第47話「二度と御免ですわ!」
前回のあらすじ!
カジノに来たよ♨(それとジェックの魔力事情考察)
【現在の偽名】
姫……フィーリ
ジェック……ジャック
リツ……リラ
十数分後──。
折角なので、グレストさんを連れてカジノホールへ赴けば、ジェックさんがグロウさんと立ち話をしている姿を見つけた。
「ジャックさん、乙ですわ。グロウさんも御機嫌よう。進捗如何でして?」
「ポーカーでコツコツコツコツコツコツ……と地道に稼いでいるよ。やっと全員のレストラン代まで到達したとこだ」
「師匠ったら凄いですよ! さっきロイヤルストレートフラッシュ当てたんです! ダブルアップこそしませんでしたが」
「ダブルアップはフルハウス以下と決めてるんですー」
「堅実過ぎて欠伸が出ますわね貴方。勝負に出ない殿方は残念がられますわよ。主にプロポーズで」
「勝負のベクトルが違う気がする。だったらオマエは稼げているんだな?」
私はふっ……と微笑を浮かべて、宣言する。
「先程全額、擦りました♨」
「帰れ!!」
「スロットでは大勝ちだったんですの! チョケパンポンで培った動体視力で絵柄揃えまくったんですことよ! なのに道中見かけたトランプゲームに一興を賭していたらいつの間にか底をついていたんですの!!」
「だから堅実にって言ったじゃん! ババ抜きでもムキになって58連敗したんだろ?!」
「言っていません! 貴方は絶対やるなよとは言いましたが、堅実にやれとは言っていません!!」
「屁理屈言うなや! なら絶対後悔する魔法の言葉使ってやる! ルルとホニョの飯代は……?」
「イギィィィィィィイッッッッ!!!!!!」
凄まじい頭痛に襲われて床にしゃがみ込む。彼は人の心がないのですか?!
「こうなったらリツさん! じゃなかてリラさんに賭けるしかありません! グロウさんよろしく!!」
私の指示に「はいはーい」と彼女は辺りをぐるりと見回した。大会では『思考を透視』していましたが、そもそもは『曲がり角の先・箱の中身等を透視』する魔法なのだ。
「あ。見つけました。場所は……ルーレットコーナーですね」
「ナイスですわグロウさん! さぁ皆さん行きますわよ!」
「完全他力本願だなぁ」
「黙らっしゃい!」
私は一喝して、人混みを掻き分けていく。途中マーク・サカク・シカック三兄弟が悲鳴とともに椅子から崩れ落ちていたが無視して進む。
「ん?」
しばらく進み、ようやくルーレットコーナーに辿り着くが、リツさんの姿は見当たらない。方角的にこちらの筈ですが……?
「グロウさん。もう一度お願いします」
「はーい。と…………ファッッ!!!?」
「おおう、急にどうしたのですか? 何を見つけたんですか?」
「フィフィフィーフィ、フィーリさん! そこ、そこォォッ!! そのコイン山脈の向こう側ァ!!」
「コイン山脈?」
動揺するグロウさんの指し示す先へ顔を向けると、えらい人集りの隙間から見えるルーレットテーブル席に文字通りのコイン山脈が築かれていた。
まさかと思い、その山脈の前まで進んでいくと……──、
「……リラさん?」
世話役のリツさんが、コイン山脈の前に座っていた。
コイン山脈の前で、ルーレットを回していた。
コイン山脈を築きながら、ルーレットを回していた!!
「リリリリリリリリーリーリリリラさぁぁぁぁん!!!!!?」
「あ、フィーリさま……」
リツさんが私の絶叫に気づいて振り向いてくる。
その顔は、えげつない冷や汗に塗れていた。
「どうしましょうフィーリさま……。ひたすら赤か黒で賭けていたら19連勝でございます……」
「19連勝て……大会の優勝賞金とっくに超えてんじゃねぇか!! もう十分どころか十二分に稼いでるじゃねぇか!!」
「「「ひぇぇぇぇえ!!!!!?」」」
「で、ですが……周囲の圧が凄いのです。切り良く20連勝を記録してくれと無言の期待を寄せてきているのです……」
「止めろ止めろ! それ以上はやらなくていい! これ以上無理しないでくれ! 俺たちが保たない!!」
「そうですわよ! 貴女は充分に頑張りました! もう戦わなくてよろしいのです!! グロウさんとグレストさんも止めて……お二方?」
二人はふらっ……とリツさんの前に出る。
そして──、自身のなけなしの所有コインをリツさんの前に置いて、二人揃ってそれはそれは美しい土下座を決めた!
