第70話「最終回ですわ!」
前回のあらすじ!
人魔戦争、終結──!!
戦争が終わってから5龍年間──、人生と世界は激動を迎えた。
◆ ◆ ◆
「遺言は?」
「さっさと殺れ」
「潔し」
先ず、魔王は魔王城下町で公開処刑となった。グロウさんの父親のように徴兵されて生命を落とした兵士の遺族から尽く怨恨を買っており、終ぞ誰にも庇われることなく首を落とされたと聞いている。
処刑完了後、レヴォン魔王子はその場で『魔王』へ即位し、グリーズ上官を腹心に置いたそう。『前魔王の嫡男』と中指を立てられそうなものだが、魔王が暴挙を働く傍らで行っていたという戦争遺族への謝罪行脚に生活援助、貧困町村への立て直し支援金といった地道な信頼構築で支持を集めていたそうで、特に不満が生じることなく玉座を継いだのだという。
そうそう中指といえば! レヴォンさんは「戦争を終えられた今こそ身を固めよう」と玉座継承の翌日に結婚を発表したのだが、その相手が武家貴族の出身で実は幼馴染みだという『中指のメフ』さんだった!
駐屯地で「魔王子さまから鞍替えする気はございませぬ」とは仰っていましたが、それが異性としての意味合いも込められていたとは私の目を持ってしても気付かなんだ! 気付けてたまるか!!
なのですっかり妻の顔になった彼女のことは出会う度に「オンナァ!」とおちょくることにしている。今後とも健やかに中指し合える存在でいてくれると私は確信している。
「「人魔の未来に、栄光の輝きがあらんことを!!」」
レヴォンさんの『魔王襲名』から程なくして、人間族と魔族は和睦協定を結んだ。
その和睦協定調印式は、時を同じく戴冠式を終えて『女王襲名』した私が担わせてもらった。
元々両親は養子を真剣に考えるほどに子宝に恵まれず、待望の第一子──つまり私を出産した時は両親共に43歳。いつ身体に不調が来てもおかしくない年齢だったので終戦を機に隠居、私が女王即位の運びとなったのだ。
和睦協定が議題に上がった際、当然ながら「信用できるのか?」と不安の声は各国から相次いだ。しかし、ここでレインの名声が光路を示した!
彼女が私を奪還すべく魔界を目指す傍ら、道中の町村を苦しめていた悪党・魔物問題をついでに『辻斬り』してきたことで「恩人が仕える主君が和睦賛成派なら間違いない!」と各町村が和睦協定を後押ししてくれたのだ!!
これはもうレインのおかげと言っても過言ではなく、「貴女の生き様が和睦協定の一助になりましたよ」と伝えれば、彼女がボロボロと大粒の涙を零したのは好い思い出だ。尚、そのレインはというと……──、
「姫さまに部隊の皆さん、そして、ジェラルド将ぐ……お父さん、長らくお世話になりました……!!」
1龍年間の交際期間の末に、レインはポムオ王子に嫁いだ。彼女の晴れ着姿を見た時はジェラルド将軍共々ボロッボロに泣き腫らして化粧直しがまぁ大変だった。
彼女はポムオ王子に求婚された当初、「これといった血筋でもない一般兵士」と国のしょうもない保守派から陰口を叩かれていたそうだ。けれど、『和睦協定・裏の立役者』と成り上がってからは、それもすっかりなりを潜め、結婚を発表した際はパラウア国民一同歓迎したと聞いている。
嘗て古ぼけた服で路地裏に座り込む貧困街の少女は『縁の下の英雄』となり、終には『隣国の王妃』となってみせた。これを成功譚と呼ばすしてなんと呼ぶ?
もちろん、結婚したからハイ終わり! ではない。まだ10代たる彼女の人生は長いのだ。
それでも、彼女は幸も不幸も全て抱えた上で輝かしい日々を歩んでいくのだと私は確信している。どうかお幸せに!!
「好きな食べ物何ですか?」
「ワニ肉」
「婚パで答えることじゃない!!」
その影響もあってか、ホワイトロック王大国始め、各地で婚活が大流行した!
