第45話「決着ですわ!」
前回のあらすじ!
ジェックVSグレスト!!
【現在の偽名】
姫……フィーリ
ジェック……ジャック
リツ……リラ
『両者飛び出したァァァァァッッ!!!!』
ジェックさんは右拳を構えながらも、ちょっと小突けば転んでしまいそうな程に体幹がガタガタなのが見て取れた。もう殴る以外に思考を割く余裕がない現れだ。
片やグレストさんも左拳を構えつつ、しかし白目を剥きながら距離を詰める。彼も迎撃に夢中で意識が半分飛んでいることを自覚していない様子。
ゴッッ──!!
その二人が今、最後の力を振り絞った渾身のストレートをぶつけ合った。腕と腕が交差したクロスカウンターとなって、お互いの顔面に直撃させた!
「…………ッ……!!」
痛恨の一撃を貰ったジェックさんの足がガクガク……! と覚束なくなる。もう意地でも体勢を保てないのは明白だった。
これにグレストさんは「へへ……っ」と口角を上げて……──、
「1勝、2敗だなぁ……」
ジェックさんの身体をズルズル……ともたれ掛かるように伝っていき、地面へ突っ伏したのだった。
私は選手用最前席から飛び降りて、武舞台を横断。二人の状態を確認する。
グレストさんは完全に気を失っていた。けれど、その顔は満足気だった。
なら、ジェックさんはどうだろうか? 私は『何本立ってます?』とピースサインを見せれば……──?
「……………………ッッ……」
ジェックさんがフラフラ……と、ピースサインを空に掲げたのを見届けるなり、私は胸いっぱいの空気を魔力拡声石へ送った!!
『ジャックさんの勝利ィィィィィィィィッッッッ!!!!!!』
──瞬間、大闘技場は爆発的な熱狂に包まれた!!
観衆の熱狂的拍手が武舞台を埋め尽くす中で、太鼓と管楽器が演奏終了時の如くしっちゃかめっちゃかに鳴らされ、花火がこれでもかと打ち上がる。準決勝なのにまるで決勝かと思える程に、人々はジェックさんの勝利を祝福していた。
私は魔力拡声石をポケットに閉まって、ジェックさんに声を掛ける。これだけの大騒ぎであれば、観衆の耳には届くまい。
「ジェックさん。皆、貴方を祝福しています。殻を破ってみせた貴方の新たな門出を喜んでくれていますわよ……ジェックさん?」
ジェックさんが私の背中にもたれ掛かってくる。なんなら肩に顎まで乗せてきた。
ジェックさんは、意識を手放していた。
「……リツさん」
「お呼びですか?」
「熱狂の中を駆けつけてくれて超感謝ですわ。魔力拡声石を司会者に返しておいてくださいまし」
「かしこまりました」
リツさんは「失礼いたします」とポケットの魔力拡声石を取り出して、選手用最前席へ戻っていった。
「……お疲れ!」
私は救護班の担架を断りながらジェックさんの腕を胸の前に回して、彼をズルズル……と治療室へ連れて行った。
◇ ◇ ◇
「うぁ……?」
リツさん・ルルちゃん・賢犬ホニョちゃんとババ抜きに洒落こんでいると、ベッドからジェックさんの寝ぼけ声がした。
「あ、起きましたわ」
私が手札を一旦置くと、ジェックさんはのっそりと起き上がり、私に顔を向けてくる。
「……俺……どうなった?」
どうやら記憶が混乱しているらしい。声を掛けたそうにソワソワする周囲を制して、私はジェックさんの隣に腰掛け、率直且つ端的に伝える。
「ちゃんと勝ちましたわよ。その後で直ぐ気絶してしまいましたが、観衆からはベストバウト賞作れーッ! と運営に大挙する程に大絶賛の一戦でしたわ」
「そうか……なら、さっさと武舞台戻らねぇと」
「あ、大会なら終わりましたわよ」
「……………………………………………………は?」
ジェックさんはたっぷりと間を置いて素っ頓狂な疑問符を浮かべる。当然ながら私の発言に理解が追いついていないので、私は順を追って事情を説明する。
「貴方の気絶後、エイティさんは時間をかけて決勝に進んでくれたんですけども、気絶から1時間経っても目覚めませんでしたからドクターストップが発動したんですの。結果として不戦敗になってしまい、優勝はエイティさんになりましたわ。因みに貴方、丸一日寝ておりましたわよ」
「不戦敗て……しかも不戦勝で優勝とか、大会荒れなかったか?」
「プルタ内海の嵐の如く大荒れでしたわ。ジェックさんの決勝戦を楽しみにしてましたから1日延期しろと大ブーイングでしたことよ。ま、一番ブーたれてたエイティさんがどうにかしてくれました」
「と言うと?」
「こんな消化不良で納得できるかァ! こうなったらヤケ食いだ! 明日までは滞在するから選手と観衆の宿代全部俺にツケとけェェッ!! と……。おかげで私たちは気兼ねなく宿を取れて、エイティさんの高級ホテル三龍ヶ月分は賄える賞金も一日で一般宿三日分になったそうですわよ」
