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第59話「龍命人④ですわ!」

前回のあらすじ!

地龍ソアースさまと喋ろう。

 ◆ ◆ ◆


 一龍年前、レイン15歳──。


 超巨大ワイバーン撃墜後、地上を跋扈していた目の前の一体を斬り伏せたタイミングで、本部から設置型魔力拡声石(スピーカー)が鳴り響く。


『各隊に次ぐ! 魔物討伐作戦は終了する! 繰り返す、魔物掃討作戦は終了する! フィーラ部隊は周囲の警戒、各隊負傷者の保護に務めよ!』


 報せを聞き、レインは魔力を周囲に展開する。

 魔物は潜在的魔力量を強さの指針にしている節がある。だから戦意を折るための威嚇として魔力を見せつけるのは有効なのだ。


「グルル……!!」


 魔力を膨らませるなり途端、疾うに戦意を失い遠巻きだった魔物たちが蜘蛛の子を散らすように逃げ始める。実力のある魔物ほど身の程を弁えて去ってくれると姫さまと学んだのは良い思い出だ。


「ウケケケケ!」

「! フンッ」

「ブエェェエ……!!」


 遠くでシリスさんが迫ってきた魔物を斬り捨てる。

 ……今のように、力量差を測れない魔物が構わず襲ってくる例外が存在()るから、こうして周囲の警戒を怠るわけにはいかない。ああいうのが存在()なければ早々に(姫さまの元へ)帰れるのになぁ……。


 なんて内心不満を垂れていると、「レイちゃ〜ん」と戦場に似つかわしくない間延びした声が鼓膜を震わせた。


「マリナさん」

「おつかれ〜。水分補給しっかりと、最後のひと仕事頑張ろ〜」

「そうですね。そうします」


 腰ポケットから水色の水筒を受け取り、喉を潤す。今まで容器は無難な鉄色だったが「どうせなら好きな色で気分上げません?」と姫さまの一声で、フィーラ部隊は個々人の水筒容器を好きな色にしているのだ。彼女の案が起用された物品を所有しているだけでモチベ爆上がり。姫さまマジ最高。


 ……よし、水分補給バッチリ。


「それじゃあ、仕上げにかかりますか。マリナさんは本部に人集めて魔力壁(バリア)展開願います」

「? いいけど、何と戦うの? 周りに魔物見当たらないし、魔力だって……ん?」

「気づきましたか。でしたらなる早で頼みます。殺意は感じないけど、間違いなく強いです。今頃テクトが本部に戻って……──」


 と、口に出すなり設置型魔力拡声石(スピーカー)音がけたたましく戦場跡に拡散(ひろ)がった。


『緊急! 負傷者を急ぎ回収して本部へ避難されたし!! 周囲警戒中のマリナは即時本部に戻り魔力壁(バリア)を展開せよ!! 繰り返す! 負傷者を急ぎ回収して本部へ避難されたし!! 周囲警戒中のマリナは即時本部に戻り魔力壁(バリア)を展開せよ!!』


