第54話「アホムですわ!」
前回のあらすじ!
ホニョの伴侶登場。
姫は、夢の世界へ誘われていた。
◇ ◇ ◇
「……ん。……ィーラちゃん」
「ゔ〜ん……ゔ〜ん……待ってくださいましジェックさん……水を届けるなら首ではなく腕を伸ばしてくださいまし……」
「フィーラちゃん」
「んあ……?」
愛称を呼ばれて目を開けると、愛犬の顔があった。
「……ホニョちゃん?」
──が、やけにデカかった。顔が眼前まで近付けられてるからではなく……物理的に大きくなっていた。
具体的には、私を乗せてしまえるくらい。
……あぁ、なるほど。これは夢ですわね。だからホニョちゃんが大きくなっているんだし、彼女が喋ってるんですわ。
「察しがいいわねフィーラちゃん。貴女が思ってる通り、ここは夢の世界よ」
「やはりそうなのですわね。まさかホニョちゃんと言葉を交わせる日が来ようとは……! 夢の中でも私、感激ですわ!! しかし、これまたどうして?」
「私に魔力が生じたことで、私とフィーラちゃんの夢の世界が魔力を通じて繋がったらしいの。子どもたちの影響かしらね?」
言われてみれば……夜王さんも「妻の腹に宿った子どもたちの魔力を探知しながら(略)」と仰っていた。なれば子どもたちを通じて魔力を得たと考えても不思議ではない。
……あれ? となると……──?
「ま、原理はさておき、夢の世界を巡りましょう? いつか覚める夢なんだから楽しまなきゃ」
「ですわ〜〜ッッ!!!!」
私はふっと沸いた可能性をかなぐり捨てて、愛犬と夢の世界を駆け巡ることにした。
夢の世界は、大変素晴らしかった。
先ず、最初に合流したルルちゃんも大きくなっていた。詳細化すると、15歳くらいまでに成長していた。
しかも「これなら色んなことを一緒に遊べるのー」と発音が流暢になっていたものだから成長を感じられてお母さん(※義理)泣いちゃった!! 腹を痛めた甲斐があった(※産んでない)!!
次に再会したリツは、なんかすげー大量の手が背中に浮いていた。数えてみると十手あった。
それを駆使して紅茶の用意からお菓子制作を一度に進行してみせていたが、六手くらい持て余していたので「多ければ良いわけではありませんね」と結局二手に戻していた。何事も程々が一番ですわね。
「「「「「イヌ、イヌ、イヌヌヌヌ!!」」」」」
「可愛あぁぁあぁあああ〜〜〜〜ッッッッ!!!!」
そして、なんと言ってもワンちゃんの群れ!! 嵐の如き勢いでじゃれついてくるワンちゃんハーレムですわ〜〜ッッ!!
中でも特筆して腹筋に悪かった、グロウさんの面影があるワンコと、グレストさんのサングラスをかけたワン公も仲間に加え、私は幻想の中を楽しんだ。
リツさん手製の茶菓子を頂き、ワンちゃんに顔を舐め回され、マッスルポーズを決める筋肉の群れを背景にワンちゃんパラダイスを築く。私は幻想を大いに満喫し……──?!
「ちょっと待て何か混じってましたわ?!?!?!!」
「「「「「マッスル!!!!」」」」」
私が異常に気付いた次の瞬間、夢の世界が崩壊する! 筋肉どもが一斉にこちらを向いてきて、ここぞとばかりに押し寄せてきたのだ!!
「ダブルバイセップス!!」
「「「「「マッスルマッスル!!」」」」」
「サイドチェスト!!」
「「「「「マッスルマッスル!!!!」」」」」
「サイドトライセップス!!」
「「「「「マッスルマッスル!!!!!!」」」」」
「モストマスキュラー!!」
「「「「「マッスルマッスル!!!!!!!!」」」」」
「ぎゃー! ドボスコス・ボブを中心とした『P・S・M・C』の選手方が零距離で筋肉を見せびらかしてくる〜〜ッッ!!」
「あらら……理想に似つかわしくない要素に気を取られたばかりに、一気に侵食されてしまったわ。もう諦めて笑うしかないわね」
「だから筋肉人がどんどん増えてきてるのですね巫山戯るなぁァアぁああアあッッッッ!!!!」
──と、苦言を呈したそのときだった!