「富んだ太っ腹だなぁ……。てか、今更だが、ここ宿だったんか」
「ホントに今更ですわね。ま、でも私としては大満足の大会でしたわ」
「優勝逃したのにか?」
「だって貴方……私の課題を乗り越えてみせたではありませんか」
「あ……」
ジェックさんはすっかり失念していた様子。
彼は魔法発動に強いトラウマがあり、それを私は『魔力纏い』なり『身体強化』なりで克服するようプルタ内海の航海中に課していた。それを彼は図らずして『大剣に魔力を纏わせる』という形でやり遂げてみせたのだ。人間界到達までに達成すればいいなとは思っていたが、キッカケを与えてくれたグレストさんには心底感謝。
「そうか……俺、合格してたのか」
「合格してましたわ。これで今後の旅路に憂いはありませんことよ。今後ともよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします。ところで……──」
「あ、ババ抜き混ざります? ホニョちゃんどえらい強いですわよ。こちらの心理戦には一切引っかかりませんし、なのに私たちを的確に振り回してくるんですのよ」
「人の意地見せろやオマエら。ところで……──」
「ホニョちゃんの58回連続1抜けですわ」
「意地張りすぎだわオマエら金輪際ギャンブル禁止な。ところで……──」
「だってジェックさんの起床待ちだったんですもの。貴方が起きない限り動きようがないですわ」
「それはすまんかった。もう喋るからな」
「嫌ですわ! その先の現実は聞きとうありません!!」
「それでも向き合わなきゃいけねぇ現実があんだよ! リツ! フィーラの両手取れ!!」
「かしこまりました」
瞬時に耳を塞ぐ両手をリツさんに拘束される。
ジェックさんはズイッと私に顔を近づけてくる。
やーめーてぇぇぇェェェェッッ!!!!
「──路銀どうしよ……?」
「いぎゃぁぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!」
私は涙した。かの現実主義者を断じて許さぬと決意して声を上げた。
「だから嫌だったんですのよ会話の主導権握らせるのは! 貴方問題に直面したら容赦なく切り出してくるではありませんかー!!」
「無慈悲だろうが考えなきゃいけない話だろうが! え、待って? マジでどう凌ごう?? 一か八か冒険者申請して日帰り依頼受けるか??」
「駄目に決まっているでしょう! ただでさえベストバウトと騒がれる試合したんですから一斉注目浴びて要らぬ足止めを喰らうのが関の山です! なんならファンクラブ設立されてますわよ貴方!!」
「何それ聞いてない!?」
「だって今初めて言いましたもの! なんなら爆速でグッズ展開もされていますわよ! トランプをご覧ください!」
「え、おい、まさか……!!」
「絵柄がジェックさん♨」
「ヒイイイイィィィイッッ!!!!!?」
「因みにファンクラブ名誉会員枠は私がもぎ取りました♨」
「ホントに何してんのオマエェェェッ!!!?」
「でしたら、私めの案は如何でございましょう?」
私たちのケンカが取っ組み合いに発展しかけたところでリツさんが手を挙げる。一体何を思いついたのかと私たちは清聴の姿勢を取る。
「先程ジェックさまはギャンブル禁止と言いましたが、それで思い出した話があるのです。この大都市リプフォードにはカジノがあると前に仰っていましたのを覚えておいででしょうか?」
「ああ……そんなこと言ったな」
ジェックさんが天井を見上げて思い出す。そもそもが鳥魔族が飛んできたとされる大都市リプフォードで「ちょうど3龍年に一度の大会が行われる時期だしカジノもある」とジェックさんがコルタス港町の住民から聞いたのが始まりだったのだ。
「そういうことでございます」
私たちが思い出すなり、リツさんはそう締め括った。
「……リツさん」
「荷物の準備は済んでおります」
「おい?」
「ルルちゃん。おトイレは?」
「さっきいったのー」
「おいおい?」
「ホニョちゃん」
「イヌッ」
「よしッ!」
「おいおいおい?」
「鳥魔族さんは?!」
「南南東方面へ目撃情報がございました」
「よォしッ!!」
「おいおいおいおい?!」
「皆さん、チェックアウト!」
「かしこまりました」
「なのー」
「イヌッ!」
「おいおいおいおいおォォォォい!!!?」
私たちは大急ぎで準備するジェックさんを他所目に、受付へ直行した。
次回、クソバカ♨
察した方は足跡残してくれると幸いです♨
次→明日『18:00』




