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第60話「誤解ですわ!(10割姫の過失)」

前回のあらすじ!

レインの回想編終了──。

「なぁ姫さま。本当に僕を連れてきて良かったの?」

「はい?」


 ソアースさま製のトンネルを通っていると、先程ようやく起床したエイジンさんが、不意に自信なさげな表情で(わたくし)に訊いてきた。

 今更何を言っているのだろう? それを問わんと全身に乗っけていたホニョちゃんとその子どもたちを退けていれば、彼が自ら理由を述べる。


「駐屯地に連行されたのだって、元はと言えば僕が姫さまを信じ切れなかったからじゃないか。その癖に僕は駐屯地に戻るや否や睡魔に抗えず寝落ちるし、なのにまたこうして拾うなんて……お人好しが過ぎるよ」


 どうやら彼は、罪悪感を拭えないらしい。

 (わたくし)たちは魔王軍の駐屯地へ一時連行されていた。とっ捕まえたエイジンさんの両目に『視界共有魔法』がかけられていたからだ。その結果、(わたくし)たちはエイジンさんを通じて居場所バレして、彼は人間界への帰り道を教えるなり逃がそうとしてくれたが時すでに遅く……という形だ。

 だが、手遅れだったものの、彼が(わたくし)たちを逃がそうとしてくれたのには変わりない。そりゃあ早急に明かしてくれればジェックさんが負傷することはなかったと言えばそれまでだが、帰り道を教える即ち()戦争の発起人たる魔王と縁を切る覚悟を示してくれたということ。その勇気を気に入ったのだがら、何卒不満を述べる気はない。

 だが、彼自身が責任を抱いているなら話は別だ。


「罪悪感があるなら今後で取り戻しなさいな。そしたら全部精算(チャラ)にしますことよ」

「……! …………そうさせてください」


 エイジンさんはペコリと頭を下げた。

 これで誘拐犯(エイジン)被害者(わたくし)の因縁はもうお終い。これからは旅のお供だ。


「ところで姫さま、そろそろトンネル抜けますよ。風が変わりました」

「あ、マジですの?! まだ出口が見えませんのに!?」

「肌の感じからして分かるんです。僕ら鳥魔族は『風読み』が飛行の要なので」

「だそうですわ皆さん! さぁ! 待望の人間界の大地は目前ですよ!!」

「おぉ、とうとう人間界か。因みにこのトンネル、何処に続いてんだ? 嫌だぞ出るなり毒沼ドボンとか」

「そこのところどうなのですかエイジンさん?」

「大丈夫だったはずですよ。あ、ただ山脈の近くに魔王軍の侵攻拠点があった筈ですので充分警戒してください」

「そんときゃ夜王さんの巨体とジェックさんの魔法で辻斬りしてやりましょう。夜王さん、ジェックさん、攻撃()り逃げの準備を!」

「恐ろしい発想をするな其方よ」

「これが一国の跡継ぎなのが世界の失態だ」

「ちょっとジェックさんの小指踏みますね」

「おいやめろ馬鹿、狼の背上ですることじゃねぇ!」

「もう着きますよー」


 ケンカしている間に出口の光が見えてきていた。


 そして、遂にトンネルを抜けた(わたくし)は、胸いっぱいに空気を吸って叫ぶ!



「ただいま人間界!!」



 ようやく帰ってきた人間界! 推定3龍ヶ月の魔界滞在の末の帰省に、夜明けも相まって喜びもひとしおなのだが……──?