「「勝ったら一割ください!!!!」」
「「貴様らァァァッッ!!!!!!」」
「──20! ──20!」
「──20! ──20!」
「──20! ──20!」
ここで周囲から『20コール』が鳴り響く! 己が金でないからと好き勝手な!!
「リラさん惑わされないでくださいまし! これ以上の勝負は私の心臓も保ちませェェん!!」
「リラ! オマエの主君もこう言ってるんだ! どうか聞いてあげェェェェエエェェエエアアアアぁぁあぁあぁぁぁあァぁあぁぁぁあぁぁあぁっっっ!!!!!?」
ジェックさんが声にならない悲鳴を上げる。リツさんが黒に賭けたのだ!!
──瞬間、無慈悲にルーレットは回り始め、鉄球が転がり始めた!!
「イヤぁぁあぁあぁぁぁあァぁあぁぁぁあぁぁあぁっっっ!!!!!? やめてェェェェエエェェエエぇぇぇえぇええぇえぇぇぇえっっ!!!!!?」
「ぎゃぁぁあぁあぁぁぁあァぁあぁぁぁあぁぁあぁっっっ!!!!!?」
もう立ってられない! と言わんばかりに、私はジェックさんと抱き合った!!
後に、私は振り返る……──。
これほど心臓が飛び出す出来事はなかったと……。
後に、私は痛感する……──。
ルルちゃん・ホニョちゃんが居なくて本当に良かったと……。
後に、私は語る……──。
二度と味わいたくない瞬間だったと……!!
鉄球は、黒枠に落ちた!!
「「わぎゃぁぁあぁあぁぁぁあァぁあぁぁぁあぁぁあぁっっっ!!!!!?」」
私たちは狂喜した。
リツさんはテーブルに突っ伏し気絶した!
ルーレットコーナーは熱狂に包まれた!!
後に、私は答える……──。
これが、最初で最後のカジノだったと……!!
◇ ◇ ◇
私たちは出禁になった。
二度と来るか……!!
◇ ◇ ◇
「ルルちゃア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ん!!!!!!!!!!」
「あー。おかえりなのー」
換金後──、早速私はルルちゃんを回収すべく、ホニョちゃんをジェックさん、買い出しをリツさんに任せて『子ども用遊びコーナー』へと赴いていた。
私たちに気づいたルルちゃんが「ばいばーい」と周囲の子どもたちに手を振って、ペケペケー……と走ってくる。社交性がちゃんと育っていて私嬉しい。
そして彼女は──、両腕を広げてしゃがみ込んだ私にポムッ……と身体を預けてきた。
「ルルちゃア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ん!!!!!!!!!!」
バゴンッ──! と涙を噴き出して、私は愛娘をこれでもかと抱きしめる。ああルルちゃん、貴女はなんて可愛いの! クンカクンカ! スーハースーハー!!
「なにかあったのー?」
しかも、私たちが打ち明けるよりも早く心労に気づいてくれた! どこまで気遣い上手ですのこの愛し子は?! セラピスト?! ルルちゃんセラピストですの?!
