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第68話「ジェックですわ!」

前回のあらすじ!

魔王子レヴォン、魔王と縁を切る──!!

ジェック、飛ばされる♨

 あらゆる記憶が(つまび)らかにされ、ジェックの脳裏を駆け巡る。


 最初に思い出したのは、3歳当時。仕事から帰ってきた酒浸りの母親が急にぶってきて「オマエを産むんじゃなかった」と罵詈雑言を浴びせてきたんだった。突然の暴力と激痛に泣けば泣き止むまでぶたれたのは鮮明に憶えている。

 以来、母親にぶたれまいと部屋の隅でじっとした。終いにはぶたれるとしても、とにかく声と気配を押し殺した。

 ぶたれて……じっとして……ぶたれて……じっとして……ぶたれて……ぶたれて……ぶたれて……それが日課だった。


 そんな日々を送っていると、7歳当時、魔法が芽生えた。当時は『何か』が芽生えた程度にしか把握していなかったが、今思えば、あの日が発現日だ。


 そして9歳当時、毎日酒を煽っていた母親は遂に身体を壊し、1龍年の病床生活の末に亡くなった。看病しようと試みては蹴り飛ばされたのは未だに忘れられない。


 母親の簡素な葬儀が終わった翌龍月、魔王軍から使者が来た。当時は地獄から抜け出したい一心でついて行ったが、これが良くなかった。

 他の新兵に混じって入軍式を済ませた直後、迎えの兵士と一緒にとある部屋で待機していたら、父親だという魔王が不意に顔を焼いてきたのだ。迎えの兵士は本気で知らなかったのかあからさまに狼狽していた。

 アイツはパニックに陥った俺を見下ろしながら「二度とその顔を晒すな」と無理やりフルフェイスの兜を被せてくると、迎えの兵士を連れて立ち去った。その後、迎えの兵士がこっそり手配してくれた軍医が駆けつけてくれてなかったらもっと酷い痕になっていたこと間違いなしだ。


 それからは更なる地獄で散々だった。自分を燻らせまいと鍛えてくれた師匠も解雇され、無理難題な出撃を強いられる日々。何回「なんで生き延びちまった……!!」と悔やんだことか。

 結果として、自発的に行動する気も失せて、自ら生命を断つ気力すら湧かなくなって……もう、とにかく「生命よ終われ」と願う毎日だった。


 ──そしたら、フィーラに出逢った。


 思考停止状態だった俺なら下手な真似はすまい……──そう魔王は目論んで俺に見張りをさせたのだろう。ま、人生取り戻す『一か八か』を狙って、共に脱走してやったが。

 そんな彼女との出逢いから今日まで約3龍ヶ月……とにかく振り回された。花粉で酷い目にあったり女体化させられた件は一生根に持ってやる。

 けれど……それ以外は悪くない振り回され方だった。全部が全部ではないけれど、「馬鹿だなぁ」と内心ほくそ笑んで、実際に馬鹿にして喧嘩……というよりじゃれ合いを何度も繰り返した、初めての真っ当な愛しい日々。にしても……


 ──フィーラの唇、温かかったなぁ……。


 だからなのだろうか? この『温もり』を忘れないためにも、全力で生きたいと思えてる。心の底から彼女のために力を使って、生きてまた会いたいと思えてるのだ。さっきまで、魔王にぶつけることばかり考えていたこの10龍年の怨恨を、たった3龍ヶ月の時を過ごした彼女のために使いたいのだ。


 だから……、




 ──この辱められた怒りは……曇天を晴らして、未来に相応しい晴天を迎えるためにこそ使う。




 ◇ ◇ ◇


 彼の一撃を見届けよう──。地面に落ちたジェックさんの仮面を拾った(わたくし)は「失礼します!」と夜王さんの身体をよじ登る。

 魔王目掛けて天高く飛んでいく彼の姿を見つけると、ちょうど大剣『大海(たいかい)』を振り上げたところだった。



 ──そして彼は、内なる魔力を全て『大海』へ乗せた!!



「なん、という……」


 そのあまりの凄まじさに、(わたくし)は息を呑む。

 リプフォードの時とは比べものにならない、彼が『大海』に纏わせた魔力は天を貫く程に伸びていた。

 (わたくし)が殺されかけてからというもの、彼は爆発しそうだった魔力をずっと内包していた。今更ながら、あの魔力量をどうして内包できていたのだろう?

