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第53話「伴侶ですわ!」

前回のあらすじ!

ホニョの番は何処?

「備えろッ!」


 2つの眼光は、(わたくし)たちと目が合うなり、暗闇に包まれた森の中を全速力で駆けてきた。

 にも関わらず、足音は一切響かない。闇夜を熟知している証左だ。

 眼光は距離が縮まるにつれてどんどん大きくなる。眼だけでも人の頭くらいはありそうだ。


 そして、(わたくし)たちが武器を構えると同時に、眼光の主は眼前に現れた。



 それは、巨大な一本角を額に携えた狼だった。



 しかし、ただの狼ではない。目を凝らさねば闇夜に溶け込んでしまいそうな漆黒の体毛に身を包んだそれは、大人3人は余裕で乗せられる程に巨体で、人なんぞ上半身ごと丸かじりできてしまえるだろう。



鎮圧()めるぞッ!」


 しかし、今ばかりはこの示し合わせたかの如き襲来を撃退してはならない。最初に臨戦態勢を整えたジェックさんが鎮圧すべく大剣『大海(たいかい)』を盾に前へ出る!


「あらぁーー……!?」

「ジェックさぁーーん!?」


 が、瞬時に鼻先で膝下を突かれ、前のめりに倒れたところをカチ上げられて宙高く放られましたとさ。

 あのジェックさんを土俵にすら立たせないとは! なんて判断力とそれを可能にする俊敏性!


「ヴル……!」


 巨狼はキキキキキッ……!! と急ブレーキをかけて、取り残された(わたくし)たちの前で停止する。

 そして、(わたくし)たちと綺麗な五点着地を決めたジェックさんには目もくれず、ホニョちゃんの前に出ると、感慨深げに口を開いた。



「おお……! 無事に産まれたか……!!」

「「「いや喋れるんかい!!!?」」」



 ◇ ◇ ◇


 数分後──。

 激可愛子犬たちが夢の世界へ旅立ったのを確認した(わたくし)たちは、巨狼と向かい合っていた。

 しかし……──、


「デッッッッッッッッケェですわねぇ……」


 改めて見ると、巨狼どころでなく、()巨狼だった。先程は大人3人と目測を立てたが、実際は大人5〜6人……エイティさん換算だと3~4人は安定して乗せてしまえそうだし、なんなら上半身丸かじりどころか下半身まで一呑みだ。


 ……エイティさんが3~4人も存在()てたまりますか。


 彼が複数居たら魔界は破滅だ。そう結論付けて、威厳のあるお座りをしながら(わたくし)たちを見下ろす巨狼と向き合う。


「えーと……先ず聞きますが、貴方がホニョちゃんの番でよろしくて……?」


 巨狼は「その通りだ」と厳かに言って、自己紹介を始める。


「挨拶が遅れて申し訳ない。我に名は無いが、人からは『夜王』と呼ばれたことがある」

「「「夜王……!?」」」


 口を揃えて一驚すれば、「やおうってー?」と訊いてきたルルちゃんに、ジェックさんがお久しぶりの魔物知識を披露する。


「正式名称『ナイトキング・ウルフ』。数少ない情報曰く、その漆黒の体毛と気配遮断魔法を合わせることで完全に闇夜へ溶け込み獲物を完全意識外から狩る姿から別名『夜王』とも呼ばれている。また徹底した夜行性で日中に活動することは滅多になく、かといって夜間の優位性(アドバンテージ)がなくともその巨体と膂力で特に苦戦なく相手をボコボコにできる戦闘能力から迂闊な戦闘行為は御法度。故に目撃数は年に一回あるかどうかと極端に少なく、戦闘行為の危険性から戦闘情報も碌に揃っていないから、結果として冒険者界隈では幻の存在と言われているな」

「つまりー?」

「滅多に出会えない狼。夜間戦闘は恐らく魔物界最強(トッブ)。昼間でもなんやかんや強い」

「なるへそー」


 ジェックさんは滅茶苦茶に端折った。子犬たちが眠っていなければ指差して笑い倒していた。


「子犬たちに感謝しろよオマエ?」

「なんで聞こえてるんですの?」

「顔に書いてあんだよアホンダラ」

「え、いつの間に顔に書かれてたんですの? 見てみたいので水場まで護衛してくださる?」

「うっぜェ……!!」


「フィーラさまにジェックさま、お戯れは後にして、訊くべきことを優先いたしましょう」


「「あ、はい」」


 リツさんに制されて姿勢を正す。彼女の言葉にはふざけてはならない確かな圧があった。

 だが無理もない。(わたくし)が飼い主ではあるが、初めてホニョちゃんと出逢った魔王城で、囚われの(わたくし)に代わり飼っていいか実際に調べてくれたのは、何を隠そうリツさんなのだ。なればホニョちゃんへの愛情もひとしおというものだ。


 なので(わたくし)は、遠慮なしに夜王へ問う。


「夜王さん。答えていただきたいことがあります。拒否権はありません」

「なんだ?」


「貴方……いつホニョちゃんと出逢い、子を成しました?」

「……」


 夜王さんは暫し目を泳がせるが、やがて、非常に居た堪れなさそうに暴露した。


「……………………出逢った場所の近くに村があった」


 ──瞬間、私たちの沸点は厨房に鳴り響くケトルの如く頂点に達した!!


