第56話「駐屯地ですわ!」
前回のあらすじ!
鳥魔族エイジンと再会。そして、魔王軍に捕らえられる──。
ある日、森の中──。
ようやく見つけたエイジンさんから人間界への道のりを聞き出せたものの、彼の目に仕込まれていた『視界共有魔法』で位置バレしてしまった私たちは、ものの見事に押し寄せてきた魔王軍に捕まってしまった。
そして……連行された駐屯地の牢屋に放り込まれてから、かなりの時間が経っていた。
狭い牢屋の中で、私・リツさんと違って厳重に拘束されている隣のジェックさんに声をかける。
「ジェックさん、起きてますか……?」
「起きてるよ……すまねぇ……俺があっさりやられたばかりに……」
「あれは運が悪かったと思いましょう。完全に特攻られてしまっていましたし」
「そう思えたらなぁ……」
ジェックさんは見て分かるほどに落ち込んでいた。
その顔は仮面で変わらず隠されているが、間違いなく目元に影を落としているのが見て取れた。
彼は魔力探知に優れている。しかし、その優秀さが仇となって『魔力遮断魔法』を使用した魔王軍兵士の接近をあっさり許して不意打ちに倒されてしまい、結果として私たちも無抵抗でお縄につかざるを得なかったのだ。
……いや、抵抗自体はしたか。
「ルルちゃんとホニョちゃん、大丈夫でしょうか……?」
彼女たちに限りは「幼子と犬に罪はない」と別室に連れてかれてしまっていた。流石に看過できずリツさんと暴れた末に駐屯地のあちこちを破壊してやったが、抵抗虚しく……である。
「無事だと信じましょう、フィーラさま。ルルさまもホニョさまも簡単に挫けてしまう心の持ち主ではありませんわ」
「それもそうですわね」
だが、それとは別に、どうやって脱走しよう? 牢の中で色々と考えてはいるが、中々思いつかない。
先ず正面突破経路は不可能と断定しよう。牢の前には兵士が2人常駐しているし、時折「トイレ行ってくる」と部屋を去っても、必ずその間臨時の見張りがやってくる徹底ぶりだ。
その結果、窓からの脱走も望み薄だ。2人のうち必ずどちらかは私たちを注視しているので、一瞬の隙をついて魔法を発動しようにもその隙が見当たらない。
同様の利用から穴掘りも叶わない。仮に掘れる隙があっても魔王軍本軍が来る前に掘り切れないだろう。
そもそもの話、私たちから行動を起こせば別室のルルちゃんとホニョちゃんを人質に取られてしまう。駐屯地のどの部屋に居るかを把握できていない以上、迂闊な脱走は御法度だ。
その結果、『私たちでやれることはない』と結論付けるうちに、かれこれ昼になってしまった。
「さぁて……どうしたものですかね〜……」
「何かするのは推奨しない」
あれこれ思案していれば、先程私たちを連行した全身鉄装備の見張りの1人が、くぐもった声で警告してくる。
「理解ってるとは思うが、姫さま方が行動を起こせば別室の幼子と犬が危険に晒されます。こちらとしても幼子たちを盾にはしたくありませんので、グリーズ上官が来る翌朝まで大人しくしていただきたい」
「ご警告感謝ですわー。というかあの方、思ってたより近くまで来てらしたんですわね。寝る間を惜しんで移動しなければもっと早く捕まってましたわ」
「姫さま方が起こした騒動がなければ今日には到着しましたがね。暴動者たちの鎮圧に時間がかかり、負傷兵も思ったより多かったから手当てを優先していたそうです。彼は可能な限り見限らない方ですから」
暴動者たち……私たちを逃がしてくれた大武闘会仲間のことでしょう。
彼らは捕縛止まりで済んでいると信じることにして……切れ者でありながら部下からの人望も厚いと来たか。その部下想いが一欠片でもジェックさんに向いてくれていたら……と思わず考えるが、脱走兵扱いたる以上それは理想論だ。
「つまるところ……今夜中に来ることは有り得ないんですわね? なら良かったですわ。私たちも疲弊していましたし、明日の朝までゆっくり休みながら手段を模索するとしましょう」
「でしたら我々は全力で手段を潰しましょう。手始めに牢屋までの警備を厳重にしておきますか。幼子と犬の部屋も一定時間毎に変えておくのもいいですね」
「いい性格していますね貴方。私に忠誠を誓うなら役職に就かせたかったです」
「生憎、魔王子さまから鞍替えする気はございませぬ故」
私たちは中指を立て合った。
となればさっさと寝てしまおう。ジェックさんと何かを察して彼の傍に寄っていたリツさんに「決行は今夜」と耳打ちしながら2人の膝を枕に仮眠を取る。
──が、直ぐに頭を起こす。
「ジェックさんの膝硬い!」
「最低!!」
◇ ◇ ◇
その日の深夜……駐屯地をよく見渡せる、かなり離れた位置にあるいい感じの丘──。