「そうなんですよ! 路銀を稼ぐべくカジノへ行ってきたわけですが、もうカジノは懲り懲りでしてよーッ!!」
「だめだったのー?」
「ガッポガッポのウッハウハでしたわ! けどそこに至るまでの過程がこれまた心臓に悪くて呼吸もしんどかったですことよ! なんなら今も心臓バックンバックンですわ!!」
「じゃあ、おちつかせるのー」
そう言ってルルちゃんは私とハグをやめて距離をとる。ああ、私のルルちゃんマイナスイオン……。
彼女は「ノニョちゃんにおしえてもらったのー」と合わせた両手を腰まで引っ込め……──、
「げんきになれほ〜」
と、私に向かって、構えた両手を開いて伸ばしたのだった。
◇ ◇ ◇
「はゥあッッ!?」
私はジェックさん・リツさん・ルルちゃん・ホニョちゃん、そして『子ども用遊びコーナー』の子どもたちに囲われた中でカッ──! と起床する。すっかり天に召されてしまっていた。
「危ない危ない。あまりの尊さに危うく致命傷でしたわ。投げ落としてくれてありがとうお祖父さま」
「孫の追い返し方が物騒なんよ。まだ落ち着きを取り戻せてねぇな。そんな貴女にホニョ、レッツゴー」
「イヌッ!」
「ホニョちゃア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ん!!!!!!!!!! ハースハスハスハースハスハスハースハスハスハァァァァッッッッ!!!!!! ……ん?! この益荒男の匂い……ジャックさん貴方、私を差し置いて犬吸いしてましたわね!!!?」
「なんで特定かんだよ気持ち悪ぃよ!! 前世イヌだった?!」
「身内の匂いは自然と覚えるものですわ! 因みにリツさんはフローラル、ルルちゃんは健やか、ホニョちゃんの匂いは野!!」
「キッショ! キッッッショ!! あまりの気色悪さに俺の脳が相槌を拒んでる!!!!」
「そこは健やかって何ぞやと訊くところでしょう!? あ、ホニョちゃんのお迎えありがとうございました」
「うわぁ急に冷静になるな!? それよりも、ホニョでちょっと耳に入れときたい話が出てきたぜ」
「緊急レベルは?」
「カジノのボロ儲け以上」
「聴きましょう」
移動しながら話そう──と部屋を出る彼の背中を追いかける。
彼はポケットから住所の描かれた紙切れを取り出した。
「ペット預かりコーナーのスタッフから動物病院受診を奨められた。もしかすると、もしかすれば……らしい」
「なんですその思わせぶりは? もっと具体的に仰りなさい」
「断言されなかったんだよ。断定できる証拠なしに無闇な発言は控えたいってさ」
「うう〜ん、無闇に不安を煽る……」
だが、証拠の断定が必須たる以上文句の付けようがない。これで徒に「多分〇〇です!」と言われたのを鵜呑みにして見当違いの対処を取って、後から「実際は△△でした!」なんてことになったら目も当てられないのだから、「受診を推奨される何かがある」程度の認識で受診した方がまだ行く気になるでしょう。
「とにかく、受診しないことには始まりませんわね。住所を見せてくださいまし」
「ほらよ」
「……あぁ、あそこですわね。貴方が寝ている間の鳥魔族さん情報収集時に前を通りましたわ」
「じゃあ道案内頼むわ。混まねぇとも限らんし早いとこ……ん?」
「? どうしましわぷッ」
「しっ……」
突如口を塞がれ、引き摺られるがままに物陰へ隠れる。
ジェックさんの人差し指が示す先を覗き込むと、コソコソ……とこちらを目指しているリツさんの姿があり、更に向こうを見てみると、コルタス港町でも見かけた兵装集団が出歩いていた。
間違いない。魔王軍だ。
リツさんが私たちの姿を見つけるなり、ササッ……! と戻ってくる。
「申し訳ありませんフィーラさま。ご覧の通り、魔王軍を見つけた次第で、満足いただける買い出しは叶いませんでしたわ」
「寧ろよく直ぐ戻ってきてくれました。しかし昨日の今日でもう嗅ぎつけてきましたか。こうなったら動物病院どころじゃありませんわね。ホニョちゃんには悪いですが、次の市町村まで辛抱してもらいましょう」
「受診中に見つかったら逃げようないしな。だったら急ぐぞ。逃げ道のアテはあるか?」
「リプフォードを取り囲む外壁をこっそり登りましょう。歩廊から壁伝いに降りますわよ」
逃走ルートを設定するなり、早速脇道へ抜けて外壁を目指す。幸いにも包囲網を展開し始めたばかりのようで、道中遭遇することはなかった。
外壁前に到着するが、今は進入許可を求める時間も惜しい。太くした槍を地面に刺して、皆で先端にしがみつきながらゆっくり伸ばしていくのだが……──、
「あ……」
「? ジェックさん、どうしまし……マジですか……」
やっとこさ歩廊へ登ってみれば、既に多くの魔王軍兵が待ち構えていた。
どうやら何らかの魔法で居場所は筒抜けだったらしい。ジェックさんの魔力オーラで場所特定した可能性もあるが、そこは今更だし、今考えることはそれじゃあない。
「ジェックさん、先陣切ってくださいまし」
「おう。隙を見て逃走手段の確保よろしく」
話し合っていれば、魔王軍兵士の偉そうな方が、一歩前に出てくる。
「シーラ姫一行、貴女方は既に包囲されている。大人しくお縄ァンッッ!!!?」
なので早速、一気に距離を詰めたリツさんに蹴り飛ばしてもらい、それを皮切りに私たちは歩廊を駆け出した!
こっそりどころじゃなくなった。
次→明日『18:00』




