第61話「茶番ですわ!」
前回のあらすじ!
姫さま、指示ミス!!
「そういやレインが彼女なの、考慮してませんでした!」
「過失100%ォォオオォーーーーッッッッ!!!!!!」
姫さまはアイアンクロられ、ぶん投げられた!!
すると、地面で悶えていたレインが起き上がり、早速ジェックさんに詰め寄った!!
「てめぇ姫さまをぶん投げるとは何様だ死ねェェェェエエェええぇ!!」
「オマエはもう少しショッキングであれよ! それとアイツはこれ如きで不時着するタマじゃねぇわァーーッッ!!」
「ほいっと!」
「ほら見ろ! 憎たらしい綺麗な五点着地!!」
「当然ですよ姫さまですものつーことで死ねェェェェェエエェええぇ!!」
「情緒不安定かフィーラ信者ァ!!」
「貴様は信じてないと申すかァーーッッ?!?!?!!」
「九割方は信頼してるが一割のクソガキは否定し続けたい!!」
「ブィィィィィィィィィィッッッッ!!!!!!!!!!」
やっぱり気が収まらないレインにジェックさんは絡まれ続ける。正直見てて凄い愉しい。
しかし、ジェックさん……出会って3龍ヶ月前後で9割も信頼されているとは。私、ちょっと嬉しい。
思えば半龍年にも満たない付き合いだというのに、ジェックさんたちとは既に10龍年間は時間を共にしている感覚だ。時間の経過って早い。
……え、待って? 私も私で、ジェックさんたちとの3龍ヶ月がレインたちとの10龍年間に匹敵しているのですか? 私、彼ら好き過ぎじゃありませんこと?
まぁ、それだけ心を許している証なのだろう。しみじみと感慨深くなっていたら、シリスさんが寄ってきて言及してくる。
「ちょっと姫ちゃん、メッチャしっかりしてんじゃん彼。何処で拾ってきたのあんな優良物件?」
「魔王城ですわ。彼、不当な待遇で縛られてたので引き抜いてやりました。何度と窮地で輝いてくれた一等星ですわ」
「いやーそれほどでもじゃねんだわフィーラは先ずレインに謝罪しろ!! そのまま頭下げすぎてでんぐり返ってあそこの毒沼落っこちろ!!」
「おいこらてめぇ姫さまに謝罪を要求するとは頭が高いぞ貴様こら死ねェェェェエエェええぇ!!」
「オマエは異性に股ひっ叩かれたことを気にしろや!!」
「ひぃん……!!」
「うわぁ急に泣いた!!」
レインはぶわっ……! とへなちょこな泣き顔を晒してその場にへたれこむ。泣き虫状態だ。
「異性に下ひっ叩かれたぁ……! もうこの人と結婚するしかないんだァ……!!」
「俺だって御免だよこんな理由で結婚するの! 本当に結婚したとて未来の子どもに申し訳ねぇわ! 嫌だぞ俺「ふたりはどうしてケッコンしたのー?」と子どもに訊かれてこの状況知られたら子どもは反抗期一直線だわ!!」
「そうだよレイン考え直しなって! アンタ隣国の王子から縁談申し込まれてんだからさ! これは事故として流そ! ね?!」
「えぇッ!? レインに縁談!? 私が居ない間に何があったんですの?! どんな殿方なんですの?!?!??!」
「今始める話題じゃねんだよフィーラァ!!」
「隣国に行ってたんだよ〜」
相変わらず間延びした口調でマリナさんが説明を始める。問題なしと見なして魔力壁を解除したようだ。
「フィーラ姫ちゃんが誘拐されるちょっと前に、対魔王軍実戦形式訓練と称して隣国の『パラウア』に行ったでしょ〜。ほら、良質な小麦の名産国で有名な〜」
「あぁ、そういえば遠征してましたわね。しかし何故そこから縁談なんですの? どんな殿方ですの?」
「そこのポムオ王子さまが、2日目の実戦形式訓練を観に来たんだよ〜。そしたらレインと是非手合わせしたいって言い出して〜。割と食らいついた末にボコボコにされたの〜」
「相変わらず容赦ないですこと。それでポムオ王子はどんな殿方ですの?」
「そしたら「君の剣からは主君への忠誠と、それを貫き通すための並々ならぬ努力が伺えた」ってその場で縁談申し込まれたの〜。ま、直ぐにフィーラ姫ちゃんが誘拐されたって伝書鳩が飛んできて、返事しないままトンボ帰りになっちゃったけど〜」
「ドえげつないサクセスストーリーじゃないですか!! そしてどんな殿方ですのォーーーーッ?!」
「こんな殿方だよ〜」
マリナさんは地面に似顔絵を描いてみせる。
あら……微笑ましい。
食事を心から楽しんでいそうな顔立ちのふくよかさんだった。かなりの大柄で、子どもたちが飛びつきそうなお腹周りをしている。