「なんか……走ってきてますね……?」


 何処までも続いていそうな平原の向こうから、人が走ってきていた。猛速度(スピード)で走ってきているが、まだ顔は見えない。

 ルルちゃんと入れ替わりで隣に来たジェックさんが、視線の先を覗き込む。


「……あぁ、本当だ。自分の足であんな速度出せんだな、そういう魔法なのか?」

「じゃあ僕確認してみます。暫しお待ちを」


 そう申してエイジンさんは垂直に飛び立つと、3秒と経たずに戻ってきた。


「金髪ショートカットの武装者でした。その後ろを2人の女性武装者が乗馬して追いかけていましたね」

「素晴らしい視力ですわ。……金髪ショートカット?」


 髪色・髪型を聞くなり、ある人物が脳裏を過ぎる。

 ……なんだろう、凄く嫌な予感がする。


「お知り合いですか?」

「思い当たる節があります。その方の顔立ちと武器の特徴は?」

「所謂王子さま系でしたが『激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリーム』の形相でした。武器はパッと見ですが純白? の片手剣だったかと」


 ッスゥゥーーーー……。

 最早ツッコむ時間も惜しい。ので、最低限の指示だけ飛ばす。


「オーケー確定しました。皆さん限界まで伏せて、ジェックさんはギリギリまで引き付けてください」

「何なにナニ? 何が確定したの? なんで俺は伏せちゃ駄目なの?」

「貴方じゃないと絶ッッッッ対防げない馬力の持ち主ですの。断言しますが、間違いなく攻撃してきます」


 困惑しながらも大剣『大海』を構えるジェックさんに、背上に伏せながら(わたくし)は言い切る。


「あの子、何かとんでもない勘違いしてるッッ!!!!」



「死ねェェェぇェエエェエエェエエェェエエェええぇえぇァァァアァあぁぁぁあぁぁぁあぁあぁぁぁあぁぁあぁぁぁあぁぁあぁあッッッッッッ!!!!!!!!!!」



「ドわぁッ!?」


 次の瞬間、瞬間的最大速度で突っ込んできたレインがギィンッ──! とジェックさんを夜王さんの背上から振り落とした!! ほらやっぱりレインだった!!


「ジェックさんはそのまま時間稼ぎ! 殺意剥き出しですが殺しちゃ駄目ですよ!! (わたくし)は原因を調べて参ります!!」

「えー!? ちょ、待っ……えーーーーッッ?!?!?!!」


 置いてけぼりのジェックさんを置き去りにして夜王さんを「ハリーアップですわ!」と走らせる。


 すると、程なくしてレインの背中を追いかけていた2人……シリスさんとマリナさんに再会する!


「シリスさん、マリナさん!!」

「うっわ姫ちゃん?! ホントに姫ちゃんだ!!」

「フィーラ姫ちゃん久しぶり〜!! 元気してた〜?!」

「バッリバリに元気ですわ!! 再会を喜びたいところですがそれよりも!! レインったら何を怒り狂ってんですの?!」

「原因不明! 姫ちゃんと一緒に乗ってた仮面の彼を見るなり爆発した!!」

「相変わらずの『沸低(=沸点低い)』ですわね……他に要素は?!」

「今思えば、そこのおチビちゃんが出てきた時から様子がおかしかったよ〜? それ以外はないかな〜?」

「おチビちゃん?」


 つまり、ルルちゃんとジェックさんの存在が『激おこ(略)』のトリガー?

 けれど、情報が少な過ぎる。もっと他にないかと要素を考察していれば、マリナさんがそっちのけで「お名前は〜?」とリツさんと一緒に降りてきたルルちゃんに名前を訊く。


「ルルなのー」

「ルルちゃんか〜。フィーラ姫ちゃんとはどんな関係なの〜?」

「おかあさんなの〜」

「ファッ!?」


 シリスさんが物凄い形相で(わたくし)の顔を見てくる。

 何に驚いているのかと首を傾げている間にも、マリナさんはのほほんと質疑を続ける。


「お母さんか〜。何処で娘ちゃんになったの〜?」

「きょーかいなのー」

「教会……孤児院か〜。じゃあ、お面を付けてる人は、お父さんかな〜?」

「ジェックさんは、ぱぱてきなひとなのー」

「パパか〜。……だって〜」


「「…………………………」」


 (わたくし)とシリスさんは視線を交わす。大方察した。

 レインは何故か、(わたくし)とジェックさんが夫婦になってて、ルルちゃんを出産したと誤解している!

 だが原因は特定した! あとはどうにか誤解を解くだけですわ!


