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第57話「駐屯地脱走ですわ!」

前回のあらすじ!

魔王軍駐屯地に連行されたので脱走開始。

「あらァ……」


 外に出ると、駐屯地は大惨事となっていた。

 あちらこちらに死体と負傷兵が散乱している。全員首を咬み千切られたり掻っ切られたり、存命ながらも手足をやられて蹲ってたり……。襲撃から程ないのに、とてもルルちゃんには見せられない光景が目の前に広がっていた。


「リツさん!」

「お済みでございます」


 名を呼びながら振り返れば、ルルちゃんは目元をタオルで隠されていた。リツさんマジ最高。


「最高の働きですリツさん! それじゃあ夜王さん、安全走行で爆走願いします!」

(うけたまわ)っ──伏せよ!」

「えっ──おおぅッ!!」


 夜王さん共々咄嗟に身を屈めば、真空波が頭上を過ぎ去った。(わたくし)のポニテちょっと切れたッ!!


 一体誰が──?! と振り返れば、『中指』メフさんが部下を置いて牢屋部屋から飛び出してきていた。もう回復したか!


「逃がさんッ!!」


 メフさんは次々と真空波を放ってくる。そのどれもが避けにくい位置に飛んでくるから夜王さんは思うように走れず、着々と距離を詰められる。

 その中で背上に飛んできたものをジェックさんが防ぎながら声を飛ばす。


「おい夜王、アイツどんどん迫ってきてるぞ! 大丈夫か?!」

「問題ない。想定内だ」

「何……?!」


「ヴゥ……ッ!?」


 突如メフさんから悲鳴が上がる。突然現れた複数体の『ナイトキング・ウルフ』がメフさんの手足を噛み砕いたのだ。


「狙われると見越して同胞を潜ませていたのだ。そろそろ潮時だな」


 夜王さんは立ち止まると、「アォォーーーーン!!!!」と遠吠えを響かせる。

 途端、狼の群れは一斉に駐屯地から撤退を始める。

 程なくして、駐屯地から夜王さん以外の狼は姿を消した。


「今は駐屯地(ここ)から連れ出すが先決。これ以上奴らに時間を使ってやる必要はない。さぁ、口を閉ざしておけ!」


「──なれば前方に注意せよ」

「! ぬおっ……!」


 急襲してきた超巨大斧槍に、夜王さんは反射的にバックステップを決める。超巨大斧槍が振り下ろされた地面は地響きとともに深く抉れ、間に合わなければ右前脚は確実に割かれていた。

 あれほどの超巨大斧槍を使いこなせる魔王軍兵士は1人しか知らない! 背中から顔を出せば、予感は的中する!!


「グリーズ上官!? どうして此処に?! 明日まで来なかった筈では!?」

「姫さま方なら我々が想定していない騒動を起こすと踏んで、馬に無理をさせた。流石に負傷兵を急かせない故、我しか来れなんだが」


 それでも脅威なのには変わりない。これまた厄介なのが立ち塞がった!


「グリーズ上官……──!」


 剣を杖代わりに片足を引き摺るメフさんが、(わたくし)たちをグリーズと挟むように立ち止まる。


「申し訳ございません……。此度の失態は、どうか私の責任でお許し願いたい……!」

「自分を責めるなメフ臨時上官。姫さまが秘密裏に味方につけていた『ナイトキング・ウルフ』による此度の襲撃は我らの想定を上回ったが故のこと。貴公に責はない。悔やむならば先に回復してもらい、戦線に復帰せよ。戦える者は此方へ向かわせよ」

「……ッ! ……ハッ!!」

「周囲の者は弓矢とボウガンを用意! 接近戦は我がやる! 決して近づくな!」

「「「「「ハッ!!」」」」」


 メフさんが一礼して立ち去ると、グリーズ上官は超巨大斧槍を構えて駐屯地出入口で仁王立ちを決める。独りで出入口を防ぎ切る算段のようだが……──、


「隙がないですわね……」


 まるでチョケパンポンで防衛に回ったサップさん(姫の愉快な仲間の一人)を見ているようだった。あれでは()()()身動きを止めない限り、無茶な脱出を図れば即座に夜王さんの脚が斬り飛ばされるだろう。


「夜王さん!」

「うぅむ……守護(まも)りながらでは相当骨が折れるな。どうにか隙を見出す故、少し時間をくれ」


 夜王さんは「グァオッ!」と気合い注入、狼爪をギラつかせてグリーズ上官に攻撃を仕掛ける。


「むんッ!」


 グリーズ上官は超巨大斧槍で迎撃し、弾き、いなし、連撃の間に斧槍で突いてくる。建物の壁を一撃で破壊する夜王さんと互角に渡り合っていた。

 だが、それは夜王さんが全力を出せないからに過ぎない。彼が渾身の身体能力を披露すれば(わたくし)たちが振り落とされることを見抜いての攻防だ。


「むッ!」


 夜王さんが攻撃を止めて距離を置く。ここで更に後方の兵士たちが矢を放ってきたのだ!

 矢はけたたましく空を裂き、ザクザクッ──!! と鋭く地面に刺さっていく。本来なら(わたくし)たちが降りて遠距離部隊を叩くべきだろうが、肝心の私とリツさんはそれぞれルルちゃん・ホニョちゃんが振り落とされないよう支えるのに精一杯! 尚、最高戦力のジェックさんは──、


「てめぇエイジンさっさと起きろ自力で捕まりやがれェッ!!」

「やすぅぅぅぅ〜〜〜〜…………!!」


 全身全霊をもってエイジンさんをガクガク揺するが、彼は一向に目を覚まそうとしない! どんだけ寝不足だったんですの?!


