第9話「ゴブリンですわ!」
前回のあらすじ!
ゴブリン倒したら、女の子出てきた。
「えー、先ずは助けてくださり誠にありがとうございました」
ジェックさんに声をかけられて茂みから出てきた角魔族の女性は、私たちの前に立つなり、深々と頭を下げた。
「良いんですことよ。向こうから絡んできたんだから気にしないでくださいまし」
「オマエが返事するのかよ。にしても災難だったな、ゴブリンに追いかけられるだなんて。気が気でなかっただろ?」
「いやはい本当に。気を付けてたつもりでしたが、1匹倒したところでまんまと複数匹呼ばれちゃって、茂みに隠れてやり過ごすのに精一杯でした。皆さんに声をかける心の余地もなく、お恥ずかしい限りです……」
そう仰る彼女は身なりからして冒険者。しかし、すっかり憔悴していて、当分魔物は見たくないといった様子。
そして、私たちの足元にはゴブリンたちの遺体……。
「ジェックさん。先に遺体を処理してしまいましょう。遺体に囲まれて会話なんて気が滅入りますし何より、この光景をルルちゃんの目に焼き付けたくありませんわ」
「それもそうだ。なぁ、アンタ、名前は?」
「あ、グロウです」
「じゃあ、グロウ。こいつら処理するのに使える道具持ってねぇか?」
「生憎爆薬しか。火打ち石は……逃げてる間に落としてしまいました……」
「なら俺らの火打ち石使うか。嫌だろうが、燃やすから運ぶの手伝ってくれ。フィーラとリツ、そしてルルは落ちてる枝木を腕いっぱいに拾ってくれ。ここ最近天気だから草木も乾いてる筈だ。ホニョは……──」
「イヌ?」
「後ろに何か見つけたら吠えてくれ」
「イヌッ!」
こうして、遺体を焼却すべく、その場を後にする。ジェックさんとグロウさんは遺体がルルちゃんの目に触れないようホニョちゃんと最後尾で並走ですわ。
「フィーラさん、どうしてまものをもやすのー?」
「動物や他の魔物が寄り付かないようにするためですわ。遺体を放ったらかしにすると、それを食べるものが現れて、また食べれるかもと定期的に現れるようになっちゃうんですわ。魔物退治のお約束でしてよ」
「へ〜。なのー」
ルルちゃんが納得すると、「他にもあるぜ」と最後尾のジェックさんが切り出します。
「ゴブリンに至っては余計処理を心がけなきゃいけねんだ。アイツらは遺体を見つければそれを利用して、二次被害防止に近付いた人を住処に連れ去っちまうからな」
「その連れ去られる側になりかねなかったのが私ですね。ゔっふぅ……」
「無理に合いの手しなくていいから……」
「どうして、ゴブリンは、もっときをつけるのー?」
「知りたいか? 何故なら──、」
「ちょっとジェックさん?! ルルちゃんにお教えするつもりでして?! それだけは──!」
言葉を返そうとするジェックさんを制しようとしたその瞬間、私の肩にリツさんの手が置かれた。
無知被害を防ぐためにも──。うら哀しそうなリツさんの顔は確かにそう言わんとしていた。
グロウさんも同意見なのでしょう。被害者になりかけてた身ながら止めようとせず、リツさん同様、伝えるべきだと苦渋の顔で仰っていた。
そう言われてしまっては、お教えするしかないじゃないですか……!! 保護者であるなら尚更……!!
私は拳を強く握り締めて、「続きを……!」と促す。
「どうしてゴブリンはより気を付けなければならないか……──それは!!」
「「「それは?!」」」
「人をいたぶり!!」
「「「人をいたぶり?!」」」
「弱らせたら住処へ持ち帰り!!」
「「「弱らせたら住処へ持ち帰り?!」」」
「下着から何まで脱がして!!」
「「「下着から何まで脱がして?!」」」
「全身隈なく落書きするからだーーーーッッッッ!!!!!!」
「「「いやァーーーーッッッッ!!!!!??」」」
「イヌアァッッ!!」
「しかも油性の黒樹液だから一龍ヶ月は取れないッッ!!!!」
「「「ギャアァーーーーッッッッ!!!!??」」」
「シャアァッッ!!」
「どうしてらくがきがこわいのー」
「「「ズコーッ!!」」」
「イヌんっ」
なんということでしょう! ルルちゃん、恐ろしさが分かってない!!
「顔にフンフン描かれたら嫌だろ?」
「おえーーなの!!」
理解したようで何より。
「結果として、嫌でもゴブリンにやられた痕が残るから、1龍ヶ月は確定で悪目立ちして、それが心的外傷になって、逃げるように地元に帰ったり引っ越したりが毎龍年後を絶たないの。私の友達もそれで冒険者引退した……」
「だからこそ、1匹居たら10匹は居るの代名詞たるゴブリンは1匹残らず駆逐すべきだ! つーことで住処見つけ出してぶちのめすぞ!!」
「ちょちょちょいお待ちなさってジェックさん! 貴方らしくないブチ切れっぷりでしてよ! 何か怒れる理由がありまして?!」
「師匠の仇なんだよ! ゴブリン集団の対処で出陣して、逃げ遅れた村の子どもを庇って連れてかれた! そしたら戻ってくるなり魔王の野郎に「ゴブリン如きに遅れをとった」と解雇にされた! 師匠は「子どもを逃がせたなら名誉の傷」って挫けてなかったのによ!!」
「うっわ……、魔王のブラックな噂は聞いてたけど予想以上ですね。というかジェックさん、魔王軍だったんですか」
「腹いせに辞めてやったけどな! それでも同期と暗黙の了解で誓い合ったのは忘れてねぇよ! 俺たちを育ててくれた師匠の人生壊したゴブリンは滅ぼすべし! ってなァ!! つーことでリツ、もうルルの耳塞がなくていいぞ」
「うわぁ急に冷静になった!」
「ということでグロウ。コイツらの焼却終えたら見つかった場所教えてくれ。そこから逆算して住処探す」
「あ、でしたら案内します。一端の冒険者として、やられっぱなしは名折れなので」
「その意気や良し。オマエらも付き合ってくれるか?」
「構いませんことよ。治安維持も(王家の)務めですわ」
「御二方が仰るなら、私めは何処へでも」
「ありがとうな。んじゃ、さっさと焼却場所探すとするか」
そう言ってジェックさんは、より周囲を見回す。1龍ヶ月以上の付き合いとなりますが、彼がこんなに感情的になる様を見るのは初めてだった。
「余程慕ってらしたのですね、お師匠さまのこと。同期さんからも慕われてた方みたいで」
「上司の中で唯一俺を鍛えてくれたんだよ。出自云々で燻っていい兵士じゃないって、僅かでも時間を捻出しては稽古つけてくれた。あの人が居なかったら今ほど動けてないと断言する」
「……であれば、尚更倒さないとですわね」
「おうともよ」
ジェックさんが胸を叩く音を後ろ耳に聞きながら、私たちの焼却場所探しは続く。
ぐるナイの『ピタリ賞』のくだり大好き。
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