「村即ち『チョモ村(※第2章の舞台)』とかめっちゃ最序盤じゃないですかテメー!! なーに人の家族に挨拶なく手ぇ出してやがるんですか!!!?」

「いや、それはホントに筋を通すのが遅れたと思っている。だが妻からは逃避行の最中と聞いていた故、なれば旅路に区切りがつくまでは会うべきでないと思い、遠くから見守るに徹していたのだ。我の巨体では目立つ故」

「その気遣いはありがとうございます! というか、え?! じゃあホニョちゃん、妊娠から出産まで1龍ヶ月経ったかどうか?!」

「それはあれだフィーラ。さっきも言ったろ、魔界犬(まかいぬ)は『魔界を生き抜くための遺伝子進化で、産まれてから動けるまでが極端に早い』らしいって。それで思い出したが『子孫を残しやすいよう、妊娠率が非常に高く、妊娠から出産までも非常に短い』のが魔界犬(まかいぬ)だった筈だ」

「なーるほどぉ。ってどうして貴方は冷静なんですか?!」

「オマエの荒ぶりようが可笑しくて頭が冷えた♨」

「キィーーッッ!!!! ……ふぅ」

「落ち着いたか?」

「おかげさまで」


 仕切り直して、問答を再開する。


「では次です。ホニョちゃんとはどのように出逢い、何故に惚れました?」

「夜の狩りに勤しんでいたら、とてつもない魔力を感じたのだ。それの正体を確かめようと辿ってみれば、その小さな寝床の前で星空を眺める妻に出逢ったのだ。その時に見せてくれた笑顔があまりにも可憐で、この笑顔を逃したくないとその場で求婚したのは昨日のように憶えている」

「つまりジェックさんが恋のキューピットじゃないですかテメェこのヤローッッッッ!!!!!!」

「ジェックさま、今回限りで結構です。ぶたせてください」

「知らねーよォォ!! 俺知らねーよォォォォ!!!!」

「というかホニョちゃあぁんも……。いつの間に番を作っていたのには心底驚きましたわ。好みだったんですの?」

「…………ポッ♡」

「ならしゃあないですわね可愛(かわい)ッッ」


 と、愛でたところで「ん……?」とふと疑問が浮かぶ。


「それはそうと夜王さん。(わたくし)たち、道中で海を渡りましたが、貴方、よくここまで追ってこれましたわね。何かそういう魔法でも?」

「いや? 妻の腹に宿った子どもたちの魔力を探知しながら陸路をひたすら駆けてきたのだ。探知可能な距離もギリギリだった故、日中だったのもあり置いてゆかれぬように……且つ追い越さぬよう苦労した末に今さっきようやっと追いついたのだ。これ程に神経を摩耗したことはない」

「あぁ……貴方、夜行性でしたものね。それはまぁ……お疲れさまです……あふぁ……」

「なんだ、寝不足か? 妻の家族に負担はかけられぬ。日を改めるとして、我は一度お暇するとしよう」

「あぁ、いいんですよ……。今から寝直したら昼まで爆睡まっしぐらですから、もう出発するとします……」


 (わたくし)の返答に、夜王さんは首を傾げる。


「休まぬのか? それは何故だ?」

「ホニョちゃんから聞いての通り、私たち、追われてる身なのです。最近は特に厳しくて、迂闊に寝過ごせないのです」

「それは難儀であるな。ふむ……であれば我が背中に乗せて走って進ぜよう。そうと決まれば荷を纏めよ」

「良いのですか?!」

「構わんよ。妻の家族は我が家族同然、遠慮することはない。だが、乗せてやれるのは夜間のみだ」

「あら、そこはやはり夜行性が関係してます?」


 それもあるが……──と夜王さんは面倒くさそうに口角を下げる。


「ご覧の通り、我の黒毛は日中だと目立ち過ぎる。故に目撃されれば最後、金銭・名声目当ての者々が押し寄せてきて、埒が明かずに住処を棄てるを繰り返していてな。今も落ち着ける住処を探し求める旅路の最中よ」

「あ、でしたら(わたくし)の国はどうでしょう? (わたくし)の祖国には『自然保護区域』がありまして、絶滅危惧種や密猟被害の多い動植物を積極的に受け入れてますわ。不法侵入即国際指名手配にして地の果てまで追いかけて逮捕するくらいには保護活動に積極的ですし、悪い話ではないかと。(わたくし)からお父さまに口添えしますわ」


 これに「ほう!」と夜王さんは下がった口角を上げる。


「それは僥倖! 其方の領地内(すみか)となれば妻とも会い易いしな。場所は何処だ?」

「それが分からないのですよ。(わたくし)、この魔界に無理やり連れてこられた身なので、祖国がある人間界が何方の方角なのかは現状さっぱりですわ」

「なんと、帰り道が分からぬと申すか。我も人間界には行ったことない故、方角が分からねば目指しようがないぞ?」

「ですが当てはありますわ。(わたくし)を攫った者が南南東へ向かったと目撃情報がありましたの。なので先ずは南南東を目指していただきたく」

「あい分かった。それじゃあ早速目指すとしよう」

「了解しました。リツさん!」

「荷物と子犬を乗せる準備は済んでおります」

「リツさん心底(マジ)最高! さぁ皆さん乗り込んで!!」

「はいほらさっさー……!!」


 皆で次々荷物を乗せていき、自分たちもよじ登る。とてつもなく心地好い毛並みに思わず寝てしまいそうだ。


「なんなら眠っても構わんぞ? 振り落とされんよう魔力壁を背中に張っておくし、我も夜が明けたら一度身を隠す故、その時には起こして進ぜよう」

「「「有難(あざ)〜〜ッすヤァ……!!」」」

「なのー……!!」

「一瞬だったな。では行くぞ!」

「「「スヤァ……!!」」」

「なのー……スヤァ……!!」


 夜王は寝言を返事代わりに、出立した。

 こうして姫一行は、夜限定の心強い協力者を得たのであった!!

金輪際の別れにならなくて良かったですね♨

ほっとしている方はブクマ等よろしくお願いします♨


次→明日『18:00』

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