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第49話「大脱出ですわ!」

前回のあらすじ!

仲間がいるよ……!!


【現在の偽名】

姫……フィーリ

ジェック……ジャック

リツ……リラ

「チェストォ!」

「おぶぅッ!!」


 階段下の魔王軍兵を踏み倒しながら着地すると、外壁の中は大騒ぎとなっていた!


「「「「「わぁぁぁぁァアアァアッッッッ!!!!!!」」」」」


 狭い外壁内通路で、大武闘会に参加していた冒険者たちがあちらこちらで暴れて魔王軍兵士をシバキ回している。魔王軍兵士は冒険者たちの暴徒化に理解が追いつかず、てんやわんやの様子だった。


「フィーラさん! コッチです!!」


 その中から駆け抜けてきて道案内をしてくれる女性が一人。グロウさんだ!


「グロウさん! 貴女も来ていたんですね!」

「当ったり前ですよ! カジノを出てみれば魔王軍が集まっていて、何の事件かと思考透視(のぞ)いてみれば大勢が師匠を殺そうとしてるんですもん! そりゃどうにかしなきゃって思うじゃないですか!!」

「貴女が呼びかけてくれたんですのね、ありがとうございます! けれど良かったのですか?! これほどの騒ぎを起こした以上、貴女方も指名手配まっしぐらですわよ!?」


 軍への暴行・妨害行為は公務執行妨害罪に該当する重罪だ。それを白昼堂々やったとなればその場で逮捕は確定、仮に逃げ延びても顔から名前まで魔界中に拡散されて、文字通り地の果てまで追われる身となってしまうのは想像に難くない。なんなら今まで聞いた魔王の印象からして「殺したくて堪らない隠し子を庇った」と私情で国家転覆罪扱いにされてもおかしくない!


 ──が、彼女は「知ったこっちゃないですよ!」と走りながら言い切ってみせる。


「成長の階段を組んでくれた師匠を見殺しにするくらいなら喧嘩上等ですよ! そのためならエイティさんたち参加者にも呼びかけますし、記者たちにも売り込みます! てか売りました! 『魔王軍、いびっていた元兵士を私刑(リンチ)!?』と見出しが上がれば真実はどうあれ魔王軍は大炎上ですよ! 私自身、魔王軍のことは嫌いでしたし!!」


「嫌い?」


 それってどういう……──と、(わたくし)が聞き終えるよりも早くグロウさんは打ち明ける。


「私が成り行きで冒険者になったって話したと思いますが……あれ、お父さんが徴兵されてそのまま帰らぬ人になったからなんです! だからお母さんを楽させるためにも私が出て行くしかなかったんです! だから魔王はお父さんを殺したも当然で、魔王の評判ズッタズタになって政権解体になれば仇を取ったザマーミロですよ!!」


「ッ……!!」


 共に駆け抜けながら涙ぐむグロウさんに思わず(わたくし)は口を噤む。

 大武闘会での控え室で、確かに「食い扶持に困って実家を出た」と彼女は言っていた。

 だが、それが戦争に巻き込まれた故だったとは露程も知らなかったし、原因を思えば身を裂かれる痛みすら覚える。

 けれど……今の話を聞いて、(わたくし)はグロウさんの内心以上に心配になった人物へ顔を向ける。


「…………………………」


 その人物──ジェックさんはルルちゃんを抱きかかえながら無言のまま、逃げ道を阻む魔王軍兵士を薙ぎ倒していた。

 普段話題に上げたりしないよう努めているが、彼は件の魔王の『隠し子』だ。彼自身『隠し子』故に度重なる冷遇と理不尽に晒されてきた身で父親への情が皆無なのは明らかだが、それでも血の繋がった人物の被害者が身近に存在していたとなっては思うところがあるのでは……気が触れてしまいそうな精神的苦痛に苛まれていないかと心配でならなかった。


「ジェックさ──」

「フィーラ」

「は、はいっ!」

「…………打ち明けて……いいか?」

「ッ……!」


 そう聞かれたら、許可するしかないではないか。

 (わたくし)は目を伏せ、「──はい」と答えた。


 ジェックさんは「ごめんな」とただ一言だけ口に出して、グロウさんに声をかける。


「グロウ、すまん」

「え?」

「俺、その魔王の隠し子。俺の父親の所為で……すまんかった」

「……ッ!!」


 この告白に、グロウさんは目を見開いた。

 ああ……遂に言ってしまった。言わせてしまった。

 本当なら墓場まで隠し貫きたかったであろう『自分は魔王の隠(己の恥)し子である』を打ち明けさせてしまった。

 血縁とは馬鹿にならない。どれだけ意識したくなくても『〇〇の血縁』たる事実は揉み消せないし、血縁者の愚行に自身が一切関与していなかろうが『愚行者の身内』と嫌でも後ろ指を差されてしまうものなのだ。