 一瞬だけ周囲の表情を伺えば、目に見える全員がジェックさんの魔力にあんぐりと口を開けていた。フィーラ部隊の仲間たちにジェラルド将軍、エイティさんやグリーズ上官といった歴戦の強者たる面々すら言葉を失っていて、それだけに彼の魔力量が異常なのだと改めて理解する。

 (わたくし)は今度は目を逸らさないように……瞬きしないようにしながら、同様に目を逸らさずとも絶句しているグレストさんに問う。


「グレストさん、つかぬ事をお訊きします。以前、ジェックさんは『100%の魔力』を何個も保有していると貴方は仰っていましたが、魔王の場合、貴方基準で何個だと思います? 」

「え? あ、おお……ならイメージしやすいよう最初に言っとくが、『100%の魔力』で山をひとつ消し飛ばせると思ってくれ」

「はいはい」

「となると、魔王は一撃で『66』の山を破壊できる。『100%の魔力』を『66』有しているんだ」

「これまた不吉な気配がする数字ですわね。では、今のジェックさんはどうです……?」

「…………」


 少し黙考した後に、グレストさんは断言する。


「……『108』だな」

「……『108』?」

「おう。今のアイツなら『108』の山々を一気に更地にできるぜ。因みにだが……アンタが撃ち落とされかけた瞬間、倍以上に跳ね上がったぞ」

「あら〜……」


 (わたくし)が殺されかけたことで、魔力が倍以上に増大……?

 (わたくし)を殺されかけた怒りが、幾数龍年間蓄積された怨恨を上回った……?

 それ即ち……『3龍ヶ月ちょっと』の付き合いたる(わたくし)の存在が、恨みつらみを孕んだ『数龍年間』と比例している……?

 マジか〜……。マジですか〜……。

 ジェックさん……。


 ……マジか〜……。


 しかしそうなると、『18/100%』の出力で丸一日寝込んでいたリプフォードとは比較にならない負荷が脳にかかっていることになる。一撃に全てを込めろとは言ったが、タダで済むのか?

 ……いや、やっぱり大丈夫だろう。なんとなくだが、無事に終わってくれそうな気がする。



 だって──あんなにも魔力が輝いて見えるんだもの……!!



「ジェックス・フューゴォォォォォッッ!!!!!!」


 魔王がジェックさんに気付き、叫びながら魔法杖に悍ましくそして夥しい量の魔力を凝縮させる! 一撃で屠る気でいるが、ジェックさんは既に振り下ろす段階に入っている!!


「今更名前呼んできてんじゃねぇや!!」


 宙から魔王を見下ろすジェックさんは、戦場に声を轟かせる!!




「俺 の 名 前 は () () () () だ ! !」




 ──振り下ろされた一撃が、曇天を叩き斬った。


 ──曇天を叩き斬った一撃が、放たれた超密度魔力光線(レーザー)を蒸発させた!


 ──超密度魔力光線(レーザー)を蒸発させた一撃が、逃げ出した馬に振り落とされた魔王を捉えた!!




 ──魔王を捉えた一撃が、大地を叩き割った!!!!




 爆音が響き、凄まじい風と大量の土煙が戦場中に広がり、先程まで感じていた魔王の魔力を感知できなくなる。きっと気絶したのだ。


「あだッ!!」


 土煙が収まると同時に、ジェックさんの悲鳴が聞こえた。五点着地の五点目を失敗したのだ。


 当たり所が悪かったらバッドエンド一直線だ! 「ジェックさん!!」と夜王さんから飛び降りて、大急ぎで彼の元へと駆け寄れば、彼は己が手で晴らした空をぼんやりと眺めていた。

 彼は(わたくし)を一瞥すると、清々しい表情で言った。


「フィーラ」

「は、はい」

「めっっっっちゃスッキリした……!!」

「!!」


 じん……と瞳の奥が熱くなるのを感じる。

 もう彼からは、一切の魔力が感じられなかった。

 (わたくし)は彼の頬を優しく撫でて、彼の顔に仮面を付ける。



「……お疲れさまです!!」

これにて、終怨──!!


次→明日『18:00』(残り2話!!)

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