 ほらやっぱり、テクトの声だ。

 彼はフィーラ部隊で一番魔力探知範囲が広いのだ。こっちが辛うじて気づいた()()を彼が探知しないわけがない。だからこその焦りようだ。


 でも、怖くはない。軽く見積っても片手足は犠牲になりそうだけど、()()の被害が国に居る姫さままで拡がる方より余程マシだ。

 あぁでも……片手足を失ったら姫さまが悲しむかもしれない。いつぞや大怪我をして帰ったら血相を変えて治療室へ飛び込んできたんだもの。

 それを思えばやはり無傷で帰りたいが、それでも重傷は避けられないだろう。この確信を裏付けるように、テクトが設置型魔力拡声石(スピーカー)越しにこちらへ呼びかける。


『レイン! 多分戦闘態勢取ってるだろうが、ヤバかったら直ぐ逃げろ!! ()()()()()()()()は、一国余裕で滅ぼせるぞ!!』


 そう彼が断言した途端だった。



 ──巨大な手が、曇天を割った。



 雲の向こうから生えてきた巨大な手は、大雲を押し退けて、更に巨大なその頭を覗かせてきた。



 覗いてきたのは、一頭の龍だった。



 どこまでも壮大な龍は舌舐めずりついでにこちらを飲み込めてしまえそうな距離まで顔を寄せてきて、荘厳な声で語りかけてくる。



「儂は『空龍』のテンセイ。世界を創りし創造龍が一角なり」



 空龍──。

 姫さまと聞いたことがある。この世界の『空』『地』『海』は三頭の龍によって創造されたと世界史で勉強している。その一角が何故か今目の前に現れたわけだが、殺意を向けられている感じがしない故か不思議と恐れは抱かず、寧ろ落ち着いていた。


 なので、武器を下ろしてみせれば、テンセイさまとやらは「弁えててよろしい」と改めて口を開く。


「此度はお主ら子どもたちに事伝えることがあり、顔を出した。近々大きな争いが起きるぞ」

「争い……ですか?」


 左様──とテンセイさまは仰り、続ける。


「お主ら子どもたちの世界では戦争と呼んだか……『魔王』なる邪ノ者が人間界に戦争を仕掛ける夢を見たのだ」

「魔王……ということは、魔界の統治者が戦争の準備をしていると?」

「そうだ。だが、お主ら子どもたちからすれば確かめようなく、おいそれと信ずるに値せぬことは重々承知。なので儂から布石を打っておくとする」


 テンセイさまは呪文を唱える。すると……彼の掌に天を割れそうな巨大剣が生成される。

 それが人間サイズの片手剣まで縮小されると、ゆっくりとこちらの前まで下りてきて、両手に収まった。

 片手剣には、古代文字と思われる見慣れない文字が刻まれていた。


「その片手剣を『大雲』と名付けようか。それに刻まれてるは嘗て儂らが残した『龍文字』。古を知らんとする者に見せれば儂の言葉に信ぴょう性は増すであろう」

「古……考古学者のことですか?」


 左様──とテンセイさまは再び仰り、また続ける。


「それを携え、一龍年待て。さすれば同じく『龍文字』が刻まれた得物を持ちし男子(おのこ)が現れ、戦を終わらす友となろう」

男子(おのこ)? どんな様相かだけでも教えてくださいませんか?」

「角が生えた仮面の魔族じゃ。それ以外を話すには、ちと時間が足りぬの」

「はい?」

「あの通りじゃ」


 顎をしゃくるので振り返れば、編成を組んだ仲間たちが向かってきていた。会話内容は聴覚が頭一つ突き抜けているエアリから聞いているだろうに、妙な心配をしたものだ。


「これ以上の会話は過干渉となり、空から見守る流儀に相反する。あとはお主の口と『龍文字』で説明せよ。ではサラバだ」


 そう言い残してテンセイさまは、大雲を閉じて、また雲の向こうへと消えてしまった。

 片手剣を両手に乗せたまま、また振り返る。

 仲間たちは、一心不乱に迫ってきていた。


 あーあ……。

 説明し直すの、ヤダなぁ……。


 ◆ ◆ ◆


 帰還後、一連の出来事は直ぐに姫さまと国王陛下、そして義父ジェラルド将軍と大臣に共有された。

 これには全員最初こそ半信半疑だったが、大勢の兵士が『空龍テンセイ』を目撃した証言と、大臣の一人が血相を変えて『大雲』の『龍文字』に食いついたことで一変する。

 なんでも大臣は考古学に精通しており、曰く『龍文字』の関連物自体が片手にも満たない程に希少なのだという。国の考古学者総出で解読した結果、一気に信ぴょう性が増したのだ。

 その内容を要約すれば……──、



『二龍ヶ月以内に魔王が戦争を仕掛けてくる』

『開始から一龍年後、女子(おなご)が魔界へ連れ去られる』

『それまでに『大雲』持ちし戦士を鍛え、時が来たら救出に向かわせよ。さすれば戦争を共に終わらせる仮面付けし魔族との出会いがある』

『どうなるか分からないから、徒に行動変えるべからず』

『地上が人為的に荒れるの、創造主として見過ごせないし』

『絶対だぞ?』

 