「アルファ。子息方の安全手配完了しました。指示を願います」
「うむ。では魅せようか、我らが狩りの真骨頂を……!!」
◇ ◇ ◇
「ん?」
「どうしました中指さん? あっち向いてホイでもします?」
眠気スッキリでダル絡む私を一貫して無視していた中指兵士が、突如あさっての方向を向いたので、カマをかけてみる。
「あっち向いてホイはい私の負けです。それと、いい加減なあだ名を付けないでいただきたい。いや……何か外が騒がしいなと……」
「……あ、ホントですね」
耳を澄ませば、あちこちから悲鳴が聞こえる。その悲鳴はどんどん増していき、程なくして集中せずとも聞こえるほどに至る。
この騒ぎにジェックさんは、憎たらしい茶々を入れる。
「おいおい……明らかな異常事態だってのに未だ警音も鳴らねぇとか、警備ザル過ぎやしねぇか?」
「おかしいですね、侵入者若しくは異常事態即警音を徹底しているのですが……?」
首を傾げながら中指さんは通信管に口を寄せる。
「駐屯地本部応答せよ。応答せよ」
『…………』
「繋がりませんね」
「メフ臨時上官!!」
兵士が部屋に飛び込んでくる。というか中指さん、只者ではないと確信していましたが、本当に役職持ちだったとは。
あと、メフさんというんですね。
「緊急事態! 巨狼の大群が出現! 推定30~40体!!」
「攻撃特徴」
「複数人殺られて初めて接近に気付けたと報告有り! 気配遮断魔法を心得ていると推測!!」
「被害状況は?」
「警備隊『1』『3』『4』全滅! 『2』『5』とは連絡付かず! 『6』も敗走寸前! 仮眠中だった『7』『8』『9』は兵装準備中!!」
「『6』には撤退命令。『7』『8』は迎撃態勢。『9』は救助班と合流して負傷兵の回収。炊事班には幼子と犬を連れて本部へ避難指示を。私は姫さま方の護衛・避難が完了次第指揮を執ります。以上」
「了か──!」
ドグシャッッ──!!
崩れてきた天井と侵入者によって、兵士は言葉途中で床を血に染める。出血量からして、生きていても当分起きれないだろう。
「ッ……!」
メフさんは即座に剣を抜きながら侵入者へ斬りかかる。
「ヴッ……!!」
──が、侵入者は斬られそうになった前脚を持ち上げて斬撃を避けると、メフさんを思い切り壁に叩き飛ばしたのだった。今の勢いなら暫く気絶しているに違いない。
そして、侵入者は顔を屈めて、私たちを覗き込んできた。
「フィーラたちよ。大事ないか?」
「夜王さん! 待ってましたわ!!」
侵入者は案の定『ナイトキング・ウルフ』夜王さんだった。「また夜に会おう」と仰ってましたし、来てくれると信じてた!
「驚いたぞ。ジェックの魔力が途絶えて何事かと戻ってみれば捕まっていたのだからな。あの場で助ける手もあったが妻を盾にされれば元の子もなし、子どもたちのこともある。確実に助けるためにも夜を待って襲撃させてもらった」
「無問題ですわ! それよりもルルちゃんとホニョちゃんを助けに参りましょう! あの子たちだけ別室ですわ!!」
「ああ、それこそ無問題だ」
「なのー」
「イヌッ!!」
「えっ?」
見上げれば、夜王さんの背中からルルちゃんとホニョちゃんが顔を出していた。
「此処へ来る途中、先に立ち寄らせてもらった。妻もルルも怪我はしていない」
「パーフェクトですわ夜王さん! なればさっさとオサラバしちゃいましょう! そうと決まればジェックさん!!」
「あいよッ」
ジェックさんは自身の拘束を自前の筋力で破壊し、夜王さんに壊してもらった柵を潜って、私たちの手錠の鍵を取ってくる。これで自由の身だ!!
「それじゃあ、早く脱走してしまいましょう! 人間界までの経路も分かりましたし、背中に乗せてもらいますわ! あ、そうそう……──」
私は背中へよじ登りながら、夜王さんに寄り道をお願いする。
「この駐屯地の何処かに居る鳥魔族のエイジンさんも連れて行きたいですわ。彼、魔王軍とは縁を切ると決心しましたの! 貴方が見つけたあの鳥魔族です!」
「その者も回収しておいた。其方らの帰国に欠かせぬと思っていたからな」
「あ、ホントですわ!」
背中に登れば、エイジンさんは死んだように眠っていた。この騒ぎで起きないとか、どんだけ疲れてたんですの……?
まぁ、今はいっか!!
「ナイス判断です夜王さん! ではよろしくお願いします!!」
「うむ。しっかり掴まっていろ!」
夜王さんは私たちが乗ったのを確認し、牢屋を飛び出した。
魔王軍施設は脱走げるものです♨
「決行は今夜」で何となく察していた方はブクマ等よろしくお願いします♨(リアクションも嬉しい)
次→明日『18:00』




