第46話「カジノですわ!」
前回のあらすじ!
「路銀どうしよ……?」
【現在の偽名】
姫……フィーリ
ジェック……ジャック
リツ……リラ
「ということで、カジノに来ましたわ!!」
「馬鹿じゃないの?」
「あ〜ら、でしたら他で路銀ガッポガポに稼げる一発逆転の方法に心当たりがありまして〜〜ッッ?!」
「そう言ってホニョにボロ負けしたじゃん! 意地張りまくってのババ抜き58連敗だったじゃん! じゃあギャンブルで負けたらムキになって全額擦るのがお約束じゃん!!」
「そうならないよう皆で軍資金を分割するのですわ! はい三等分! 三等分!!」
「チクショウ口も頭も回ること! ……ほれ」
「うわ少な……ま、ここから巻き返してやりますわよ!」
「やる以上はさっさと終わらすぞ。ルルとホニョの耳に悪い」
「それならご安心を。リツさんが話しておりましたが、観光の家に来た族・ペット連れも楽しめるよう、子ども・ペット用遊びコーナーも充実! 防音設備完備ですことよ! なので堅実なギャンブルも夢じゃない!!」
「からのー?」
「大勝負したい!」
「絶対やるなよ、さぁ行くぞー」
「全否定しないでくださいまし〜〜ッッ!!」
◇ ◇ ◇
スロットコーナー──。
「あれ? フィーリじゃねぇか」
二人と別れ、独りチョケパンポンで培った動体視力でバンバカ絵柄を揃えていると、背後から偽名を呼ばれる。
振り返ると、そこにはグレストさんが立っていた。
「グレストさんではありませんか。貴方もカジノを嗜みに?」
「そういうこった。隣座るぞ」
グレストさんは断りを入れて、左のスロットを回し始める。
一発目はスカしていた。
「ああクソッ。一枚一枚が貴重だってのに幸先悪ぃな……!」
「あら、貴方も所持金に困っている感じですこと?」
「冒険者は収入不安定だからな、折角だし博打に興じてみようってな。同じ魂胆だろう他の選手もチラホラ見かけたぜ。貴方もってこたぁ、そっちも困ってんのか?」
「そもそもが賞金目当ての大会出場でしたから、此方で一気に稼ぐしかありませんの。冒険者ギルドは危険過ぎますし」
「ああ、家出むす……事情が事情だから、個人情報が残るこたァなるべくしたくねぇもんな。……ああ、また外した!」
言葉を濁して返答するグレストさんに「そういうことですわ」と返す。彼には『政略結婚から逃げてきた家出娘とその世話役と元魔王軍兵士』で話を通しているのだ。
「そう言えばグレストさん。ひとつお聞きしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「ちょっと待て今良いと──よっし当たり! ……なんだ?」
「ジャックさんの怪我を治した回復魔法士が、彼にはなるべく魔力を一気使いさせないようにと仰っていたんですの。直後にグレストさんの回復に呼び出されてしまわれたので質問の機会がなかったのですが、この意味、理解りまして?」
「あー……もしかしてアンタ、魔力を大量に使ったことないだろ?」
「……言われてみればないですわね。それがどうかしまして?」
「やっぱりな。じゃあそこから説明するぞ」
グレストさんはスロットを回す手を止めると、私に向き直り、赤・黄・緑と金額別のコインを1枚ずつ取りだした。
「先ず言っておくと、人は所有する魔力100%を一度に使えないようになっている。脳が限界超過しちまうからだ。肺の中の空気を一気に出したら腹がウッ! ってなるようなもんだ」
「あ、凄い理解かりやすい。確かに苦しいですものね」
「だろ? だから人は基本、魔力を放出する際は小分けにするのさ。ま、時と場合によるがな」
だが……──と、グレストさんは人に見立てた赤コインに最高金額の緑コインを何枚も重ねる。
「ジャックの場合は所有魔力100%が幾重にも蓄積されちまっている。だから微調整が叶わず、一度に放つ魔力量も尋常じゃあないし、故に脳への負荷も激しいわけだ。これがアイツが一日中寝込んだ原因だな」
「おん……?」
「口の中に限界以上の水溜まってんのに、放出量を微調整する余裕があるか?」
「理解りやす! 貴方魔法講師向いてるんでなくて?」
「嬉しいこと言ってくれるね。やらねぇけど」
言いながら彼はコインを片付ける。
「というわけで、回復魔法士はなるべく一気使いさせるなとアンタに言伝を授けたわけだ。ご清聴ありがとうございました」
「ご鞭撻ありがとうございました。こうなったら魔法発動は『大海』との併用が必須ですわね」
「今後も使うならそうなるな。ま、アイツ魔力問題解決はまだまだまだまだ先だろうがな」
「あ、やっぱり?」
そらそうよ──とグレストさんは拳に顎を乗せる。
「相対してたから理解る。アイツの100%はまだまだまだまだ連なってるってな。なんなら普段のアレでもめちゃくちゃ気張って抑えてると思うぜ?」
「大会受付前の人混みからでも見つけられるあの魔力オーラで、ですか?」
言われてみれば、確かに「もう少しだけ魔力抑えられないか?」「今時点が限界だわ」と彼らは会話していた。出会った時から凄い魔力オーラとは思っていたが、あれで氷山の一角だったとは。
……あれ?
となると……ジェックさんの魔力総量って、もっと途方もない……?
「グレストさん、ざっくりで構いません。試合中の彼、何%使ったか分かります?」
「18%だな」
グレストさんは、即答で断言した。
「……それだけ?」
「それだけ。吃驚だよな。俺の100%がアイツの18%だぜ? 改めて、魔力勝負なら勝ち目がねぇって痛感したわ」
彼はカッカッカッ……と笑うが、笑える話ではない。その18%と100%のぶつかり合いで『轟』エイティ・フットさんの爆音波を(ギリギリながらも)防いでみせた防御結界が全壊したのだ。
「となると……万が一、万が一ですよ? 彼がうっかり残りの82%を放ってしまったら……どうなります?」
う〜ん……──とグレストさんは首を捻って一考すると、顔を上げた。
「……プルタ内海にちょっとした横断歩道ができるな」
「っすぅぅぅぅぅ……」
私は深く息を吸い込み、ゆっくり鼻から空気を出した。そして……──、
「……一旦スロット回しますか!」
「だな。ただ座ってたって稼げやしねぇ」
あまりのスケールに脳が追いつかないので、一先ず路銀を稼ぐ形で現実逃避することにした。
ある程度回したらジェックさんたちを探しに行こう。それなりに時間も経っているし、何らかの動きはある筈だ。
次回、ドラ●エ以外のカジノはやめておけ。
心当たりのある方は評価等入れてくれたら嬉しいです。よろしくお願いします。
次→明日『18:00』
 




