第44話「準決勝・第一試合ですわ!」
前回のあらすじ!
姫さま、第一回戦(尚相手)!!
【現在の偽名】
姫……フィーリ
ジェック……ジャック
リツ……リラ
ドンドン──! パフパフ──!
準決勝が始まった。
観衆席に戻ってみれば、太鼓と管楽器が大闘技場に鳴り響き、今か今かと選手入場を待ち侘びる観衆を焦らしていた。
司会者の手元にあったゴングは撤去されており、代わりに観衆席最上に大太鼓と大銅鑼が設置されていた。恐らくは準決勝以降用でしょう。
選手用最前席の定位置に座れば、程なく司会者が進行を始める。
『さぁ、皆さま長らくお待たせしました! 只今より準決勝を始めたいと思います! 早速選手入場です!!』
司会者に促されて、ジェックさんとグレストさんが武舞台へ入ってくる。
『先ずは『紅チーム』のジャック選手ゥゥ! 第二回戦は不戦勝で勝ち進んだものの、無傷で圧勝してみせた第一回戦を思えば些末なこと! 未だ披露していない魔法も含めて期待値大の新星です!!』
おおおおお……──!!
ジェックさんの紹介に観衆席は大いにはしゃぐ。各選手が漏れなく魔法を駆使している中で、純粋な身体能力のみで勝ち抜いている彼は異端中の異端……つまりは興味が尽きないのでしょう。
『続きましては、ここまで破竹の勢いで突き進んできた『翠チーム』のグレスト選手です!! 予選、第一回戦、第二回戦全てにおいて圧倒してきた実力は今回も遺憾無く発揮されるのかァァ!!』
ワァァァァッッ──!!
グレストさんの紹介に観衆席はジェックさん以上の盛り上がりを見せる。なんなら10歳前後の少年は足まで踏み鳴らしている。
人気票ではグレストさんの方が上回っているようだった。第二回戦が不戦勝だったから仕方ないところもあるが……まぁ、試合中に巻き返してやればいいのですわ。
『早速、カウントダウン開始です!』
ドン……! ドン……! と大太鼓の音色が響き、武舞台の緊張を高めていく。観衆席に居る身ながら固唾を呑んで見守り……──、
『試合開始ィ!!』
グワァァァン……! と大鐘が鳴り響くと同時、飛び出したジャックさんとグレストさん両者の武器がかち合った!!
『遂に始まりました準決勝ゥゥ!! 第一回戦時点で雌雄を決めようと誓い合った両者が遂に激突!! 彼らの結末を瞬きひとつ惜しんで目に焼き付けろォォォ!!!!』
「シッ!」
武器同士殴り合う中、グレストさんが武器から離した左手に魔力を纏ってジャックさんへ掴みかかる! 早速勝負を決める気だ!
「フンッ!!」
──が、ジェックさんはそれに瞬時に反応。手刀で払い除けることで爆発魔力弾は明後日の方へ飛ばすと、すかさずグレストさんへ頭突きを決めた!
「ウギっ!?」
グレストさんは悲鳴を漏らして後退る。その隙を見逃さずジェックさんは追撃する!
「ぐぉッ!?」
──が、背中を爆破されてよろめく。すっぽ抜けたグレストさんの爆発魔力弾がブーメランよろしく戻ってきてジェックさんの背中に直撃したのだ!
両者一旦距離を取り、体勢を立て直す。
瞬間──、観衆はどわっ! と沸いた! 皆、キラキラと目を輝かせている。まるで初めて煌びやかなパレードを眺めた子どもだ。
正直、私もそう! 観戦ていて凄く楽しい!
『なんという連撃でしょう!! 初っ端から凄まじい攻防の連続で、思わず決戦かと見違えてしまいました!! 私シーカー・マウス、意識せねば実況を忘れて魅入ってしまいそうです!!』
司会者の実況に観衆も「理解かる〜!」って雰囲気を出す。なんなら言っている。実際私もそう!
