第64話「軍議ですわ!」
前回のあらすじ!
ジェックが本名忘れてた♨
「ジェックさん、リツさん、行きましょう。戦争の根源を断ち切りに!! ──ということで先ずは、売り込みにいきますわよ!!」
◇ ◇ ◇
「姫さま、止まってくださいグギャァァア!!」
「流石に看過できませんぞギゲェェエ!!!!」
「ぶるぁぁあモフモフゥゥウ♡♡♡♡!!!!」
「お父さま〜〜ッ!!」
ということで二人を連れた私は手始めに、モフモフ狼軍団で軍議本部へ雪崩込んだ!!
「ギャ〜〜ッ!! シーラァ!?」
軍議本部中央に座していたお父さまは驚きのあまり両手を上げる。周囲には同様仰天するジェラルド将軍と各部隊長!
一方……その中に居たフィーラ部隊長のシリスさんは、私を見るなり呆れた溜め息を吐く。
「ほら言ったでしょう陛下。姫ちゃんの性格上黙って避難せず、あの手この手で此処に乗り込んでくるって……こうなるからふん縛ってでも保護すべきと案じましたのに」
「だから公私を切り分けれるサップくんを送ったんじゃないか! 彼どうしたの?!」
「狼たちのモフモフを通じて亡くなったという愛犬を思い出しボロボロ泣いてますわ! 想定外のガチ泣きに本気で申し訳ないと思ってますので罪滅ぼしのためにも私を軍議に加えてくださいましッ! ちょっくら提案したい策がありますのッ!!」
「こじつけにも程があるし、それはそれだよ! 君、戦場経験ないでしょう!!」
「ところがどっこい、対魔物大行進には私も参加しましたし、事態収束にも一躍買いました! 売り込みとしては充分な実績かと!!」
「逃避行中に成すことじゃない! ジェックくん、娘は何をしたんだい?!」
「遠距離攻撃枠で参加した末に、魔物大行進のヌシにギス花粉攻撃を仕掛けてました。おかげで鎮圧する隙を作れましたが、私は一晩中花粉に苦しめられました」
「蛮行!!」
我が父ながら酷い評論だ。けれど、終戦の一助になるなら蛮行万歳ですわ!
「姫 さ ま ッ !!」
やいのやいのと騒ぎ立てていると、ジェラルド将軍の喧騒を上回る声が軍議本部に響いた。
本部が静まる中、彼は一切私から目を逸らすことなく席を外し、私の前に立って問う。
「姫さま、実績は理解しましたが、此度は魔物と違い、魔族という人でございます。貴女は人の生命を奪う覚悟がお有りですか?」
ジェラルド将軍の目は真剣で、ふた回り近く歳下の私に本気を問うていた。
ので、これに私も真剣に返す。
「王座を引き継ぐ身たる以上、私ばかりが平和に清道を歩めるとは微塵も思っておりません。民の未来を守護るべく終戦を目指すならば、喜んで知恵を搾りますし、血濡れた光景だって目に焼き付けてみせましょう!」
「………………理解りました」
彼は黙考した末に目を開けて、お父さまに向き直る。
「国王陛下、シーラ姫に知恵を貸してもらいましょう!」
「ジェラルド?! グフン……本気かい?」
「幼き姫の智略を仕込まれたフィーラ部隊に何度と足留めされてきた身として、彼女は大いに役立てると断言します。ですが姫さま──!」
と、彼は釘を刺すように言ってくる。
「我々はこの決戦のために何度と陣形や戦略を打ち合わせてきました身。おいそれと変更する時間がない以上、簡単に採用されるとは思わないでくださいね!」
「上等ですわ! では先ず確認ですが、私の『フィーラ部隊』はいつも通り遊軍ですか?」
「その通りです。今回も最低限の陣形以外は遊軍にしております。レインは姫さまの忠誠心が行き過ぎて暴走しがち故……」
「でしたらレインとマリナさんを呼んでください、頼みたいことがありますわ! この策は2人が来てから追々として、他にも例えばジェックさんでゴーニョゴニョ……」
と、ジェックさんを主軸にした策を提案すれば、反応は中々に良い。
「なるほど……敵陣には確かな有効打になりますし、それでいて自陣の妨げにならない。試してみる価値はありますな」
「その策が俺も初耳な面を除けばな」
「そう言いながらもやってくださるでしょう?」
「ホント調子のいいやつだこと。まぁやるけど」
ということで一つ目が可決された。やったね!