「くっ……!!」


 奥歯をギリリ……! と噛み鳴らす。

 夜王さんは「どうにか隙を見出す」と宣言してくれたが、完全に(わたくし)たちは足枷と化している。これでは徒に疲弊させてるも同義だ……!!


「イヌッ!?」

「ッ!? ホニョちゃん!!」


 刹那、最も恐れていたことに、矢に紛れて飛んできたメフさんの真空波が背上を掠めてホニョちゃんが仰天してしまう。案の定これに夜王さんは「ッ!? 妻よ!!」と気を取られ──!


「ッ……! 隙あり!!」


 ダァンッッ──!!

 その一瞬をグリーズ上官は見逃すことなく、大きな踏み込みとともに超巨大斧槍を振り下ろしてきた!




「五月蝿ぁぁあぁあぁぁぁあぁぁぁあぁあぁぁぁあぁぁあぁぁぁあぁぁあぁァァアァアァァァアァァァアァアァァァアァァアァァァアァァアァいッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」




 次の瞬間、深夜の森に激昂が響き渡り、凄まじい轟音とともに地面が揺れ出した!!


「何だ?!」


 グリーズ上官は攻撃を中止して体勢の維持に徹する。少なくとも魔王軍の攻撃ではないようだが、夜王さんの戦法にしては随分と思い切ったような……?!


「夜王さん、これも何かの作戦ですか?! 隠密生態と敢えて真逆のことをする的な!!」

「覚えがない!」

「なんですと!?」


 じゃあ、一体誰が……?! あらゆる可能性を脳裏で探っているとまた声が響き、今度は大地が割れていく!!



先刻(さっき)からダンダンダンダンザクザクザクザクとぉぉおおおッッッッ!!!! 眠れぬではないかぁぁあぁあぁぁぁあぁぁぁあぁあぁぁぁあぁぁあぁぁぁあぁぁあぁッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!」



 そして、足もとの地面が盛り上がっていったと思えば──遠くに聳え立つ丘も盛り上がって、()()()()()()()


「は?」


 あまりに珍妙で奇天烈な光景に間抜けな声が出る。

 周囲を一瞥すれば、全員が(わたくし)同様に絶句していて、遠くの光景が信じられないのかわざわざ兜を外して目を擦っている。(わたくし)たちはいつの間に夢の世界へ旅立っていた?

 つーかメフさん、女性でしたのね。綺麗な黒眼ですこと。


「ジェックさん、ちょっとビンタしてくださいまし。(わたくし)も仕返します」

「あいよぉ。ほれ」

「痛ッ! ふんッ!」

「ギャッ! グーパン!!」


 ここからしょうもないケンカに発展している間にも、()は駐屯地へ近付いてきて……出入口でようやく止まる。そこでようやく(わたくし)たちは気づく。



 よく見たら丘は、()()()だった!!



 亀は夜王さんの全長に匹敵する眼で(わたくし)たちをギロリ! と睨みつける。


「吾は『地龍』ソアース!! 世界を作りし龍の一角なり!!!!」

「地龍!? 名前的に大地を創造(つく)った龍ですかーーッ!?」

「如何にも!! なのに先刻(さっき)から無闇に騒ぎおってからに安眠妨害甚だしい!! 騒ぎの元凶は誰だ?!!!」

「鎧を着込んでいる彼らがこの巨狼さんの番を拉致しましたーーッ!!」

「姫さまちょっとォ!?」

「事実ですし先に言ったもん勝ちですよメフさんのバーカ、レロレロレ〜〜ッ!!」

「このクソ姫!!」

「では()()とそれに乗っている小娘どもは許そう!! そうと決まれば早う退けい!!!!」


 ソアースさまが言うなり(わたくし)たちの身体は「おおっ?!」と魔力に包まれ、急速に矢も届かない宙高くまで浮いていく。


「これで巻き込むまい。では裁きを下す!!!!」


 (わたくし)たちを顔の横まで浮遊させれば、ソアースさまは口内に魔力エネルギーを蓄積(チャージ)する。

 一目で理解(わか)る。絶対助からない。


「散れぇえぇえぇええぇぇえええッッ!!!!!!」


 そして魔力エネルギーは、兵士を背後に集めたグリーズ上官へ解き放たれた。



 次の瞬間──駐屯地は爆煙に包まれた。



 衝撃波は暴風となって(わたくし)たちの髪を荒ぶらせる。地上のグリーズ上官が魔力障壁を展開したのが一瞬見えたものの、爆煙でどうなったのかさっぱり分からない。仮に耐えたとて重傷は確定だろう。


 それと……(わたくし)たちが居た駐屯地、ソアースさまの左前脚だったのですね。


「あー……やっと静かになったが、すっかり目が醒めてしまったわい。おい小娘ども、また眠くなるまで話し相手になれい」

「あ、はい。(わたくし)たちでよければ喜んで」

「では降ろすぞ。先刻(さっき)から小狼どもが足もとに寄ってきとる」


 言われて地上を見下ろすと、ナイトキングウルフの群れが駐屯地から少し離れた場所でお座りしていた。

 思い返せば……夜王さんの仲間たちは先んじて撤退していたのだった。だと言うのに肝心のリーダーがいつまでも合流しなかったのだから気が気でなかっただろう。


 降りたらたくさんの感謝を伝えよう。そう心に決めて地上へゆっくり降りていく。

あーもうめちゃくちゃだよぉ……♨

魔王軍に3秒くらい同情した方はブクマ等よろしくお願いします♨(リアクションも嬉しい)


次→明日『18:00』

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