第7話「後日談ですわ!」
前回のあらすじ!
町を出た。
ルルが村を出た翌日──。
人々の活動が本格化し始める時間帯になったので日用品の買い出しに出ていると、久方ぶりに町の広場がざわめきたっていた。
「そこの青年、これは一体何の騒ぎですかな?」
「あぁ、神父さん! どうも魔物が死んだみたいなんだよ。気晴らしに広場を散歩してたっつー婆さんが立て看板を見て騒いでたらしい」
「魔物? 町の外を彷徨いていた件の魔物ですか?」
「そう、それ! あの魔物の遺体が東門の辺りにあるみたいでさ、その看板には『子どもが近付かないようにしとけ』って書いてんだとさ。つーわけで俺は野次馬に行く。この目で確認しねぇと落ち着かねぇからな!」
そう締め括って青年は、東門を目指して走り去っていった。怖いもの見たさは人の性かはたまた……。
大人たちの隙間を縫うように抜けて、地面に横たわった看板を遠巻きに読んでみれば、
『東門から北へ進んだ場所に魔物の遺体有り。子どもに見せるべからず』
──と、そう書いてあった。子どもが近付かぬよう大工が鋸を持ち出してきているのも納得だ。
顎に手を当てて思考する。
「子どもたちへ説明するためにも、見ておくべきですかね……?」
どうやら怖いもの見たさは私にも当てはまるらしい。ぞろぞろと東門へ目指していく町民に紛れて、私も遺体の元へ足を運ぶ。
◇ ◇ ◇
「これまた凄いですね……」
町民に取り巻かれていた魔物──改めツキートスの遺体は想像以上の巨体だった。
しかも、牙からしてかなりの老年。動きは単純とはいえど、硬質な皮膚を思えば討伐までかなり骨が折れただろう。現魔王軍だと撃退が精一杯だったと町長の執事が掲示板に書いていたのも納得だ。今の魔王軍を鍛え直してやりたい。
死因は見た通り、首を一刀両断されての即死。斬傷を見る限り巨大剣による一撃必殺──そういったところだろう。
これを魔王軍以外で成せるとするなら……ジェックさんと呼ばれた青年だろうか? 会話中の佇まいと見なくても分かる膨大な魔力量を見るに、彼が討伐したなら辻褄が合う。
しかし、彼が腰に提げていたのは平均的な長さの片手剣で、魔物からも彼の魔力の残穢は感じ取れない。となれば、フィーラさんかリツさんと呼ばれた女性の魔法が何らかの形で細工をしたのだろうか? 彼女らが旅立った手前、もう確かめる由もないが。
まぁ、彼女らに関しては何も言うまい。それ以上に不可解なのが一点。
「どうして此処に来たのでしょう?」
ツキートスは縄張り意識が強くて侵入者に容赦しない。けれど、縄張り意識が強過ぎて無闇に縄張りの外へ出ることもない。ツキートスの生息域は町から遠く離れているから此処まで来ること自体異常で、生息域が荒れた話も聞かない。それ即ち──、
「この魔物騒ぎ、何か裏がありますね」
「うわっ、なんじゃこりゃ!」
突如響いた驚愕する声に顔を上げると、雑貨店の店長さんが怒りを顕著に本を読んでいた。
「店長さん、どうなさいましたか?」
「あぁ、神父さん! これを見てくれ! 『大人たちだけで共有すべし』って書いてたから読んでみりゃ、とんでもないのが記されてた!!」
私はその本を受け取り、ざっと目を通す。
そして……、思わず眉間を摘んだ。
「神父さん、何て書いてたんですか?」
「……酷い字ですが察するに、町長の裏帳簿ですね。平たく言うと、何日に魔物を呼び寄せ洗脳し、いくら討伐依頼費を徴収して、何で豪遊したかが記されています。悪事の辻褄合わせには必須のものです」
「それが証拠品ですか?!」
「!」
懐かしい声に振り返ると、複数人の魔王軍兵士が町民を掻き分けて来ていた。
そのうちの一人が前に出て、私に敬礼してくる。
「お久しぶりです、カローレ教官。いえ……カローレ神父どの。タミテミ伝書鳩による匿名通報を受けて、実態調査と魔物の回収、スーゲ町長とその取り巻きの逮捕に来ました次第です」
「お久しぶりです。どこまでご存知か教えていただけますか?」
「カローレ神父なら問題ないでしょう。今し方お話したスーゲ町長とその取り巻きによる魔物騒ぎに、それを悪用した不正徴収、それと我々に依頼して撃退させたと偽の情報を町民に流していたと、昨日の朝方届いた伝書に記されていたと聞いています」
「なんとまぁ……」
魔王軍兵士による撃退も嘘である──。裏帳簿を読んだ時点で察していたことだが、改めて言葉にされると惨い話だ。
「つきましては、我々魔王軍に代わって魔物を退治してくれた人物に心当たりないでしょうか? 問題を解決してくれたその人に感謝状と謝礼金を贈呈したいのです!」
「ふむ……」
そう言われて、私の脳裏をフィーラさんたちの姿が過ぎった。
「……残念ながら存じませんな。ここ最近で魔物を倒せそうな実力者には会っていない」
「了解しました。更にお手数ですが、実態解明のため、一時的なご同行と聴取願います!」
「構いませんよ。となれば次は町長宅でしょうか?」
「そうなりますね。他の兵士も町長宅に着いた頃でしょうし、早速向かうとしましょう」
「では、こちらの裏帳簿は渡しておきますね。それと、解読班の手配を推奨します。読めば理解ります」
「はぁ……? ……数字以外読めねぇ!!」
◇ ◇ ◇
町長宅に着くと、既に大勢がお縄について連れ出された後だった。
現場で対処にあたっていた一人がこちらに気付き、私に声をかけてくる。
