第66話「威風堂々ですわ!」
前回のあらすじ!
決戦、開戦──!
『皆さん、追い風は私たちに吹いています! 今日この日を以て戦争を終わらせましょう!!』
──と、鼓舞した刹那だった。
ボッ! と凄まじい風圧・風切り音が頭上を過ぎったかと思えば、「ヴッッ!?」とエイジンさんから悲鳴が上がった。
振り返り顔を上げると、エイジンさんの左翼に大きな風穴ができていた。
「きゃあッ!?」
それを認識した途端、私たちは落下を始めた!
だが、只々落下して堪るものか! 脳処理を急激に加速させて状況整理を開始する!
先ずはエイジンさん!
「ぐぅううぅう……ッ!!」
彼は残った右翼を必死に羽ばたかせて落下速度を緩めようとしているが、焼け石に水なのは明らかだった。激痛に集中できていないのが見え見えだし、何より左右のバランスが全然取れていない!
彼の翼は円形に貫かれており、傷口は焼けていた。この時点で弓矢と投石機の類でなく、魔法エネルギーによるものだと判別かる。矢も投石も届かない距離からこの精密射撃を可能にする人物が魔王軍にいる!
では一体誰が友人を射落とした?! 味方が私たちをキャッチしてくれると信じて魔王軍へ視線を向ければ……──、
──本陣最奥部に、魔王がいた。
魔王と対面したことは一度もない。それでも、魔術文字が羅列された魔法着に身を包んだ角魔族たる奴が人間族の宿敵で、ジェックさん因縁の相手なのだと本能が断定していた。
「…………」
魔王は構えた杖先に魔力エネルギーを集中させると、光線にして再び打ってきた!
「ヤバっ……!!」
ひと目で分かる、一撃即死だ!
速度・高度共に完璧で、落下している私の頭部へ確実に当たる! 大型魔力拡声石を最大限に巨大化させて盾にしたところで防げるか?!
……否、無理だ。
直感が告げている、どれだけ魔力を込めても大型魔力拡声石ごと貫かれるのは明白。どう足掻いても避けられない未来なのだと無慈悲に告げていた。
光線が眼前に迫った。
──が、私の頭部が焼き消されることはなく、代わりに「あ゙あ゙ッ!!」とエイジンさんの悲鳴だけが鼓膜に響いた。
エイジンさんがわざと私を勢いよく宙に放り、私を支えていた彼の足だけが消し飛ばされたのだ!
「エ イ ジ ン さ ん ッ !!」
声を投げるも彼は落下しながら悶絶するばかり! すっかり両足を失ってしまった激痛で返事をする余裕もない!
「くっ……!!」
もう気遣う暇はない! 私は空中姿勢を正して、着地に備える!
ごめんなさいありがとうエイジンさん! 貴方が咄嗟に放してくれてなければ私は頭部とオサラバしてた!
けれど、あくまで数秒間延命したに過ぎない! 魔王は既に私へ照準を定め直している!
「姫 さ ま ァ ッ !!!!!!」
レインはこちら目指して駆けてきているが如何せん離れ過ぎている。彼女が私をキャッチする前にレーザーで焼かれるのが関の山だ!
「マリナ防御魔法! 早く!!」
「もう少し! もう少しで範囲内! イヤァァ間に合ってェッ!!」
マリナさんの防御魔法を頼ろうにも効果範囲外なのは彼女の表情で一目瞭然。範囲内に入る前に光線の速度的に消し飛ばされる方が早い!
──万事休すか……!!
光線が射出された!
──が、私の生命が宙に霧散されることはなかった。
跳んできたジェックさんが私を抱き寄せて、光線を『大海』で防いでくれたのだ!!
「「「「「ジェックゥゥゥゥゥッッ!!!!!!」」」」」
「「「「「しゃぁああぁぁああッッ!!!!!!」」」」」
「ちっ……」
地上の仲間たちから大歓喜の声が上がる。一方で魔王は眉間に皺を寄せると、光線を連発してきた!
が、ジェックさんは身体を捻り、それら全てを『大海』で弾いてみせると、そのまま落下地点に駆け込んできた夜王さんの頭部に着地した。
ジェックさんの足には魔力が纏わさっていた。自身の魔力を足に付与したことで跳躍力を増幅させたのだろう。いつの間に身につけたのか知らないが、今気にすべきはそっちじゃない!