今この瞬間だけは、瞬きひとつたりとて惜しい!
一方で、ジェックさんとグレストさんは負傷しながらも余裕綽々で言葉を交わし合う。
「早速見切ってきやがったなジャック! しかもちゃっかり反撃ときたもんだから一瞬視界動転ったわ!!」
「こっちの台詞だグレストォ! 今の今まで遠距離攻撃封印しやがって、背中が痛てェ!!」
軽口を叩き合いながら二人は再び剣戟ならぬ武器戟を再開する。金属音がギンギン! と絶え間なく鳴り響く。
ジェックさんは大剣を片手剣の如く扱い、それでいて一撃が頗る重い攻撃を繰り出す。これを可能にする筋力によって鍔迫り合いに発展しては何度と押し切り、その隙に殴ったり蹴ったり、或いは「あ、無理だコレ!」とグレストさん自らに退かせることで「筋力では勝てない」と重圧を与えていた。
対するグレストさんは武器・体術・魔法と、とにかく手数が多い。武器を片手持ちでも充分に振り回せる筋力を活かして合間合間に体術・魔法を挟んでいるが、徒に大技を繰り出さないから前後の隙が見極めにくく、且つ魔法の選択肢を有する利を最大限発揮することでジェックさんに負傷を蓄積させていく。
それでも両者一歩も引かない。お互い攻撃に容赦がない。祖国で定期的に行われる実力試し兼鬱憤晴らしたる『無礼講手合わせ』でも滅多に見られない激しさで、一撃一撃に渾身を込めてお互いの身体へ叩き込む。時々失神したかのように……実際に失神してふらついても、瞬時に地面を踏み鳴らしては無言の指招きで挑発し合ってまた再開。全身血塗れ青痣だらけでありながら、共に戦いが楽しくて堪らない様子だった。
しかし、体力が存在する以上いつまでも続かない。観衆が熱に浮かされている中、遂にジェックさんの動きが鈍ってきて──、
「そこッ!!」
「ヴぅッ!!」
咄嗟に手放した武器を目眩しに、両手を構えたグレストさんの超出力爆発を諸に受けて、ジェックさんは初めて地面を転がった!
『ジェック選手、遂に背中を地面に着けたァァァッッ!! 即座に立ち上がるが苦しそうだァァァ!!』
それも当然だ。かれこれ数十分は戦り合っているのだから体力は勿論、息をするのもやっとでしょう。
けれど、早く体勢を立て直さねばグレストさんに追撃されて今度こそ終いだ。どうか今は顔を上げて……!!
「……ん?」
思わず手を組んで祈るが、しかしグレストさんは一向に追撃を仕掛けない。それどころかジェックさんが武器を構えるのを待ってくれている……?
一体何故──? 不可解な待機状態に注目していると、グレストさん「ジャックゥ!!」と彼の偽名を叫んだ。
「オマエ……それでいいのか?! 魔法使わずに終わっていいのかァ?!」
「あ゙あ゙……ッ?!」
「オマエが強いってことは、オマエの仲間以外なら誰よりも理解っているつもりだ! 船の上、ゴーレム、第一回戦と戦う姿を見てきて、今戦り合っている俺が言ってんだから間違いねェッ!!」
「な、何が言いたい……ッ?!」
「頭が追いつかねぇかウスラトンカチ! 魔法を使ってこい言ってんだ! オマエが海龍さまから賜ったその大剣『大海』ならいくらでも魔力纏わせたって耐えられる! そうだろ?!」
『な、なんと聞きましたか皆さん!? 今ジャック選手が持っているのは海りゅウン!!』
──ガンッ!