まぁ、いつ死んでもおかしくない戦時下故に「結婚した傍から独り身にしたくないなぁ……」と結婚を半ば諦める者が多かったことを思えば興味も湧くというもの。『第2の人生』を検討できるようになった今の時代を迎えられたのが私はとても嬉しい。
因みに、国主催で婚パをさせて一番話題をかっさらったのは、何を隠そうリツさんだった。
私の王位継承後正式に世話役として雇用した彼女は給仕として参加していたのだが、料理が減っていれば即座に補充し、参加者がうっかり飲食物を零せば一秒足らずで掃除用具を持って駆けつける相変わらずの先読みと手際の良さが世話役長の目に留まり、彼女直々に『世話役長候補』として鍛えられることになったのだ。なんなら僅か1龍年で『世話役長候補筆頭』になってて笑いが止まらない。
「行ってきますなーのー」
一方、正式に養子となったルルちゃんは現在、国立学校初等部へ通っている。邪気のない同級生たちと日々勉学を楽しみながら愉快に学校生活を満喫していた。魔族故の種族差別がないか心配だったが何事もなく楽しめていてお義母さん嬉しい。
「イヌッ!」
「やぁ妻よ。今日も息災だったか?」
「「「「イヌンヌンヌヌヌン」」」」
「イヌッ!!」
魔界から連れてきた愛犬ホニョちゃんは私の元で暮らしながら、群れを引き連れて国の自然保護区域に転住した『ナイトキング・ウルフ』夜王さんと、その間に授かった子どもたちと毎晩会っている。
因みに、「魔力を通じて寿命を分け与えられた?! 仕組みを知りたい!」と生物学者たちに迫られたが丁重にシバいてお帰りいただいた。愛犬を研究させる気は金輪際ないし、独断強行するのなら全権限を使って研究内容を剥奪してやる所存だとしっかり釘を刺してある。学者は研究成果を生命より重んじる存在なので、これくらいしないと自重しないのだ。
そして……──。
「英雄ジェック・フューゴーよ。シーラ・ホワイトロック女王の名において、貴方を御国の『将軍候補生』に任命する」
「拝命いたします」
ジェックさんは人間界での地位を改めて確立すべく、ジェラルド将軍の『将軍補佐』として人生を再出立させた。
正直な話、さっさと婿に入れてしまう気でいたが、「英雄と讃えられようが、ぽっと出の男が急に台頭するのはマズい」と本人たっての希望だ。
けれど、さもありなん。周囲の反発なく婿入りさせるなら一理あるし、何よりジェラルド将軍が後釜を探していたのだ。
というのも、戦闘能力だけなら次期将軍筆頭候補だったレインが隣国へ嫁いだ以前に、彼女は人の上に立つ能力が絶望的に低かった。それを思えば実務経験はこれからとして、戦闘能力があり育成能力もグロウさんで立証済み、尚且つ旅路を通じて『人に意見を述べられて物言いも辞さない』ことを証明してきた彼は願ってもない人材だったわけで、実力を認めさせるべく弛まぬ鍛錬と組手に励む日々を送った。
ああ、そうだ。エイジンさんを始めとした魔族の皆々は、人間族と新生魔王軍として共同整備した『ソアース・トンネル』を通って魔界へ帰ったのだが、グロウさん・グレストさん・エイティさんといった一部の冒険者は「折角だから」と人間界で冒険を始めたのだ。
それでも、この5龍年の間でまた行われた『第25回・リプフォード大武闘会』にはしっかり参加していて、ジェックさんも約束を果たすべく参戦した。その際、「魔力ちっとも感じませんがどうしました?!」と司会に訊かれるなり「魔王討伐の代償に使い果たした!!」と馬鹿正直に明かした途端、「ヒューーッッ!!」と観衆全員大歓喜だった。
そして、現在はというと……──、
◇ ◇ ◇
「あら……」
城の中を歩いていた私は、前方にジェックさんと2人の兵士を見つけた。
2人の兵士には見覚えがある。ジェックさんが現在の地位に至って初めてできた部下だ。
「ジェック王配! お勤めお疲れ様です!」
「おう、お疲れ。警備はどうだ?」
「はっ! 現在異常ありません!」
「ならよし。……それはそうと、畏まって『王配』と呼ばなくてもいいぞ? 俺としても『将軍』歴の方が長いし」
「何を言いますか! 貴方がジェラルド将軍共に『両翼』となって2龍年経ていますが、女王陛下に『婿入り』して1龍年経過しているのも事実! 先龍月の発表もあるのですから、いつまでもむず痒っていては示しがつきませんよ!」
どうやら『私の夫』を堂々名乗るのに未だ照れ臭さが拭えていない様子。やることやっといて部下に怒られる姿に内心滑稽ながら近づいていく。
「あーうん……そうだよな。責任ある立場なんだから、いい加減『王配』呼びに慣れないとな。それはそうとフィーラは服を返しにいけ」
と、ジェックさんは言うや否や、顔を合わせることなくすれ違おうとした私の世話役ヘッドキャップと黒髪ウィッグを取り上げたのだった。
ヘッドキャップとウィッグが外され、丁寧に詰め込んだ金色の長髪が背中にかかり、「リツを呼んでくれ」と部下に指示しながら私を『お姫さま抱っこ』する夫へ、私は思わず声を上げる。
「なんで見ずして分かったんですの?! 今回はウィッグまで用意したというのに!!」
「魔力を失っても魔力は探知できんだよ少しは自重しろや! 腹に響くだろうが!!」
「ちょっとした散歩ですわよ! 軽度でも運動することで体力低下を防ぐのが大事だと知り得てますわ! つまりこれは必要な散歩です!!」
「散歩なら大人しくリツなり連れ歩けや! 変装してる時点で無断外出なのが見え見えなんだわ! 大方政務から逃げてきたんだろ!?」
「失敬な! しっかりと終わらせた上での外出ですわよ!!」
「ならリツを連れてけぇぇぇェェェええェえぇえええぇえぇぇええぇえぇえぇッッッッ!!!!!!!!!!」
ジェックさんの怒号が城中に轟いた。
ということで現在『4龍ヶ月目』です。グッバイ!!
〜Fin〜
『全70話』のご愛読ありがとうございました!
『計63日』の投稿を通じて色んな方々と繋がれて、とても素敵で有意義な日々でした!
次回作は未定ですが、また見かけたらよろしくお願いします!
改めて、今日までご愛読ありがとうございました!!
 