「カローレ教かゲフン……、カローレ神父、お久しぶりです。見たところ聴取にご協力してくださっているようで、感謝いたします!」
「お疲れさまです。それにしても、まだ町に到着して間もないというのに、もう連行段階に至った様子。首尾がよろしいことです」
「はい。ですが不思議なことに、私たちが町長宅へ入ったときには既に町長とその関係者は下着のみで拘束された状態だったのです」
「拘束されていた?」
「しかも警備兵は全員死角から一撃だったそうで、誰にやられたかも分からないそうです。それほどの手練となれば、彼らを拘束した者と魔物討伐者は同一人物かも……そのような見解が広まりつつあります」
「同一人物、ですか……?」
これを聞いて、ある可能性が浮上しますが、一旦頭の片隅に退けて、話を続ける。
「ふむ……有り得る話ですが、調べてみない分には早計ですね。当時を覚えている人物はいましたか?」
「執事曰く、角魔族が警備兵を倒す後ろ姿を見たそうですが、顔を確認せずに逃げた直後をやられたそうです。町長は外傷も無ければ意識もハッキリしていますが、とても聞き出せる状態じゃあありません」
「と言うと?」
訊けば、「会った方が早いですね」と兵士は断言し、私を連行された町長の元へ案内してくれましたが……──、
「〇ア゛wせdrftgy□:こlpッ! ○△$♪?!●&%#□〇ッ!!」
「なんて?」
「このように、マトモに声を発せられる状態ではごさいません」
「なんとまぁ。今は喉を壊す時期ではない筈ですが……?」
「今の状態については目星がついています」
そう言って兵士が持って来させたのは、1本のボトルでした。
「水割りを大前提とした超高度数の酒です。これを原液で一気飲みさせられて喉が爆散ロックンロールしたのかと思われます」
「悪事を思えば因果応報ですね。他に分かってることは?」
「執筆は字が汚く絶望的なので、詳細は喉の完治待ちです。ですが『はい』『いいえ』問答をしたところ、現状判明しているのは、襲撃者は3人──、」
うん……?
「角魔族の男性1人。同じく角魔族の女性が1人とと、尖耳族の女性が1人──、」
あら……?
「町民ではない初対面で──、」
おん……?
「推定15〜20代だったそうです」
「………………」
瞬間、私の脳裏に、とある3人組が浮かび上がった。
──こちらの2人と旅をしております。
──お言葉に甘えさせてもらおう。
──私めも構いませんわ。
……彼女たちですね。
間違いなく、フィーラさんたちですね。
犬をルルに預けている間の用事って、魔物討伐と、町長宅襲撃だったんですね。
……そっかー。魔物討伐は彼女たちだろうなーとは思ってたけど、町長宅襲撃もだったかー。
……………………。
ルルを預けたの、早計だったかなー……?
「カローレ神父どの? どうかなさいましたか?」
「ん? あぁ、いや……。記憶を巡ってみましたが、そのような3人は見かけなかったなと」
「左様ですか。あぁ、それと、小声でひとつ」
「何でしょう?」
「実は先日、人間族の人質が魔王城を脱走しておりまして。魔王軍の兵士と世話役と犬を引き連れているそうなのですが、心当たりありませんでしょうか?」
うう〜〜〜〜ん……?!
──レッツゴーですわ〜〜ッッ!!
──すっげぇ手伝えるじゃん……。
──神父さまも、どうかお元気で。
──イヌッ!
絶対、彼女たちですね。
どの方向から注視しても、間違いなく、フィーラさんたちですね。
思いっきり、人間族だと明かしてきてましたね。兵士と世話役は確定ではないが、ほぼ間違いないですね。
……そっかー。祖国を目指す旅は旅でも、祖国を目指して逃走中の旅だったかー。嘘は事実を織り交ぜれば通りやすいとは良く言うけど、すっかり騙されちゃったなー。
………………………………。
ルルを託したの、マジで早計だったかなー……?
「カローレ神父どのー?」
「! ……失礼、直近の記憶を眺めてみましたが、やはり思い当たる節はありませんね」
「左様でしたか。であれば、この話は終わりとします。また何か思い出した際は、些細でも教えてくださればありがたいです。では、これにて失敬!」
そう言って、兵士は証拠品押収班に合流すべく、私の前から立ち去った。
朝焼けを背に旅立った4人と1匹を思い浮かべる。
ルルを任せたのが今更不安になったのは紛れもない事実。しかし、ルルが共にありたいと願った程の善性を秘めていたのも、また紛れもない真実だ。
ならば、ルルの直感を信じて、ルルが信じた彼女たちが捕えられぬよう全力で隠し貫こうではないか。
私は改めて、彼女たちの旅の成功を祈った。
◇ ◇ ◇
一方、その頃──、
「トカゲ〜」
「ちょっとお待ちなすって! あれ絶滅危惧種のアニョペリノトカゲじゃありませんこと!?」
「あのトカゲ、よくいるよー」
「魔界ではポピュラーなトカゲでございますわね」
「よっしゃあ! 何匹か人間界に連れ帰って再繁殖できないか研究させますわよ〜〜ッッ!!!!」
「イヌッ!」
「先急ごうよォ〜〜ッッ!!!!」
姫さま一行は道中見つけた絶滅危惧種に、心の幼少期を爆発させていた(1人除く)!!
ということで、本日の投稿は終わりとします。
今後は最終話まで毎日『18:00』投稿しますので、何卒宜しくお願いいたします!!
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第8話→明日『18:00』