第43話「第一回戦・第八試合ですわ!」
前回のあらすじ!
ライバルって好いよね。
【現在の偽名】
姫……フィーリ
ジェック……ジャック
リツ……リラ
そして、遂に私の出番がやってきた。
私は毅然と立ち上がり、仲間たちに宣誓する。
「それでは皆さん、行ってまいります!」
「おう、逝ったりはするんじゃあねぇぞぉ」
「どうかご無事で」
「いってらっしゃいなのー」
「イヌ」
「無茶だけはなさらないでください」
「勇気と蛮勇履き違えんなよぉ」
しかし、皆散々な言い様だった。ルルちゃんどころかホニョちゃんですらぬるい目をしていて、誰一人勝利を信じちゃいなかった。
「期待値ゼロじゃないですか皆さん。流石の私も激萎えますわよ? 泣いてダル絡みしますわよ? びーっ!!」
「そうは言ってもよ……なら聞くが、勝てる自信ある?」
「逆に聞きますが、負ける気で臨む方が今大会に居りまして?」
「そうはそうだがよ……」
ほらみなさい──と私はジェックさんに言い返してやる。
「なので少しばかしでも応援なさいな。ほら、グレストさんが戻ってきた際の一泡吹かせるくらい心掛けろだとか、魔法一回くらい使わせてみせろだとか……」
「じゃあ、一泡吹かせてこい」
「一蹴り喰らわせれば大金星ですわ」
「がんばってなのー」
「イヌッ」
「魔力消費させれたら儲けものですよ」
「魔法一回くらい使わせてきなぁ」
「舐め腐られてますが、まぁ、いいですわ。行ってまいります!」
どんでん返したら覚えてろ──。それだけ言い残して私は武舞台へ移動する。
こうして私は、いよいよ第一試合を迎えた。
「よう嬢ちゃん! よろくしなぁ!!」
そして……私のまえには、3連覇者のエイティ・フットさんが立ちはだかってましたとさ。
相対してみて、改めて実感する。
私、生きて帰れますかね……?
「それでは第一回戦・最終試合を始めます! 片方は今大会初登場、フィーリ選手ゥゥ! ゴーレム戦では『紅チーム』の主軸となって活躍した彼女ですが、体格差から魔力量と桁違いですが無事で済んだらいいね」
「司会者さん?」
私が顰め面を向けるも、司会者は無視して進行する。
「そんな彼女を迎え撃つは、我らが3連覇者『轟』エイティ・フットォ!! 殺らないでね?」
「馬鹿にしてんのか司会者コノヤロォォォォオ!!」
どごんッ──と、エイティさんは観衆席の司会者に音波を放つが、しっかりと観衆席に展開された防御結界に防がれる。手加減してのプロレスなのは理解っているが、割と止めてほしい。
だって……彼女の付近にはルルちゃん、ホニョちゃんを瞬時に避難させたジェックさん、リツさんが居るんですもの!
私は「エイティさん!」と防護魔法に包まれた槍先を向ける。
「あの司会者は後で一緒にしめるとして、近くには連れが居ました。金的覚悟してくださいまし!」
「それはすまんかった!! じゃあ戦ろうか!!」
おおおおおッッ──!!
私の宣戦布告に観衆が嬉々と沸く。正直な話、即座に謝罪されたことで気は済んでいるのだが、それはそうと金的は狙っていきましょう、うん。
「なんか身の危険が迫っているのでさっさと始めて逃げようと思います始めェェッッ!!」
「らァァァアァあぁぁぁあぁぁぁあぁあぁぁぁあぁぁあぁぁぁあぁぁあぁ!!!!!!!!!!!!!!」
「ブギャアァアアァアッッ!!!?」
開始のゴングが鳴らされた次の瞬間──、『轟』の大咆哮が武舞台を埋め尽くす! 初っ端から勝負を決めてきた!!
咄嗟に私は耳を塞ぐも、踏ん張りが疎かになり壁際までゴロゴロと転がっていく。初手咆哮を考慮していたから鼓膜破裂は避けられたが、選手宣誓時同様、私の自重では踏ん張れない!
「……ッ!!」
壁にぶつかり顔を上げれば、エイティさんは大地を踏みしめて目前に迫ってきていた。
「どぉウッ!?」
立つよりも早く地面を蹴って、金棒の一撃を回避する。体勢を立て直せば、さっきまで居た場所の地面はクレーターと化していた。
躱せていなかったら比喩でもなく地面に埋まっていたでしょう。やってて良かった、チョケパンポン!!
「今度はこっちの番ですわ!」
拾い上げた小石を避球程度に巨大化させてエイティさんへ投げつける! 狙うはジェックさんの助言通りに脚!!
「さいやァ!!」
──が、エイティさんは身を翻したかと思えば、元小石を蹴球よろしく蹴り返してきた! これも「じゃボック!?」と辛うじて避けたが、元小石はすっかり地面にめり込んでいた!
「蹴球は大好きだ!! いくらでも付き合うぜ!!」
「地面にめり込む蹴球がありますかァァァッッ!!!!」
私は次々投げながら、次々と蹴り返されてくる元小石を躱して躱して躱しまくる。観衆はすっかり「うははは!」大盛り上がりで、一瞬見えたジェックさんはゲラ笑いしているのが仮面越しでもよく分かる。後で空気孔にブォッ! と息吹き込んでやりましょうそうしましょう!