「「「「「らぁああぁあぁあああぁああぁああぁあぁあぁああぁぁああぁあぁあ!!!!!!」」」」」
「ぐぎゃー! 今度はなんですのーー?!?!?!!」
振り返れば、血管をはち切れんばかりに膨張させたリプフォード大武闘会の戦士たち! 手元を見れば漏れなくイッヌを抱き上げていた!!
「「「俺たちが可愛がってた隣ん家のポミーが魔界一可愛いに決まってんだろッ!!」」」
「い〜やッ! 俺の叔父の友人が飼ってたペニャが一番だ!!」
「他所でやってくださいまし!! というか自分のイッヌ連れてきなさい!!」
「はァァァアァあぁぁぁあぁぁぁあぁあぁぁぁあぁぁあぁぁぁあぁぁあぁ!!!!!!!!!!!!!!」
「はいもう読めたッ!!」
突如轟いた爆音ボイスに全てのイッヌが逃げ出せば、いつの間にか建っていた城より巨大なエイティさんが火を吐きながら進軍していた。案の定の『爆音おじさん』だった!
「辛ァァァァアァあぁぁぁあぁぁぁあぁあぁぁぁあぁぁあぁぁぁあぁぁあぁい!!!!!!!!!!!!!! このチキン、スパイス効きすぎぃぃィィィィィイイ!!!!!!!!!!」
「だったら食べるのやめてくださいましーーッッ!!」
「そんな鶏に面目立たねぇことできるかァァァァアァーーーーーーーーッッッッッッ!!!!!!!!!!!!」
「ぐぎゃあぁぁあぁあああ!」
凄まじい爆音と音圧に耳が劈かれそうになる。このままだと世界が焼け野原、誰かどうにかしてーー!?
「どうやら俺たちの出番だな!!」
「そ、その声は?!」
──と、背後に立ち並んだ複数の気配に振り返れば!
「「「「「マッスル!!!!」」」」」
「帰ってくださいまし!!」
「そんなこと言うなよ! 俺たちだってまだまだ犬猫を愛でるんだ! いくぞ皆ァ!!」
「うるせぇぇぇぁああぁあぁあああぁあぁぁああぁあぁあぁああぁぁああぁあぁーーーーーー!!!!!!!!!!」
「「「「「ちょげぇぇぇぇぇえ!?!?!!?」」」」」
マッスルたちは一瞬にして消し炭と化した。ほれみたことか!
「フィーラちゃん、もう受け入れて私に生えてきた角がどこまで伸びるか眺めてみましょ? それとも消し炭さんたちの人生相談にでも乗る?」
「風に吹かれてろとでも言っといてください! ああもう、さらに暴れる可能性はありますが、足爪に槍でも刺しますか……!?」
「ウオオオアアアアアーーーーーッッッッ!!!! だったら俺に任せとけぇぇぇぇえッッッッ!!!!!!」
「! ジェ、ジェックさァ〜ん!!」
そこへ明らかにテンションのイカれたジェックさんが水の入ったコップを片手に駆けつけてくる! 最後まで出てくることなく夢から覚めると本気で信じていた!
「いっけぇぇぇぇぇえッッッッ!!!!!!」
ジェックさんはコップを持った手を突き出した!
