第63話「名前ですわ!」
前回のあらすじ!
姫さま、(大所帯で)祖国軍と合流──!
「初めまして国王陛下。私の名前はジェック。……魔王の落とし子です」
「! 魔王の……ッ!!」
ジェックさんが素性を明かした次の瞬間──、案の定周囲の兵士たちが一斉に武器を構えた!
「や め な さ い ッ !!!!」
それを私は一喝して制止した!
リツさんがルルちゃんの耳を塞いでくれているのを一瞥し、一手に集めた注目の中で、私は然りと兵士たちの行動に異議を唱える。
「彼は武器を預けた上で、謂れなき傷を負わせられるでしょう素性を自ら明かす誠意を見せています! なのに武器を向けるは彼の覚悟への侮辱で、無差別に人を恐れる弱さを露呈する行為です! 理解ったら武器を下ろしなさい……!!」
「「「「「………………ッ……!!」」」」」
兵士たちは武器を下ろすも、依然緊迫した空気は解除されない。フィーラ部隊の皆は武器こそ取らなかったものの、真剣な面持ちは崩さずにいた。
ジェックさんは「……続きを」とお父さまに促され、再度喉を震わせる。
「落とし子たる私を余程認知したくなかったのでしょう。死んでも構わないと言わんばかりの魔物討伐へ何度と駆り出され、それだけに私は祝福されない存在なのだと未来を諦める兵士生活を送っておりました。それこそ魔王城に居続ければ、遅かれ早かれ死を前提とした出撃を強要されたことでしょう。正しく先行きの見えない闇に心身をすり減らしていたと実感しています」
お父さまは何も返さず静聴する。
「ですが、シーラ姫がそんな日々を覆してくれました。私の未来が閉ざされるのは惜しいと言ってくださったのです。出会った当初こそ彼女の見張りに甘んじておりましたが、彼女の言葉を信じたいと心から思えたのです」
お父さまは続けて静聴する。
「そうして彼女の旅路にお供してから、様々なことがありました。悪徳町長を懲らしめたり、道中の魔物大行進で対処した末に花粉症となったり、乗船券を得ようとイベントに強制参加させられたり、渡航中にコンプレックスを打ち明けたり、女体化させられたり、路銀稼ぎに大武闘会へ参加したり、カジノで手持ち全額擦った彼女に呆れ果てたり、ホニョの出産と番に仰天する前後で実際に魔王軍を相対したり……何度も一緒に頭を悩ませたり、共に窮地に立たされたり、彼女の悪口を一日中語れるような振り回され方をしましたが……それでも、何事にも代え難い愛しい日々です。どれもがシーラ姫と出会えたからこそだと断言します」
お父さまは一瞬顔に困惑を浮かべるも、瞬時に取り繕って静聴を貫く。
「故に、どんな結末になろうと、己が生命を……生涯をシーラ姫のために使いとうございます。そのためにも、どうか私を魔王討伐作戦の末端に加えていただきたく存じます」
そう締め括って、ジェックさんは再び頭を下げたのだった。
正直……泣きそうになった……。
懸命に涙を堪えていれば、終始静聴に徹していたお父さまは小さく溜め息を吐く。
「……君の忠誠心が本物だというのはよく理解った。要所要所気になって仕方がない話はあるが、今は流そう。だが……──まだ君を受け入れるわけにはいかない」
「と言うと?」
「私には分かるんだよ。君は嘘をついている。それを君自身が明かさない限り、君を戦力として信用はできない」
「え……?!」
なんと、魔法に引っかかってしまったというのか……?!
お父さまは『相手の嘘を見抜く』魔法の使い手だ。これによって陰謀渦巻く政界をのし上がってきたと言っても過言ではない!
「嘘……?」
しかし……──、肝心のジェックさん当人には心当たりがないようだった。
私としても、今の暴露に嘘はなかったと思う。何故発動したのか首を傾げていれば、彼が振り向いてくる。
「なぁフィーラ……俺、なんか嘘ついたか……?」
「いえ……思い当たるところはないかと……? 貴方の発言、過去に話してくれたのと差異はありませんでしたが……え? どこ引っかかりました?」
「……あれ? もしかして君、嘘ついてる自覚がない感じ? 嘘を本物と思い込んじゃってる感じ?」
お父さまも困惑している。当然だ。ジェックさんは全てを正直に話したのに魔法が発動しているのだ。魔法が誤発っているとは思えないし……これはややこしいことになってきた。
「ちょっとお父さま。お父さまの魔法……『落とし子』『隠し子』と微妙なニュアンスの違いを嘘判定にしたりします?」
「いや、そんなことはないよ。そういう誤発動が起きないよう折り込み済みだ」
「じゃあちょっとヒントくださいまし! 本っ当に思い当たりませんわ! グダらないためにもお願いします!!」
「いいだろう、時間の浪費は私も不本意だ。……名前で発動したよ」
「名前?」
彼の名前が間違ってるとでも言うのか?