暫く絵を眺めた後に、私はレインに顔を向ける。
「レイン。この殿方の縁談受けなさい。悪いことにはならないと確信を持って言えますわ」
私は断言する。会話を交えたことはないが、この王子、当たりだ。
泣かしてしまった罪悪感を差し置いても、放っといたら独身でいそうなレインには幸せになってほしいのだ。結婚が『幸せ』とは限らないが、少なくともジェックさんのことは忘れて、王子との縁談には前向きになってほしい。
しかし、泣き面の当人はどうも気乗りしない様子である。
「ひぃん……でも自分、ポムオ王子のことはさっぱりですぅ……」
「と言っても、一度は手合わせした仲なのでしょう? それなりに食らいついたそうですが、ぶつかってみた感じ、どうでしたか?」
レインは思い出す。
「……鍛えてるのが伺えましたぁ……!」
「でしたら全身筋肉のふくよかさんですわね。他にありませんか? 例えば食事が美味しかったとか」
レインは再び思い出す。
「……パンが美味しかったですぅ……!」
「小麦が特産品の農大国ですものね。パンについて何か言ってませんでした?」
レインは更に思い出す。
「……夕食に出された美味しかったパンの配合が、王子直々とメイドさんが言ってましたぁ……!」
「そうですそうです! そういうのもっとください! 他にパンの思い出はありませんか?!」
「特に美味しかったパン屋さんが、王子プロデュースでしたァ……!!」
「最高の巡り合わせじゃないですか!! ではポムオ王子は?! ポムオ王子はどうでしたかァ?!?!?!!」
レインはすっごい思い出す。
そして──若干照れ混じりに目を泳がせて、彼女は言った。
「………………………………………………ちょっと可愛い顔でした」
「「「しゃああああ!!!!!!」」」
シリスさん・マリナさんとしてガッツポーズを取る! 自覚こそしていないが彼女、脈アリだ!!
「でしたら大当たりじゃないですか!! その縁談受けなさい!! 先ずは改めて会うだけでいいですから!! やっぱ違うなってなったら私が責任持ってごめんなさいと頭下げますから!!」
「ひぃぃん……でもぉ……それで本当に結婚したら自分、もう姫さまと居れないじゃないですかァ……!!」
「レイン……──、」
私は彼女の手を取る。
「確かに結婚するならば、貴女は隣国に嫁ぎ、おいそれと簡単に会えなくはなります。ですが、貴女が誰かの妻になろうが、私の愛しい妹分であることに生涯変わりはありませんことよ」
「姫さま……!」
「だから先ずは一人の女性として王子に会ってみなさいな。それでやっぱり違かったら断れば済む話ですし、アリだなと思えたなら交流を重ねればいいのです。どんな結果になろうと、私は貴女の味方ですわ」
「姫さまァ……!!」
レインは私の胸元に飛び込んできておいおいと泣く。私は何も言わずに彼女の頭をそっと抱きしめた。
胸元がかなり湿っていっても、優しく抱きしめた。
暫く頭と背中を撫でていれば、やがて彼女はスッキリとした面持ちで立ち上がり、決断する。
「姫さま……自分、1回王子に会いに行きます。戦争を終わらせたら、改めて兵士以外の人生を検討してみます!」
「その意気ですわレイン! 早速手始めに近場の魔王軍侵攻拠点をぶっ潰してやりましょう! エイジンさん、拠点の様子を確──、」
「あ、それでしたらここに来る途中でぶっ潰しましたよ。今頃は父さ……ジェラルド将軍たちを護衛に国王陛下が敵兵ふん縛って乗っ取ってる筈です」
「ええっ!? お父さま自ら出陣してきてますの?! あ、でも王位継承前は将軍兼任だったでしたものね!!」
「さっき走ってきたランドが教えてくれたの〜。フィーラ姫ちゃん救出に合わせて本格的に魔王軍倒すんだって〜。ランド以外のフィーラ姫ちゃん部隊の皆も追いかけてきてるってさ〜」
「それは朗報ですわ! 皆さん護衛してくださいまし! 早く再会して皆さまを安心させましょう! 念のためエイジンさんは魔界に動きがないか見てきてくださいまし! 安牌第一で!!」
「了解行ってきます!」
「それじゃあ皆さま! いざ、お父さまの元へ!!」
そう宣言して各々馬と夜王に乗り直した。
そんな中、遠巻きに傍観していたジェックは言い放った。
「茶番!!」
ポムオ王子のイメージは『七三分けの千代丸関』です♨ どうでもいいね♨
ブクマ等よろしくお願いします!!
次→明日『18:00』(残り9話!!)
 