 にも関わらず、ジェックさんは『自分は魔王の隠し子である』と打ち明けた。彼自身は何も悪くないのに『自分は糾弾されても仕方がない存在』だと感じてしまった。自ら『血縁の罪は己の罪』と背負ってしまった。


 そうすることで、彼は『そんな自分はさっさと見限って、早いところ身を隠せ』と暗に伝えてしまった。



「……知ってました」



 ──が、しかし……グロウさんは離れないどころか、既知であると告白してきた。


「……え?」とジェックさんが素っ頓狂な声で彼女に顔を向ける。


「お忘れですか? 私が思考を透視()れること。大会受付で再会した時からずっと『自分は魔王(クズ)の隠し子なんだよなぁ……』と思考の片隅にありましたよ」

「え、あ、そうなの? というか、師匠て……──、」

「今更弟子辞めるわけないじゃないですか! 師匠が戦争ふっかけた張本人でもないのに恨むのはお門違いですよ! 寧ろ自ら打ち明けてくれて嬉しかったんですからね!!」

「あ、え……そ、そう……?」

「そうです!!」


 ジェックさんはしどろもどろに受け答える。あのジェックさんがすっごい押されてる!

 これに思わず目が潤む。ジェックさんが『血縁の罪を背負わなくたっていい』と直に言ってもらえた様が、こんなに嬉しい!


 だったら、(わたくし)も続こうではないか。

 彼が打ち明けたなら、(わたくし)も打ち明けて、同列になろうではないか!


「グロウさん、こちらをご覧ください。……ぺいっ」

「え、あ、え!? つ、角! 角ォォォ!!!?」

「ずっと黙っててごめんなさい。実は(わたくし)、魔王軍に誘拐された人間界の由緒ある王女なのですの。まぁ、貴女の魔法で筒抜けだったでしょうが」

「あ、はい! 師匠の思考を通じて知っちゃってました!」

「師匠にゾッコンじゃないですかヤダ〜!!」

「やーいやーい、フィーラの自意識過剰〜〜!」

「そういうジェックさんはビビリっちょ〜〜!!」

「なんだと貴様ァ!!」

「やっと調子戻りましたわね」

「おかげさまでな。グロウ!」

「は、はい?!」

「……ありがとう」

「! ……どういたしまして! ──あ、ストップ!!」

「? どうしまし……──」


 チュドォッッ──!!

 言われるがまま走行を停止するなり壁が吹き飛び、リプフォードの外へと続く道が生成される。いつの間にか一階まで駆け下りてきていたみたいだ。


「よぉ、フィーラ一行! 間に合ったようで何よりだ!!」

「グレストさん!!」


 崩れた箇所からグレストさんが現れる。その後ろにはギャフンと倒された魔王軍兵士の山が築かれていた!


「門周りの兵士は倒しておいた! こっから逃げちまえ!!」

「ありがとうございますグレストさん! あの、(わたくし)たち──!!」

「あー言わんくていいグロウから大体聞いた。魔王に一泡吹かせようと人間界に帰還しようってんだろ?」

「グロウさん貴女、結構喋ってますわね!?」

「テヘッ☆彡」

「とにかく、折角用意してもらった逃げ道だ、使わせてもらうぞ! リツ、ホニョ持ってくれ! ルルは舌噛むなよ!」

「わかったのー」

「かしこまりました。ホニョさま、私めの腕の中に」

「イヌッ!」


「ジェック!」

「なんだ?!」


 早速抜け穴を潜ったところで、グレストさんがジェックさんを呼び止める。


「俺たちゃブラックリスト入り待ったなしだが、この馬鹿騒ぎを後悔してねぇぜ!」

「! ……その心は?!」

「ここで暴れてる全員オマエが好きで、3龍年後の大会で一戦交えたいと思ってんだ! だから絶対逃げ延びろよ!!」

「ッ!! ……ならそっちも逃げ延びろよ!!」

「当然だ! ……ジェック!!」

「なんだァ?!」



「また会うぞ!!」



「ッ……!! またな!!」


 そんな彼らのやり取りを最後に、(わたくし)たちは森の中へと駆け込んだ。

 (わたくし)たちは、振り返らなかった。

ぶ熱い大脱走とともに『大都市リプフォード編』完結です。ここ数話はコメディどころじゃありませんでしたね(爆音おじさんから目逸らし)。

ということで、次回から姫一行の逃走劇が本格化しますので、ブクマ等をして追っていただければ幸いです。明日からもどうぞよろしくお願いします!


次→明日『18:00』

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