しかし此処が人間界である以上、偽名を使う必要は全くない。これは要確認ですわ。
「ジェックさん、ファミリーネーム含めてもう一度名乗ってみてくれません? 名前だけがアウト判定だった可能性ありますわ」
「お、おう。ジェックス・フューゴーだ」
「ん?」
「ん?」
「ん?」
「ん?」
「「「「「ん?」」」」」
沈黙が迎撃拠点を包み込む。
それをジェックさんは声を大にして破壊した!
「そうだ俺ジェックスだ!!」
「「「「「忘れてたんかい!!」」」」」
周囲が声を揃えて盛大にツッコむ! 嘘の内容がアホ過ぎた!!
そして、緊迫した空気は一気に瓦解する!!
「あ、そうだ思い出した! フィーラに名前明かすなりその場でジェックと端折られたんだった! ジェック呼びが定着してたからすっかり忘れてた!!」
「なんですか!? では私が悪いとでも言うのですか貴方!?」
「全面的にオマエの所為だろ!! どうしてくれんだこの気まずい空気!! 国王陛下、判定お願いします!!」
「ブーイングの刑!」
「「「「「ブーー!!」」」」」
「お父さま!?」
「当然だろうが! 周りだって呆れてるし歳近そうな兵士たちも盛大に馬鹿にしてるし、レインですら笑いを堪えるのに必死で、リツに至っては抱腹絶倒腹筋崩壊!!」
「ブッフォォッッ!! オホホホ!! イヒヒヒヒファ〜〜〜〜ッッ!!!!」
「ビャ〜〜ッ! 私の幼馴染み部隊から小馬鹿にされるのはともかくリツさんに馬鹿にされるのは心が痛いですわ〜〜ッッ!!」
ここで私はハッ! と、あることに気づく。
「あれ? テクトとエアリとアイルの三馬鹿は何処ですの?! あの3つ子がこの状況を全力で馬鹿にしてこないなんて有り得ませんわ!!」
「嫌な信頼だな!」
「国王陛下〜!」
「と思えば戻ってきた!」
「緊急です! 空から人型の鳥が猛速度で迫ってきています!」
「あ、それ多分私の仲間です! 先程魔界へ様子見に行かせました!」
「なにィィィィィィィッ!?」
バフォオ……ッ──!
説明した瞬間、ちょうどその仲間が翼を広げて迎撃拠点に着地する。
着地したのは、やはりエイジンさんだった。
エイジンさんは脇目を振らずに私の前に駆け寄ってくると、衝撃の報告をする。
「大変だ姫さま! 魔王軍こっち来てる!」
ざわっ──!!
兵士たちの間に緊張が走る。来るの早過ぎません?!
「ど、どういうことですの?! 夜明け前の魔界で駐屯地潰したばかりじゃないですか!! 正しくは潰してもらったですが!!」
「多分だけど、それに合わせて此処を乗っ取られたのが漏れて、魔王の逆鱗に触れたんだ! 魔王子の魔法で駐屯地に次々兵士が転移してきては編成次第出立してた! あの調子ならあと2時間前後で全兵トンネル抜けてくる!!」
「だそうですお父さま! 直ぐに迎撃の準備を進めましょう! 急ピッチで!!」
「分かった。シーラも急いで避な……ちょっと待てその鳥魔族報告に上がってた誘拐犯そっくりじゃないか?!」
「げっ!?」
思わず嫌な声が出る。
エイジンさんは私を魔界へ誘拐した実行犯。私が既に許していても、お父さまたちがそれを許す道理はないのだ。
「はいっ!!」
──が、エイジンさんは正々堂々同一人物と認める。すっごい漢らしいけれど、お父さまは当然ながらブチ切れだ!
「てめえ〜ッ! 人の娘誘拐しときながらどの面下げて娘に仕えてんだゴルアァァァッ!!!!」
「祖父の忌引き休暇取得らせてもらえなかったのを機に人生取り戻すべく魔王軍辞めてきましたよろしくお願いします!!」
「ほなしゃあないか」
「軽ッ!?」
「私も祖父上大好きだったもん……!!」
「「「「「ならしゃあないか」」」」」
鶴の一声で皆納得して準備に戻る。単純思考な軍で良かった。
それはそうと、今のうちに出発の準備をしよう。今更私だけ避難なんて真っ平御免だ。
でも流石にホニョちゃんと子犬たちは置いていこう。ルルちゃんは一瞬だけ連れていくが。
近くの兵士に彼女たちを預けて、私は始まりの2人へ顔を向ける。
「ジェックさん、リツさん、行きましょう。戦争の根源を断ち切りに!!」
ジェックの本名出てきたの第1話ぶりです♨
憶えてなかった方はブクマ等よろしくお願いします♨
次→明日『18:00』(残り7話!)