 と刻まれていたので、万が一に備えて最後の一文以外は各国の王に共有。何事もなければ杞憂で良かったね感覚で、各国秘密裏に費用・資源を備蓄した。



 ──それから53日後……戦争が始まった。



 そしてレインは、龍から直々に命運を託された『龍命人』と呼ばれるに至る。


 ◇ ◇ ◇


「…………ン……イン! レイン!」

「はっ……あ……?」

「居眠り乗馬やめな! 落馬したら姫ちゃん救出どころじゃないよ!」

「あ、あぁ、すいません。起こしてくれてありがとうございます」

「よろしい」


 夜明けが近い中、慌てて手綱を握り直す。馬に無理をさせておいてまさか居眠り乗馬してしまうとは。我ながら相当参ってるみたいだ。

 けれど、救出を待つ姫さまだって疲弊している筈なのだ。だったら途中でしょうもない怪我なんかしてられない。姫さまを救出(すく)うのだからしゃんとしろレイン!

 と、片方の頬にセルフビンタをかました、その時だった。


「あれ……?」


 遙か遠くの山脈の麓に、黒い巨大生物が見えた気がしたのだ。

 いや……気の所為ではない。黒い巨大生物が、人間界の平原を駆けている。なんならこっちに走ってきている……?


「あれ〜? あの生き物に乗ってるの、フィーラ姫ちゃんじゃな〜い?」


「は?」


 マリナさんから発せられた一言に、全力で目を皿にすれば、生物の背上で、何度と夢に見た女性の金髪が風になびいていた。


「姫さま……!!」

「え?! あれに乗ってるの姫ちゃんなの!? よく見えたな二人とも!!」


 シリスさんはまだ確証を持てていないようだが間違いない。姫さまだ! 幼き日に忠誠を誓った姫さまだ!!


 やっと再会()えた!! こちらにはまだ気付いてないようだが、これはもう再会の範疇と言っても過言ではない!!


 よく見たら姫さまの両隣に誰か座っている。もしかして本当に魔族の者々を仲間にしてしまったのだろうか? だとしたらマリナさん予想的中だ。


「ん……?」


 ここでふと気付く。姫さまの左隣に座ってるの、体格的に男性じゃあないか? なんなら角も生えているし、仮面だって着用してないか?


 だとするなら、彼が戦争を共に終わらせる同胞なのか? そう考察を重ねるも、その全てが吹き飛ぶ衝撃的人物が姫さまの後ろから顔を出した。


「は…………………………?」


 子どもだった。

 しかもかなり幼い。姫さまが脱走してきた身なら、連れ歩くには難儀する幼さだ。もう『そういう関係』でなければ説明つかない幼さだ。

 そして、姫さまの隣に座る魔族の男……よく見たら座ってる位置近くね? なんだったら『そういう関係』の距離感じゃね?

 あれ? ということは……──?


 男……──。

 子ども……──。

 男……──、

 子ども……──、

 男男子ども子ども男男子ども子どもおとおとおとおと子ど子ど子ど子どおとおとおとおと子ど子ど子ど子どおととととととと子どどどどどどどおおおおおおおおおおおおおォオオォオオォオオォォオオォぉぉおおぉおおぉおおぉぉおおぉぉォオオォオオォオオォォオオォおおぉおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお


「男ぉォオオォオオォオオォォオオォおおぉおぉァァァアァあぁぁぁあぁぁぁあぁあぁぁぁあぁぁあぁぁぁあぁぁあぁァァァアァあぁぁぁあぁぁぁあぁあぁぁぁあぁぁあぁぁぁあぁぁあぁッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

しょうもない予感しかしない方はブクマ等よろしくお願いします♨ リアクションも嬉しいです♨


次→明日『18:00』

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