「あ……!」
そうこうしているうちに足元の小石が全て無くなる。地面にめり込んだ元小石を回収する隙はないでしょう。
「ウオリャアアアアア!!!!!!」
だってもう来てるし!
ですが、これはチャンスですわ! 迫り来る彼は上段の構えを取っていて、私が槍を伸ばしたところで即叩き折られるのが関の山だが、それさえ凌げば金的を狙える!
勝負は一回きり! 私は焦った風を装って「伸びよ槍ィ!」と勢いよく伸ばした!
槍はどんどん長くなっていき、エイティさんの股間目指して伸びていく。当然彼は「上等だァァァ!!」と迎え撃つ気満々だ!
私は勝負時を計る。
エイティさんとの距離が縮まっていく。まだまだ早い……。
エイティさんとの距離が更に縮まっていく。まだ早い……。
エイティさんとの距離が増々縮まっていく。あと少し……!
「ドッセェェェェェイッッッッ!!!!!!」
エイティさんが金棒を振り下ろした!
勝負は今!
「緊急停止!」
槍の伸長を緊急停止して金棒をドゴォ──!! と空振らせることに成功する。
勝機見たり! 即座に位置調整して伸長を「再開!」させる!
「いっけぇぇぇえ!!」
そして、槍はエイティさんの股間に直撃した!!
「あら?」
──が、エイティさんは一向に悲鳴を上げなかった。
「ふんっ!!」
「わァッ!?」
それどころか、何食わぬ顔で槍を掴んで、手を離し損ねた私を槍ごと宙へ放り投げた!
「なんで気絶ちませんのォォォッッ!!!?」
「金的一発で気絶ちると思うなァァァアァあぁぁぁあぁぁぁあぁあぁぁぁあぁぁあぁぁぁあぁぁあぁ!!!!!!!!!!!!!!」
私は大咆哮を諸に浴びた!
次の瞬間、意識を手放した。
◇ ◇ ◇
「う……?」
「おう、起きたか」
目を覚ますと、私は治療室で横になっていた。
ベッドの傍にはジェックさん、そして安堵の息を吐くリツさん、ルルちゃん、ホニョちゃん、グロウさんが居た。
上体を起こすなり胸にそっ……と飛び込んできたルルちゃん、ホニョちゃんを抱きしめて、私は直ぐに状況を理解する。
「あー……。私、負けましたか」
「お察しの通りだ。壁に叩きつけられた時点で目回して気絶ちてた。もう治させているが打撲も少々。寧ろよくこれで済んだと回復魔法士も吃驚だ」
「我ながら凄ェ耐久力ですわね。流石はチョケパンポンをやり込んできた身体なだけありますわ。だからこそ金的決めれましたのに、どうして効いてませんでしたの?」
「普通は気絶ちるとだけ言っておく。まぁ、なんだ……相手が悪過ぎた」
「そうなりますか、そうなりますわね。……ところで、もう二回戦が始まるんじゃなくて?」
「あ、それなら終盤だぞ」
「なんですと?!」
私の驚愕に、グロウさんが口を開く。
「フィーリさんが倒されるなりリラさんが即棄権して治療室へ来たので、師匠の不戦勝になったんです。その後直ぐ行われた第二試合もグレストさんが十秒で勝利を収めて、今は最終試合中です」
「そのグレストさんは?」
「師匠との八百長を疑われないよう席を外しています。無事を祈ると言ってました」
「そうでしたか……」
私はまたベッドに背中を預ける。
途端、改めて敗北を実感して、悔しさが滲み出てきた。
「あ〜も〜悔しいですわ〜〜ッ!! 折角なら膝着かせてやりたかったですし、あわよくば勝ちたかったですわ〜〜ッ!!」
私は散々に喚き散らす。こういう時は涙となる前に吐き出してしまった方がスッキリするのだ。
「はぁぁ……」
……よし、スッキリ。
私はベッドに腰掛けて、ジェックさんに向き直る。
「ジャックさん、貴方に命じます。グレストさんを下して、決勝へ臨みなさい!」
「仰せのままに」
ダァァァアァあぁぁぁあぁぁあぁ──!!!!!!
武舞台の方から雄叫びが上がる。勝敗を喫したようだが、どちらが勝ったかは声量で明らかだった。
「……ということで、エイティ・フット選手の勝利です! 只今より小休憩を挟みますので、ジャック選手とグレスト選手は控え室にお越しください!!」
「じゃ、行ってくらァ」
「あ、ちょいとお待ちを」
「?」
私は退室しようとするジェックさんを手招きし、後ろを振り向かせて背中をバシッ! と叩く。祖国の愉快な仲間たちの出撃時によくやっていた気合い注入だ。
「行ってらっしゃい!」
「……行ってくらァ!」
ジェックさんは今度こそ退室していった。
「……さぁ、皆さん! さっさと観衆席へ戻りますわよ!」
「あらフィーリさま、もうお身体はよろしいので?」
「当然ですわ! 身内の表舞台へ駆け付けるのが筋ですもの! はい、ゴーゴー!!」
こうして、私たちも治療室を後にした。
こうして、私の本戦トーナメントは幕を閉じた。
※男性なら悶絶以上は確定です。
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