「エイジンさんは?!」
夜王さんの足元に集まってきた仲間たちに訊けば「今回収ちゅ……した!」とシリスさんが指差した先を見れば、少し遅れて落下してきたところを保護されていた。私に夢中で彼は忘れられていた──とならずに良かった……!
しかし、ほっと胸を撫で下ろしている暇はない。
先程からジェックさんの魔力を不気味な程に一切感じないのだ。この異様な事態に胸騒ぎを覚えて顔を上げれば……案の定だった。
あ……ヤバい。魔力を確認せずとも理解る。
──ジェックさん、過去一爆発寸前だ。
魔力が低下したんじゃない。怒りが一周回って冷静になるように、魔力が膨れ上がるどころか凝縮されたことで、一時的に落ち着いているように見えているだけなのだ。
だが、今は爆発すべき場面じゃあない。今ここで激昂けば悪路一直線、魔王の真正面に立った瞬間、一撃必殺で終いだ。
けれど、私は彼を引き留めれる膂力を持ち合わせていない。しかし、今の彼は軍一番の爆発力を秘めたレイン、なんなら軍一番の怪力たるサップさんに拘束まれても引き摺っていきかねない激憤に駆られてしまっている。
となれば、残る手段はひとつ──。
……衆目の前だけど、致し方なしだ。
「ジェックさん」
「あ゙? ……ッ……」
私は彼の仮面を取って、唇を重ねた。
2秒にも満たない……なのに数時間は経過したような感覚を抱きながら唇を離せば、彼は端的に問うてくる。
「……何のつもりだ?」
「貴方にならくれてやってもいいと思いましてよ。それで──落ち着きました?」
「………………おう……」
「落ち着いたフリをしてますわね?」
「………………おう……」
「……では、ひとつ命令を出しましょう」
「命令?」
命令です──と、私はそっくり返して、続ける。
「その辱められてきた怒りは、今日の曇天を晴らすために使いなさい。貴方の一撃は未来に相応しい晴天に繋げてくれると私は確信していますわ。軍議の打ち合わせ通り、私が指示を出すまで解放しないように。いいですね?」
「………………………………………………………………おう」
彼からふつふつと湧いて暴れ狂っていた魔力がふっ……と鎮静まる。一時しのぎだが、抑え込めたようで何より。
そして、ジェックさんは仮面を装着し直すと、「借りるぞ」と大型魔力拡声石を拾い上げながら立ち上がり、戦場に向き直った。
彼は魔王と視線を交わして、大型魔力拡声石を鳴らす。
「拝啓、低俗親父殿。なんで戦争を起こした?」
たった一言、彼はそう訊いた。
これに魔王も大型魔力拡声石を構え、告げる。
「世界が欲しい以外にあるか?」
魔王がパチン──! と指を鳴らせば、戦場の死体たちが魔力を纏って一斉に立ち上がった。
「だというのに、貴様がシーラ姫を連れ去ったことで何もかもが狂った。シーラ姫が脱走したあの日、貴様が大人しく捕らえていたなら、わざわざこうして出張る必要もなかった」
「「「「「う、うわぁぁぁっ!?」」」」」
死体たちが戦場の兵士たちを襲い始める。中には戦意を捨てたおじいちゃん子の魔王軍兵士もいた。
「あの女が死んだ情けで入軍させてやったが、それがそもそもの間違いだった。もう回りくどい方法はやめだ。私自らの手で貴様を葬ってくれる!」
そして──、程なくして魔王の周囲に『傀儡軍隊』が編成された!
「外道が……!!」
私の奥歯がギリリ……! と鳴る。
発言があまりにも身勝手且つ傲慢で虫唾が走る! しかも戦場で生命を終えた戦士を無理矢理叩き起こし、果てには気に入らない自身の兵まで傀儡化するとはどこまで生命を愚弄するのだ!! これに対して自陣も酷く殺気立つ!!
けれど、ジェックさんは酷く落ち着いていて……またも大型魔力拡声石を口に近付けると、ただ一言、宣言した。
「ならその幼稚い野望、俺がぶっ潰してやるよ」
そう宣言して、ジェックさんは中指を立てた。
これを魔王は鼻で笑う。
「そんな語彙不足い挑発に乗ると思うな。レヴォン部隊、前へ」
そう踵を返すや否や、魔王軍の前に、全身甲冑の乗馬騎士がズラリと並んだ!
威風堂々、打倒宣言──。
ジェックがカッコよかったらブクマ等で応援してあげてください。
次→明日『18:00』(残り4話!!)




