第58話「地龍さまですわ!」
前回のあらすじ!
なんか現れた創造龍神の一角が魔王軍駐屯地を吹き飛ばした件。
「え? ソアースさま、『大海』の作成主がシュウウさまと気付いてたのですか?」
駐屯地……があった場所から暫く移動したところ──。
身を縮めて夜王さんの背中に乗ってきた『地龍』ソアースさま要望の『駄べり』を始めると、早速彼は衝撃の事実を告げてきた。
ソアースさまは「如何にも」と続ける。
「その『大海』と呼んどる大剣に刻まれた文字は三龍しか扱っておらぬ『龍文字』じゃ。従って、シュウウから武器を得た小僧とその連れが邪ノ者でないことは最初から理解っとったわい」
「え〜、でしたら問う必要なかったではありませんか〜! 意図があったのでしょうけど、気が気じゃありませんでしたわ〜!」
これにソアースさまは一切悪びれずに断言する。
「あの時は眠りを妨げられて腸が煮えくり返っとったんじゃ。寧ろ裁きを下す相手を選ぶ理性があったことに感謝して欲しいわい」
「どんだけブチ切れてたんですか。いや深夜にドンパチされてはたまったもんじゃないですが」
「それだけ争いが嫌いということじゃ。戦争は醜い。特におっ始めた魔王の小童がな。生命の営みが心地好く眠りに誘ってくれたというに、戦争の所為で不毛な諍いが絶えず、日々生命が潰え、蝕まれる音ばかりが跋扈するようになってしもうた。まるで耳元で煩わしい虫羽音を鳴らされとる気分だ」
「あーそれは怒りたくもなりますわね。私も良い感じに眠くなってきた時に枕元へ虫に寄ってこられると仕留めるまで眠れませんわ。蒸し暑い日は特に」
分かりやすい例えに完全同意していると、「ん……?」とジェックさんが何かに気づく。
「あれ? だとしたらリプフォードの大武闘会ってどうなんだ? 今まで見逃されてただけで実は危ない橋渡ってた感じか?」
「大武闘会は別じゃろ。訪ねたことあるが、互いに殺さぬよう約束して殴り合っておるし、中々に血湧き肉躍ったぞ。あぁでも、カジノはぶっ壊したくなったのう」
「危ない橋渡ってんなぁ。……大会誰注目してた?」
「何下馬評気にしてるんですか貴方は」
「エイティの小僧だな。トーナメント一回戦でボコってやったが、次は優勝を狙える伸び代者じゃぞ」
「出場た側でしたかこの創造神」
「出場者哀れすぎるだろ……ん? ちょっと待て? なぁアンタ、出場たの何回目の大会だったか憶えてるか?」
「んあ? …………『第20回』だったかのう? しっかり優勝してやった♨」
「アンタが元凶かよ。その小僧、反骨精神で『第21〜24回』4連覇してっからな」
「え? 『第24回』ってことは……あれからもう12龍年経っとったの? 時の流れは早いのう」
ここまで言われて、私はようやく話を理解する。
そう、あれはリプフォード大武闘会控え室の会話だった。
なんやかんやあって各選手の冒険者になった動機を語り合っていたのだが、エイティさんは合わせて「初めての大会だった『第20回』はトーナメント一回戦で完膚なきまでに叩きのめされた!!」と語っていたのだ。
そして、先程の「トーナメント一回戦でボコってやった」と合わせれば、導き出されるは真実は一つ!
「……あ、ソアースさまでしたのね! エイティさんが初めて出場した『第20回』で、彼をボコボコに負かしたっていうの!!」
「……あぁ、なるほど。エイティさまの反骨精神はソアースさまがキッカケでしたか。私めもようやく理解いたしました」
点と点が繋がり、リツさん共々スッキリ。故に当時の方々が不憫でならなかった。
「しっかし……エイティさんもよく蹂躙されながら反骨精神抱けましたわね。12龍年前だから当時17歳でやられたら心折れた可能性だってありましたのに」
「それだけ小僧の心が強かったってことじゃろ」
「黙っててくださいまし大会荒らし」
「凄っげぇ不敬。まぁええわい。流石に自重すべきだったと今なら思うしの。つーことで、戦争の方は小娘たちで止めるんじゃぞ。戦争ばかりは当事者同士で決着をつけねばまた繰り返すからの」
「絶対止めるどころか終わらせてやりますわ」
「その意気や良し。だが、まだ眠くないのう……。もう少し何か話してくれ」
「ではここでジェックさんの絶対すべらない話をするとしましょう。ジェックさん、お願いします」
「では俺が喋る毎に、フィーラには爆笑必須の話をしてもらうか。フィーラよろしく」
「てめぇジェックさんコノヤロー!!」
「避けれない以上は道連れだバカヤロー!!」
「ぐわははは! 戦争は下らぬが、こういう下らない口論は好きであるぞ! ほれ、早う言い返せ!!」
「「この野次馬!!」」
私たちは同時に悪態をついた。
◇ ◇ ◇
その後、散々な大恥をかいた私たちは、遂にエイジンさんの言っていた南の海岸に到着したのだが……──、
「高いですわねぇ……」
人間界に続いているという西側には、山脈が連なっていた。
これは事前情報がもっと必要だ。私は未だ寝こけているエイジンさんをユサユサ揺らす。
「エイジンさん、ちょっと聞かせてくださいエイジンさん」
「う〜ん、あと8760時間……なんだい?」
「丸一龍年寝ないでくださいまし。人間界に連なる山脈ですが、山越えに何日かかります?」
「んー……直進なら夜明け前には人間界に行けるだろうけど、登るとなると……3〜4日はかかるかなー?」
「え、ダルぅ……」
それはいけない。見た感じ動植物が住んでいるとは思えない山脈に40匹の狼を連れていくのは酷というもの。夜王さんが一時離脱する夜明けも近い中で、果たして何処まで進めるのだろうかと余念なく脳内計算をしていれば、ソアースさまが声をかけてくる。
「なんじゃ小娘ら、山越えに難儀しておるのか?」
「そうなんですわよ。今から山越えするなら食糧不足ですわ」
「ふむ……では吾がどうにかしてやろう。テンセイとシュウウが動いといて、吾だけ何もせぬのは気分が悪い」
「はい?」
意味深な言葉を発して、ソアースさまは夜王さんから飛び降りると、着地するなり地面と一体化していき、あっという間に溶け込んでしまった。
すると──程なく山脈が揺れに見舞われたかと思えば、夜王さんの巨体がちょうど通れるトンネルが現れたのだった。
これなら夜明け前の人間界到達も夢ではない。龍の力を改めて認識した。
『それでは、吾等によろしくなぁ』
その言葉を最後に、ソアースさまの気配はなくなった。完全に大地と同化したのだろう。
しかし、『テンセイ』とは確か……──。
「フィーラさん、どうしたのー?」
「イヌゥ?」
ルルちゃんとホニョちゃんが不思議そうに眺めてきて、私はハッと我に返る。今考えることでもないですしね……。
「あぁ、考えても仕方ないことを考えてました。それでは夜王さんお願いします! いざ、人間界へ!!」
「承った」
こうして、私たちは魔界に別れを告げて、故郷へ一歩踏み出した!
ジェックの姫への返しが熟れてきたところで『森編』終了です。
そして、姫一行は遂に魔界から脱走し、人間界へ帰還します。そろそろ旅も終わる気がしますね。
その『人間界』での物語も明日の一話を挟んだら本格始動となりますので、追っていただければ幸いです。ついでにブクマ等をしてくれたら更に幸いです♨
それでは、また明日からもよろしくお願いします!!
次→明日『18:00』
 




