第8話「数日後ですわ!」
前回のあらすじ!!
「フィーラさんたちの旅の無事を祈りましょう」
「絶滅危惧種見つけましたわ〜〜ッッ!!!!」
逃げられた。
◇ ◇ ◇
「わー。ちょうちょなのー」
「蝶々ですわね〜。ヒラヒラ飛んでて微笑ましいですわね〜」
「わー。かわなのー」
「川だなぁ。お日さまの光で綺麗に反射してるなぁ」
「わー。はしなのー」
「橋でございますわね。頑丈に作られてるおかげで、安心して渡れますわ」
「わー。ひとがみちのまんなかでフンフンしているのー」
「イヌアァッ!!」
「あ、ごめんなさい見せつけてすいません! 噛まないで殴らないで蹴らないでギャアアアアッッ!!!!」
タミテミの町を出発して幾数日──、私たちの祖国を目指す旅は今のところ平和に続いていた。道中現れた余計なのは見なかったことにしてくださいまし。
ルルちゃんは道行くものにずっと「わー。〇〇なのー」と興味津々だった。
分かりますわよ、その気持ち。初めて他国へ赴いた幼少期も、城下町の景色がガラリと違くて時間いっぱい眺めてましたもの。
それはそうと……ルルちゃんは何歳なのでしょうか? なんとなく5歳前後だとは憶測を立てているのだが、先程の「フンフン」からしてもっと幼い可能性も?
「ルルちゃん、貴女は今何歳なのですか?」
「たぶん4さいだよー」
「多分?」
「いっさいなってるかどうかのときに、きょうかいのまえにいたんだってー。だから、たぶん4さいなのー」
ひんっ……。
1歳前後で捨てられた──。あっさり明かされた酷い話に心が痛くなる。
ですが、ルルちゃん本人が気にしている素振りを見せない以上、こちらが気にするのは野暮。捨てられた云々は終わりにしましょう。
せっかくなので、他の方にも聞いてみますか。
「ジェックさん、因みに貴方は現在お幾つですか?」
「俺? 現在は17だな」
「あらま奇遇、私もですことよ。リツさんはどうでしょう?」
「御歳19でございます」
「歳上でしたか。では2番目ですわね」
「? 最年長じゃなくてか?」
「失礼、言葉足らずでしたわ。私、城下町に良く遊びに行ってた話をしてましたわね」
「非合法でな」
「そこら辺の葉っぱ、空気孔に詰めますわよ?」
思わずそこら辺の茂みに手を伸ばしますが、直ぐに引っこめる。このような戯れ、ルルちゃんの前ではやれませんわ。
なので、「やーいやーい、フゥゥゥゥ!!」と仕返したい気持ちをグッと堪えて、脱線しかけた話を戻す。
「私、城下町に歳違いの親友たちが居りますの。特に親しいのが今龍年で20歳と18歳と16歳の3人ですわ。だからリツさんは2番目ですことよ」
「地元組含めて上から2番目ってことか。じゃあ俺とフィーラは4番目だな」
「じゃあ、わたしは 5ばんめなのー」
「それを言うなら6番目だな」
「?」
ルルちゃんは首を傾げる。そらそうですわ。
「ちょっとジェックさん。ルルちゃん、ピンときてませんわよ。言うならちゃんと説明してくださいまし」
「おっと失敬。どうしてかと言うと──、」
「5番目の方は居りませんが、4番目の方が2人居ますので、4、5、6……と数えるのです。だからルルさまは6番目と訂正されたのでございます」
「なるへそー」
「もう喋ってる!」
「ハイ〜〜出遅れ〜〜ッ!!」
「一々おちょくるな17歳児! ガキかおまえは! ガキだなうん」
「ガキと言った方がガキなんです〜〜ッ!! 誕生日いつですか〜〜ッ?!」
「おうじゃあ、いっせーので互いの答えようぜ! 誕生日遅い方がガキな!!」
「あのふたり、どうしてがきがきいってるのー?」
「心の幼少期を満たし合っているのですよ」
「ちょっとリツさん、勝手に決め付けないでくださいまし! 割と的を得てはいますけども!!」
「そこは否定しないのかよ」
「先んじて認めれば私が大人に見える法則」
「貴様ァッ! ──! ちょっとおまえらストップ」
「? 急にどうし……あ」
前方を見やると、私たちが向かう先に、小柄な魔物が複数匹彷徨いていた。
まるで何かを探しているような素振り。
そのうちの1匹が「フゴッ!」と私たちに気付き、仲間たちに報せると、探しものそっちのけで、こちらにじりじりと近寄ってきた。
「明らかに、標的にしてきてますわね」
「魔力無いから気付けなかった。ちょっと待ってろ」
そう言ってジェックさんが前に出ると、1匹が「キシャアッ!」と得物を持って彼に飛びかかった。
それをあっさり見切り、得物が届くよりも早く斬り捨てると、彼は一人解説を始める。
「ゴブリン。基本群れで生息しており、得物を使って狩りをする。その性格は残虐極まりなく、人を襲っての略奪行為に躊躇もなければ、町村を襲撃する事例も多数」
もう1匹のゴブリンが「ギギェッ!?」と、首から血を噴き出して倒れます。
「しかし、特に厄介なのは魔力を持つ個体が限られていること。そのために魔力での探知は殆ど機能せず、目視以外での発見は困難。気付かれる距離まで俺が気付けなかったのもそれが原因だな」
また1匹、「ハフンッ!?」と頭をめり込むように斬られて地に伏すと、残りの2匹は「ピョゲェッ!?」と一纏めに胸を横一閃されて、力尽きました。
「故に、戦闘に入ってしまった際は、なるべく超短期決戦に持ち込むべし。それが魔王軍で教わったことだった」
「「「おお〜〜……!!」」」
まるで川を流るる水の如し超連撃で魔物を倒してみせたジェックさんに思わず拍手を送る。これにはリツさんとルルちゃんも『やんややんや』ですわ。
「お疲れさまでしたわジェックさん。ナイスぶっ倒しでしたわ!」
「おう、しかし臓器出ないよう倒すのはやっぱ神経使うな。ルルは具合悪くなってないか?」
「そうでしたわ。ルルちゃん、おえー……って気分にはなっていませんか?」
「へいきなのー。それよりもうごき、かっこよかったのー」
「なら安心ですわ。ですが気分悪くなったら直ぐに仰ってくださいね?」
「はーいなのー」
ルルちゃんが手を挙げて、リツさんが水筒をしまったところで、ジェックさんがパンッ──と手を叩く。
「んじゃ、話を戻すぞ。今し方、ゴブリンは魔力を持たないって話したな?」
「話してましたわね。それが何か?」
「それ即ち、魔力持ちでもゴブリンの視界から外れさえすればワンチャン隠れ遂せるってことだ。ということで、そこのヤツ、もう大丈夫だから出てこい」
「そこ? ……あっ」
一体何のことかと、ジェックさんが見つめる方向に目を向けると、茂みの向こうから、1人の角魔族女性が気まずそうに顔を出していた。
グロよりもカッコいいが勝ることはあると思う。
評価等、よろしくお願いします。
第9話→明日『18:00』