他にも思いついた策は山程ある。言うだけタダなのだから出し惜しみせず申した末に『5/9案』が可決されて、軍議は次の段階へと移行する。
「では、改めて敵陣営の確認です。奴らの中心人物は3人となります」
「一人は『魔王』。言わずもがな戦争の首謀者です。戦場での戦闘記録はなく、対処はぶっつけ本番になりますが、最後まで出張ってくることはないでしょう。ジェック殿は魔王について存じていることがあれば教えていただきたい」
「残念ですが語れることはありません。彼とまともな会話を交わせた試しがないので」
「! ……すまない、失言だった」
ジェラルド将軍は素直に謝罪すると、それ以上は追及しなかった。
隣を一瞥すれば、ジェックさんの拳がギリリ……! と爪が喰い込んでそうな程に握られていた。
それに私は手を添えて、一瞬緩んだ隙をついて指を絡ませる。
これで、無闇に握り締めたりすまい。
「二人目は『魔王子』。こちらも未知数でしたが、元魔王軍諜報・伝令兵エイジンの証言により『転移魔法』の使い手と判明。この者を撃破できれば魔王軍の戦略に大打撃を与えられますが、こちらも魔法上戦場に出てくる可能性は低いと思われます」
魔王子……ジェックさんの腹違いの兄だ。
彼の握力は変わらない。我慢しているならそれまでだが、何とも思ってないのならそれはそれで悲しい……。
そして……──! とジェラルド将軍が注目を集めた人物は、私もよく知る人物だった。
「必須撃破対象『グリーズ上官』! 長らく侵攻拠点を統制してきた中心人物で、今回は留守だったから制圧できましたが、何度もレイン主体の制圧作戦を跳ね除けてきた強者中の強者! 魔王と魔王子を引き摺り出すにはこの者との衝突は避けられません!」
「あ、ジェラルド将軍。グリーズ上官なら多分戦力外ですわ」
「なんですと?!」
ジェラルド将軍はびっくり仰天。毎度愉快な驚き方をする彼に内心ほくそ笑みながら事情を説明する。
「昨夜未明、魔界の駐屯地で彼と相対したのですが、安眠を邪魔されたと出張ってきた『地龍ソアース』さまに駐屯地ごと吹っ飛ばされましたの。仮に生きていても昏睡でしょうし、出陣するにしても本調子からは程遠いかと」
「情報提供ありがとうございます! 色々とお聞きしたいところでありますが、今は流しましょう!」
「そうしてくださいな。というか……レインは結構魔王軍と戦ってる感じです? あの子、過ぎた戦場のことは記憶から消しちゃいますから。私たちとの思い出に記憶容量割きたいとか言って」
「仰る通りです! 結構数の侵攻拠点をゲリラ襲撃で壊滅させているので、実力自体は知れ渡っているかと!」
「なるほど……でしたらレインに合わせてルルちゃんも呼んでくださいまし! 2人にやってほしい策を思いつきました!」
軍議はまだまだ続く。
◇ ◇ ◇
そして、軍議をしながら待つこときっかり2時間後……──。
平原に曇天の暗がりが差し掛かったそのとき、見張りに飛んでいたエイジンさんが私の前に着地する。
「姫さま! 魔王軍揃った!!」
「オーケー、エイジンさん! ちょっくら持ち上げてくださいまし!!」
エイジンさんに肩を掴んでもらい、天高く飛翔する。彼の鉤爪が肩に食い込むが、リツさんが用意してくれた肩装備のおかげでちっとも痛くない。
「姫さま大丈夫? 肩痛くない?」
「無問題ですわ。というか誘拐された時も痛くありませんでしたが、かなり手加減してくれてたんですのね?」
「あの時は本当すいませんでしたもう黒歴史なんです……」
「理不尽業務の不平不満爆発させてましたもんね。ジェックさんが聞けば嬉々として同調するのが目に見えますわ」
「やめてぇ……!!」
恥ずかしそうに声を震わすエイジンさんに失笑する。こうしていじれる関係になれるだなんて、誘拐された当初は全然思わなかった。
軽口を叩きながら限界高度まで飛んでもらい、遠眼鏡を覗く。
平原の向こう側には、続々と魔王軍が集結していた。
同様に数々の兵器も設置されていく。だが戦場が平原たる以上は高低差の優位を取れないので、互いに純粋な火力・使用タイミング勝負になるだろう。
そして、特に注目すべき魔王軍の配置を確認する。
戦いというのは勢い勝負だ。最初に波に乗った方が制すると言っても過言じゃあない。だからこそ、何処が脆弱で、何処が特に強固かを事前に知るのは戦場において最も重要だ。
そして、その強固な箇所たる本隊はやはり中央に座しているようだった。
その本隊こそ私が知りたかった場所だ。普通なら突破の難しい箇所は足留めに徹して周囲から削るべきだが、逆を言えば、そこさえ崩せば魔王軍は一気に瓦解してくれるし、幸い私にはそれが叶う手段がある。
これが分かれば充分だ。エイジンさんに声をかけて、私はお父さまの元を目指す。
◇ ◇ ◇
そして、開戦するなり姫の悪知恵が火を噴いた!!
モフモフに雪崩込まれたい♨
理解してくれる方はブクマ等よろしくお願いします♨
次→明日『18:00』(残り6話!!)




