第51話「ホニョちゃんですわ!」
前回のあらすじ!
レイン、15歳当時──。
魔界──。
リプフォードを脱出してから6日経った頃……姫一行には疲労の色が見え隠れしていた。
要因は主に5つ。
「グロウさんたち、大丈夫ですかね〜……」
先ずひとつ……魔王軍に囲まれた私たちを逃がしてくれた大武闘会の参加者たちが心配でならなかった。
自らの意思で魔王軍に楯突いた以上、どうにかなる算段があっての行動だとは信じている。けれど、魔王軍妨害を呼びかけたグロウさんをはじめ、思い切り暴れていたグレストさん、エイティさんたちに起こり得る万が一の可能性が否応なく頭の片隅にチラついては神経がすり減っているのを実感していた。
だが、どうなったか確かめられない以上気にしたって仕方ない。そう言い聞かせるように先頭を歩くジェックさんが私の不安へ否を唱えてくる。
「大丈夫だと信じてやろうぜ大丈夫だとぉ……。アイツらが易々と死滅るタマじゃないのは試合ってよく理解ってるだろぉ……? ところでオマエら、腹持ちは大丈夫かぁ……?」
「大丈夫ですことよぉ〜……」
「現状無問題ですわ〜……」
「ならいいんだぁ……」
二つ目──。
ジェックさんが気にかけてきたように、お腹が空きやすくなった。遂に魔王軍の接敵を許してしまった以上いつ追いつかれるとも知れないので、夜以外の食事は専ら手早く食べられる乾パン等の加工済み食品となり、結果としてお腹が熟れやすくなったからだった。
だが、これに関しては文句はない。今後は腰を据えての食事を摂れにくい以上食べ歩ける食料を主体にしたかったし、改めて「(リプフォードで魔王軍を見かけるなり)こうなる気がしましたわ」と携帯食料を買い込んでくれていたリツさんに感謝ですわ。
「そういうジェックさんは、眠くなってませんかぁ〜……」
「心配するなぁ……ふぁぁ……」
「露骨じゃないですかヤダァ〜……」
「………………」
「寝ながら歩きしないでくださいましぃ〜……」
後頭部をペシンッ──と叩けばジェックさんは「ふがっ……」と大きく鼻を鳴らした。
三つ目──。
私がジェックさんを気にかけるように、睡眠不足も無視できなくなっていた。魔王軍が夜間に迫ってきていないとも限らないので、夕食の時間は変えないながらも食べ終えたらさっさと寝付き、その分出来るだけ早い時間に行動を開始するようにしているからだった。
これに関してはかなり不満がある。「少しでも休んどけ」と率先して夜の気配を探っているジェックさんの睡眠時間が相当削られてしまっているのだ。
いつでも魔王軍の接近に気づけるように……とは頭では理解しているし、夕食の準備時間中に仮眠を取っている姿は見ている。しかし、「〇〇ぁ……」と言葉の歯切れが悪くなっていれば、眠気覚ましの軽口も長続きしなかったりと、明らかに連日寝不足の弊害が出ていた。
「起こしてくれて感謝なぁ……。それはそうと、ルルはまだ寝てるかぁ……?」
「すいぃ……すいぃ……」
「まだ起きそうにないですわぁ〜……」
「ならいいんだぁ……。夢の中の方が平和だからなぁ……。子どもは平和な世界を享受すべきだぁ……」
「ですわねぇ〜……」
四つ目──。
更にはルルちゃんのお眠の頻度が増した。故に抱きかかえる頻度も増えたから腕がもうパンパンだ。リツさんが夜に腕のマッサージをしてくれている上で……だ。
けれど、ルルちゃんは微塵も悪くない。元々朝が早い彼女ではあるが、太陽が顔を出し始めるなり起こされるのは子どもからすればたまったものじゃないのだ。無理させるお母さんでごめんね……。
「母じゃなかて養母だろぁ……」
「心の中読なまいでくださいましぃ〜……。というか呂律回ってありませんことよぉ〜……」
「フィーラも人のこと言えねぇだろぉ……。まとなが入れ替わってぞぉ……。ホントに大丈夫かぁ……?」
「私はいいんですよぉ〜……。問題は他ですわぁ〜。リツさぁ〜ん……?」
「ホニョちゃんもまだ寝ております〜……」
「ですかぁ〜……」
「イヌゥ……イヌゥ……」
リツさんの腕の中で愛犬は、ぷぅぷぅ……と鼻を鳴らしている。
五つ目──。
一番の懸念点がホニョちゃんだった。というのも、明らかに動く頻度が減っている。
ジェックさん伝手ではあるが、ホニョちゃんは「もしかすれば、もしかするかも……?」と動物病院の受診を薦められていた。しかし、件の魔王軍騒動で受診どころでなくなり、結局薦められた理由は分からず終いになっている。
その「もしかすれば」の影響か、ホニョちゃんは少し歩いただけで直ぐ座るようになってしまった。だからなのか専らリツさんに抱えられるようになり、果てには歩き不足の所為なのか「明らかに重くなっている」とリツさんから言われた時は本気で肝が冷えた。
これは……もしかすると、もしかするかもしれない。
だから私たちは、ルルちゃんとホニョちゃんが寝ている間に、今後を話し合うようになった。
「お二方……やっぱりホニョちゃんって……そういうことですわよね……?」
「そうさなぁ……。だからなのか、昨日も話したように、俺たちが寝ている間にテントを出る気配を最近ずっと感じてる。最終的には中へ戻ってきているが…………邪魔にならないように、とも受け取れる……」
「ですわよね…………もう、見て見ぬふりはできませんわ」
「──! フィーラさま、やはり……?」
「…………はい。決めましたわ」
私は声を振り絞って、決断する。
「次の町村に到着次第です。なんの病気か特定して、里親を探しましょう。異論は認めません。よろしいですね?」
「おう……」
「はい……」
それからというもの私たちは、ルルちゃんとホニョちゃんが起きるまで、ルルちゃんのメンタルケアをどうするか議論しながら歩き続けた。
◇ ◇ ◇
その日の深夜──。
「イヌ……」
ジェックを含む皆が寝静まっている中、ホニョは一匹、自分用の毛布を引きずり、外へ出た。
◇ ◇ ◇
「ホニョさま……?」
暫くして、不意に目を覚ましたリツは、ホニョの不在に気付いた。話に聞いた通りなら、テントから出ていることになる。
まさか……! と最悪を想起してこっそり急いで外へ出てみれば……──、
「ッッッッッッッッッッ……!!!!!!!!????」
月明かりに照らされた、思わず目を見開く光景に、リツは甲高い吃驚声を上げたのだった。
「どうしましたァ!?」
「どうしたァ!?」
「どうしたのー……?」
聞いたことのないリツの吃驚声に、姫とジェックが間髪入れずに、その後ろからルルがのっそりテントから顔を出す。
そして、リツが腰を抜かした衝撃の光景に、彼らも寝起きとは思えない吃驚声を上げた!
「ダアッッッッ!!!!!!????」
「わぁ……ふえてるのー……!」
「イヌ、イヌ」
「「「「イヌイヌイヌイヌ」」」」
「ホニョちゃん妊娠してたんですのーーーーッッッッ!!!!!!????」
ホニョはお腹に寄りかかる4匹の子犬を、愛おしそうに舐めまわしていた!!
ホニョはお母さんになっていた!!
シリアス「じゃあの」
黄●伝説を見ていた当時、ボーちゃん(豚)が唐突に出産したのには驚愕したものです♨
懐かしい気持ちになったら、ブクマ等よろしくお願いします♨
次→明日『18:00』