「シリスさん、念のため護衛を! マリナさん、魔力壁を展開! ルルちゃんたちをよろしくお願いします!!」

「了解!」

「頑張ってね〜」


 (わたくし)はシリスさんを連れて、ジェックさんを襲うレインに声をかける。


「レイーーンッ!! ちょっと耳を傾けてくださいましーーッッ!!」

「ビィィィィィィィィッッ!!!!」

「おぉフィーラ! ようやく対処案出たか!!」

(わたくし)、まだ未婚ですことよーーッッ!!!!」

「つまり婚外出サァ()”ァ”ァ”ァ”ァ”ンッッッッ!!!!!!」

「ごめんなさい余計ややこしくなりましたテヘペロ!!」

「火に油注いだだけじゃねぇか過失100パーセントォーーーーッッ!!!!」

「ちょっと姫ちゃん、レインの苛烈さ2割増しになっちゃったよ! これもう駄目じゃね?!」

「ですわねもう説得も通じませんわ! こうなったら強硬手段! シリスさん、手伝ってくださいまし!!」

「オッケイ例のアレね! ジェックくぅん! フォロー入る!!」

「助かるゥ!!」

「ギェェェェェェェェェェッッッッ!!!!!!」


 シリスさんも戦線に加わり、猛威を振るう狂戦士(レイン)の斬撃の嵐に立ち向かう。(わたくし)は彼女らが連撃を弾く合間を縫って距離を詰め、ギリギリ声が届く範囲まで来たら……──!!


「レイン起立ッッ!!!!」

「はいッ!!」


 大声で命令すれば案の定レインは背筋を伸ばす。ずっと忠誠を貫いてくれているレインが奇声を発していようと一瞬でも(わたくし)を無視するわけがないのだ。

 とにかくこれで隙ができた! 仕上げは最寄りのジェックさん!!


「ジェックさん、レインの股間を思い切りひっ(ぱた)いてください!!」

「はいよォ!!」

「!? 待ってジェックくんストッ──!!」

「え──?!」


 ジェックさんの右ビンタが、レインの股間に直撃した!


「はぼッ!!」

「ん……?」


 レインは悶絶してその場に蹲る。やっと止まってくれた!

 一方で、ジェックさんは「ん……?」と先程から己の右手を見つめている。何か違和感でも生じたか?

 であれば早いところ処置せねば。救急箱をリツさんに持って来させようと振り返ろうとするが、シリスさんがものっそい勢いで問い詰めてくる。


「ちょっと姫ちゃん何させちゃってんの?! 何ジェックくんにしでかさせてくれてんの?! やらかさせちゃってんの?!」

「え、何ナニなんですの? (わたくし)何かミスりました?」

「ミスどころじゃないよ多分彼知らないでしょ?! ならあそこは私にやらせるところでしょ! だって──!」

「フィーラァ!!」


 ここで更に、右手をわなわな震わせたジェックさんが乱入してくる。


「フィーラ! オマエ、オマエェェッッ!!!! 何させてくれとんじゃあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!?!?!!!」

「ほらやっぱり彼知らなかった!!」

「なんですの?! さっきから何故ブチ切れてらっしゃいますの?! 具体的に話してくださいまし!!」

「そりゃブチ切れもするわ! だって──!」


 ジェックさんは一度言葉を切り、最後の一言を怒り心頭に強調した!



「こんな形で異性の下の感触、知りたくなかった!!!!!!!!!!」



「ん……? あ……!!」


 ──異性。

 ──下の感触。

 ──レイン。


「そういやレインが()()なの、考慮してませんでした!」

「過失100%ォォオーーーーッッッッ!!!!!!」


 姫はアイアンクロられ、ぶん投げられた!!

姫さまがしでかしたところで告知♨


今作は『第70話』で完結、つまり『残り10話』となります!

元々60話で終わらせる予定でしたが、色々と書きたい箇所が湧きに湧いた末に10話追加した次第です!

改めて、残り10日間よろしくお願いします!!


次→明日『18:00』

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