──ドカバキボコボコ、グールグール……。
茶々を入れかけた司会者にエイティさんが無言の拳骨を入れる。私たち選手一同も寄って集って司会者をボコボコにして魔力拡声石を取り上げ、リツさんが何処からともなく用意した縄で口と全身をグルグル巻きにした。
司会者の沈黙を見届けたグレストさんは、ジェックさんに向き直る。
「……で、だ! その大剣の特性上、どれだけ魔力を纏わせてもぶっ壊れねぇと言われたよな?! ならそれに魔力纏ってぶつけてこいや!!」
「は?! オマ、何言ってんか理解ってんのか!? オマエの実力ならどれだけ危険か想像できるだろ?!」
「そうほざいてやらかすのが怖いだけじゃねぇか!! ずっと戦ってきたってんのに後遺症で魔力の放出下手になったと誹謗中傷された末に魔王軍解雇になったんが悔しくねぇんか!?」
「ッ!! テメッ……──!!」
「だからオマエがやらかさんよう好敵手の俺が全部受け止めてやるってんだよ!! 今出力せる分を全部ぶつけてこい!! その上で死滅らずにオマエに勝ってやらァ!! 信じろッッ!!!!」
「ッ……!!」
そのグレストさんは、誰よりも力強い眼差しで、返事を待つグレストさんに、ジェックさんは何も言い返さない。返す言葉が見つからないからだ。
けれど、口を閉ざしたのが、怒りによるものではないことは、溢れ出る魔力の流れで明らかだった。
二人の間を、静寂が包み込む。
選手用最前席も、呼吸以外の音が消える。
観衆席も、固唾を呑んで武舞台を見守る。
大闘技場の誰もが、ジェックさんの次の言葉を、行動を、何も言わずに待っていた。
長い長い沈黙が、大闘技場に響き渡った。
「……………………ッ」
ジェックさんは逡巡する。
「〜〜〜〜………………ッ」
空を見上げて、逡巡する。
「〜〜〜〜〜〜〜〜……………………!!」
頭を掻き回し、これでもかと、逡巡する。
「……………………ふぅぅぅぅぅ……」
そして、深い深い溜め息を吐き……──、
「……生存ろよ!!」
上段の構えを取って、『大海』に魔力を纏い始めた!!
「……ッ!! あたぼうよォォッッ!!」
これにグレストさんは、過去一嬉しそうな顔で、同じく上段の構えで特殊加工鉄製棍棒に魔力注入を始めた!!
「「「「「しゃああああああッッッッ!!!!!!」」」」」
瞬間、ケトルが沸騰したが如く選手用最前席の私たちと観衆の感情が爆発した! これを待っていた! と言わんばかりに歓喜した!!
こうなったら構わないでしょう! 私は魔力拡声石を手に取って、グルグル巻きの司会者を他所にエイティさんへ声をかける!
『エイティさん! ずばり、彼らが激突するまでの推定時間は?!』
「……10秒!!」
『皆さんカウントダウン! はい10!!』
「──10!!」
『──9!!』
「──9!!」
『──8!!』
「──8!!」
私たちがカウントダウンを進め、膨大な魔力に危機感を募らせた運営スタッフが魔力防御結界を強める中でも、武舞台上のジェックさんとグレストさんは汗水と血を流しながらも魔力を一切乱さず纏い、注入を続ける。今の彼らの世界には『武器・魔力・好敵手』しか存在しない!
『──1ィィ!!』
「──1ィィ!!」
最後のカウントダウンで、両者共に駆け出す! タイミング完璧!!
『「──0ォォォォォォッ!!!!」』
両者の武器が振り下ろされ、武舞台は爆風に包まれた!!
凄まじい衝撃が魔力防御結界を破壊し、余波が豪風となって選手用最前席と観衆席に吹き荒ぶ。エイティさんはどっしり座っていたが、重量級でない私たちは油断すれば風に飛ばされそうだ。
やっと収まったかと思えば、武舞台には土煙が舞い、中の様子が全然分からない。彼らはどうなった……?! と全員が武舞台に注目する中、ようやく砂煙が晴れてきた。
──次の瞬間、拳を構えた戦士ふたりが砂煙の中から飛び出した!!
次回、決着──!!
次→明日18:00