──すると、腕の代わりに首が伸びた。
「悪ぃ、駄目だった!」
「はァァァアァあぁぁぁあぁぁぁあぁあぁぁぁあぁぁあぁぁぁあぁぁあぁ!!!!!!!!!!!!!!」
ジェックさんは首を掴まれ、空の彼方へ投げ捨てられたとさ。希望は潰えた。
「とんだ阿呆夢ですわァァァァアッッッッ!!?!?!?!!」
姫の夢の世界は滅びた。
◇ ◇ ◇
「……ラ……ーラ……フィーラ!!」
「はあ……ッ!!」
名前を呼ばれて飛び起きる。気付けば太陽の光が山の向こうから漏れ始めていた。
私を起こしたのはジェックさんだった。
「そろそろ頃合いだから起きてみれば、凄ェ魘されてたぞ? て何なにナニ首触ってきて怖い怖い怖い」
「良かった……! 伸びてない……!!」
「なんの夢見たの?」
「てっきり寝ぼけてジェックさんの首に『伸縮自在魔法』をかけてしまったかと」
「そんときゃ戻るまでオマエに巻きついてやるよ。それよりも! ホニョを見てくれ!!」
「ホニョちゃん……?」
やけに慌てふためくジェックさんに促されるがまま、ホニョちゃんを見る。
「イヌ」
ホニョちゃんの額には、小ぶりながらも一本角が生えていた。
「……すぅぅぅう」
私は胸いっぱいに空気を吸った。
「夢だけど、夢じゃなかった!!」
◇ ◇ ◇
その後──、ホニョちゃんと子を成す際に「先逝かれるのは辛い」とちゃっかり自身の寿命半分を譲渡していた夜王さんを折檻した後、私たちは手荷物を纏めていた。
巨体と毛並みと知名度故に昼は悪目立ちする夜王さんと一旦のお別れをするためだった。
準備が整い、私たちは夜王さんを見上げる。
「それではフィーラたちよ、また夜に会おう。妻のこと、任せたぞ」
「そちらこそ、ちゃんと父親の責務を全うしてくださいましね。子犬ちゃんたち、御機嫌よう」
「「「「イヌイヌ、イッヌヌヌ」」」」
夜王さんの背中から子犬たちがひょっこりはん。
魔界犬が魔界で生き残るための遺伝子進化故に、子犬たちは誕生から数時間足らずで元気にポテポテ駆け回れるようになっていたが、流石に産まれて間もないので日中は夜王さんが世話を担う運びとなったのだ。
それに伴い、ホニョちゃんも連れて行ってもらおうとしたのだが、話し合いの末、私たちが変わらず連れ歩くことになった。
理由は単純明快。仮に今後魔王軍に遭遇するとしてホニョちゃんの不在から「あの犬は何処へ行った?」「信頼出来る者に引き取らせたか?」「その者が強者で仲間意識が高ければ、犬を通じて魔王軍を襲撃するのでは?」「それヤバみ〜!」と夜王さんの存在に勘づかれかねないからだ。考え過ぎな気がしないでもないが、逃走中の身なのだから可能性の連想ゲームは過剰なくらいがちょうどいい。
結果として母子を日中間だけながらも引き離すことになってしまうが、家族の子どもは私の子どもも同然。ルルちゃんを連れている時点でとやかく言えないが、子どもの安全が第一だと自分に言い聞かせていれば、夜王さんが「そういえば……──」と口を開く。
「別れる前にひとつ訊かせてくれ。其方が申した誘拐者とはどのような姿なのだ? それを知れればこちらで探してやれるやもしれんし、我ら家族の契りを交わした以上遠慮は無用だ」
訊かれてみれば、言いっ放しで詳細をすっかり省いていた。
彼から率先して協力を申し出てくれている以上は共有しておくのが筋でしょう。
「私を誘拐しました鳥魔族さんは全身真っ黒でしたわ。社会進出している鳥魔族自体珍しいそうですので、これだけでもピンと来やすいかと」
「ふむ……その鳥魔族とは、あれみたいな者か?」
「え?」
私たちは夜王さんが見上げた方へ一斉に顔を向けた。
そこには、フラ……フラ……と、蛇飛行する鳥魔族の姿があった。
一瞬見えた彼の顔は酷く憔悴しており、なんなら半分目を閉じてしまっていたからか、巨体の夜王さんが居るにも関わらず私たちには気付いていないようだった。相変わらずこき使われているみたいだった。
なので私は手頃な石を拾い、ジェックさんに手渡して「ふんッ!!」と投げさせた。
「パゴスッ!? 」
投石は見事に命中し、エイジンさんはガサガサッ……と森の中へ墜落する。顔色からしてワンチャンと試したが案の定だった。
「リツさ──」
「かしこまりました」
言い終わるよりも早く、彼女は縄を携えて森の中へと消える。暫くすれば「捕縛しましたー」と声が返ってきた。
「それでは夜王さん。また夜まで御機嫌よう」
「あぁ、うむ。また夜にな」
夜王さんと子犬たちが立ち去るところを然りと見届けて、私たちはリツさんとエイジンさんの元へ行く。
トト□大好き♨
同志はブクマ等よろしくお願いいたします♨
次→明日『18:00』
 




