経験あるし、そう本当に心配なだけ」

義実「そっか」

明美「嫌?」

義実「嫌じゃないよ、嬉しいぐらいで」

明美「良かった」

義実「本気にしますよ?」

明美「どうぞ、どうぞ」

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